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龍を統べる者  作者: 雪見だいふく
雷龍 キサ
10/23

初代女王

エリシアは広大なホールに案内され、天井や壁には天使が描かれた豪奢(ごうしゃ)な広間に陛下と二人きりだった。

カツンカツンと二人の足音が響き渡り、まるで音楽のように聞こえる。

奥に進んで行くと、目を引くような巨大な肖像画があり、美しいが儚く困ったように笑う女性が、描かれていた。エリシアが思わず、見とれていると…ー


「これがアストランティアの初代女王、マリサ・リテールだよ。美しいだろう?私もこの肖像画を見た時、君のような反応だった。彼女はどこか母に似ているんだ」

「皇后陛下に?」

「うん。アストランティアでは、王女が女王になって国を収めるんだ。けれど、母は妹たちではなく私を選んだ。いつもおっとりして、(はかな)いのにその時だけは周りの意見を聞かなかったなあ。凛としていて…ああ、この人は紛れなく女王なんだと思った。妹たちも賛成してくれて、ありがたいと思っている」

「そうだったのですか…」


肖像画を仰ぎ見ながら、ポツポツ話してくれる陛下にエリシアはチラッと横目で見る。陛下は懐かしそうに目を細め、どこか遠くを見ていた。まるで、昔を思い出しているかのように…。


「ん?どうした?」

「あ、何でもないです」


陛下がエリシアの視線に気付き、エリシアは慌てて下を向く。


「…うん、じゃあ、キサもそろそろ仕度出来たと思うから行こうか」

「…はい」


陛下は扉に向かって、真っ直ぐに歩く。エリシアは一歩進み、一瞬立ち止まってもう一度肖像画を見る。

肖像画の中の女性は、儚い雰囲気ではあるが黒い瞳は、力強く意思を宿(やど)しているようにエリシアは感じた。

何世紀も違う人なのに、エリシアは初めて彼女と会った気がしなかった。

陛下にエリシアと呼ばれ、慌てて扉に向かうが心の中で、ありがとうと(とな)えた。









◇◇◇










陛下が王城の門まで案内してくれると、キサが退屈そうに馬に話し掛けている。


「あ、もう遅いよ。僕は基本待つのは得意じゃないんだから。ほら、お嬢さんの馬」


キサは話し掛けていた馬の手綱(たづな)を、エリシアに渡す。ライも遅いと怒って、エリシアの顔に鼻を擦り寄せた。

エリシアがライの(たてがみ)を撫でていると、すぐ側まで陛下が立っていた。


「気を付けてね、エリシア。キサ。喧嘩はダメだよ、なるべく早く帰ってきてね。じゃないと、私過労で倒れてしまうかもしれない。ああ…あと」

「もういいだろ?レオン。お嬢さんから離れて」

「はいはい。キサはエリシアのことになると、狭量(きょうりょう)になるんだなあ。エリシア、気を付けてね。(おおかみ)にいつ噛み付かれるかも分からないから」

「?…リンは私には噛み付きません」

「いや…そういう意味じゃない…」


陛下が言う狼は、リンのことを言っているのかと思い、エリシアが首を傾げると、陛下は項垂(うなだ)れた。キサはくっくっと片手で口元を抑えて、笑いを(こら)えている。


「ご心配なく。僕はもっと色気のある女性が好みなんで、お嬢さんに手を出す心配はいらない」

「なっ…!」


キサの態度がお店で対応していた時と同じで、エリシアは思わず反論する。


「別にあなたの好みになりたくないです!」

「おーおー。ぜひ、そうしてください」


キサがおちゃらけると、エリシアはむかあっと頭に血が上るのを感じた。


「まあまあ。これから一緒に旅をしていくんだから、喧嘩はしない。エリシア、落ち着いて」

「……はい」


エリシアは苛立ちを抑えられないまま、ライにひょいっと(また)がる。

そして、そのまま陛下にお礼を言ってキサを置いていった。


「あーあー。キサ、どうすんの?お姫様が怒っちゃったよ」

「…別にあれでいいんだ。僕の気持ちは知られたくない」

「君はもう少し貪欲(どんよく)になってもいいと、私は思うよ?もう少し素直に…」

「ごめんだな。龍は簡単に、人を愛せないんだ。一途で粘着質で、愛したら忘れられない。……じゃあな、レオン。君も気を付けて」

「うん。ありがとう、キサ」


キサも馬に跨がり、エリシアを追っていく。レオンは、二人の背中が見えなくなるまで、ずっと門下で立ち尽くしていた。


「陛下」

「うん…」


レオンの背後から、騎士団隊長が低く声を掛ける。


「ついに来たよ。時が…」

「……」


レオンは、どこまでも澄み渡る青空を見上げた。


「覚悟はいい?」

「はっ!」


レオンの一言で隊長は、騎士団を集める命令を下す。レオンはどうか無事で…と祈った。












次話から、旅の始まりとなります!

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