第12話:王都到着
王都に到着した。だいたい30日弱。
ノイエの歩幅が小さいので少し掛かったが、別に急ぐ必要もないので、だらだらと歩いた。
俺が荷物や二人を持って空でも飛べば、もっと短い時間で到着も出来ただろうが、女の子との旅は楽しいし、旅の省略は無粋だと思う。
魔物にもちょいちょい襲われたが、返り討ちにした。
「ここが王都か」
で、王都アトレイア――。
人口は、わからない。
面積は、わからない。
郷土品も名産品も何もわからないが、とにかくここが王都だ。
渋谷とか新宿とかを知っている俺からしてみればど田舎もど田舎だが、前の町と比べたらものすごく栄えている。っぽい。
土造りの一階建てと、石造りの二階建ての建物が所狭しと建っている。石造りの一階建てもある。
石造りの方が高級なのはわかる。
そういえば石造りの建物で二階建てって、一階と二階の間の天井? 床? ってどうなっているのだろう? 人や荷物の重みで床抜けないのだろうか?
コンクリートの技術が発達してるとも思えないし。
わからん。
広い道には地元の町の祭りの時の10分の1くらいの人が歩いている。
「おーご主人ご主人、人いっぱい」
周りをキョロキョロ見渡し、少し興奮気味のアンコ。どこか違和感がある。何かがおかしい。
なんだ……?
「あれ? アンコ、人嫌いは?」
ふと、気がついた。
アンコ、お前人嫌いはどうした。
奴隷召喚の劣悪な環境で人嫌いになっただろ、お前。
俺に対しては心を開いてくれたみたいだけど。
「人嫌い? なんで? ご主人、この人たち、人じゃない?」
「チョット、マテや」
ガシっとアンコの顔をワシ掴む。
親指と小指で頬を挟むように掴んでいるため、アンコはうまくしゃべれなくなっている。
うごうご言ってる。
「むぐぐぐぐぐ」
「お前もしや、他所で作った人嫌いを俺にだけぶつけて、俺で人嫌い直したのか」
だとしたらトンデモねーことだ。
俺だけ貧乏くじを引いたことになる。
「おいコラ」
「うごごごご」
「ほら、二人共ばかやってないで行くわよ。もう……」
ノイエが呆れて、アンコも呑気で。
多分、俺も笑っている。
王都に至るまでの道中の約1ヶ月は長く、俺たち3人が仲良くなるには十分な時間だった。
アンコは食事や遊ぶたびに俺にどんどん懐くし、ノイエは前から妙に好意的だったし、俺もそんな2人と仲良くなれるように努めた。
結果、アンコは俺を群れの長と認識し、ノイエもよく笑うようになり、俺も2人に対して顔色をうかがう事も少なくなった。
つまり、気は使うけど顔色はうかがわない。
良い関係が築けたと思う。
「とりあえず宿取ろうか」
そう提案するとノイエがあからさまにため息を吐く。
女性のため息ってなんでこう、艶があってこっちが恥ずかしくなるんだろう。
けど、ため息はひどくない?
俺おかしい事言ってないよね?
「仕方ないことだけど、お金を払ってわざわざ住みにくい場所に泊まるのも、なんだか不満よね」
「そりゃ風呂も無ければ便所もアレだけど、だからって町の外の人目につかない場所まで行って作るのもどうかと思うだろ。門税もその都度かかるし」
ノイエと俺、2人でしょうがないしょうがない、と結論を出した所で、まさかのアンコから解決作が出た。
「地面の下は? まえみたいに」
「!!」「!!」
その発想はなかったぞアンコ。いいぞアンコ。
「よく言ったわ、アンコ。それなら問題は解決よ」
「いいぞアンコ、こっちこい頭撫でてやる」
トコトコ寄ってきたアンコの頭を乱暴に撫でてやると、アンコの尻尾がブンブンとちぎれそうな早さで振る。
俺たちは早速地下室を作れそうな場所を探すことにした。
「出入りを人に見られなければ多少狭くてもいいからな。地下に土地権なんてまだない時代だ」
分担するほどのことでもなかったので3人でウロウロと歩く。獲物を探す眼光は鋭い。どこに出しても恥ずかしくない立派な不審者だ。
そうして歩いていると、人気の殆どない路地裏の曲がり角にいい場所を見つけた。
「ここなんてどうだろうか」
「アンコはどこでもいい」
「ここ? いいわね。人目にも付きづらいし、町までの距離も遠くないわ」
「じゃあここに作るけど、その間ノイエ達はどうするんだ? 多分時間掛かるぞ」
「なら、トーヤが作ってる間に私たちはアンコの服"とか"見てくるわ」
「わかった」
いつまでも奴隷服のままじゃかわいそうだったからな。
流石に魔法でも植物の繊維から布作ったり服作ったりなんて出来ないから、用意できなかったし。
狩った魔物の皮で作った服は暑いって嫌がられた。
そりゃそうだ。昼間は気温20℃以上あるし。
たまに俺の服を着せてたけど。
「じゃあ、ご主人いってきー」
「ほーい、いってらー」
2人を見送りあたりに人がいないことを確認し作業に取り掛かることにした。
さて、んー……前はなんて唱えたっけ。まあいいや。
「春を待つふきのとうのように地下で……えーっと『アンダーグラウンドハウス』」
地下を作る前にまず目隠しを作り、そのあと時間を掛けて地下の中も作る。
人の目を気にしながらやっていたので思ったより時間が掛かる。でもしょうがない。
時間はあるし、ゆっくりやろう。
◇
作業開始から1時間弱。
完成したのは地下5m程に広がる空間。
入口はハシゴで少し降りた後は階段になっていて、仮に落下しても怪我はしない構造にした。
当然、石製のマンホールで蓋も用意する。
風呂、トイレは別。
というより、トイレは離れ、といえる位、離れた場所に作った。匂いとか音の問題とかあるしね。
やっぱり女性がいると気を使うよ。
トイレだが、今までは旅で一日しか使わなかったから簡易的なボットン便所だけだったが、これからはここに長期的に住むことになるかもしれないので、今まで森でも使ってた洋式の水洗"っぽい"トイレを作った。
いわゆる洋式便所だ。
便座は、背の小さいノイエの為に一回り小さい2段式のを用意した。
後で洋式便所の使い方を教えてあげよう。
寝室は広めに一つ。
1人で寝るのは寂しいからだ。
なんでかわからないけど、別に二人も嫌がる様子はない。
信用されてる感じがする。
地下で火を使うと酸欠を起こしそうなのでキッチンは無し。
空気穴を二つ用意し、雨が降っても平気なようにちょっと煙突っぽくした。
その所為で人の目に付きやすくなったかもしれないが、多分大丈夫だろう。
水のタンクに繋がる地上への穴が一つ。
仕切りは全て上に隙間を作り光が入るようにした。
やることもなくなったので、外に出てぼーっと待っていると割とすぐ2人が帰ってきた。
「たっだいまー」
「おかえりー。アンコの服、キレイになったなー」
「へっへー」
奴隷服から清潔そうな普通の服になったアンコを褒めると、尻尾をブンブン振りながら喜んだ。
「ノイエもおかえり」
「ただいま、お待たせ。出来たの?」
「出来たよ。見る?」
荷物を受け取って中を案内する。やだ、超ファミリーっぽい、このやり取り。
俺が旦那で、ノイエが妻、アンコが娘。
身長的にはめちゃくちゃだが、やり取り自体はそんな感じだ。
もうなんていうか毎日が楽しい。
「なんだか今回のは随分立派に作ってあるのね」
中を案内をする時、ノイエが光の魔法を使いたがったので今回はノイエに任せる。
ノイエは前に土、水、風の魔法がどうとか言っていたが、光も使えるようだった。
「注意することは、地下では火はあまり使って欲しくないので料理は地上ですること。後は便所が今までと形違うから、教えてるからちょっと来て」
間取りに関しては教えることもあまりないので、空気穴の近くに松明を置く場所があることだけ教えておいた。
普段は、俺の血液を賢者の石代わりにして光の魔法を込めればいい。
俺がいない時の為の松明だ。ホント、酸欠大丈夫だよね?
流石に死んじゃったら俺でも治せないよ。
『エーデルワイス』は超使えるけど、生きてるものにしか効果がないから。だから気をつけてね。
間取りや道具の使い方を教えると、ノイエは腰を下ろし、困ったような顔をした。
「やっぱり駄目ね。ここでもあまり良い顔はされなかったわ」
「あー、例のやつね」
差別ってやつだ。
けど、服とかは普通に買ってこれたし、身の危険を覚えるほどでもないのだろう。
なんとかしてあげたいけど。
「それから町の人が話しているのを聞いたのだけど、この国のお姫様の1人が、2ヶ月後に処刑されることになったらしいのよ」
「何そのヤバいイベント。怖いんだけど」
それで、この町の違和感がわかった。
俺の地元との人口差を考えたら、ただの日常に、あんなに人が出歩いてるのがおかしかったのだ。
祭りの時の10分の1も出歩いてるっておかしいだろ。
「ご主人、あのね。なんか、アクマがなんとか言ってた」
「悪魔?」
そんなの居るのかよ。亜人?
「悪魔憑きね。そういうのがあるのよ」
一体、どういう現象なんだろう。悪魔憑き。
地球に居た頃はオカルトとして鼻で笑えたけど、こっちの世界は普通にオカルトな魔法とかあるし……。
「そのお姫様ってどう? 似顔絵とかある?」
俺も馬鹿ではないで、ここで写真なんて言っても伝わらないだろうから、似顔絵と言っておいた。
現代日本じゃ姫なんて制度はなかったから、姫というのが気になる。悪魔も気になるけど。
「そんなの私にわかるわけないじゃない」
な?
「とにかくそんなわけで、今、この町は少し慌ただしいの。だから明日はギルドにでも行ってみるわ」
「え? 町を出るんじゃないの?」
「服も買っちゃったし、ほとんどお金残ってないでしょ?」
「アンコのせい?」
「そうだけど、そうじゃないよ」
奴隷のアンコを買った金と、服と、町に入る税金で大分吹っ飛んだからなあ。
ギルドか……。結局クエストってまだ一回しかこなしてないんだな。
治療が役に立つクエストとかあったらしてみるか。