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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
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第1話:森を出よう

 ジジイが出て行って一年が経ちましたが戻ってきません。

 やはり死んでしまったようです。


「まじかー。ジジイ、あのジジイ、本当に死ぬとか」


 もしかしたらあるだろうなとは思っていたけれど、それでも喪失感がある。


「いやー誘拐犯に情が移ることってあるんですね。ジジイが死んで俺もぶっちゃけ泣きそうです」


 ストックなんとか症候群とかいうやつだ。

 ジジイは別に嫌いじゃなかなった。やったことはやった事だけど、人間的には良い人だった。

 俺の面倒を沢山見てくれた。


 10年間のジジイとの生活は楽しかっただけに帰ってきて欲しかったが、今となっては後の祭りだった。

 送還魔法の催促は何度もしたが、本当は数年経ったあたりで諦めていた。

 だってもう、元の世界に居場所なんてないでしょ。


 それに、今更勉強だの就職だのって言われても困る。




 それにしても、この一年で独り言も随分増えた気がする。だって一人は寂しい。


 帰ってこないとわかったら、いい加減森を出て町へ行こう。

 俺もこんな場所に留まる理由もないしな。


 適当に荷造りをすると、飛行の魔法でダラダラと町がありそうな方向へ飛ぶことにした。

 森の中をつっきてもいいがジメジメしてるし魔物の相手も面倒だし、飛んでいくに限る。飛んでる魔物は勘弁な。

 別に怖くもないし、苦戦もしないけど。



 こちらの世界に来て俺は、賢者の石を取り込み俺自身が賢者の石になった。

 っていうとなんか変だが、血液がなんかおかしくなった。

 賢者の石の性質を得たというか。


 そしたら魔法が使えるようになった。もちろん練習はたくさんしたが。

 普通は賢者の石を取り込んでも、そういう事にはならないらしい。

 怪我は治るし、病気も治るし、すごい石らしいが。


 それに魔法だけでなくいろんな事が出来るようになった。

 肉体的にも強くなった。それなりに。

 今では魔法を使わずに魔物の解体だってお手の物だ。

 時間はかかるけど。


「ジジイが出かける時はこっちに行ってたからな。多分こっちだろ」


 寝たふりをしつつソナーをしたから間違いない。

 人嫌いのジジイはすごい過保護具合で、俺を人と合わせないように頑張っていた。

 そんなジジイの言いつけを守り、町へ行かず11年も森の中で生活したのだから俺も義理堅い。感謝しろよくそジジイ。


 なんて心の中で悪態をつきながらも俺はふらふらと空を飛ぶ。




 ――30分程飛ぶと森の終わりが見えた。

 だらだら飛んだにしても俺が30分もかかるなんて、どんだけ広い森なんだここ。


 んでだ。


「森を抜けたはいいが町がどっちかわかんねー。見ろ、俺。この大草原を! 山と木と草しか見えねー」


 右を見ても、左を見ても草原だった。

 後ろは森だ。

 緑色は目にいいらしい。

 緑しかねーじゃねーか。

 迷子だよ。


 自分でいうのもなんだが目印もなかったし、まっすぐ飛んだとはいえ、本当にまっすぐ進めたかはわからない。

 つまり本当にこっちに町があるとも限らない。困った。


 うんうんと唸ること10分。

 高いところに行けばきっと何かわかるはずだ、ということで高く高く飛んでみる。


 今日は雲もないからと無駄に高いところまで飛んでから下を見ると、航空写真のような風景が見えた。

 多分現在の高さは1000m前後だ。計測器がないから具体的な数字はわからない。700mかもしれないし、1500mかもしれない。

 とりあえず山の上から見下ろす感じ。


 すると視界の端には町らしきものも見えた。

 こうして見るとやはりほとんど緑色をしている。

 そして風がつよい。別に気持ちよくない。



 山の位置と町の位置関係を覚えて地上に戻ると、多少抱えていた不安も吹き飛んだので、早速町へ向かう。

 姿を隠し、ささっと町へ行こう。視界に入らない程度の距離まで行ったらそこからは歩こう。






 少し遅めのペースでも1時間程飛ぶと遠目に町が見えてくる。ので降りて歩く。


 ……まだ着かない。正直飛ぶより疲れる。全然近づいてこない。心が疲れる。

 少し距離加減を間違えたようだ。

 


 そして飛ぶこと1時間、歩き始めてから1時間半程で町についた。

 大きくはないけど小さくもないって感じなのかな。

 こっちの世界のことはよくわからん。


「税を払え」


「むっ!」


 ぶっきらぼうな感じで通行税を要求された。

 久しぶりの会話に俺はそれだけでテンションがあがる。

 別に怒ったわけではない。嬉しかったのだ。こんなのでも。


「じゃあこれで」


 門番らしき男に通行税を払い町に入ると、まずは宿屋を目指す。

 金は多少ある。ジジイが持ってたから少しパクってきた。


 万が一、万が一にもジジイが戻ってきた場合のために幾らかは置いてきた。

 どうしても足りなくなったら取りに戻ればいい。

 なあに、ダッシュで帰ればすぐ帰れる。


「あ、宿屋ってどっちですかね?」


 その辺を歩いてる人に聞く。

 大丈夫、久しぶりだけど普通に知らない人とも話せる。門番とも話せた。大丈夫。


 と思ったら知らない人は何も言わずに「あっち」と指を差すだけである。

 ちょっとかなしい。


 ちょっと悲しかったけどそういうこともあるんだと思い、礼を述べ宿屋へ向かう。

 この世界に来て新しく言葉を覚えるのは大変だったけど、文字も覚えたから看板さえあれば大体わかる。

 方向だけ分かればいいんだ。

 ほら、あった宿屋。


「こんちわー宿泊したいんですけどー」


「はいはいーお客さんこんにちわ。何泊ですか?」


 中からトタトタと20歳前後位の娘さんが小走りで来る。美人だな。美人かな? わからない。

 すっごい久しぶりに女性を見た気がする。道中では見なかったから。

 なんかドキドキさえしてきた。この人、もしかしたら俺のヒロインかもしれない。


「とりあえず一泊で」


「はーい。お部屋は二階の一番手前側になります。お荷物を預かりましょうか?」


 声も可愛い気がしてきた。

 名前を聞きたいけどナンパは難易度が高い、俺の性格的にも。


 とりあえず荷物を預けて、部屋に案内してもらった。

 5畳位の広さで、タンスとベッドだけがある。洞穴生活から考えると小奇麗な部屋だった。


「何しようかな」


 なんて独り言が出る。この位は別にいい。

 町も見て歩きたいが、トイレにも行きたい。飯も食いたい。


 施設の説明を受けると、どうやらトイレはあるがフロは無し、食事はすぐ近くに飯屋があるらしい。

 身体を拭く為のお湯とタオルは別料金になります。


 フロ屋というか銭湯的な施設はこの町どころかこの国にはないらしく、俺は失望を隠しきれない。

 水が豊かではないのかな?

 町のはずれで空き地を探してそこに勝手にフロ作ろう。

 バレなきゃいいよね。ダメかな。ダメなら地下に作ろう。


 それより飯だ飯。

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