生徒会議
「それでは、これより生徒会議を始めようと思う」
会議室にレティスの凛とした声が響く。
生徒会議。
これは全学院の生徒から選ばれた生徒達によって構成された組織だ。または選ばれた生徒達が一同に集まり話し合いをする会議のことも示す。
「それでは、今回の会議の内容について・・・・」
それからエクラ達は、学院の校風についてやこれからの学院行事についてといったことを話し合わられた。
「では、この件については、この辺にしておきましょう」
「それでは、今度行われる〝ランキング戦〟について話し合いましょう」
レティスの言葉には力が入る。
ランキング戦。
これはこの学院の行事の一つであり、学院の生徒が最も力を入れている行事でもあった。
その理由は
「今回のランキング戦では、新しく〝ランキング入り〟する生徒が現れるかもしれないな」
自分達の実力を競い合い、ランキングに入ることができることにある。
ランキングとは、一位から二十位のランクインしたものだそしてその中でも十位から一位の生徒達を〝スペリオーレ〟と呼ばれている。学院の誰もが目指す憧れの称号だ。
「さて。今回のランキング戦は非常に楽しみね。エクラ。あなたの妹の活躍が楽しみだわ。ランキングを上げてくるのを」
「ありがとうございます」
妹のことを言われ、誇らしく思う。
エクラの妹、ヘレネはランキング上位の一人だ。さらに最近になって実力をよりつけ始めているのでエクラとしては嬉しいことであった。
(あの人は出ないだろうな。絶対)
それと同時にある人に対して思いを巡らす。
内心で苦笑を浮かべてしまった。
自分は彼の事をよく理解していたためについつい苦笑してしまう。
「他の皆はいないか?期待できる生徒は」
「ヒノはどうでしょう?ヒノ・カグチは」
一人のメンバーが名を述べた。
ヒノ。エクラはピクっと反応した。
(あの人の友人か)
一人だけで考えに更ける。
「そうだね。彼の〝力〟はなかなかだ」
物静かな印象を与える青年は評価する。
「他には?」
「シーランド家の彼女は」
「そうね。アリシアか。彼女も今回もいい結果を残すだろうね。そして確実にランキングをあげるでしょうね」
嬉しそうに彼女は言う。
この場にいる者達は彼女の様子を見て、それはそうだろう、と心の中で思った。
何を隠そう、前回のランキング戦で彼女がシーランド家のアリシアを敗退させているのだ。それ以降から彼女はレティスにライバル心を抱き、勝負を挑んでくるようになっていた。
今ではその騒動が学院内で有名な話になっている。
「それで、他には?」
「あの者はどうでしょうか」
貴族口調の生徒が発言した。
「あの者っていうのは誰ですか。フォークライト君」
「逃げ足ですよ。〝逃げ足〟」
卯や卯やしくフォークライトはその者の名前を口にした。
名前というよりも二つ名ではあったが。
会議の場がざわめく。
ざわめきではあるが大半が困惑といった雰囲気だ。
その名前は色々な意味で有名であったためでもある。
その言葉にエクラはさっきまでとは別に、とても不快な気持ちになった。
「フォークライトさん。その〝逃げ足〟というのは彼のことですか」
エクラは平静を保った状態で聞いてみた。
自分でその名をいうのは不本意ではあったが。
その問いには一層意地の悪い笑みを浮かべ、頷く。
「そうです。彼ですよ。彼が出てくれたらランキング戦はより盛り上がりませんでしょうか?」
ぬけぬけと!
エクラは叫びたい気持ちを必死に抑える。
ラックス・フォークライト。
フォークライト家の子息。そのため彼は実力と地位のために人を上から見る傾向がある。それは学院では多少有名であった。
プライドからくるものではあったがラックスは特にそれが強かった。
エクラは正直、ここで訴えたかった。
ここで、いや、こんな場所で喋ってはいけない。
そのため、そんな彼に対して言い返すことができなかった。
「だが。彼が必ず出るとは限らないだろう。そいつの実力と成績は確か、Eクラスだったはずだろう」
学院の成績はランキング意外にランクというものがあり、生徒の総合的な成績を表している。
最高のSから最低Eからなっている。
ここにいる生徒会議のメンバーは三人がSで残りのメンバーはAと実力派揃いだ。
「ま。彼が出る、出ないは置いておきましょう。今日はここまでにして各自でランキング戦にむけて準備をしていってほしいわ」
レティスの言葉で締めくくられ、生徒会議はこうして幕を閉じた。
「くそ!ポリデウスの奴!?」
生徒会議室を出た後フォークライトは自分の部屋に戻ると執事に制服のジャケットを投げ渡すとドカッと椅子に腰掛けた。
ラックス・フォークライトはエクラのことを毛嫌いしていた。
「共和国の王子の分際で!」
吐き捨てるようにエクラの身分を口走る。
共和国王子。
エクラの身分はこの大陸の大国の一国。ギーシャ共和国。
その共和国の王位第一位王子がエクラだ。
そしてラックスの父親とエクラの父親はかつて共和国王の座を争った仲であった。そしてラックスの父親は敗戦して今に至る。
ラックスがエクラを一方的に嫌うのはそこであった。
「くそ!」
イライラする。
このイライラを他にぶつけたくてウズウズする。
「ラックス様」
「なんだ!」
「お客様が来ております。注文の品を御持ちした、と」
「そうか!」
執事の言葉にラックスはさっきまでの苛立った表情から喜びの表情になり急いで相手を待たせてある部屋へと向かった。
「待たせたな」
「いえいえ。大した時間も経っていませんよ」
ラックスの言葉に相手は立ち上がり会釈した。
男の服装は商人の出で立ちをしてはいる。そして男は整った顔つきにラックスに劣らないものだ。そして服装の外から見ても体つきは商人にしては鍛えられている様に見える。
「それで、これが、御注文した品です」
そして横に長い黒色のケースをテーブルに置き開くと中を見せた。
中には赤い布に丁寧に包まれた品物があった。
そして包みがほどかれ現れたのは一振りの剣だった。
刀身は銀色に輝いているが鍔の装飾といったところは禍々しいデザインになっていた。
「これが、例の」
「そうです」
「だが、」
「御心配なく。これは、〝一般人〟でも扱えますよ」
「そうか」
「で、報酬は」
「わかっている。心配するな」
「期待していますよ。フォークライト殿」
二人はそうして不気味な笑みと話をし続けるのだった。
「お前はどうすんだ?」
「何が」
「ランキング戦」
「誰が出るんだ」
「お前だよ」
「僕に死ねと」
「いや。死なないから。むしろ、死ねないだろ」
学院内での殺傷および死傷はない。
生徒達の攻撃は人体にはいかず精神に影響を与えるように厳重注意されている。
これを精神攻撃と呼び、そして人体に影響を与えるのを物理攻撃と分けられている。
「それに。俺は使えないよ」
「そういえば、お前なんで神器。使わないんだ」
その問いにコクトは返答に困った。
「使いたくないんだよ。本当さ」
「くせがあるのか。その神器」
神器は神話になぞらえた能力を持っている。なかには、くせっけのある能力があり、過去にも確認されている。
「まあ。そんなとこ」
そう返答しておくことにした。
だが、内心では
(やだよなあ。どうしてこんな事になるのかな)
めんどくさい気持ちでいっぱいだった。
コクトとしてはランキング戦は出たくなかった。
出る気がゼロなのだ。
しかし。
「なあ。コクト」
「言うな」
「これはどういうことだ」
問いただそうとする友人。
「こっちが知りたい」
コクトの前に置かれた掲示板。そこにはランキング戦の対戦表が張られていた。
そして、そこには
「なんで僕の名前があるんだよ」
コクトの名前が書かれていたのだった。
同時刻、生徒会議室内。
「な、なんて事だ」
エクラはランキング戦の表を見て、驚いていたのだった。