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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
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第13話:バジリスクの呪い(病気)

 俺は途方にくれていた。

 そもそもなんで、こうなったんだったか。




「トーヤ、私たちはこちらのクエストをしてくるから。トーヤはトーヤの方でよろしくね」


「え? 一緒にしないの?」


 当然のように一緒にするものだと思っていたから、ノイエの発言に狼狽えてしまう。アンコ、なんとか言ってくれ。


「ご主人が一緒だと、全部ご主人がやっちゃうー」


 なんとか言ってくれたが、アンコは俺を切り捨てた。


 そうか、そうだよな。

 俺が居たら、討伐なんて2人は見てるだけになるか、俺が手を抜くかしかないもんな。


「それに、あなたにお金を返さなきゃいけないのに、あなたがクエストやっちゃったら、意味ないでしょ?」


「……ソウデスネ」


「アンコ、あなたが借金を作って奴隷に堕ちたんだからあなたも頑張るのよ。ほら、行くわよ」


「ご主人、ばいばーい」


「…………」


 俺が相槌を打つ人形になっている間に2人は行ってしまった。

 俺と出会う前は元々2人でこなしていたらしいから、俺がいなくても平気なのだろう。


 アンコは10歳だが運動神経も良いし、成人男性以上に体力もある。

 魔物の血抜きや解体も普通にできる。


 ノイエの方は今更だし、旅の道中で信号を飛ばす拡散の魔法も教えたから、ピンチの時にはそれを使うだろう。


 哀愁を背中に抱えながら、俺も自分のクエストを選ぶことにした。





「見つからない」


 で、俺は途方にくれていた。


 受けたクエストは――バジリスクの呪いに罹ってしまった妻の為に、コカトリ草をとってきて欲しい――というもの。


 バジリスクの呪いというのは、実際には呪いではなくて病気だという。

 足から段々石のように固くなっていって、最後には死ぬとのことだ。怖い。


 ギルドの人から聞いた情報だと、この付近のコカトリ草の群生地が根こそぎやられているらしい。

 他を探すか、誰が持っているかもわからないが分けてもらうしかないとか。


 それに、このクエストはもう古いものなので、もし手に入っても病気の進行度から、もしコカトリ草から作った薬を使っても治らないだろうということ。


 しかし、俺なら大丈夫。

 手遅れな病気でも、死んでさえなければ『エーデルワイス』でなんとでもなる。だけど……。


「迷子になっちまったらどうしようもないわなー」


 つい独り言が出た。


 土地勘ゼロな俺が名前しか知らない人の家に行くのは無謀ってものだった。

 素直にコカトリ草をギルドに納品した方が早かったかもしれないと思った程だ。


 民家っぽいのは沢山あるのに、表札がない。

 ポストも無いから多分、顔見知りだけで成り立っているのだろう。


「ここはどこかしら?」


 あまりの見つからなさに、ついお嬢様言葉まで出てしまう。


 アンコがいなくてよかった。もし居たら、面白がって口調を真似してしまうところだった。

 アンコがお嬢様口調になったら違和感がすごい。


「………………」


 誰も居ないのはさみしいな。

 一人きりの森を出たのはつい最近だというのに。

 それまでは1年も森に一人でいたのに。





 その後もその人の家を探したが見つからなかったので、バジリスクの呪いに罹ってしまったという情報も追加して人に訪ねまくったら、とうとうその人のお宅を発見した。


 土で出来た、まあ一般的っぽい建物の家。

 土っていってもなんか白っぽくて、あまり土っぽくない。そんな一般的な家。


「あのー、すみませーん」


 チャイムもないので、控えめに戸を叩く。

 気配っていうか魔力で中に人は居るのに、リアクションがない。

 世間は世知辛い。セールスでも勧誘でもないのに。


「あのーバジリスクの呪いの件で来まし「本当か!! 助かった……これで、これで妻の病気は治るのか……」……」


 要件を言うと、中から30歳位のおっさんがすっ飛んできた。

 ……最後まで言ってないんですけど。


 興奮して唾を撒き散らすおっさんに中に通される。

 中にはこれまた30歳位の女性が寝かされていた。

 見るからに具合の悪そうな女性だ。




 さて、問い詰められる前に自分で先に言っておくことがある。


「問題の薬ですが、実は持ってま「は?」……ですが、魔法を使えるので治せると思い、来ました」


 持ってない。と言った瞬間のおっさんの表情は凄かったが、魔法を使えることを伝えると多少安堵した表情に戻った。

 怖いからやめてよ。必死すぎるよ。チビっちゃう。


「治ればなんでもいい! 頼む、頼むよ」


「あ、はい。やります。やります」


 肩を掴まれてがっくんがっくんと揺すられる。

 そのまま女性の元へ行き、あらためて容態を見せてもらうと、思わず息を呑んだ。


「…………」


 これが薬でなんとかなる病気? 嘘だろ?


 足はガチガチで本当に石のようだ。

 どこまで進行しているかもわからない。筋肉や肉が硬化したってここまで硬くはならないだろ。


 まさに奇病といった症状に俺はうろたえた。

 浅く呼吸はしているが、生きているのもやっと、といった所だった。


 まあ、それでも奴隷商館のアンコが居た部屋の人達に比べたらマシなのだが。


 正直な所、甘く見てた。

 獣の死体は見慣れているけど、ジジイと2人だけだったし、『エーデルワイス』を覚える前から『ヒール』は覚えていたから怪我や病気は無縁だった。


 これ……治療院は無理だな、俺。こんなのを日に何度も見せられたら心が折れる。

 いや、患者だけならなんとかなるかもしれないけど、縁者と合わせて見ると胸が苦しくて仕方がない。

 さっさと治して帰ろう。


 って思ったのに、いざ治療を始める段階で気づいてしまった。


 この家……家財が全然ない。家具がない。

 椅子も机もタンスも何もない。

 かろうじて薄いベッドのようなものがひとつだけあり、そこに女性が寝かされている。


 うちも旅の最中はテントみたいな感じで小屋を建てていたから、似たような家具の程度で済んでいたが、普通に住んでいる家でこの家具の無さはありえない。



 きっと、この女性のことを看ながらの仕事なんて出来る訳もなく、家財を売りながら生活し看病していたのだろう。

 そんな想像をしてしまった。


「…………では、今から治療を始めます」


「お願いしますっ。お願いっ、します……」


 余計な考えを振り払い、治療を始める。


 女性の足に手を当て、エメラルド色の光の魔法を使いながら『ヒール』を行う。

 『エーデルワイス』はしなかった。







 『ヒール』をやめ、静かに立ち上がると、男性に向かい頭を下げた。


「もうしわけありませんでした。私の魔法では至らず、奥様を治すことはできませんでした」


 顔をあげることもできず、ただ地面を見つめながら言った。

 『ヒール』のおかげで女性の症状は少し軽くなり穏やかな表情になったが、やはり『ヒール』では治らなかった。


 不思議と男は激昂しなかった。


「そ、……そう、ですか。わかりました……。………………一人に、してください」


 全てを諦めたように、「一人にしろ」と言われてこちらが泣きそうになってしまったが、静かに家を後にすることにした。

 家を出て扉がしまった後、小さく独り言をこぼす。


「あんなの金取れるわけねーだろ。ふざけんな。もっと裕福な生活しろよ。……はあ」


 あの人は何も悪くないのに悪態をついてしまう。

 あーあ、ギルドになんて言おう。キャンセル料とか必要なのかな? と思いながら帰る前に家の壁に手を当て中にいる女性に魔力を伸ばし、魔法を使う。


 その魔法は当然『エーデルワイス』。

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