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ランキング戦。開始

「ついにこの日がきたぁーーーッ!!」

「朝から騒音が」

「誰が騒音だ!」

コクトの欠伸交じりの言葉にヒノは元気に突っ込みを入れてくる。

「気合い入っているな」

「そういうお前はどうなんだよ」

「それは、勿論気合いが入っているよ」

欠伸交じりにコクトは答える。

そんな彼を

「本当に気合いが入っているのかしら」

ジと目でコクトを見る日の光りに反射して輝く金髪をポニーテールに纏めているヘレネが見ていた。

「あんたが気合いを入れることなんて〝寝る〟ことですよね」

彼女の言葉に

「うッ」

コクトは言葉を詰まらせた。

「それとも・・・」

一拍置いて

「〝逃げる〟ことに関してかしら」

その単語にコクト、そしてヒノまでも理解した。


(やっぱ知っているよなあ彼女も僕の〝異名〟と〝言われ〟を)


「おい。コクト。お前今日出るんだよな」

「あ、ああ。一応」

ヒノの言葉にコクトは多少詰まった口調で答える。

「噂通りか見せて貰うから〝逃げ足〟のコクトさん」

誰もを魅了するかもしれない挑発的な表情でそう言い残すとヘレネはさっさと会場へと行ってしまった。


「行こうか」

「おい大丈夫か」

「さあ。どうだろう?」

苦笑交じりにコクトは答えるだけだった。


『さあ!始まりました!この学院にいる誰もが待ち望んだ!

己の実力を今こそ試すこの時を!』


司会の少女の言葉に闘技場に来ている生徒達、そして今日のランキング戦を見に来た観客達が反応するように歓声が沸き起こる。


『さあ!始めましょう!継承学院恒例行事ランキング戦を開始ーーーーーッ!』


「ウォーーーーーッ!!!!」


歓声が最高潮に達した。

いよいよランキング戦が開催された。


『さあ!ランキング戦の盛り上がりも最高潮にきたーッ!!しかし、今度の決闘は、今までとは異色!

この決闘は、戦いではない!

この決闘は、決闘者の一人が〝逃げ切れる〟か〝蹂躙〟されるのかのどちらかだーッ!!』

司会の言葉に闘技場にいる全員がある一人の生徒を連想させていた。

『さぁーッ!!出てきてもらいましょう!

今度は逃げ切れれるかーッ!!

〝逃げ足〟のコクトこと。コクト・カミシロ!』


「さてと、行きますか」

舞台に続く道をコクトは歩いていった。


コクトが闘技場に出ると歓声が起こる。


「逃げ切れよーーー!!」

「俺達はお前に賭けてだぞーー!!」

「さっさとやられちまいなぁーー!!」


しかしこんな言葉を言う人が多い。

逃げてばかりのコクトはこの闘技場では有名だった。

戦わず逃げる臆病者

臆病の化身


そういったものが収束して生まれたのが


逃げ足のコクト。


という異名だった。


今では、コクトが逃げきれるかどうか賭ける者がいるほどだ。

本当に暇なことだ。

その事実を後に知ったコクトはそう感じた。


さて、今日は。


『さぁーーー!!そんな彼を相手するのは我らが学院の生徒会議の一員である。ラックス・フォークライト!』

その名が出ると割れんばかりの歓声が鳴る。

『我らが生徒会議の一員があの臆病者をどう料理するのかぁーーー!!全ては、この決闘に示されるぅーーー!!』


「まったく。どうして私がお前のような奴の相手をしなければならないんでしょうかね」

見下すような(見下した)言い方で呟く。

「ラックス様。やる前にお聞きしても」

「これから無様に敗北する者に対する慈悲として聞いてやる。なんだ」

「生徒会議の意向でしょうか。私は、このランキング戦には、立候補していなかったのですが」


コクトは立候補していなかった。いや、出場する書類が教室で配られた時に、出場しない、という方に記入して提出していたのだ。

ランキング戦の出場は本人の意思で決まる自由制なのだ。

そのため自分がトーナメント表に出されていたのを見た時は驚いたものだ。


「そうだったのですか。私は気づきませんでしたよ。前は出場していたので今回も、と思いましたがねえ」

なんだ、といった感じに呟くラックス。


「私としては出たくはなかったんですが」

「ですが、ここにいるじゃありませんか」

「そうですね。出たくないというのは説得力がありませんね」

「そろそろいいですか。こっちは君のようなのと時間を浪費したくないんですよ」

「それでは始めましょう」


コクトはラックスから距離をとった。

ラックスもコクトから距離をとる。


お互いに合図を待つ。


『それでは、始め!!』

号令とともに開始の鐘が鳴った。



ラックスは地面を蹴り、コクトに接近し、手に持つ剣を振るった。

「!」

コクトは上半身を後ろに引いてこれを回避した。

「そうだ。避けろ!避けないとせっかくの〝余興〟が台無しだ」

ラックスの言葉が耳に入ってくる。


コクトはラックスに背を向けて走り出す。


「うわぁぁーーー!!」

情けない声をあげながら


(やっぱり、こいつは)


しかし攻撃を避けながら、コクトの頭の中では考えが整理されていく。


『逃げ足のコクト!今日も逃げる!逃げるー!ラックス選手!今だに決定打は打ち込めず!』


実況の女子生徒が叫ぶ。


「情けないったらありゃしないわ」

ヘレネは決闘の様子にイライラした。

攻撃を避け、何もせずに無様に逃げ惑うコクトを見ていて

「何なのよ。あいつは」

そんな言葉が彼女の口から出ていた。


「く!ちょこまかと」

ラックスの顔から余裕がなくなり始めた。

再び、コクトの間合いへと入り、剣を袈裟懸けに振るった。


これで決まった


ラックスは思った。


しかし違った。

刃は空を切り裂き、コクトはラックスから見て左側にいた。そして走り出す。


「おのれ!!」

ラックスはイライラした。

こんなにも自分の思惑通りにいかない試合に対して。


「ひー!!」

対するコクトは他人から見て無様と言える逃げに徹していた。


『コクト選手!逃げる!逃げる!ラックス選手、逃げ足に翻弄されて時間が長引く長引く!』


「おのれ!!」

「よっと!」

攻撃するラックス。

避けて逃げるコクト。

現在の決闘はこの繰り返しだ。


だが、


「こうなれば!」

剣を頭上に掲げる。


「我が手にこい!聖なる身よ。今こそ現れ、その手に宿れ!」


ラックスの手にさっきまで握られていたものとは比べ物にならない素晴らしい剣が握られていた。


「現れろ。カリボーン」


『おおーと!ここでラックス選手!自らの神器を解放した!勝負を仕掛けてきたー!』

神器の出現に会場はヒートアップ。


「彼。とうとう出したわね」

観客席の一つに腰かけているセティスはラックスの神器使用を見て呟いた。

「そうですね」

「随分とそっけない言い方ね」

「いえ。ただちょっと、遅いな、と思ったまでで」

彼女の隣に座るエクラは決闘の様子を眺めていてそう思っていた。

「遅い?確かに逃げ回っている彼に手こずっていたのは事実だけど。神器を解放したのは、私から見ても早い方だと思うけど」

そう。彼女から見てもラックスの神器解放は、早かった。

彼のプライドの高い傾向はあるがそれでも粘る方だと思っていた。

だから神器解放をした時には早かったなと思ったのだ。


「そうですね。確かにそうかもしれませんね」

苦笑交じりに言うエクラ。

しかし内心では

(遅すぎだ。もし、私なら、決闘開始直前から、神器を解放している)

まったくの別ものだった。

これは、相手に対して一気に勝負を決めなくちゃいけないという考えから出た答えではない。

むしろ逆。そうしないといけないからだ。


(そう。遅い。遅すぎる。もし私が同じ戦いをしていたら秒殺されている。あの人に)

内心で呟き、視線を送る。

彼が視線を送っている先にいるのは神器を解放せず、ただ、ただ、ラックスの神器解放を見ている少年に向けられていた。


(どう切り抜けるつもりですか。あなたは、この状況を)


(参ったな。この状況、神経逆なで過ぎて切れちゃったか・・・)

困った表情を浮かべるコクト。

しかし


「終わりだぁーー!」

ラックスの神器カリボーンの刀身が輝く。

そして神器の恩恵か、さっきとは比べ物にならない速さでコクトに迫ってきた。

(やばい。どうしよう)

コクトはというとそんな彼を呆然と眺めているだけだった。

輝く刃がコクトに迫る。


その刃はラックス、コクトの間に現れた影によって届くことはなかった。

「終了です。勝負は着きました」

エクラだ。

「何をする!?ポリデウス。神聖なる決闘を妨害するとは」

「それはこちらの台詞です。フォークライトさん」

ラックスを見据え、エクラはコクトを庇うように対峙した。

「さっきのあなたの攻撃。あれはどう見ても精神攻撃ではありませんでした」


精神攻撃と物理攻撃の違い。それは、色だ。

神器を持つ者は、力の源である神威を持っている。

神威に個人差はあるが、共通している事が一つある。

精神攻撃の時は継承者が発生させる神威の色が白だからだ。

物理攻撃では、個人の資質によって変化した白とは別の色に変わる。

ラックスがさっきまで纏っていたのは彼自身の資質が出た黄色の神威だった。

明らかに物理攻撃だった。


「一歩間違えれば、彼は死んでいた」

「くっ」

言い返せないラックスはそっぽを向く。

「今回は、フォークライトさんの勝利。それでよろしいな」


エクラの締めくくりの言葉でこの決闘は終了した。

しかし、開始前とは裏腹に終わりは静かなものであった。


「くそ!くそ!」

決闘場から離れたラックスは一室でむける事のできない怒りを周囲にぶつけていた。

「フォークライト殿。気をお静めを」

「くそ!」

「後、数時間の辛抱です」

「そうか。そうだったな」

怒り形相から勝ち誇った表情に。

「それで、他の奴らは」

「準備は整っています」

男の言葉を聞き、ラックスは笑いを殺しながら笑う。


「くくくく、、エクラ・ポリデウス。そして、学院の生徒達よ。待っているがいい。最高のランキング戦にしてやろう」


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