交戦
ヘレネとアリシアは主犯格のダイル、学園生徒であり、生徒会議のメンバーであった裏切者ラックス・フォークライトとそして依頼され遂行しているダイルと対峙していた。
「裏切者がよくおめおめと出てこられましたね」
「シーランド嬢。お言葉ですが、そこにおられるヘレネ・ポリデウスをこちらに引き渡していただけないでしょうか」
「この私に交渉事とは、いい度胸ですこと」
アリシアの家は代々、貿易を生業とする庄家だ。アリシアもその家の娘として教育を受けている。そのため、交渉事には自信があった。
「引き渡していただければ、あなただけは見逃して差し上げますよ。私はあなたとは刃を交えたくはありません。これからの関係を築いてゆくために」
「それはどういう意味なのかしら」
その言葉にアリシアは眉を顰める。
「これから先、ギーシャ共和国は、新しいトップになられる。そうなった暁にはあなた様のご実家、シーランド家とよき相手になって差し上げようと思っています」
「なるほど」
腕を組む。
ラックスは、ギーシャ共和国のトップ、つまりエクラ、ヘレネの父親を失脚させ、自分達が君臨する。そうなったら、自分の家と客としての関係を持つと
「現在の国との関係よりも優遇しますよ」
と言ってくる。
メリットが大きいように聞こえる。
「お断りさせていただきますわ」
だが、アリシアは拒否した。
「どうしてでしょう?悪くない話だと思うのですが」
「いくつか言わせていただきますわ」
手を広げ、ラックス達に突き出す。
そして、一本、一本とゆっくり指を折っていく。
「まず、一つ。これを私の独断で決めるのは、浅はかであること」
親指を折る。
「二つ。このような惨事を引き起こすような連中と関係を持つことなど。我が家の恥」
人差し指を折る。
「三つ。言っておきますが、ヘレネとは、幼少の頃からの家族ぐるみの付き合い。親同士の関係も良好。今以上に優遇されることはまず持ってない」
突然のクーデター政権にそんな優遇する余裕などない。
中指を折る。
「四つ。あなたの隣にいる彼と関わりたくない」
ラックスの隣に立つダイルと名乗った男。コールを大量に所持、多くの人員を持つ、財力と兵力を持つ。そして本人ですら未知数の実力を持っている。
侮れない。
これは、アリシア自身が感じた直感だった。
そして、最後の小指を折る。
「最後。これは、私、アリシア・シーランド。友を未来の私利私欲のための犠牲になど断固拒否ですわ」
閉じ、握りこぶしを広げ、槍の刃を向けた。
「残念です。あなたはもっと利口な方だと思っていました」
「私の反応が利口じゃないと受け取るのは、あなたの自分勝手な解釈ですわ」
「そうか。なら仕方ない。ここで果ててもらおう」
ラックスは、カリバーンを出現させ、距離を詰めてくる。
しかし、その刃がとどくことはなく後方に跳躍した。
「愚かですわね。私の間合いに入ろうなどと」
アリシアは槍を音を鳴らして振り回す。
槍と剣では攻撃範囲に違い過ぎる。
ラックスがアリシアに刃をとどかせる前には貫かれていることだろう。
(初撃を避ければ問題ない)
ラックスも伊達にランキング戦で上位に君臨していたわけではなかった。今の攻防でアリシアの初撃は見切っていた。
自らの神威を高める。
地を蹴り、再びアリシアへと走る。
しかし、さっきとは比べられない速度を出していた。
神威を使い、自らの身体能力を向上させ、高速で移動する移動術。
神歩。
ラックスはそれを使った。
目に留まらない速さで迫っていく。
槍を持つ両手まで入り込んだ。
カリバーンを横に振る。
これで決まったと思った。
「流石ですわ。しかし。それを使う事は継承者同士の戦いでは常識ですわよ」
カリバーンの剣はむなしく空気を斬っていた。
背後からアリシアの声が耳に入ってきた。
彼女も神歩を使い、後ろに回っていたのだ。
アリシアは槍を遠心力を加えた右凪を放った。
それを咄嗟に振り返り様にカリバーンを振るい受け止めた。
神器同士がぶつかる音がその場に響く。
ラックスはアリシアの攻撃を受け止めきれずに後ろへと飛ばされた。
しかし、空中で回転して見事に着地した。
「これでは、無理でしたか」
「人を舐めるのもいい加減しな」
両者は再び睨み合う。
「素晴らしいですな。ご両者」
そこに場違いな賞賛の声が入った。
声の主はダイルだ。
「しかし。ラックス様。こんな所で熱くなってはいけませんよ」
「く、」
ダイルの言葉に悔しがる。
事実、ラックスは少し、頭に血が上っていた。
「こんなところで依頼主のご子息がボカしていけませんよ」
「随分と冷静ですわね」
「ええ。当たり前ですよ。だって・・・」
言葉が切れ、ダイルを中心に空気が変わった。
「くぐってきた修羅場が、お前達とは、違うのだから」
「「!」」
ダイルから今まで感じたことのないものをアリシアとヘレネは感じていた。
ヘレネとアリシアは、感じているものが何なのか理解していた。
圧力。
人が発すする見えない力。だが、ダイルが放っているのは殺気だ。
ヘレネとアリシアは、ランキング戦、小規模の実戦の中でプレッシャーに対しては学園の中でも耐えられる方だ。しかし。それは学園という箱の中での話。幾多の死線をくぐってきた者のプレッシャーを感じたのは今回が始めてであった。
「さて。次はこちらからいかせてもらおうか」
二人の少女の前に巨大な闇が立ち塞がり、襲った。
街の一角で太陽ともいうべき輝きが起こる。
その光に晒されたカオスは一瞬にして塵と化した。
「粗方、片付いたか」
エクラは剣を払い、鞘に納める。
(こんなにもカオスが、あのダイルという男、一体、どれ程の・・・)
思考は中断させられた。
自分に迫る物に気づいたからだ。
それを掴んだ。掴んだのは矢だ。しかし、矢には紙が結ばれていた。
それを解き、広げる。
そして、そこに書かれていた内容にエクラは心臓が止まるのではないかと思った。
「しまった!?」
叫んでいた。
「会長!」
「どうしたの。エクラ君」
「今すぐ、撤退してください」
「何があったの」
レティスはエクラの突然の変化に何かを察した。
「妹のヘレネとシーランド嬢がラックス達に捕らわれました。あちらの要求は、私達の反撃の停止、及び降伏です」
「近いうちにまた会う事でしょう」
あのダイルが言った言葉がエクラの頭の中で響いていた。




