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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
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第7話:奴隷商館

「かーーっ!」


 帰りの道中、俺は冷静になった。

 冷静になった俺は身悶えていた。


 あああ、何を俺は一人で盛り上がっていたんだ。

 テンションが上がってしまったんだ。覚悟を決めたってなんだよ。


 ぐうぅぅ。


 大体、何魔法の呪文とか唱えちゃってんの。

 いや、人が居るときは必要だと思ってやってるんだけど。


 ちょっとポエムっぽい魔法とか唱えちゃって。そんな必要まったくないのに。

 趣味な部分がポロリしてしまった。

 引きこもり生活の弊害だ。

 死ぬほど恥ずかしい。




 しばらく悶えたあと、ちらっと横目でノイエを見ると目が合った。


「終わった? 話を戻していい?」


「あ、はい」


 悶えて葛藤してたのがバレていた。それでいて放置してくれていたのだ。

 冷静になったはずの俺はもっと冷静になった。つまりどうでも良くなった。



「アンコは銀貨19枚で売られているはずよ。私は今、銀貨4枚あるから。今回のと合わせて銀6枚と銅貨3枚になるわね」


 どうなるかと思ったが、ノイエは俺から借りることにしたようだ。

 踏み倒すこともないだろう。

 ソナーによる索敵とか、見えない位置からの狙撃とか見てるし。


「俺は銀貨30枚位あるから余裕でなんとかなるな」


「なんでそんなにあるのよ」


「ジジイの遺産」


 死んだ確証はないのに既に死んだ扱いになっているジジイ。すまんな。







 町に戻った俺たちはすぐさまクエストの報告をし、魔物の肉も売り払った。

 肉売る係とクエスト報告する係で別れようかと思ったが、どっちも俺一人じゃできなかったので二人でやった。


 そして奴隷商館。

 何やら壁の厚そうな建物がそびえ立つ。窓の数は少ない。脱走とか警戒してるのだろうか。

 商館の前に立つと謎のプレッシャーを感じる。何故か尻込みしてしまう。


 しかしノイエは既に何回か来ているのか。躊躇なく中へ入っていく。待って、置いていかないで。


「ようこそ、隷館へ今回はどのような奴隷をお探しで?」


 中に入ると受付の男が居た。

 受付がいるとかすげーな、待ってる間仕事何してるんだろ。四六時中立ってんのかな。


 そんな俺の感想も待っていられないといったように、ノイエは受付の男に詰め寄る。


「アンコを出して、犬の獣人の子よ」


 今、さらっと犬の獣人って言ってた。犬って言った。その情報初出なんだけど。


「はい、かしこまりました。では銀貨50枚を用意してお待ちください」


 あれ? 銀19枚じゃないの? と聞こうとノイエを見るとノイエは激怒していた。怖い。


「なんでよ! 19枚でしょ? つい先日来た時に聞いたのよ。おかしいでしょ!!」


「いえ、50枚です。お聞き間違いではないでしょうか?」


「ふざけないでよ! 確かに19枚だったわよ!」


「ノイエさん、落ち着いて」


 マジ落ち着いて。怖い。


 荒れ狂うノイエをなだめつつ館から連れ出す。



 苛立たしげに奴隷商館の壁に蹴りを入れるノイエ。自分が怒られてるわけじゃないのにすごく怖い。

 ここに来てから大体こわい。

 120cmの少女に怯える俺、実年齢26歳。かっこわるい。


「クソっ!」


 クソって言った!!


 こっわ!

 女性のキレた声ってなんでこんなに怖いんだろ。


 普段割と丁寧な言葉遣いのはずのノイエの暴言に大興奮する俺、26歳。


「それでどうするの?」


「本当に19枚だったのよ……。足元を見て、悔しい……」


 それは疑ってない。

 本当に19枚だったんだけど、ノイエの剣幕を見て値段を上げても絶対売れると思ったのだろう。

 他の人に50枚で売れたら万々歳、時間はかかるだろうけどこの少女は絶対買いに来る。そう思って、値段を引き上げたのだ。

 ひどいことをしているけど悪いことはしていない。商売だもの。


 でも、気に食わない。

 ノイエに肩入れしてるのはわかってるけど、こういうやり方は俺も好きじゃない。

 だってどう考えたって悪意だ。こんなの。

 昔から思っていたけど、仕事だからセーフみたいな理屈が納得できなかった。



 足りなかったらジジイの所から持ってこようと思ってたけど、今回は悪い事させてもらいます。

 実際問題、商人の方は悪くないのよ。隙を見せたこっちが悪い。

 でも嫌い。こういう商売の仕方大っきらい。


「ノイエちょっとギルドで待ってて。俺やること出来た」


「何をするつもり? いくらあっちが悪くても犯罪をしたら捕まるわよ」


「平気、力で恐喝とかするわけじゃないから」


「そう? 危ないことはしないでね」


 これは……!?

 間違いなくノイエの中で俺の株が上がっている。俺の身を案じてくれている。

 好意的に思われているとわかると俺もやる気が出る。


 そもそも俺、善人じゃなかったわ。




 ノイエと別れた後、俺はもう一度奴隷商館に戻ってきた。


「すみません、アンコって犬の子を見たいんですけど。さっき来た子の知り合いなのは知ってるけど、俺は見たことないので見せてもらえませんか」


「…………ええ、どうぞ。こちらへ」


 受付の男は訝しんでいたが、特に断られることもなく案内してくれた。


 かび臭い館の中を歩く。

 窓も少なかったし換気が効いてない。


 手前の方は割と清潔な感じで、見た目も良い人が多く、奥に行くたびグレードが下がる感じだった。

 共通しているのは全員、金属の首輪をしていることと、肩に焼印があること。痛そう。

 あと、男女で部屋が違うようだ。


 一番奥の部屋には、欠損のある人とか、こりゃアカンって言いたくなるような人が結構居た。

 魔物の解体とかで慣れてなかったら吐いていたかもしれない。慣れていたって吐きそうだった。


 その中に一人、人でありながら垂れた耳と尻尾のある女の子が居た。

 あれが10歳? どう見ても15歳位の少女だ。

 でも、他に獣人とやらは居ない。獣人は成長がはやいのだろうか。


 一応欠損等はないが、獣人だから最下層に入れられているんだろう。


「あそこにいるのが例の商品です」


「はい、分かりました。大丈夫です、ありがとうございました」


 さっさとここから退散したかったので、礼を言い、銀貨を1枚握らせた。


「チップです」


「チップ?」


 チップと言いながら本当は犯罪予告のつもりだった。

 人を何の躊躇もなく商品呼ばわりしやがって。


 俺は俺の倫理観で動くと言った。それを言い訳にするつもりはない。

 ここが自分の場所じゃないから、犯罪を犯す抵抗が薄い自覚もある。


 けど、くたばれ。みんなくたばれ。


 男が何か言う前に奴隷商館からすばやく退散すると、ギルドで待っているノイエの元へ向かった。

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