表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
18/56

第17話:元姫のリリセラ

「それにしても行く先々で町に戻れなくなる理由を作るわね、あなたは」


「なんとお詫びしてよいやら」


「いいわよ、未練もないし」


「ご主人サイコー」


 アンコやっぱりお前、俺が問題起こすことに期待してるだろ。



 晴れた空、土の匂い、揺れる尻尾。

 俺たちは急遽町を出る為に、街道を歩いていた。


 リリセラの顔は隠し、アンコの服を着せ歩かせてたので、誰かに気づかれることもとりあえずない。

 本来尻尾が出るケツの穴の部分は縫うか縫わないか悩んだけど、縫うことにした。悩むような事ではない。


「それにね、こっちもトーヤには一つ、謝っておかないといけないことがあるのよ」


「何?」


 不穏なこと言わないで、聞きたくないな。


「用意した生き物なんだけどね。決闘トカゲなのよ」


「決闘トカゲ?」


 なんでも馬車を引かせる生き物の中でも力強い部類でよく働くのだが、


 決闘して群れのリーダーと認識されること。

 認識された後でも偶に下克上を仕掛けてきくるので、負かすこと。


 決闘なので、いきなり仕掛けてくるもなく、こっちを殺そうとしてくるとかでもないが、結構な強さをしているので、普通は鎧を着たり、武器を持ったり武装するらしい。


 それなのに下手に怪我をさせると動けなくなったり、死んじゃったりする。

 さらに寒い地方にも弱い。


 なるほど、たしかに面倒な生き物だ。


「その点、トーヤなら安全に勝てるし、治すこともできるでしょ? だから……ごめん、ね」


 ちょっとだけ媚びたような態度で謝るノイエ。当然許す。なぜなら可愛いから。


「全然平気。とりあえず決闘すればいいのか?」


「うん。ごめんね」


「……この人達は何故、決闘トカゲと戦うのにこんなに軽く話しているのでしょう」


 意外かもしれないが、アンコはこうやって俺とノイエが相談話をしている時、静かにしていることが多い。

 会話の邪魔をしてはいけないと思っている節があるようだ。

 正直アンコが混じると話が脱線するので助かる。




「じゃあ、さっくり始めようか」


「そうね、お願い」


 こうして決闘トカゲとの決闘が始まった。


 決闘の合図に尻尾の根元をペシペシ叩くと、トカゲは少し距離を取りこちらを見据える。本当に決闘しますって態度だなトカゲ。爬虫類の癖に。


「ご主人ガンバレー。コロセー」


 殺しちゃ駄目だろ。


「…………」


 リリセラはハラハラした様子でこちらを見据えている。

 布で顔は見えないからなんとなくだ。そういう雰囲気。



 身体強化の魔法を使い、ゆっくりとした動作でトカゲに近づく。

 トカゲは口を開けて飛びついてきたが、腕を噛ませ、そのまま裏返しに置き、腹の上に座る。はい、終わり。


「ええっ!!??」


 処刑から時間も大して経ってないのに、随分愉快なリアクションを見せてくれる。リリセラ。







 無事トカゲを従えた俺たちはスーパーカー(嘘、馬車。それも嘘、館車)に乗り込み町を抜け出した。


 処刑されたはずのリリセラが現場から消えて、結構な騒ぎになっているはずなのに顔を隠したリリセラを素通りさせるとはザル警備だな。


 まあ死んだ人間が生き返って町から脱走、とは思わないからしょうがないのかもしれない。広場のみんな首が落ちる瞬間は見てるし、騒ぎになってるからこそザル警備なのかもしれない。


 事件ではあるけど、犯人を捜すような事件じゃないし。



「さてと、トーヤそろそろ、その子を紹介してくれる? この国のお姫様なんでしょ?」


 ――スっ。

 ノイエが俺にリリセラの紹介を頼むと、なぜかアンコが手を持ち上げて『C』を作る。こいつ、味をしめやがったな。

 後でもう一度しっかり言い含めておかないと。


「や、それやめてくださいよぉ。い、言いますから」


 アンコさん、この子トラウマになってるからその『C』やめてあげて。



「ワタクシはローレル・シイマ・アトレイアと申します。……いえ、言いなおします。ワタクシの名前はリリセラです。そちらのトーヤ様に助けていただきました」


「私はノイエ。見ての通りエルフよ、しばらくの間よろしくね」


「さっき言ったけど俺はトーヤ。本名はトーヤ・アラキ・アシュクロフトだ。まあ、本当の本名はトーヤ・アラキだけど」


 何を言っているんだ俺は。

 けど、俺の名前を説明しようとするとこうなるのが悪い。


「アシュクロフト、ですか?」


「そうだけどなんか変か?」


「名前がいっぱいあって変!」


 アンコは黙ってなさい。

 それと、さっき言ったアンコは話の腰を折らないってやつ、全面的に撤回するわ。


「アシュクロフトと言えば、ドラゴンの英雄と同じ名前ですね、と思いまして」


「ドラゴンのえいゆう? ノイエ知ってる? なに?」


「知らないわ。リリ……ああ、ごめんなさい、リリって呼ばせてもらうわ。その子に聞けばいいじゃない。本人がいるんだから」


 俺も知らないな。

 王都での町人との交流ってあまりなかったし、ギルドでも聞かなかった。

 まあ、俺たちはギルドにたむろするタイプじゃなかったし。


 けど、ジジイの事なのはなんとなくわかる。話の流れから。

 それにあまり気分の良い話題でもない事も。


「アシュクロフト様というのは、一年と少し前、ドラゴン討伐で400名全隊全滅の危機から身を挺して120名も生存させた英雄で、――アシュクロフト・ナーミンという方です。ご存じな……知らないんですか?」


 自称なら、英雄から名前をもらって名乗っているんじゃないんですか、と。違いますよ。

 半分はあってるけど、半分は違う。英雄だからじゃない。


 それと、どうやらリリセラは喋り方を矯正しようとしているらしい。

 あまり硬い喋りだと高い身分がバレるからかもしれない。


「アシュクロフト・ナーミン?」


 なんか聞いたことある名前だな。とアンコが首をかしげていた。

 ノイエは黙っていた。


「たしか晩年はコウコウヤのアシュクロフト・ナーミンと名乗っていたそうです。コウコウヤという言葉が、誰も聞いたことのない言葉だそうなので不思議に思いました」


 好々爺。

 いつか俺が言った言葉だ。


 人嫌いな筈なのに、俺の前じゃいつもニコニコしていて、ワガママを言っても怒らないから、好々爺かよって。


 それを自分から名乗っていたようだ。


「…………」


「あの……、大丈夫ですか」


 放っておきなさい。とたしなめるノイエに平気だと伝える。


 別にたいした感傷じゃない。

 ただ、思ったより好かれていたんだなって思っただけだ。


「アシュクロフト・ナーミンは俺のジジイだ。血縁じゃないけど、俺と一緒に暮らしてた。名前は勝手に使ってるだけだし、普段はトーヤと名乗ってるから普通にそう呼んでくれ」


「そうですか……わかりました。トーヤ様と呼ばせていただきます」


 リリセラは少し言葉に詰まっていた。

 隠居していたジジイを引っ張り出して死なせてしまったのは国だから、申し訳ない気持ちがあるようだ。


 それにしてもやっぱりジジイ死んでたのか。何が英雄なんだか。身を挺したとか血迷いやがって。意味わかんねえ。







「所でノイエ、さっきのしばらくの間ってなんのことだ?」


 さっきノイエが”しばらくの間よろしく”って言っていたのを、俺は耳ざとく聞いていた。


「この子って腐ってもお姫様でしょ、「あの、腐ってないです……」……他所の国に保護してもらった方がいいんじゃないの? 政治的な問題もあるんでしょ?」


 他の国に渡したらひどい目に合いそうな気もするし、別人として生きてくって言ってるなら連れてくべきじゃないの?


 この子可哀そうだし、ぶっちゃけ可愛いから、2人とも仲良くできるなら、……そうだよね、お姫様ともなると色々あるよね。


「お願いします、一緒に連れて行ってください。お姉様の迷惑にはなりたくないのです」


「処刑されたっていうのに随分情が深いのね」


「それな」


「いつからか変わってしまいましたが、優しかったので。お兄様が亡くなってお父様方の関心がなくなってからは、お姉様だけが支えでしたので」


 俺は事実を知っているんだが、”今は”言わない事にした。

 だって今更。


 姉姫が後悔している、なんて教えた所で『よかった』となるだろうか?

 この子は処刑を実行されてしまったんだ。

 本当に今更戻っても、居場所なんてないんだから。


 だから、ノイエやアンコのように此処が居場所になれば良いんだけど。


「ご主人がほごするはダメなの?」


「!」「!?」


 そうだよ。何が政治だよ。

 もし身分がバレて、追手が来たとしても俺が守ればいいんじゃないか。

 集団に負けない武力は権力にだって負けないんだ。


「偉いぞアンコっ、偉すぎる」


「ええ、そうよ。難しく考える事なんてないのよ。偉いわアンコ」


「へへへ」


 ノイエと俺でアンコを褒めちぎる。

 尻尾をぶんぶん振るアンコ。


 まだ輪に馴染めないリリセラが、いいなって顔で見てる。

 羨ましそうだ。 


「話もまとまったし、行くか」


「ええ、そうね」


「おー」


「……よろしくお願いします」


「ほら、リリセラもこっちに。仲間外れになんてしないから」


「あっ……、はいっ」


 話もまとまったので旅路を急ぐことにした。

 この国ともおさらばだ。

馬はいませんが、犬やトカゲはいるんです。

いるんです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ