義兄上
加筆しました。
自分でも、この作品は不安な部分が多いので質問、感想があると嬉しいです。
ラックス・フォークライトとその協力者による学園乗っ取り事件はエクラ達の活躍によって終結した。
ラックスは拘束され、尋問を受けることになり、ラックスの父も今回の事件の首謀者、主犯として現在、ラックスの祖国、ギーシャ国の首相の令、エクラの父の指示のもとで拘束、及び尋問が行われて事件の綿密な調査が行われる。
「という感じです」
エクラは目の前で木刀を振る人物に聞かせた。
相手は無反応。無心になって木刀を振っている。
「で、聞いているんですか」
さすがのエクラも問い掛けてしまった。
一歩間違えれば本当に聞いていない場合があるからだ。
「聞いているよ。俺の耳は飾りじゃないんだから」
振るのを止めエクラの方へ顔を向ける。
「しかし。いいのか。こんな問題のある生徒と一緒にいて」
「そんなことで揺らぐような存在ではありませんよ。私達は」
笑顔を見せるエクラ。
「たく。やれやれだな」
苦笑してしまう。はっきり言われてしまい自分の心配が馬鹿馬鹿しいと思ったからだ。
「それをあなたが言いますか。コクト。いいえ。義兄上」
言い直す。
義兄上。
親しみの籠った声でエクラはそう呼んだ。
そう呼ばれた義兄上こと、コクトはばつの悪そうな表情を浮かべる。
「お前なあ。ここは学園だぞ」
「誰もいませんよ。ここには」
問題ありません。と笑顔を浮かべた。
「しかし。久しぶりですよ。義兄上と呼ぶのは」
「久しぶりだな。確かに」
二人で懐かしむ。
「でもよ。なんか変だよな」
「何がですか?」
「一国の王子から血の繋がっていない男が「義兄上」って言われるのがさ」
「確かにそうですね」
それに関してはエクラも苦笑を禁じ得なかった。
第三者から見れば変な状況だ。何故ならエクラには、妹のヘレネはいるが兄はいないのだから。
「あなたもそう思いませんか。ヘレネ様」
「!」
コクトはおもむろにここにはいないはずの少女の名を口にした。
そして、物陰から呼ばれた彼女。ヘレネは驚いた表情を隠しきれないまま現れた。
「お兄様。今のどういうことですか」
「ヘレネ。私は、コソコソと盗み聞きをする女の子だったなんて信じられませんでしたよ」
「話題を反らさないで下さい!どうしてお兄様が、学園の問題児をあんな呼び方をしているのですか」
あんな呼び方とは、義兄上のことだろう。
「これはどういうことですか?どうしてヘレネが義兄上のことを」
「この前の時に正体を見られてな」
ばつの悪い表情をするコクト。
それを聞いてエクラからはため息がこぼれた。
「ヘレネ。私が、神滅一双流を学ぶために師匠のいる所にいた事を覚えているかい」
それにヘレネは頷く。
エクラは自分が剣術を学ぶためにギーシャ国を一時期師匠のいる所に行っていた。
「その時に、彼、つまり義兄上もいたんだよ」
ヘレネはそれを聞いてより驚いた。
お兄様と同じ師匠の元にいた!じゃあ。この人もお兄様と同じ剣術を。それならこの前の戦いも納得がいく。
「私がそこに行った時にはすでに剣術を習っていたんだよ。言うなれば、私は二番弟子だったのさ」
ますます驚かされる。自分が慕う兄よりも前から剣術を習っていた事に。
「そこでまあ。色々とあって。今に至っているんだよ」
「懐かしいな」
コクトはエクラの説明を聞きながら懐かしんでいる。それがヘレネに真実身を感じさせた。
「で、でしたら。どうして。あなたが、継承しなかったのですか。お兄様の持っているアレを」
アレとは、エクラ達が剣術を継承するのと同時に手渡された物を示す。
「・・・・・ま。その時も色々あったのさ」
間を開けてコクトが答える。その時ヘレネが見たコクトの表情は優れなかった。
「それに。あれほどの実力があるのでしたら。どうして、学園では「逃げ足なんて呼ばれるような事をしているのか、ですね」
「敬語なんていいです。なんだか違和感があります」
「そうですか。では、お言葉にあまえて・・。簡単に言えば。全ても曝け出さないのも実力の一つさ」
「どういう意味ですか」
「前も言ったが、俺は、剣であり、影だ。君や君のお兄さんを守るために戦っている。それは、君達が手が出せない相手から守るみたいに」
ヘレネは思い出す。ラックス、そしてダイル達の事。
「そいつらから守るために。俺は道化になった」
逃げ足。臆病。そう言われる事を殻として影から守る。それが、コクト・ハクオウ。懐刀と呼ばれる彼の正体だった。
「納得がいかないか」
ヘレネは彼の言っていることがいまだに信じ切れていなかった。
「まあ。いいさ。君がお兄様と呼び、慕っている彼から、義兄上と呼ばせている男の事を信用しろというほうが難しい。だが、」
言葉を切り、ヘレネを真剣な表情でコクトは向き合った。
この時ヘレネはコクトと目が合った。
トクン!
この瞬間。彼女の心は弾んだ。そして、何故だか鼓動が早く弾み始めた。
「これだけは、言わせてほしい。俺は、君や君のお兄さん。そして、その周囲の人達を守る。俺のできる限りを尽くして」
頬が熱い!ヘレネはこの時自分の胸の内に起こった変化に気づくことはなかった。そして、それに気づくのはもう少し後になる。
「じゃあな。エクラ。ヘレネ様には説明しておいてくれ」
そう言ってコクトはその場を離れていった。
その後ろ姿には、哀愁が漂っていた。
(今の感じは一体)
ヘレネは彼と対峙した時に感じた胸の弾みに戸惑う。
そして、この邂逅が彼らを巻き込んでいくことになる。
これは、序章の始まる前に過ぎないのだから。