第5話:いざクエスト
荷物の確認。
ナイフ、干し芋、毛布代わりや簡易テントとかに使える厚手の布、着替え、他には……。
火、魔法でOK。水、魔法でOK。武器、魔法でOK。なんだ殆ど魔法で大丈夫じゃん。
ナイフみたいな技術が必要なものじゃなければ、その辺の砂鉄から魔法で金属用品も作れるし、鍋とかコップとか。
いや、ナイフも別に作れるけどね。砥ぐ必要はあるけど。
準備が終わり小さいサンドバッグみたいなカバンを背負いつつ、出発する。
行くわよと、スタスタ先を行くノエルに続き、町を出たところで気づいた。
馬車とかそういう乗り物はないらしい。徒歩かよ。いいけど。
ノエル先導で進む先は、俺が住んでた森とは別の方向に進むようだった。
確かに聞いた人相(?)の魔物は森の中で見たことないので、あの森にはいないタイプの魔物なんだろう。
「とこでろちょっと聞きたいんだけど」
歩く以外に特にやることも思いつかなかったので、気になっていたことを聞いてみる。
「なに?」
「どうして他のパーティに入らなかったん? 魔法が使えるなら引く手数多だと思うけど……あっ」
エルフだからって勝手に魔法使えると思ってた。悪いこと聞いちゃったかな。
「あっ、って何よ。魔法は確かに便利だけど、見ての通り身体が小さいから。大きい荷物は持てないし、歩幅も小さくて嫌がられるのよ」
だから何も知らなそうなあなたに目をつけたのよ。と聞いてないことまで教えてくれた。
割とはっきりと言う人だな。
「じゃあ、冒険者なんてしないで地に足つければいいじゃん」
なんだか余計な事を聞いてる気がする。
はっきり言うのは俺も同じか。
11年のブランクで、他人との距離のとり方がわからなくなってるのかも。
「人の社会にエルフや獣人はすんなり入れないの。今は危険な仕事を進んでしてるから、お目こぼししてもらっているだけ」
「そっか、世知辛いな」
やっぱり余計な事を聞いてしまった。
人種の違いでも差別なんてあるんだし、種族の違いはでかいか。
例えば、日本にサルが居たとしよう。
いや、日本には普通にサルいるけど。
仮にサルが道路を闊歩していたら差別してしまうのは当然だ。
サルがコンビニでカップラーメンにお湯を入れていたら差別してしまうのはしょうがない。
つまり、なんだ? 自分でも何を言っているのか全然わからない。
ノイエはサルじゃない。美少女だ。
それでいいじゃないか。
その後もだらだらと取り留めのない話を続けた。実りはなかったが楽しかった。
可愛い女の子と会話をして楽しくない男がいたらそいつはホモだ。
「そろそろ目的地につくわよ」
「了解」
町を出て、太陽っぽいのが沈む方向に歩き、丘を越えると森が見える。
ノイエ曰く、そこが目的地らしい。
ぶっちゃけ森多すぎ。開拓されきってないのがまるわかりだ。
森の端に到着するとカバンからナイフを取り出し脇に装備する。
実は今回、魔法を使わずにいこうかと思っている。
ノイエが殆どやるつもりらしいし、エルフってプライド高そうだから魔法を見せびらかして刺激したくなかったのだ。
ノイエもカバンから弓と取り出し弦を張っている。
ショートボウって奴かな。矢も何本か用意し、いつでもOKって感じだ。
すると、ノイエがなんらかの魔法を使った。
気配で魔法を使ったのはわかったが、何の魔法か分からなかったのでこっそりと魔力視を使う。
見えてきた色はオレンジから少しだけ夕日に近い色。炎寄りの属性だが俺の知らない魔法だ。
放出するわけではなく自分に作用をさせている。なんだろ?
「行くわよ、こちらでも注意してるけどあなたも周りに注意して」
「わかった」
マジモードっぽいノイエに続き、森を歩く。
木々の間隔は結構あるので歩くのには困らない。
が、だからと言って遠くまでは見えないので痕跡を探したり、耳などを使い探す必要がある。
痕跡と言っても、俺にはわからないのでもっぱらノイエ頼みだ。
ソナーを使えばすぐ見つかるだろうけど、自重中だから。
それにしてもこのノイエさん、小さいなりして歩くのが結構速い。
見える筋力量とか考えると、ちょっとおかしい。
これはもしかして、お目当ての身体強化かそれに近いものか?
先ほど使っていた魔法だ。
今すぐにでも真似をしてみたいが、魔法は自重しているので諦める。魔力視で使った? ちょっと記憶にありませんね。
もう覚えたから見てない時に練習しよう。
「少し休みましょう」
魔物を探し続けて1時間くらい。ノイエが休憩を申し出る。
魔法も使っているから疲れたのだろう。ジジイも魔法を使うとすぐ疲れていた。
お年寄りはすぐ疲れる。
魔法に持続性がないことは魔法を覚えたらすぐに分かった。
そこで気になったのはさっきノイエが使ったような、身体強化っぽい魔法。
地球にいた頃のゲームでよくあったエンチャント系のスキルって、一度使うと30分位持続するけど、どういう仕組みなんだろう。
魔法が肌に張り付くのかな、だったら火の魔法とか使っても肌に張り付いて一発で大ダメージだよ。
仮に線香程度の火でも深刻なダメージになる。
おやすみの最中、俺はノイエに成果を聞いてみることにした。
魔法を使わないように努めている今の俺は、ノイエよりも索敵能力が低いから全然どうなっているのかわからない。
「なんか見つかった?」
「ダメね、全然よ。もっと奥へ行ってみないとダメかも」
呼吸を整えつつ深呼吸をするノイエ。ちょっと色っぽい。
「ねえ、あなた」
「はい?」
「あなた、魔法を使えるわよね」
「えっ、なんで? なんでわかるの?」
ノイエの前では一切魔法なんて、あっ、魔力視で使ったか。でもあれだけでバレるなんて。
さすがエルフ。
「勘よ。それで、魔法は使えるのよね?」
「まあ、少々」
本当は少々どころではないが、些細な事だろう。
「じゃあ火の魔法って使えるかしら。私は水と地と、あと風の魔法なら使えるけど他は苦手だから、必要な時お願いしたいわ」
「必要って野営の時とか?」
「そうね」
身体強化は火系統っぽかったけど火は駄目らしい。
特定の魔法だけは使えるってパターンだろうか。
俺はなんか魔法の習得で苦労するってのが全然なかったのでよくわからない。
「火は使えるから大丈夫、森の中だけど火事を起こさず使えるよ」
火どころか属性的なものはだいたい使える。あなたの出来ないようなこともできるんですよ。ふふん。
「助かるわ」
無駄に優越感を感じてたら感謝されてしまったので反省。
体力がある程度回復したのか話を打ち切り、休憩を終わらせ探索を続行。
その後も休憩を挟むこと2回。
目的の魔物ではないが、ウサギ位のサイズの魔物を見つけたので二人で狩った。
俺が追い立ててノイエが弓で射ると、割とすんなり狩れた。
弓って照準もないしめちゃくちゃ難しそうなイメージがあるのに、一発で当てていたノイエはやっぱりエルフなんだな。
魔法でやらないのがなんでかわからないけど。疲れるからかな。
「そういえば、なんで罠って使わないの?」
ふと気になったので聞いてみる。
先ほどオジサンは体格がどうとか言っていたけど、罠を使えば体格なんてそれほど関係ないはずだ。
「危ないからよ」
「?」
「罠の解除を忘れる人が居て、罠と知らずに通りかかった人が掛かる事がたまにあってね。禁止になったのよ。そんな事も知らないの?」
「あいつ、マジ無知でさ。俺の方からも言っておくよ」
「……そうしておいて」
やっぱり俺、ちょっとテンション高いかもしんない。
日も暮れてきたので今日の狩りは終了になった。
今日の戦果はウサギモドキ一匹。しょぼい。でも仕方ないか。ほぼ目視だけで探してるんだし。
「今日はこれだけね。火をお願いできるかしら」
言われた通り、火を起こし、焚き火を始める。
ウサギモドキは血抜きをし、解体し、内臓は食べれる所を食べて、残りは埋めた。あとは森の誰かが勝手に掘り返して食べるらしい。
自然の摂理ってやつか、これが。
内蔵じゃない肉は燻製にした。町に戻った時ついでに売るそうだ。
内臓はうまかったけど塩コショウとか焼肉のタレが欲しかった。
夜も深まり、寝ることになったがテントなんて上等なものはない。
立てた木の棒に布を張り天井を作った仮のテントの下で、見張りを立てて交代で寝ることになった。
そして今はノイエが寝ている。
ちょっと、いやかなりドキドキだ。
出会ったばかりの男女が一夜を共にしている。
もしかしたら明日には挙式を上げている可能性だって0ではない。なんつって。
このエルフさん、よく知らない人(俺)のそばで普通に眠ってるけど大丈夫なのかな。
すぐ起きれるように仮眠してるだけなのかも。
そういえば、昔友人が話してたな。
寝てると思ってたペットが小さな物音で飛び起きて吠えたりするから困るって。
「ふぁ」
あくびがでた。
眠い、暇だ。ノイエ寝てるし。
小屋さえ作れれば、見張りもなく寝れるのに。
暇だし先ほどの魔法でも練習するか。
えーっと、確かオレンジから少しだけ夕日に近い色だから。こんな感じか?
「あ、できた」
一発でできてしまった。力が漲ってくる。
やっぱり身体強化の魔法だったらしい。
これもう、魔導書いらないじゃん……。