襲撃
エクラとコクトは海を眺めながら静かにしていた。
両者とも口を聞かず、静かに。
二人は座禅を組み、瞑想していたためだ。
「「・・・・・・」」
二人には波の音。船内での話し声は、当の昔に聞こえなくなっている。
「来ましたね」
「ああ」
エクラは瞳を開け、彼方を眺める。
先には日が落ち、既に暗くなり何も見えない。
しかし。エクラ、コクトには見えていた。
巨大ではないが中型の船が数キロ先に停泊し、そこから小舟に乗り移りこちらに向かって来ているのを。
「さてと・・・俺は」
「逃げていいですよ。流石にこの狭い戦場では義兄上の戦いを見られてしまいますから」
裏で動いてきたコクトは、欺くために周囲から逃げるしか能がない男として通っている。そのため、公の場で実力を見せるわけにはいかないのだ。
「油断するな。お前は大丈夫だと思うけど・・・」
「わかっています」
エクラは、修行時代に多くの戦場を経験してきたために経験は豊富。しかし、学校の生徒は経験は濃いとは言えない。
突然の事態には弱いのだ。
「フォローはする」
「わかりました」
コクトはそう言って船内へ向かった。
「大変だぁーーー!!!!海賊が来たぞぉーーー!!」
船全体に響くほどの声をあげる。そして後から情けない叫び声をあげた。
「でかすぎですよ」
苦笑を浮かべしまうエクラ。
しかしすぐにそんな笑みは消え、来るであろう相手を睨む。
ガキッという音とロープのギシギシと誰かがよじ登っている音が聞こえてきた。
「やりますか」
腰の剣を抜く。
聖剣では力があり過ぎて船を余波で沈めてしまう恐れがある。
そのためエクラが持っているのは両刃の普通の剣だ。
しかし。刃は潰れていない。場合によっては相手を殺すことがあるのだ。
エクラだけでなく、ヘレネやアリシアも神器以外の普通の武器を持ってきている。
人影を数人現れる。
「輝け。フラッシュ」
右手を天に向ける。
その手から閃光が走る。神威を使う術の一つフラッシュ。
スタングレネードのような閃光と一時的なライトの機能もある。
「うわぁ!?」
「くっ、」
襲撃者は腕で目を庇う。
エクラは駆け出す。
襲撃者の腹に肘打ちを喰らわせていく。
一瞬の攻防。
エクラはその場から跳躍。
彼がいた場所に他から登ってきた者の剣が振るわれる。
周囲でも戦闘が始まっていた。
船上はまさに戦場。
生徒と海賊の刃が交差し、音を鳴らす。
「はぁっ!!」
レティスの左凪ぎで海賊の幾人かが吹き飛び、海へと落とされる。
神威を筋力増強、身体能力に使用することで通常の人が引き出すことのできない力を引き出すことができる。
「は」
「えい!」
ヘレネ、アリシアもレティスと同じように強化した体で海賊達を倒していく。
「やりますね。ヘレネ」
「当然よ」
胸を張る彼女。
アリシアがヘレネの右側に槍を突く。
海賊の一人の腹に突き刺さっていた。
「油断は禁物ですわ」
「あ、ありがとう」
突然の出来事、油断していた自分への羞恥にヘレネは答えるのに歯切れ悪くなった。
「アリシア!伏せて!?」
「え」
今度は突然ヘレネがアリシアを押し倒すように飛び掛かった。
二人で倒れる。
直後二人は頭上を巨大ではないが強い神威の一撃が通り過ぎていったのを感じた。
「なんてことをするのです!ロックレス様!」
アリシアの声には怒りがあった。
「いや。すまない。未来の嫁の危機に居ても立ってもいられなくてね」
あくびれることもないトマズ・ロックレスは言う。その手には一振りの武器が。
柄から鍔までは普通の剣と変わらない。だが、そこからある刃はこれまでアリシア、ヘレネが見てきたものとは違っていた。
刃はまるで鉄線、細い糸で数珠繋ぎのように付いていた。その姿は鞭に幾つもの刃が付いたものだと想像しやすい。
「それが、あなたの神器ですか。ロックレス様」
「そう。これが私の神器、神蛇剣 リヴァイアサンだ」
刃の先には海賊達二人を貫通して血を吐き、苦しんでいた。
「止めなさい!もう勝負はついています」
「甘いよ。アリシア。こいつらは悪党だ。悪党に与えるのは死、あるのみだ」
何でもないという感じにトマズはリヴァイアサンを引く、刃は抜け、海賊達は倒れる。
「さて、アリシア。そんな甘い考えでは、この先など無理だ。お前は優し過ぎる」
「!」
彼の言葉はアリシアの心に深く刺さる。
「あなた。自分がなにを言っているのか。解って言っているの」
怒気丸出しになったヘレネがアリシアに代わってトマズを避難する。
「解っているとも、未来の妻がここで死ぬなど見たくもない現実を回避するために言ってやっているのだ。いわば未来の夫の優しさだと言ってほしいね」
高らかに笑った後、トマズは戦場へと戻った。
ヘレネ、アリシアも戦闘に復帰した。
しかし。アリシアだけは、戦っていく中で自問自答していた。
自分は、甘いのか、と