義弟からの依頼
久しぶりの投稿です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
ご意見、ご感想があれば嬉しいです。
「で、どこまで行くんだ」
「何。もう少し先さ」
街中をぐったりとした少年とハキハキとした少年が歩く。
ぐったりしているのがコクト。
ハキハキと歩を進めるのがヒノ。
「どうして今日なんだ」
「今日ぐらいしか余裕がなかったんだよ」
今二人は街で評判の食堂に向かっていた。
「それに、今日ぐらい腹一杯食える日はないからな」
「人の金だと思って」
ラックスの起こした事件の時にコクトはヒノや現場から逃げ出した(ことになっている)でこっぴどく周囲から絞られたのだ。そしてヒノからその罰として飯を奢ることになっていたのだ。
「自重してほしいな」
げんなりとしたコクト。
「逃げたお前が悪い」
容赦なく言葉をかけるヒノ。
そうこうしている間に目的の見せに着く。
「着いたぜ。ここだ」
「ここって」
ヒノが指差した店にコクトは心当たりがあった。
「そう。食堂ナイアガラ」
「シーランド嬢の家が営んでいる」
「なんだ。やけに詳しいな。まさかお前。アリシア様推しか」
ヒノにげんこつを叩き込む。
何を言い出すかと思えば。
「確かに。アリシア様は、綺麗だよ。だが、そういう気はさらさらない」
「ま。そういうことにしておくさ」
ヒノはコクトの返答を聞き流した。
「ま。お前の色恋なんざほっといて飯にしようぜ」
「まったく」
しかし。二人の願いは潰えることになる。
「しかし。なんだあの人だかりは」
よく見ると食堂には多くの人だかりができていた。
「何々。本日の営業は休止させていただきます。御迷惑をお掛けしてしまうことをお詫び申し上げます」
ドアには一枚の紙が貼られていた。
「嘘だろ!」
ヒノがこの世の終わりだ、といった感じに絶望している。
「食えないのか。楽しみにしてたんだがな。海鮮丼」
コクトもコクトで残念に思った。
この食堂ナイアガラは、アリシア・シーランドの実家シーランド商会が最も専門にする漁業によって仕入れられる新鮮な魚介類を使った料理が人気を博していたのだ。
コクトは特に海鮮丼が好物であったのだ。
「営業の休止って。ただ事じゃないよな」
「やっぱり。アレが関係しているのか」
「アレって、最近になって騒ぎになっている海賊か」
海賊。
それは、最近になって港町アクア周辺に出現した海の盗賊達だ。
神出鬼没で、王国でも手を焼いている。彼らは、貿易船、はたまた漁船にも攻撃を仕掛け略奪行為をしている。
「ナイアガラは、ダメか。どうする?」
「仕方ない。別の所に行こう」
そこに
「皆さん。家の店に来ませんでしょうか」
恭しくきた一人の男。身なりからして商人だ。
「ロックレス商会の若旦那だ」
人だかりの中の一人がその男の名を口にした。
その男の出現にざわつく。
ロックレス商会。
シーランド商会の対をなす商会で、この街は二つの商会が中心になって経済が成り立っているといえるほどだ。
若旦那と呼ばれた初対面な印象は商売人らしいとコクトは感じた。
「シーランド商会の食堂を目当てに来ている方が多いでしょうが。どうでしょう?家の食堂でお食事でも、丁度、今が旬の魚介類を仕入れることができましたので」
そのことを聞いた人達がざわざわし始める。
「大丈夫だったんですか」
コクトは若旦那と呼ばれてた男に問う。
「海賊のことですね。家の被害を受けていましたが、運よく今回は取り寄せることに成功したのですよ」
良かったーという彼の気持ちが伝わってきそうだ。
それを聞いた周囲の人達はロック商会の経営する食堂へと足を運んでいく。
「おい。コクト。俺達も入ろうぜ」
ヒノに引っ張られままコクトも食堂へと入っていった。
「ああ!!食った!食った!」
腹を叩くヒノ。
対するコクトは財布の中身を何度も見直している。
「しかし。高かったな。料理」
ヒノは今日食べた料理の感想を口にした。
海賊騒ぎで魚介類の取引が難しくなり、値段が高騰していたのだ。
「人の金だと思って」
「悪い。流石に食いすぎた」
ヒノは手を前に合わせて謝る。
「しかし。どうだった?」
「味の事か。まあ。ナイアガラの方がいいな」
「そうだよな」
コクトも思った。ロック商会の食堂ダクリュウは今が旬の魚介類を使用してはいたが、料理の味、といえばシーランド商会の食堂と比べると天と地の差だった。旬の素材が味を補っているといった感じだ。
「早く。開いてくれないかな」
ヒノは、本気でそう思っているような声をあげる。
「そうだな」
コクトは、そう一言返すだけにした。
それ以外に返す言葉が見つけられなかったのだ。
「それで、食べてきた、と」
「そ」
練習用の剣が打ち合わせられる。
「味はどうでしたか」
「天と地」
コクトは話ながらエクラの剣を片手に持つ剣でいなしていく。
エクラも話しをしながらコクトに剣を振り続ける。
「ロックレス商会といえば」
「?」
「その息子は継承者ですよ」
受ける。
「へえ。継承者・・ね」
受け流す。
「義兄上。話しをするのか。私の相手をするのか。どっちかにしてください!」
怒声ととも振り下ろされる一撃。
「短気だな。エクラ!」
突然コクトが動いた。
さっきまでとは違う力のこもった左切り上げ。
エクラは上へと剣を弾き上げられた。
「う」
「それに」
がら空きとなった腹に柄頭を叩き込む。
エクラがうめき声を上げる。
「相手のペースに乗せられると自分のリズムで戦えなくなるぞ」
尻餅をついたエクラの首筋に切っ先を向けた。
「相変わらずですね」
苦笑を浮かべるエクラ。
こんな状況でも一本取れないなんて。
打てるという実感があったためにショックが少なからずある。
話ながらでも自分の相手をする自分の兄弟子。
自分の目標。
まだまだ、遠いようだ。
「それで。お前さっきから何が言いたいんだ。義弟よ。今日の稽古はついでだろ。本題を話さないか」
「はい。今度、シーランド嬢のご実家。つまり、シーランド商会から我々。生徒会議に貿易船の護衛を依頼してきたのです」
「見えてきたぞ。その船に俺も一緒に行けっていいたいんだな」
「はい。勝手なことですが。お願いできるでしょうか」
護衛。
義弟からの依頼は最近になって騒ぎになっている海賊騒ぎのことだろう。
「いいぜ。食堂ナイアガラの海鮮丼が食えるならな」
「そうですね。私も好きですよ」
義兄の理由に義弟は苦笑を浮かべる。
「それで、俺は学院じゃあ。邪魔者になっている。どうやって同行させるんだ?」
「それは・・・」
ここに来て、エクラは言い淀んだ。
「?」
「義兄上。召し使いになる気はありますか?」
義弟の言葉にコクトは、天を仰ぎ。
「船がざわつくぞ。違う意味で」
と言った。