出港
文章に多少の不安がありますので今後変更していくつもりでいます。ご意見、ご感想がありますと、大変に嬉しいです。
そして、物語を楽しんでいただけたら幸いです。
「うーん!」
ヘレネは大きく両手を伸ばして景色を見る。
停泊している帆船が目に入る。
そして積み荷を運ぶ男達が右往左往と動いている。
現在彼女達は学院に繋がる港町アクアに来ていた。
そして現在、アリシアの商会の貿易船に乗船しているのだった。
「まったく。もう少し淑女らしくできなくて」
「いいじゃない!アリシアも本当のところ久しぶりで楽しいくせに」
「な、何言ってらっしゃるの!?このシーランド商会の長女がそんなこと考えていると思いまして」
言い繕う姿にヘレネは維持悪い笑みを浮かべる。
「なんですか。その笑みは」
「べっつにー」
「ヘレネ!!」
「楽しそうだね」
「お兄様!!」
ヘレネはアリシアとの会話を中断し、兄のもとへ歩み寄る。
「見苦しいところを」
空かさず謝罪するアリシア。
「いや。これからの任務を思えば、いい気分転換になるよ。それにこれから共に任務を果たす身だ。上下関係は無しだよ」
「恐縮です」
「お兄様。一つ聞いてもよろしいでしょうか」
「なんだい?」
「どうして。あの人がいるんですか」
彼女が指差すその先
「これと、これ、・・後これか。いっぱいあるな。皆の荷物・・・」
自分達がこの日のために荷造りをしたバックを整理するコクトの姿があった。
「あれは、例の・・・・。エクラさん。どうしてあのような方が」
アリシアはコクトを見て不快の表情を浮かべる。
「彼には、私や皆の荷物運びをね。彼。単位が足らないって言ってたからその見返りにね」
エクラは、苦笑を浮かべて説明する。
改めてヘレネはコクトに視線を移す。
皆の荷物を船内へと運んでいく。
コクト・カミシロ。
周囲からは逃げてばかりの臆病者と呼ばれる学院の問題生徒。
だが、実体は、自分おろか兄であるエクラをも上回る実力を持つ自分の知る限り最強の継承者。
しかし。今の彼からはそんな感じはまったく感じさせない。
どこにでもいそうなパシリか、召使だ。
「違和感が半端ないわ」
あんな姿を見せられた後になると彼のあのような姿には違和感しか感じられない。
あっちの姿は、カッコ良かった。
今まで下としか見ていなかった彼に対してヘレネは、あの時の彼に魅いられてしまった。
何を考えているのよ!私は!
顔を全力に振り、自分の感情を払おうとする。
ヘレネのそんな様子を見ていたエクラは。
これは、脈ありかも。と思った。
そして、今だに自分達の荷物に悪戦苦闘するコクトを見る。
でも。鈍感だからな。義兄上は。
どんな敵にも動じず、百戦錬磨の腕を持つ彼にも、ダメな部分はあった。
ここは、私が根回しをしよう。
人の事が言えない彼は、義兄のために思案する。
そんな彼らの一時は終わり。船は滞りなく港を出港した。
「一通り終えました。エクラ〝様〟」
コクトはエクラに荷物を整理したことを伝えた。
「ありがとう。コクト〝君〟。それじゃあ会議の場にいこうか」
両者の顔は、維持悪い笑みだ。
「義兄上。板についてますよ」
「いえいえ。エクラ様に誉められるなど光栄の極みですよ」
会釈するコクト。
「お兄様。何やっているのですか」
ヘレネは二人のわざとらしいやり取りにため息を吐く。
「これはヘレネ様。お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」
「なんか。イライラするんだけど」
「これは、失礼」
「いいわ。こういう時は、普通に話しましょう」
「ほう?何故でしょうか」
「わ、私が、構わないと言ったのよ!文句あるの」
「そうですか。じゃあ。遠慮なく」
ヘレネの知らないコクトの口調で話し出す。
「しかし。エクラ。俺がいなくてもお前達がいれば問題なかっただろ」
この船を護衛するにあたり、メンバーのほとんどがランキング戦上位者なのだ。
そして、実戦経験も学院では最多。
一国だって滅ぼせるだろうな。
継承者は、その類稀なる強大な力から各国のパワーバランスの要になっている。そのため各国は国家プロジェクトのレベルで継承者の発掘を行っている。
そして、大陸中の継承者の少年少女は学院に集められる。学院は、教育とともに継承者達を保護、管理をする立場にもある。
継承者として学院を卒業した生徒は出身地である国を中心に五大大陸に派遣されてゆく。これは、国々のパワーバランスを整えるためにつくられた制度によるものだ。
継承者は、継承者を管理する学院のもとで行動する。
「いえ。保険は多い方がいいです。今回の件、どうもきな臭く感じているのです」
「確かに魚臭いな。夕食。刺身出るかな?」
「ふざけないでください」
「へいへい。だが、お前の勘は当たるからな。お前もヘレネ様も気をつけな」
真剣な表情で声を掛けるコクト。
その姿はヘレネが廃墟でみた力強さと畏れを抱かせるものだった。
それを見た二人にも緊張が走る。
走行してる間に船内の食事をする間に着いた。
室内にはすでに何名かの生徒が着ていた。
「おい!コクト」
「ヒノ。どっから潜り込んできたんだ?」
「バカ野郎。俺も指名されたんだよ」
「へえ」
「反応薄いな」
ヒノはそう言って席をコクトに譲る。
「で、お前はどうなんだよ」
「エクラ様に感謝だよ。召使するだけで単位がもらえるなんて奇跡だよ」
「幸せそうに言われると返答に困るんだが」
コクトの反応に引き気味なるヒノ。
「俺は、そういう男さ」
「コクト。カッコ良く言う言葉じゃあねぇぞ」
「皆集まったわね」
レティス・ローネテンスが登場した。
「それでは、今後についてミーティングを行うわ」
会議の間
テーブルに敷かれた海図をレティスは指差していく。
「この船が三十分くらいに経った頃に例の海賊が出没する海域になるわ」
「レティスさん。これからは」
「交代制で周囲の警戒をするわ」
エクラの問いにレティスは今後の方針を説明する。
「アリシアさんはどうでしょうか」
「問題ありませんわ」
その時。挙手する者がいた。
「よろしいでしょうか?ローネテンス様」
茶色髪が特徴の男子生徒。
「あなたは?」
「申し遅れました。私は、トマズ・ロックレスと申します」