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龍を統べる者  作者: 雪見だいふく
雷龍 キサ
11/23

二人の距離

「お嬢さん?おじょーさーん。ふてくされてるの?」


エリシアの背後から、呑気にキサが声を掛ける。エリシアは、からかわれて憤慨(ふんがい)していた。


二人はアストランティアの王城を出て、城下町を通り、エリシアの小屋に向かっている途中だった。キサをエリシアの小屋に入れるのは嫌だったが、旅に出るならば仕方ない…。

色々と女は準備が必要なのだ。


「ねえ、いい加減機嫌直してくれない?お嬢さんのこともちゃんと、魅力に思っているよ?」

「……話し掛けないでください」

「それは無理だね。これから、二人で旅をするんだから、仲良くしないとね」

「私たちだけじゃありません。この子たちもいます!」


エリシアは両肩に乗っている、シンとサンを撫でる。


「…ああ、そういえばそうだった。ねえ、お嬢さんは(けもの)の声が聞こえるんだろ?」

「…はい」

「僕も聞こえるんだよ。お嬢さんのように、簡単には聞こえないけど集中力を高めたら聞こえるんだ」

「…そうなのですか?」


エリシアは思わず、背後にいるキサを振り向く。


「くく…残念。また、騙されたね。お嬢さんは単純だなー」

「…!」


馬上でお腹を抱えて笑っているキサに、エリシアはかあっと赤面させ、手綱(たづな)を引きライを走らせた。

お嬢さんと叫んだキサに構わず、エリシアは一直線に小屋へ全速力で走らせた。









◇◇◇









「もう!失礼すぎる!あの人、絶対に私をバカにしている!」

【まあまあ、そんな怒ることないわよ。私が噛みついてやるから】


エリシアが旅に行くために、薬草や調理道具などを集めていると、側で聞いていたリンがにっこりと笑いながら、恐ろしいことを言う。


【それにしても、置いてきたけどここにたどり着くのか?】

【霧が深いから、前が見えないんじゃない?】

シンとサンが顔を合わせながら、心配そうに言う。


「……」


エリシアも二匹の会話を聞いて、罪悪感が募ってきた。道に迷っていないだろうか…。エリシアをからかっても、キサはいつもエリシアを守ってきてくれた…。


エリシアはじっとしていられず、思わずバンっと扉を開ける。すると、エリシアの眼前にちょうど、馬から降りたキサがいた。エリシアがポカンとしていると…ー


「あ、置いていくなんてひどいな。お嬢さんは。もう少しで道に迷うところだったよ」

「…それにしてもお早いお着きで…」

「うん、僕は鼻が良いからね。お嬢さんの匂いをたどってきた」

「……」

「あ、なに?その疑いを見る目……お嬢さん、もしかして僕のことを心配してくれたの?」


キサが、わざとらしく傷ついたように言った後、はっとしたように嬉しそうに言う。


「…別に心配していません」

「あはは。お嬢さんは嘘が下手だな。心配してくれたんだろ?ありがとうね」


キサは扉の前に立っているエリシアの目の前まで来て、大きな手でエリシアの頭を撫でる。

エリシアは何故か、その手が嫌じゃないと思った。頭を撫でられるなんて、何年ぶりだろう。

大人しく撫でられるがままになっているエリシアを、どうしたのかと思い、キサはエリシアの顔を覗くが、少し頬を赤らめて俯いているエリシアに、目を見開き、すっと手を退()けた。

エリシアはキサを見上げるが、キサはそっぽを向いていた。

エリシアは首をひねるが、キサに中に入ってと言った。キサは戸惑っていたが、やがて大人しく室内に足を踏み入れた。


「驚いたな。結構広い」


キサは物珍しそうにキョロキョロと、室内を見回していた。エリシアはその様子がおかしくて、くすっと笑う。


「あ、今笑っただろ?」


キサは罰が悪そうに暖炉の前に座った。準備が途中なエリシアは別室に行くと、キサはもう一度辺りを見回す。

暖炉の前には、リンとサンが寝転んでくつろいでいた。キサは彼女らの隣に腰掛け、リンの毛並みの良い身体に手を伸ばすが、リンがぐうっと(うな)る。

キサは驚き、遠慮ぎみに今度はサンの小さなふわふわな身体を撫でようとする。サンは抵抗せずに、撫でられるがままになって気持ち良さそうに、喉をゴロゴロ鳴らした。

キサは微笑み、優しく毛をすくように何度も撫でる。



「お待たせしました。……」


エリシアが袋を背中に背負い、皆がいるところに行くと、キサはエリシアに気付かないのか優しく目を細め、サンを撫でていた。その横ではリンが薄目でキサを見ている。

エリシアは出ようか迷ったが、ふとキサがエリシアに気付いたので、エリシアは暖炉の前に移動した。


「サンが私以外に身体を撫でさせるなんて、初めて見た。あなたに、心を許したんだね」

「そうなのか?だったら嬉しいね」

「……ねえ、さっき言ったこと嘘じゃないのでしょう?この子たちの声、聞こえるのでしょう?」


キサは、エリシアの発言に驚いた風もなく、ゆっくりと頷(うな

ず)く。


「龍は獣だからね。獣は獣の言うことが分かるのさ」

「ねえ、あなたは自分のことを龍だと言う時、どこか自傷気味に言うね?どうして?」

「……意外に鋭いね、お嬢さんは。そんなに僕のことを熱心に、観察してくれていたってことなのかな?」

「ち、違う!…ただ、そう思っただけ…」

「ふ……うん。……この家は暖かいね。日だまりのようだ」


キサは微かに笑った後、仰ぎ見て目を細めた。エリシアは話をそらされたのに気付いたが、あえて追求はしなかった。


「そう?」

「うん、お嬢さんの髪色みたいに暖かい。ほっとする」


キサは今度は、エリシアに視線を注ぐ。エリシアはその穏やかに細められた、眼差しにドキッとし、慌てて視線をそらす。


「あ…よ、用意出来たから行こう!は、早く」

「…うん」


キサはエリシアの慌てる様子に、くすっと笑いゆっくりと立ち上がる。同時に、リンとサンも起き上がり、サンはエリシアの左肩にピョンっと乗った。



「改めて、僕は雷龍(らいりゅう)のキサだ。さっきみたいにくだけた話し方で、接してほしいな」


キサは自己紹介しながら、片手を伸ばすと、エリシアの片手を取り、手の甲に口付けをチュッと落とす。エリシアは、かあっと顔を赤くし、ばっと手を引いた。


「こ、こういうことは禁止!」

「はいはい」


顔を赤くするエリシアに、キサはくすくすと笑う。エリシアはこれからの旅で、気の抜けない旅になると推測(すいそく)する。いや、絶対に当たる。


でも…髪の色を誉めてくれた人は、初めてだ。人じゃないけど…。少し…いや、かなり嬉しい。エリシアはフードの下で、隠しきれない笑みを浮かべる。









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