第6話:クエストの続き
3日後。
戦果はウサギモドキ5匹の鳥1匹に増えていた。
目的の魔物も一度見つけたが、近づく前に逃げられてしまった。
でも俺も視認したので、もういつでも探すことが出来る。
「ダメね」
「そっすね」
しかしクエストを始めてすでに4日目。
俺もノイエもストレスが溜まってきた。昼間はそこまで気にならないけど夜がキツい。
日暮れから日の出までがすごく長くて退屈。
魔法の練習もこちらの世界に来てから10年以上やってるから、今更気合を入れてやることもないし。
それに干し芋、飽きた。
と、いうか俺よりもノイエがやばい。昨日くらいから明らかに焦っている。
何かお金が欲しいのは聞いたけど、何を急いでいるんだろう。
ゲームの発売日、なんてものがこっちの世界にあるとは思えないし。どうしよう、魔力のこと打ち明けて俺がクエストクリアしようかな。なんて思ったりもする。
けど、それでお金を受け取ってくれるだろうか?
まだまだ他人な俺たちがお金のやり取りなんて、まだ早いというか。
そんな事をぐるぐる考えていたら、ストレスからか愚痴をこぼしたノイエから情報を得ることが出来た。
「どうしよう……もう4日よ、急がないと……アンコが待っているのに…………」
「アンコ?」
知らない名前が聞こえたので、つい聞き返す。
アンコが人の名前ってのもおかしいけど。ここは異世界だから普通なのかもしれない。
「ああ、口に出てた? 大丈夫、気にしないで」
何も言ってないのに大丈夫とか怪しすぎる。
「いや、今ので気にしないのは無理でしょ。そもそも、なんで急いでんの?」
それからノイエは気にしないで、とか大丈夫、とか女の子みたいなことを言っていたが、4日も一緒にいれば多少は信用されたようで、なんとか聞き出せた。
「奴隷堕ち?」
「そうよ。前に二人で組んでたパーティの子がちょっと高価なものを壊しちゃって借金作っちゃって、二人で頑張ったけど返しきれなくて奴隷になっちゃったのよ」
奴隷制度があることは知ってたけど。
自分で物を壊して借金作ったなら自業自得か。
ちょっと酷だけど、手伝うくらいならいいけど助けるのは違うかな。
俺の倫理観的に。
「あの子はまだ子供だったし、私がなんとかしようと思ったけどそうもいかなくてね。だから何処かに売られてしまう前に、買い戻してあげたいのよ」
「子供?」
ノイエの前のパーティって子供だったのか。
彼氏とかじゃなくてよかった。
そもそも子供って何歳くらいのだろう。
そんなキッズが冒険とかしないだろうし、10代半ばとか?
「ええ、10歳の獣人よ。私よりよっぽど動けるけど、それでもまだ子供なのよ。それに友達なの」
10歳!? それはダメだ。ダメダメ、10歳の子供に自業自得なんてものは、無い。
いや、誰が悪いかと言われればその子が悪いんだが。責任を負うには若すぎる。
責任を取るとしたら、保護者なノイエの方だ。
「そういうのなら話は別。隠すのはもう止めた。すぐ助けに行こう」
売れてしまったら取り返しがつかない。
隠し事してる場合でも無い。
もし、それで何か問題が起きたら逃げてしまおう。どうせ俺には戸籍なんてものはないし、この子しか俺の事を知らない。
「えっ何? 何を?」
「今からクエスト終わらせてすぐ戻ろう。時間が勿体無い」
「それができたら苦労しないわよ」
むしろクエストすらどうでもいい。
けど、ノイエがここまで頑張ったんだから終わらせていこう。
「足りなかったら、お金、貸すから。当然返してもらうけど。急いだ方がいい。売れたらまずい」
「有難いけど平気よ。獣人の子なんてそうそう売れないから」
「平気じゃない」
「…………そうね。平気じゃないわ」
そうそう売れないなんて判断はどこまで行っても多分でしかないし、今、この間もその10歳の子は身内も居ない場所で一人なわけだし。平気なんてわけがない。
手持ちの銀貨30枚で足りなかったらジジイのとこから引っ張ってこよう。
無駄遣いなんかじゃないからジジイも許してくれるはずだ。
「今から魔法を使うけど、できれば隠し事をしていた俺を悪く思わないで欲しい。できたら嫌われたくない」
「……よくわからないけど、わかったわ。安心して。嫌いになんてならないわ。手を貸してくれるのよね?」
頷くノイエ。心を決めたのだろう。
こっちも覚悟を決めた。
ジジイと今までのノイエを見る限り、俺は普通ではないだろうけど。ノイエには隠さない事にした。
俺は俺の利害よりも俺の倫理観で動く。
覚悟を決めたら、あとは簡単だ。
ソナーの魔法を使って森の中を探す。居た。
ソナーの範囲内には3匹。
直線距離でだいたい2km離れたところに1匹と、さらに離れた場所に2匹いる。
クエストは1匹狩ればクリアなので、近い1匹の方へ目指す。
「居た。ノイエ、行こう、こっちだ」
「えっ? えっっ??」
ノイエには何もわからなかったようだったけど、それでもついてきてくれた。
森の中の2kmは遠く感じたが、問題なく魔物のそばまで近づけた。おおよそ、200m。風向きは関係ない。
もう少し近づいてもいいけど、これ以上近づくと気づかれでもして、逃げられたら面倒くさい。
だから、ここから攻撃する。
「光の道を駆けろ雷『ライトロードハイボルテージ』」
魔法によって誘導される雷は木々をすり抜け、目標に命中した。
細い雷に撃たれた魔物は、バチッ――と音と共に体表を焦がしながら絶命した。
「終わった。回収して帰ろう」
「トーヤ、あなた……その、なんていうか、これ……」
本気の攻撃ではなかったけど、やはりノイエは驚いていた。
「隠しててごめんなさい」
この数日間。
焦っているのを知りながら、ずっと後ろで見てるだけでごめんなさい。
「……いいのよ、隠して当然だわ。それほどだもの。人に知られたら利用されるわ。私だってどうやって利用するか考えてしまってるもの。嫌な考えだわ」
「そう言っていただけると助かります」
嫌われなかったことで俺は安堵した。
それとノイエは誠実だな、となんか嬉しく思った。
「帰りましょう。クエストは終了よ」
そうだ、帰ろう。早くノイエの友達を助けに行こう。
魔法の口上を考えるの好き。
でも、後で読み返すと死にたくなる。