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龍を統べる者  作者: 雪見だいふく
雷龍 キサ
12/23

野宿

「え?じゃあ、あなたは他の龍の気配が分かるの?」

「うん、なんとなくね。一番近いのは、地龍(ちりゅう)かな…」

「地龍…父上の故郷(ふるさと)だね…じゃあ、そこまで案内してもらえる?」

「うん」


エリシアとキサは、馬上(ばじょう)でキサの龍の能力について会話をしていた。すると、キサは他の龍の気配が分かり、どこにいるのかさえも把握(はあく)できるらしい。


「でもいいの?お嬢さんの父上を捨てた里だよ?君が娘と知ったら、何されるか分からないよ?」

「…その時は自分で身を守れるから、心配はいらない。それに、新しく生まれた地龍には父上と関係ないかもしれないから」

「ふうん、強いんだね…そんなに自分の運命を受け入れることなんて、容易じゃないのにね…」

「?」


キサは、エリシアの言動に無表情になり、視線を前へと向ける。エリシアは何か変なこと言ったかと、キサを見て首を傾げるがキサは、目を合わさない。


「けど、今日はもう日が暮れる。ここら辺で野宿だな」

「野宿!?」

「うん。女の子にはきついと思うけど、我慢してほしい。なんなら、僕が抱き締めて()()をしてあげるよ」

「結構です!」


キサは無表情から一変(いっぺん)し、くすくすと笑いながら馬から降りる。そして、いつぞやのようにエリシアの側まで来て、両手を差しのべた。


「…あの、私は自分で降りれます…」

「まあまあ。何かの(はず)みで転んで、怪我をするかもしれないだろ?」

「……あり得ないと思います」

「いいから、おいで」


キサはエリシアの返答を待たずに、エリシアのくびれを抱え、ゆっくりと持ち上げ、降ろしてくれる。その大きな手と力強さに安心感があり、エリシアは頬をうっすら染めるもされるがままになる。

キサはエリシアを降ろすと、にっこりと笑い頭をポンポンと撫で、くるりと背を向けた。


「お嬢さんはその辺で休んでて。僕は、火をおこすのに必要な(まき)を持ってくるから」

「あ、でしたらリンを。薪を探すのにリンは役立ちます」

「え?いや……うん」

「?」


キサは、リンが自分に(うな)っていたので噛みつかれるのではないかと思った。しかし、リンは颯爽(さっそう)と先を歩き、キサを置いていく。

どうやら、一緒に行ってくれるみたいだ。


「あ!あ、じゃあ行ってくるね」

「はい、お願いします」


キサは慌ててリンを追い掛けていった。








◇◇◇









辺りは薄暗く、太陽も山に隠れていた…ー

エリシアは袋から鍋を取りだし、城下町で(あらかじ)め調達していた食材をポイポイと鍋に放り込む。今日の夕飯は鶏炊き飯だ。

実は道中、エリシアの短刀で飛んでいた鳥を仕留めたのだ。その見事な狩りに、キサはおおーっと声を上げていた。


エリシアは鶏を(さば)き、鶏肉を細かく切り(きざ)み鍋に放り込む。

すると、キサとリンが森の奥から帰ってきた。キサは両手いっぱいに薪を持ち、リンは口に薪をくわえている。


「はい、たくさんあったよ。この子が誘導してくれた」


キサは薪をエリシアの眼前に置くと、リンをチラッと横目で見る。


【当たり前よ。私は天才だから】


リンは誇らしげに、フンっと鼻を鳴らす。エリシアは苦笑し、さっそく薪に火をつける作業を開始する。


「お嬢さんは火が起こせるの?」

「はい、物心がついた時から自分で何もかもしていましたので」

「そっか…」


キサは気まずそうに顔をそらす。エリシアはそれに気付き、慌てて話す。


「あ、いえ。この子たちもいましたし、寂しいなんて感情はあまり感じませんでした」


エリシアが慌てて言うと、キサはくすっと笑い、敬語に戻ってると言った。






薪に火をつけ、鍋にいれてあった鶏炊き飯が程よい香りを(かも)()す。


「おおー!美味しそう…お嬢さんは料理も上手なんだねー」


キサは感嘆(かんたん)したように、フツフツとホカホカな鶏炊き飯に、キラキラとした目で見る。


「ありがとうございます。はい、熱いのでお気を付けて」

「はーい。ありがとう。頂きます!……んまー、お嬢さん美味いよ!」


小皿に盛り付けた飯を、キサは口内でホフホフと冷ましながらガツガツと(しょく)す。


「そんなに急いで食べなくても、まだあります」


エリシアは苦笑する。リンと、サン、シン、ライ、キサの馬にも同じように小皿に盛り付けた。サン、シンは自分たちで狩りをして(えさ)を得ることもできるが、大抵夕飯はエリシアが作ったものを食す。ライも道端に生えている草を(みなもと)としているので、飯代はかからない。


「これから毎日、お嬢さんの手料理が食べられるなんて嬉しいよ」

「…あなたは今まで、何の料理を食べていたの?」

「龍も人間と同じように食事はするよ。ただ、僕はちょっと特殊だったからね」

「?…特殊?」

「うん…僕が生まれた里は、龍に食事を与えない奇妙なルールがあったんだ。それに、両親の顔も知らないし、兄弟もいたと思うけど、会ったことは一切ない」

「……」

「だから、誰かが作った料理なんてこれが初めて。今までもまともな食事なんて、したことなかったな」


キサはエリシアの作った、鶏炊き飯を口に入れながら、何でもないように話す。


「……」

「…お嬢さん、そんな顔をしないでよ。僕は別に何とも思っちゃいない。9歳で里を出て、一度も帰ってないしね。未練はないよ」

「そこから、あなたはたった一人で生きてきたのですか…」

「うん。まあ、龍は人間よりもはるかに丈夫な身体だしね。この年まで何とか、生き延びれたよ」

「…何故、笑っていられるのですか」

「ん?」


ヘラヘラと笑っているキサに、エリシアは何だか無償に泣きたくなる。


「そんな辛い目に()って、何故平気そうに笑っていられるの?龍は(とうと)い生き物。人間に侮辱(ぶじょく)される筋合いはない!あなたは、もっと堂々と太陽を浴びれるはず!」


エリシアが(まく)し立てるように言うと、キサはポカンとしていた。今だかつて、そのようなことは言われたことがなかったからだ。しかも、何よりエリシアが大声でキサに面と向かって、言ったことに驚いていた。


「……あ、すみません」


エリシアは周囲がしんと静まっていることに気付き、慌てて謝る。すると、キサは小皿を地面に置き、火を()けてエリシアの横に座る。そのまま、エリシアの頬に指を添えた。


(え?)


キサの無骨な指が、エリシアの頬の感触を確かめるように上下に往復している。

その感触にぞくりとし、キサの黒目を見ると、瞳が炎でゆらゆらと揺らめき、力強いキサの目から離せなくなった。


「…泣かないで」

「え?」


エリシアは、キサが触れていない片方の頬に片手を添えるが、()れた後はなかった。エリシアが首を傾げると…ー


「ありがとう。僕のために怒ってくれて…泣いてくれて。お嬢さんは優しいんだね」

「泣いていませんが…」

「…うん、僕の勘違いだったみたい。ごめんね」


キサは優しすぎるほど、優しく穏やかに目を細めて言う。エリシアはキサの様子に、まるでキサが泣いているような錯覚を感じた。実際は優しく微笑んでいるのに、エリシアにとってはキサが泣いていると思ったのだ。だから…ー


「お嬢さん?」


エリシアは思わず、キサの頭を両手でギュウっと胸に抱える。キサは困惑したような声を出すが、エリシアはキサを離さなかった。


「あの…お嬢さん、離してくれないかな…」


キサはエリシアの片腕に手を掛けるが、エリシアはブンブンと首を横に振り、益々両腕に力を込めた。


「あー…胸が当たっている……」

「え…あ!ご、ごめんなさい!」


エリシアはようやく我に返り、キサの頭を離し数歩後ろに下がる。


「……お嬢さんが先に抱き付いてきたんだよ?」

「わ、分かっています!い、言わないでください!」


キサは、数歩距離を置いたエリシアに(あき)れたように言い、エリシアは真っ赤に顔を染める。


「あー……ちょっと僕、顔を洗ってくるね。すぐ戻るから」

「……はい」


キサはエリシアと目を合わさずに、すっと立ち上がり森の奥へと消えていく。エリシアは遠ざかる広い背中に視線を注ぎ、ばっと顔を両手で覆う。


「何てことを…私…」

【シア、大丈夫?】


サンが気遣うように、エリシアの顔を覗き込む。


「…うん」


エリシアは自分が行った行動に、羞恥(しゅうち)でいっぱいになり顔から湯気(ゆげ)が出ていると思うほど、体が熱くなっていった。







***









キサがエリシアの元に戻った時、エリシアは()()の側でリンたちと寄り添い、丸くなって目を(つむ)っていた。


(寝たのか)


キサはフードを深く被り、髪の毛でさえもひっつめているエリシアを焚き火越しに見つめる。



エリシアを初めて見た時、一目でキサを"支配する者"だと分かった。


なるべく、瞳の色を見せないためフードを深く被り、(うつむ)き加減で話すから、キサはエリシアの顔を見たい欲求が高まった。


エリシアが、何度かキサの店を訪れた時だったか…ー

エリシアがふと、棚の高いところに一生懸命手を伸ばしていた。エリシアの身長じゃ決して、届かないところを必死に取ろうとしていた。キサは、そのいじらしさに手伝ってあげようと思い、エリシアの背後から、変わりに小瓶を取ってあげた。

エリシアもそれに気付き、顔を上げてキサにお礼を言おうとしたが、寸前で顔を上げるのを止め、俯き加減でありがとうと言った。


キサは顔を見れると思ったのに、結局俯かれ見ることは叶わなかった。だから、少し強引にエリシアのフードを取ったのだ。

その時、キサの背中にある龍の証が(うず)いた。


キサの眼前に赤みがかった紫の瞳と、茶色がかった金髪の少女がキサを見上げていた。

エリシアはすぐに、フードを被り直し、金貨だけ置いて出ていったが、キサはしばらく動けなかった。

証だけではなく全身が疼いていた。この時、キサはエリシアならば支配されてもいいと思った。


相手は少女なのに、キサは今まで感じたことのない感情が迫ってくるのが分かった。


月に一度来るか来ないかの頻度(ひんど)だったので、エリシアがキサの店にやって来ては軽口を叩き、もっと話したいがために少しでも長くエリシアを引き止めていた。


その一年後に、王城の騎士たちが店にやって来ては、エリシアについて聞いてくるようになりキサは、適当にはいはいとあしらっていた。

しまいには、国王のレオンまでもが(じか)に尋ね、その時はキサでも驚きを隠せなかった。


レオンたちが尋ねて来る時は、エリシアは来なかったのでキサにとってはありがたかった。エリシアの顔を見れなかったのは残念だったが…。


気さくで国王らしくないレオンに、キサも最初ははいはいとあしらっていたが、次第に面倒くさくなり好きなようにさせていた。レオンはエリシアについて聞いてくることもあったが、キサのことにもあれこれ質問をしてきた。

客がいようがいまいが、遠慮なしにキサにあれこれ質問をするレオンに、キサはつい自分が雷龍だと口を滑らせてしまった。

レオンは驚きはしたが、納得もしていた。キサは、どこか人間離れしているからだと。


レオンだけではなく、ゼノや隊長らもキサの店に尋ねて来ては、遠慮なしに言い合いもしたし、剣術や体術の見せ合いもした。

キサはどこか心の奥には、人間に対して嫌悪感があったが、レオンたちといると居心地が良く、人間に対して好意的な感情が芽生えた。


そして、エリシアがレオンに出会い、キサとエリシアは龍探しに旅に出る…ー







◇◇◇








キサはフードから(のぞ)くエリシアの愛らしい寝顔を見ながら、自信の(ひじ)に頭を乗せて横にゴロリと寝転がる。

マントを身体の下に()き、少しはマシになった。

キサはエリシアと出会ってから、ずっと恋い焦がれていたため、こうして毎日、エリシアと夜を明かすなんて日がくるなんてキサにとっては、幸福以外にない。

キサはエリシアを見詰めながら、穏やかに目を細めて微笑む。


そんなキサのニヤニヤ笑っている顔を、ライとリンはしらーっとした目で見ていた。







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