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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
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第16話:もう王都にもいられない

「無恥な野次馬の瞳を焼け『ローストライト』」


 強烈な光で広場の人全ての目を潰し、念を入れ火の魔法で煙を発生させ、処刑台を覆い、宙を駆け、お姫様を抱えると、上空へと自分の身体ごと射出した。

 悲鳴と、歓声と、怒声の中で俺は諦めなかった。



 日本にいた頃に聞いた逸話がある。


 部下を助ける為に首を切られた兵が、その首を抱えて走ったという話。

 首をなくした鶏が、18ヶ月もの間生きたという話。

 科学者が斬首後、何度も瞬きを繰り返したという話。


 それに、こっちでも経験した。

 首を落とした魔物がのたうち回る。その生命力。



 首が無くなる事と死ぬ事は直結しているが、イコールではない。



 その逸話を信じて、お姫様を救出。

 射出後すぐに『エーデルワイス』をかける。


 大魔法を使ってる間は他の魔法が使えない為、身体強化などの魔法は全てキャンセルされる。

 当然、空を飛ぶ魔法も切れるので、慣性に任せる為に射出を選んだ。


「ぐぅっ…………」


 強化が切れると途端に掛かるG。身体への負担が大きい。

 お姫様の長かった髪――今は切断されて短くなった髪が舞う。


 それでも『エーデルワイス』を使うと、なんとかお姫様の首は繋がった。半信半疑だったけど繋がった。生きている。


 治ったことを見届けた後は、魔法による飛行に移行する。雲にまぎれる。

 空の上は太陽がまぶしい、風も地上より強い。

 気分が良い。無理を実現した達成感がある。



 ああ、そうだ。地上に居る人たちにヒールをかけておかないと。

 目焼いちゃったし、ごめんね。いいよ。ありがと。








 気分良く飛んでいたのはそこまで。


 お姫様を抱え、水で血を洗い、ノイエ達のいる宿に戻る。

 お姫様の顔は布で隠す。人に見られたらヤバイじゃすまないから。


 それにしてもこのお姫様、起きてるはずだけど、なすがままって感じだな。


 そうか、出血が多くて貧血起こしてぼんやりしてるんだ。

 後で『エーデルワイス』をもう一度かけてやろう。多少は造血を頑張ってくれるはずだ。


 あ、もしかして薬のせいかも。


 まあ、それも『エーデルワイス』でなんとかなるだろ、多分。

 つーか『エーデルワイス』便利過ぎ。

 便利だからいいんだが、なんというか色々なバランスが崩壊してるような気がする。




「ノイエかアンコー。俺俺ー、俺だよー、名前はちょっと言えないけど、俺ー。開けてー」


「ご主人だ!」


 両手がふさがってるので、ドアの内側へ向かって声をかけると、バンッ――と勢いよくドアが開く。結構怖い。


「トーヤ、誰それ」


 多分怒られると思いながら、ちょっと茶目っ気を出してみたけどダメだった。

 ノイエにジト目で見られる。


 多分誰かということも、もう想像ついているはずだ。

 服に血がついてるし。水洗いじゃ全部は落ないし。当然、わかるよね。


「えーっと……処刑されるはずのお姫様。…………拾ってきちゃった」


 てへって擬音を付けたい。

 笑ってごまかしたい。だめ?


「……しょうがないわね」


「おー!」


 呆れるノイエに引きかえ、大興奮するアンコ。

 こいつ俺がなんかやらかすことに期待してるだろ。


「それで、ノイエさん。ここに来るまでに人に見られたかも知れないので、その、急遽、……あの」


「町を出るんでしょ、わかってるわよ。トーヤはここに居て、館車を引くモノを買ってくるわ。そしたらすぐ出ましょう」


「いってらっしゃい……」


「ノイエ、いってらっしゃーい!」


 アンコはノイエに付いていかなかった。

 部屋にこの暗いお姫様と2人きりってのも嫌だったから、陽気なアンコがいてくれると助かる。







 エーデルワイスもかけ終わり、体調は元通りに戻ったはずのお姫様に声をかける。


「それで、これからどうする?」


 どうする? も何もねーだろ! 行くあてもないのに。

 俺が拾ったんだし、拾った人が世話をする。小学生位の子を持つ親はみんな言ってる。


 それでも一応聞いたから反応を待っているが、


「…………」


 無言。

 え、なに? やだこれ、気まずい。

 なんで人助けした後ってこう、暗い雰囲気になるんだろう。

 そりゃあ、全部スッキリとは解決してないけど、ねえ。



 それでも何も言わないお姫様。

 何か考えているのか、ただぼーっとしているのか、下民と話などしたくないだけなのか。


 痺れを切らしたアンコ。無言のお姫様に無言で近づく。そして、


「いたたたたたたぁ! いたぁ、えっ? なんですか??」


 頬をつねった。


 お姫様も突然のことに素っ頓狂な声をあげる。

 俺もびっくり。


「ご主人が聞いてるので」


「アンコ。アンコ、ストップ」


 咄嗟に呼び止めたが、アンコは当然ストップなんて外来語は知らないので伝わらなかった。

 もう一度スっと手を持ち上げ『C』を形作る。


 ちなみにアンコの力は超強い。

 多分握力60kgくらいある。


「ひっ、や、やめてください」


 怯えるお姫様。


 もう一度ちゃんと止めようと思ったが、今回はいい方向に進んだような気がするから傍観に徹することにした。

 空気を読まない子が居ると、良くも悪くも話が発展するな。丁度いいや。


「それでこれからどうする? あ、俺はトーヤね。こっちはアンコ」


「アンコなので」


「ワタクシは、ワタクシは…………なんと名乗れば良いのでしょう?」


 しらんがな。


 たしかにお姫様だし、知名度超あるし。

 処刑されたはずの姫がそのまま出歩くなんてできないし、そのまんま名乗るわけにはいかないわな。


「なんか偽名でも使えば?」


 俺だって自称だし。

 外見はまあ、なんとかなるだろ。何も案浮かばないけど。


「……それなら、ワタクシは、リリセラという名前で生きていこう、と思い、ます」


 『C』をちらちら見ながら語りだす、お姫様。びびりまくりだ。


 それにしてもよくすぐに偽名とか思いつくな。

 元ネタでもあるんだろうか。



 喋りだしたお姫様に満足したのか、ベッドに腰掛ける俺の膝の上に座ってきたアンコ。そのまま頭を撫でてやる。


「お姉様に、処刑、されてしまいましたからね、ワタクシは…………え? そういえば……首? あれ?」


 突然うろたえ出すお姫様。

 ようやく状況が飲み込めてきたようだ。


「それはご主人がやった」


 俺が処刑したみたいに言わないで、俺が助けたの。


 それにしてもアンコのお姫様に対する態度がおかしい。妙に強気だ。

 なんでだろうと推測してみる。


 アンコは犬。犬は上下社会。

 アンコの中では俺がボスで、次がノイエ、そしてアンコ。


 そこに俺の連れてきた新人がアンコの下に加わったことで、上から目線になっているんだな。多分。

 拾ってきたって言い方が悪かったのかな?


 まだ参入したわけじゃないんだけど。いや、放置なんてしないけど。

 首が落ちる前に救出できてれば、そのまま姉姫に任せてOKだったんだけど、今更言ってもしょうがないか。




 落ち着くまで待ってから声をかけなおす。


「まあ、俺は世界最高の魔法使いだから、あの状況で助けるの位、出来なくないさ」


 何言ってんだという顔でこちらを見るお姫様。こいつ実は余裕あるだろ。

 実際に助けただろ、そんなら見てろよ。



 手の上で火、水、土、氷、雷、光の小さな球体を浮かべ、クルクル回す。

 段々加速して目で追うのも難しくなる。

 はっきり言って、これだけの属性を同時にこれだけ制御できる奴はまずいない。


 どうだ、すごさが視覚的に一発でわかるだろ?

 規模じゃなく技術力でわからせる。優れたやり方さ。


 そして魔法をまとめて握りつぶす。ぐしゃ。

 手が汚れた。土は要らなかったよね。汚れた手はアンコの尻尾で拭く。


「お?」


「なんでもないよ」


「うん」


 目を見開くお姫様。

 お姫様っていうのも堅苦しいから、名前で呼ばせてもらうか。偽名も出来たことだし。


「それじゃあ、ローレル姫じゃなくてリリセラって呼べばいいのか?」


 今はもう敬語もまずいだろう。立場的に。最初からしてないけど。


「あぁ、はい、それでお願いします。…………」


 その後、また無言に戻ってしまったリリセラ姫。

 今度はアンコも黙ってしまったので、俺も黙る。ノイエ、早く戻ってきてくれー。







「ただいま。買ってきたわよ、館車の所にいるから行きましょ」


 いつの間にか膝の上で寝ていたアンコを撫でながら待っていると、ノイエがやっと帰ってきた。

 おかえり。さあ行こう、この町ともおさらばだ。


「それと、お姫様の食事」


 あっ、『エーデルワイス』の副作用。忘れてた。ナイスノイエ。


 そうか、空腹を訴えないってパターンもあるんだな。まったく。

 これだからお姫様は。まったく。

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