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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
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第8話:救出?

「お待たせ」


 ギルドに着くと入口の前でノイエが待っていた。


「早かったわね。何をしてきたのか……は聞かないわ」


「別に何かしたわけじゃないよ。アンコって子がどういう子か見てきただけ」


「そう」


 ノイエは確かめるように俺の眼を覗き込んだが嘘なんてついてないので、覗き込まれた俺が少し照れるだけだった。

 と言っても身長差がすごいので、覗き込んでると言っても絵ヅラはあれなんだけどさ。


「それで、ちょっと話があるんだけど。人に聞かれたくないから、外行こう」


 ノイエを連れて町外れに行く。当然のように税を取られたが気にしない。

 万が一でも聞かれたらの方がよっぽど厄介だ。


 そこで計画を打ち明けた。


「今夜、アンコを誘拐しようと思う。町には居られなくなると思うから、町を出る荷物を持って今夜ここに集合しよう」


「……何かするとは思ってたけど、あなた本気?」


 町を捨てる発言に驚いたのか、正気を疑われた。


「本気本気、ちょっと見たけど、あそこには居させたくない」


 だって腐臭がする。

 良く思っている人――できれば仲良くしたい人の友人があんな場所に放りこまれてるなんて、耐え難い。


 本当は犯罪者になる必要なんてないけど。

 町を捨てる必要だって、ノイエとその獣人の子に捨てさせる必要だってない。


 ジジイの所から金借りてきて、それでその金で買えば問題ないんだけど。

 でも、ほら、やっぱ気に入らないことってあるじゃん。


「私は――。いいわ、私もやる。犯罪者の烙印よりもアンコの方が大事だわ。あなたを巻き込むのは心苦しいけど」


「気にしないで大丈夫。俺が言い出したことだし」


 俺には知り合いなんて、もうノイエ位しかいないから誰かのメンツを気にする必要もないし。

 この町も軽く寄っただけで興味はない。まあ、それはちょっと嘘だけど。


「本当にやるのね?」


「やるよ」


「なんで私よりあなたの方が決意が固いのよ……」


 なんでだろう。失うものが軽いからかな。







 ノイエの了解も得て、一時的に別れた俺は町の外へ出て、魔物を狩った。

 食べるためのもの、というか差し入れの為の食料が欲しかったのだ。

 ノイエの方も町を出るなら、荷造りとかで色々あるらしい。


 そして、ささっと森へ行き魔物を狩った俺は、ここ数日入れなかった風呂を作り、堪能した。

 そういえばノイエにはもう、普通とは違うレベルでの魔法が使えるって打ち明けたから、ノイエがいる時に風呂入ってもいいのか。

 流石にあのサイズの子にやたらと欲情はしないけど、シチュエーションにはドキドキする。


「え、いや。一緒には入らないよ、壁だって土魔法で作るし。っていうかOKしてくれないでしょ」


 独り言がつい出てしまう。誰に言い訳しているんだか。


 食料も手に入れて、お風呂も入ったし、後は夜を待つだけだ。

 そういや、服も欲しいから買っておこう。

 ノイエに貧相って言われたし。別に気にしてないけど。





 そして夜になり、待ち合わせ場所に行くと、ノイエがすでに待っていた。


「遅いわ」


 時計の無い世界では待ち合わせひとつですら大変だ。

 この辺もなんか考えておかないと。


「それでどうするつもり、壁を壊して強引に連れてくの? あの光の魔法じゃ壁は壊せないと思うけど」


 光じゃなくて雷なんだけどね。


「普通に土魔法でなんとかするよ。騒がれたら困るし」


「騒がれないのは無理でしょ」


 ところがどっこい無理じゃないんだな。

 まあ、この辺は見ててよ。なんとかするから。




 ノイエと合流してからもさらに時間を潰し、大抵の人間が寝静まる時間になった頃、いよいよ決行する為に奴隷商館に来た。


「まずは」


 入口の扉の隙間から銀貨を20枚すべり込ませる。

 純粋な泥棒になるのは嫌だからね。強制的に元の値段で買わせてもらうだけだよ。

 1枚は……いや、銀2枚は迷惑料だ。とっとけゴミ野郎。


「なにしたの?」


 暗いこともありノイエには見えていなかったようだ。

 内緒。と言っておき、アンコの居る部屋のすぐ裏側まで場所を移動する。


「では、行きます。土竜の気持ちで大地を「静かに」……はい」


 詠唱キャンセルとは、やりこんでるねノイエさん。ちょっとテンション下がったよ。



 気を取り直して、魔法で地面に穴を空ける。

 開けるというより空間を作りつつ掻き分けていくような感じだ。


 深く掘ったら穴の中に入り、入口に土で膜を作る。これでもう、誰にも見られない。


 あとは音を出さないように、上の土が崩れないように固めながら時間を掛けて進む。

 ライトの魔法も使っているので、暗さによる怖さもない。


 ノイエがすごく何かを言いたそうにしているが、彼女は静かにすることを選択した。

 きっと魔法の規模に驚いているのだろう。


 ソナーで調べつつアンコの真下までたどり着くと、左右を確認する。土壁しかない。

 そして素早く穴を空け、アンコを静かに落下させ、受け止め「ぎゃんっ!」――っ失敗!


「!!!!!!」「?????」


 大騒ぎになってしまった。

 ノイエさん、何、その眼。その咎めるような眼は。





 素早く穴を埋めつつ、素早くアンコを運び出したあとは、素早く町の外まで出た。


「ふいー。もうここまで来れば安心だな」


「あなたさっき、なにか言ってなかった? 騒ぎがどうとか」


 あーあー聞こえない聞こえない。

 いいじゃん、無事回収できたんだから。このアンコちゃん。

 ほら、うーうー言ってるよ。


「う゛ー! う゛ー!」


 ね?


「アンコ、静かにして。私だから、大丈夫だから」


「と、あーごめん。俺ちょっと後始末してくる」


「あっ、ちょっと!」


 ノイエの返事も待たずに、奴隷商館まで戻った俺は、身を隠し、騒ぎが収まるのを確認しつつ壁に手を当てる。

 そして魔法を使う。

 魔力を通し、壁の内側に充満させると範囲指定で魔法を使う。


 今回使うのは回復の大魔法『エーデルワイス』。

 命名は適当。全ては語感。それっぽいのを付けた。


 通常のヒールとかと違う点は、自然治癒が終わったような怪我でも元に戻るということ。

 火傷痕が消えたり、欠損が治るということだ。少し大きめの怪我が治ったあとはすごくお腹が減る欠点はあるけど微々たるものだ。

 はっきり言って、俺の使える魔法の中でも最高傑作だと思う。


 なので、壁をちょろっと壊してから昼間に取った肉を放り込む。そして壁を直す。


「!!!」「???」「!!!???」


 また大騒ぎになってしまった。

 流石にまだ寝ては居なかったようだ。



 でも、これで今回の奪還作戦は終わり。

 もうここには用もないので、さっさとノイエとあの子の所へ戻ろう。

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