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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
16/56

第15話:お姫様の処刑

 1人でクエストをこなしたり、たまに3人でこなしたりした。

 ノイエが嫌がらなきゃ全部3人でやりたかったんだけど、しょうがない。


 3人の時は、俺が獲物を探して2人が狩る。

 2人がやってる間、俺は見てるだけ。怪我をしたら治す。


 俺が入るとこんなだし。


 報酬の取り分は交渉に交渉を重ねた末、俺が半分で、2人がさらに半分ずつ、という形に収まった。

 もっと、こう、さ、俺らファミリーみたいなもんなんだし、3等分でいいじゃん。

 なあなあで行こうぜ。な?


「だめよ」


 ダメでした。







 1ヶ月が過ぎる頃にはノイエから借金も返済された。

 けど町を出るには足りない。


 町を出るにあたって、荷物を積んで運べるように馬車が欲しい。

 ――馬のようなものはいても、実際には馬はいないこの異世界なので、本当は館車と呼ぶらしいけど、イメージしにくいから馬車でいいや。


 そう、馬車を用意するのがいいと思いました。

 でも馬車を買うにはお金が足りず、足りない分を稼いでいると、例のお姫様処刑の日が直前まで迫っていた。


「ご主人ご主人、なんか町の人がこわい」


「お姫様の処刑がもうすぐだからでしょ」


「だろうね」


 いよいよお姫様の処刑が近づいてきて、町の人も殺気立ってきた。

 それでもノイエやアンコがこの町に居続けたのは、俺を信頼しているからだろう。

 もし暴動があっても、俺が居ればなんとかなる。


「なんでも病気で弱った姉と健常な妹が争って、姉が妹の処刑を企てた。なんて噂もあるわよ」


 ひえー、どこの世界も権力争いは家族の絆なんてブレイクスルーしてしまうんだな。

 ブレイクスルーの意味はわからんけど。英語苦手。


「中央の広場で処刑が公開されるらしいけれど、私たちには関係ないわね」


「ノイエノイエどうしよう、アンコ達も処刑される?」


「話聞いてた? されないわよ」


 公開処刑ねえ……。

 悪魔に憑かれたって話だけど、俺が聞いた限りじゃ何か悪いことをしたって話も聞かないし、悪魔に憑かれてからずっと城に幽閉されてるらしいし。


 まあ勘だけど、姉姫か周りの従者がクロで間違いないだろ。


 グロリア姫が姉で、ローレル姫が妹だったかな。

 昔にセドリックっていう王子が死んでから、王や妃も覇気がなくなってるみたいだし。


 この国はもう駄目だ。

 やっぱり町だけじゃなく国から出るか。危なくならない内に。

 いざとなれば守るけど、いつだって安心は欲しい。







 なんて言いながら処刑当日。俺たちはまだ王都にいた。


 馬車はもう買って門のすぐそばの馬車置き場みたいな所に預けてあるのだが、馬の代わりに引く生き物が足りない。

 一応お金はある。けど足りないかもしんない。

 門税の事もある。

 もうちょっと稼いで、いい(のようなもの)を買いたい。長く使うものだし。


 そんな事を言っていたら処刑当日になっていた。


「今日は宿から出るのはやめておきましょう、何が起こるかわかったもんじゃないわ」


 実は町を出るまでの少しの間、地下は潰して宿に泊まっていた。

 立つ鳥は後を濁さないのだ。


 俺は異世界を渡ってきた渡り鳥だからね。

 だから何? って言われたら何も言い返せないけど。


「あー、悪いけど、俺はちょっと見学に行ってくるわ。処刑は見る気ないけど最後の悪魔祓いをするらしいから、それだけ見ておきたい」


「アクマバライー?」


「悪魔なんて都合の良い嘘よ。見えもしないのにどうやってわかるのよ。単に取り憑かれたって人の性格が変わっただけでしょ、病気か何かで」


 ノイエは否定的だな。リアリストってやつか。こんな魔法の世界で。

 悪魔憑きって言葉はあるのはわかっているけど、方便だと思っているのか。


 そう考えると、俺も怪しくなってきたな。

 悪魔ってどういう生命体だ? 憑くって事は幽霊的な存在だろ?

 それか寄生虫。


 ……それはそれで気持ち悪いな。


「じゃあ行ってくるわ。大丈夫だと思うけど戸締りしっかりな」


 俺はそう言い残して、広場へ向かった。

 ――言い残すってなんか言い方が不穏だな、おい。






 広場に着くと既に人でいっぱいだった。

 近くで見るつもりなないし、どこでもいいんだけど。帰るときスムーズに帰れるように外側にいよう。


 にしても本当にたくさん人がいる。

 これ全員お姫様の処刑を見に来てるんだろ?

 娯楽か何かかよ。イライラする。

 人死をなんだと思ってるんだ。あ、俺もか。

 いやいや、俺は悪魔祓いってのが見たいだけで、処刑を見る気はないよ。




 しばらく待っていると、広場中央にそれらしい人が連れられてきた。

 流石に遠くてちょっとよく見えない。身体強化で視力をアップさせる。


 すると見えてきた。

 俺の美的センスでもかわいらしいと思える、お姫様。

 大体アンコや俺と同年代っぽい外見。


 処刑されるのにキレイな服着せられてるんだな。処刑されるからキレイにされてるのか。

 姫だもんな。


 それにしても、姉姫の方はいないのか。

 王も妃もいないし、なんだかあまりにもな感じだった。


 妹姫さまの方は猿轡をさせられているけど、それがなくても喚くこともなさそうだ。ぼんやりとしている。薬でも打たれてるのかな。

 


 処刑台にギロチンがセットされ、大臣っぽい人の演説が始まった。

 この姫は悪魔に憑かれてしまったのだと、優秀な呪い師を呼んでもダメだったと、処刑するしかないのだと。


 あの手この手でこの処刑の正当性を謳っていた。


「耳が腐りそうだ」


 と思った。



 もう悪魔祓いの魔法なんてどうでもいいから、こんな所に来なければと思ったが、ここまで耐えたんだから、その魔法だけは見ていこうと我慢を続けた。


 演説も終わり、いよいよ呪い師が登場し最後の悪魔祓いを始める。

 ここで身体強化に加え、魔力視も加える。


 お姫様に魔力の乱れはあったが、多分薬のせい。

 確証はないけど悪魔憑きとはとても思えない。確信に近いものがある。



 しかし、行われた悪魔祓いの魔法はおそらく本物だった。


 使われた魔法の色は乳白色に、黒と紫が混じったマーブル色。

 黒と紫の魔法は冥の魔法だ。

 魔力を対象から引き剥がしたり、生命力を衰弱させたり出来る魔法。


 ただし生き物には魔法抵抗がある為、生物にはほとんど効果がない。

 普通は死んだ生き物から魔力を抜いて、他の魔物から見つけにくくしたり、植物を枯れさせたりするのに使う。

 それに、この冥の魔法がまた難しいんだ。


 もう魔法の仕組みも分かったので、さっさと退散することにした。ここは気分が悪い。







 広場を離れ帰路を歩くと、人気のない路地から誰かの声が聞こえた。少し遠い。

 強化を解くのを忘れていたようだ。


 思った以上に冷静じゃなかったらしい。

 人死にの正当化に、娯楽だもんな。あーやだやだ。


 とっさにソナーをかけると、数人の人が居る。しかもなんか叫んでる。

 誰かが襲われているのかと思ったけれど、何か様子が違う。


「グロリア様! どうかお静かに、お心を確かに。グロリア様!」


「いやああ、お願い! 私が間違っていたの! 妹なの! 大事な……。全て打ち明けるから、離して! 悪魔は私よ、お願い。ローレルを……、離しなさいっっ!!」


「グロリア様! もう処刑は始まっています! 今から向かっても、もう遅いのです」


「あああああああぁぁぁぁあ、むぐっ、んんんんんんっ」


 取り押さえる誰かと、取り押さえられるおそらく姉姫。


 嫌なことを聞いてしまった。

 姉姫はクロだった。

 けどこれは、なんと言うか……。

 こんなん聞いたら無視するなんて出来ないだろ。



 人に見られず解決するのは無理。

 じゃあ、どうする?

 わからない。いい案が浮かんでこない。

 でも、無視は出来ない。


 ノイエとアンコにはなんて言おうか、と言い訳を考えつつ、きびすを返し、広場へ向かい走った。



 しかし広場に戻った時には遅かった。

 ギロチンの紐は切られ、刃が落下する瞬間だった。


 咄嗟に飛び出したが、一瞬のまばたきの後、その目に映ったのは地面へと落ちるお姫様の首だった。

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