最強対最強
題名とは関係なく、急な展開になっています。
これから先、修正と加筆をしていきますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ランキング戦も大詰めになった頃。
「ついに始まるぞ!コクト」
「眠い」
「寝るな!この馬鹿!」
眠たそうなコクトの頭にヘレネの小さい拳が打ち付けられた。
「あだっ!」
「今日こそは、お兄様の戦いを目に焼き付けてもらうわよ」
決闘の時に見せる雰囲気を彼女は醸し出してそう言う。
「気合いが入っておりますね」
「なんであんたみたいな奴のために苦労しなくてはいけないのよ」
ご立腹のヘレネ。
「おい!コクト!今日ぐらい見てくれよ」
「ヒノ。なんでだよ。俺は、望みもしない勝負をして疲れているんだぞ」
「ヘレネ様をここまで不機嫌にさせていると後になってどうなるかわからないぞ」
「わかったよ。頑張ってみるよ」
コクトは観念して闘技場に視線を向ける。
「わかればいいのよ。わかれば」
ヘレネもコクトの様子に満足してか闘技場の方を向いた。
(さて、さて。どんな戦いを見せてくれるのかな。アイツは)
闘技場に続く道。
「さて。いきますか」
「楽しみだね。君との決闘。今回はこっちが勝つよ」
「そうはいきませんよ」
エクラとレティスはお互いを見据え、対峙している。
二人が立つ場所は闘技場の中心。
『さぁーて、やってきました!この時が!誰もが待ち望んだこの時を!』
実況の彼女はテンションを上げて喋る。
それに比例するように観客席の生徒達からの歓声があがる。
『生徒会議。それは、選ばれた者が集う場。しかし、今ここに、再び、集う者達がぶつかり合う。
学院最強の名を持ち、聖なる剣をその身に宿す。その少年。如何なる歒をも聖なる剣の軌跡で屠る。そして、その身で学んだ最強の流派で如何なる力も薙ぎ払う。
剣聖。最強を継ぐ者。エクラ・ポリデウス!!』
『対するは、学院の全てを束ねる者。それは、学院最強の証。全てを統括する彼女に逆らう者なし!全ての生徒が憧れる彼女こそ!剣聖の相手に相応しい!青空のヴァルキリー。レティス・ローネテンス!!』
実況の声に合わせるかのように彼女は現れた。
誰の目をも引くスカイブルーの髪を靡かせて。
「やっと来たね」
レティスは笑顔を浮かべる。
「そうですね。会長とやるのはどれくらいぶりでしょうか?」
「去年のランキング戦決勝以来だったわね」
懐かしむ二人。
「で、君の勝利で幕を閉じたんだよね」
「そうでした」
「あの時のリベンジ。させてもらうよ」
「受けて立ちます」
両者が構えた。
「顕現せよ。聖なる輝きと共に、英雄の王の御剣よ。エクスカリバー!!」
エクラの右手には白銀ともいうべき刀身、金の装飾が施された芸術とも言える鍔と柄の美しき剣が握られていた。
「降誕せよ。知恵と豊穣、守護を司る女神よ。今こそ現れろ。体現せし、神杖。アテナ!!」
レティスの手には金色の六尺の杖が握られる。
杖の先はオリーブの装飾がされ、短剣ほどの刃があった。
己が継承した神器を構え、合図を待つ。
そして
「始め!!」
合図が出された。
両者は中心でぶつかった。
そのぶつかった衝撃は津波の如く周囲に広がる。
レティスの杖が突こうとすれば、エクラの剣が軌道をずらす。
ゼロ距離の中で凄まじい攻防が続いていく。
「神滅一双流 白ノ型 白兎」
レティスに白き閃光が迫る。
迫る位置は心の蔵。
彼女はそれを横に体を動かして回避した。
しかし、技の速度と避ける速度に数秒の差ができ、チリッと彼女の制服を掠めた。
「やるわね。流石は、最強の剣士の流派の剣。いつ見ても凄まじいわね」
「この技をあの距離で避けたのは、学院ではあなただけですよレティス会長」
神滅一双流。
エクラが学んだ剣術の名だ。
かつてはエクラが最強という名を受ける前まで大陸最強と呼ばれていた一人の男が振るっていた剣術の名でもある。
エクラはその人の弟子だ。
そして、エクラはその技の全てを継承している後継者なのだ。
「これはまだ、初歩の初歩です。これからが本領ですよ」
「それじゃあこっちも本気でいかないとね」
お互いの神威が高まり二人を包みこんでいった。
再び両者は中心でぶつかった。
『すごい!凄すぎる!剣聖エクラ。生徒会長レティス。二人の戦いの勢いは収まらない!!会場もそれに比例してヒートアッーーープ!!』
実況の言葉はまさに決闘の様子を現している。
エクラは聖剣の力と自分の剣術で目にも止まらぬ攻撃を繰り出していく。
対するレティスは杖を両手で巧に操りエクラの剣を受け流し、弾いたりしている。しかし、ここぞという時には自分で学び、研鑽してきた棒術の鋭い突きを繰り出してくる。
「すごい突きですね」
「それを余裕な表情で流されても嬉しくないわね」
「本心なんですがね」
会話しながらでも隙は一切見せることはない。一瞬の隙が戦況を揺るがす。
両者の戦闘は攻防一体。
勝負が着く気配は全くない。
しかし。両者にも限界はある。
現に両者は少しではあるが息切れを起こしかけていた。いくら学園最強でも集中力には負担を掛ける。まして、一瞬の隙が命取りになる決闘。その集中力の消耗は並みのものではない。さらに両者の制服はこれまでの戦いの影響で破れたりしている。破れた部分からは擦り傷ではあるが出血すら起こしていた。
「そろそろ決着を着けましょうか」
「いいですよ。こっちもそのつもりです」
「今回のランキング戦は私がいただくわ」
「それは困ります。この決闘はあの人も見ていることですから」
「それって、お師匠さん?」
「まあ。そんなところです」
苦笑を浮かべるエクラ。
(あの人の場合、寝ている可能性があるけど)
両者が距離をとり、構えなおす。
お互いに自分の神器に神威を注ぐ。
「斬り裂け!王の剣激 ブローオブ・ザ・キング!!」
光輝く剣から大地を抉る一撃が放たれた。
「顕現せよ!民を守り抜く一撃 プロテクト・インパクト!!」
杖から放たれる一筋の光線。その様は、一筋の彗星。
両者の一撃が衝突。
「きゃぁ!?」
「く!?」
両者は自分達の力の衝突で生じた衝撃に耐える。
『両者共ども健在!!しかし!両者の状態はすでに限界。おっと。審判員の方がジャッジをするようです』
審判員は二人の様子を見て判断。
『審判員のジャッジが出ました!!結果は両者引き分け!!引き分け!!』
実況がそう叫ぶのと決闘場に黒い魔方陣が出現し、広がったのはほとんど同時だった。
遡ること数分前。
「おい。どうだ」
「ええ。頃合いでしょう」
エクラとレティス。二人の強者がぶつかり合っている決闘場。
そして、両者が全身全霊の一撃を放った直後。
それを眺めていたフードの男は準備を始めた。
ケースの中から一振りの剣を取り出した。
「どうぞ」
「ああ」
ラックスは男から剣を受け取り、ゆっくりと引き抜く。
刀身が現れ始めると鞘からは禍々しい輝きが増していく。
「太古より眠りし混沌よ。世を掻き乱し、乱を呼べ。コール!!」
紡がれる混沌へと導く言霊。
その言葉を引き金となり、黒い魔方陣がラックス達を中心に広がってゆく。
「だぁ!」
陣の中心に剣を刺す。
より一層輝きを増す。
「さあ!エクラ・ポリデウス。お前の最後のランキング戦だ!」
勝ち誇るようにラックスは叫ぶのだった。
それと同時に決闘中のエクラ達にも影響が出ていた。
「黒い魔法陣!?」
「これって、まさか!?」
エクラとレティスが驚愕する。
「カオスだぁ!?」
「カオスの陣だ!?」
「逃げろ!?」
観客席からは恐怖にかられ、逃げ惑う人達が現れ始めた。
そして、それは起こった。
魔法陣からこの世とは思えない禍々しい気を放つ生物が数十体も現れた。
「カオス」
観客席の誰かが震える声でその名を呟く。
カオス。
それは神々が作り出した生物。最終戦争ラグナロクでは兵士の役目を持っていた。いうなれば、生物兵器。
しかし、戦争は終わり、生物兵器の存在は不要になった。しかし、残されたカオスは戦乱の中を暴れまわった。
人々はその存在を、平穏の世界に舞い降り、乱を起こす存在、カオス。と名付けた。
「危機レベルA!学院のBランク以上の生徒、及び、教師の皆さんは対処を!」
アナウンスで指示がとぶ。
「はぁ!」
聖剣を横に一閃して一体を葬る。
「はぁ。はぁ。・・・きついわね」
神杖を支えにして立つレティス。
彼女も陣から出現したばかりのカオスを倒した。
「でも、いったいこれは、どういうことかしら」
「多分。狙いは僕達でしょう」
「どうして言い切れるの?」
「まるで、私達が満身創痍になった瞬間を見計らったかのように魔法陣は出現しました」
「確かにでき過ぎているわね」
「一先ずここを撤退いましょう」
「ええ。その方がいいわね」
周囲からはカオスが次々と出現し始めていた。
「でも、これを突破するのは流石に難しいわね」
レティスがそう呟いた。
「満たしなさい アクア・ウェーブ」
少女の声と共に海の波がカオス達を襲った。
「アリシア」
「レティス・ローネテンス!あなたほどの人が何を弱音を吐いているんですか!」
上から目線の物言いがこの場に響く。
「ごめんね。でも、少しは気合いが入ったわ。ありがとう」
「れ、礼は不要です!そ、それよりも、急ぎますよ!」
赤面し、そっぽを向いたアリシアが言う。
そして、アリシアに先導される形でエクラ達は闘技場を後にした。
そして、それを追うかのようにカオスが迫る。
カオスはそこに達することはできなかった。
手を伸ばした腕が斬り飛ばされたのだ。
「グォォーーーーーー!!」
そして、カオス達の前には
「!」
エクラは背後に出現した人物を見た。
そして、フードの下から見える口が何かを言ったのを見た。
「後はまかせな」
それを聞いたエクラはどうしようも内くらい悔しくなった。
しかし、堪え、小さく頷くのだった。
その反応を見て、フードの男の口は笑み浮かべる。
「悪いな。ここから先は通行止めだ」
そして、エクラ達が走り去る音を背中で聞きながら黒いフードを深く羽織った男はカオスの前に立ちはだかった。
「久しぶりの運動だ。覚悟しろよ」
男はカオスに語り掛けるようにそう呟くのだった。
「ねえ。今、誰か背後に現れなかった」
「気のせいでしょう。あそこは皆避難しているのだから」
「ゲートが閉まりました」
鉄の分厚い扉が重い音を鳴らし、闘技場と廊下の道を分断した。
ゲートの扉はカオスの襲撃を想定されて作られている。ちょっとやそっとでは破ることは決してない。
「お兄様!!お怪我はありませんか!!」
向こう側からエクラの妹ヘレネが駆けてきた。
制服にはカオスを倒したのだと思われる緑色の返り血が付着している。
「ヘレネ!無事だったか!!」
「お兄様は大丈夫だったんですか!?魔法陣の中心におられましたので心配でした!?」
そういって駆けた勢いのまま抱き着く。
「ヘレネさん。こんな時に何をやっておられるんですか。時と場合を弁えて下さい」
ヘレネの様子を見ていたアリシアが窘める。
「い、いいじゃない!?アリシア。こっちはお兄様を失うかの瀬戸際だったのよ」
むくれるヘレネ。
「はいはい。喧嘩はここを脱出してからにしましょう」
そういってレティスが仲裁に入った。
「ところで、君は確か」
「は、はい!!ヒノ・カグチです」
エクラに指名され、ビシッとなるヒノ。
「そんなにかしこまらなくても、同級生じゃないか。できれば、エクラさん、できればエクラと気軽に呼び合わないか?ヒノ・カグチ。ヒノ君と呼ばせて貰えないか」
「か、構いません!!え、エクラ、、さん」
まだぎこちないがなんとか答えるヒノ。
「それで、君とよく一緒にいる彼はどこかな?」
「彼?ああ!!コクトのことですか」
彼の名が出てヘレネは不機嫌になる。
「一緒じゃなかったのかい」
「いえ。カオスの出現で観客席がパニックになって人込みに流されて見失ってしまったんです」
そう。ヒノはコクトを見失った。人がおしくらまんじゅう状態の中で見失ってしまったのだ。
「お兄様。あんな奴はほっといて結構ですよ」
「ヘレネ。そんな事を言っちゃあいけないよ」
エクラは妹を叱るように言う。
「そうですよ。エクラ様。心配する必要はありませんわ」
アリシアは自信ありげに言う。
「彼は、逃げ足。逃げることに関しては学園一です。今頃は観客達と一緒に避難しておりますわ」
「そうね。あのにっげぷりだものね」
レティスも今日のランキング戦を思い出してたのか苦笑する。
ガゥン!ガーン!
ゲートに何かがぶつかる鈍い音が廊下に響いた。
「急ぎましょう。ここは危険だわ」
「でも!闘技場には」
「ヘレネちゃん。私とあなたのお兄さんはさっきまでの決闘で神威と体力を消費しているわ。それに今の闘技場には増える一方のカオスがいるわ。現実的に不利よ」
真剣な表情でレティスはヘレネを見据える。その表情は学園の生徒を束ねる会長だった。
「わ、わかりました」
「あなたのそういう所は高く評価するわ」
さっきよりも音が大きくなる。
レティスは急いで行こうとした
さっきまでうるさかった音が消えていた。
代わりに
ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
カオスの断末魔が聞こえてきた。
「誰か戦っているの!?」
驚愕の声をあげるレティシア。
彼女はありえないと思った。
万全のレティシアとエクラなら乗り切れられるだろう闘技場の状況。しかし、現在の二人は、力をほとんど使い果たしている状態。現状、あの闘技場で戦闘ができる生徒、教師、はいない。
それ以外の人も驚いてゲートを見ている。
「会長!今は逃げますよ!」
エクラの叫び、我に返り、レティシア達は走り出した。
しかし、そんな中で
「ご武運を」
エクラの呟きを聞いた者はいなかった。そして、エクラが悔しそうな表情を浮かべていることさえも。
闘技場内ではカオスが跋扈する無法地帯になっていた。
数分前までは
今の闘技場はカオスの死体置き場、墓場になっていた。
切り裂かれ、バラバラになったカオス。
そんな闘技場でフードの男はカオスを一瞬の名の下で斬っていく。
そして、跳躍。
その高さ、十メートル。
魔法陣の全体像が見えるところまでくるとぶつぶつと何かを呟く。
すると、男の持つ剣が輝きだした。
輝く色は、黒の交じった紫、不気味さはあるがどこか神秘性を帯びた色。
男は、剣を振り下ろす。
すると、魔法陣に右斜めに線が入り、魔法陣は真っ二つ、消失した。
魔法陣が消失するのと同時にカオスも消滅していった。
男は、その様子を見ていた後、音もなく消えていった。
後に残ったのはカオスとエクラ達によって壊された瓦礫だけだった。