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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
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第11話:逃げたはいいけど、どこ行こう

 何日か経った。

 結局、アンコは奴隷という扱いではなくなった。


 そもそもの話、もう首輪もないし、焼き印もないし、奴隷扱いをする必要がない。

 命令しなくても、コラ! ってすればちゃんと話も聞いてくれるし。


 それはいいとして、とにかく町から離れる為に歩いたが、当てもなくさまようのもアレなので、どこか目的を持ちたい。


 ぶっちゃけ、生活するだけなら食糧も住む所も困らないが、布とか作るのが大変な物は町で調達しなければ手に入らないから。


「王都に行きましょう」


「王都って王様が居る町? なんで?」


 王都ってくらいだから、国の中でもかなり大きめの町になるんだろうけど、なんでだろう。

 俺個人としては、この世界の文明レベルを知りたいので、賛成。


「トーヤがいれば王都でもあまり立場が悪くならなそうだからかしら。前に二人だったときはやっぱり人の町は、特に大きな町には居づらかったのよ」


 でも、大きな町は色々知れるし物も手に入るから。とノイエは続けた。


「ノイエ、いつも大変そうだった」


 なるほど、そういえば差別がどうとか前に言ってたな。

 そっち方面の理由は考えてなかった。


「それに、お金もたくさん稼げるでしょ?」


「お金はまあ、返してもらうけど、別にいつでもいいよ」


 どうせ急ぎの使い道もないし。

 それよりこのまま貸しておけば、それだけ一緒に居られるって事だし。


「借りっぱなしはいやなのよ」


「その辺はノイエに任せるよ」


「? うん」


 アンコがわからないまま頷くが、よく考えろ? 本当はお前の借金なんだぞ。



「ここから王都までは歩いたら20日から30日、といったところかしら。このまま、まっすぐ向かうと他に町がないから普通は迂回するのよ」


「あ、虫いた」


「聞いて?」


「俺は聞いてるよ」


「ノイエ、でかい虫がいる」


「そうね」


 こっちの世界の虫は数が少ない代わりにデカい。小さいのもいる。気持ち悪い。

 今ではもう慣れたが、こっちに来た当初は嫌な思いをたくさんした。

 気分を害した。





 王都に向かい歩く道中。

 俺が異世界人かどうかを信じたかはわからないが、とりあえず無知なのは伝わったので、ノイエは色々な事を教えてくれた。


「この木を見て、蔦が巻きついてるでしょ? この蔦がある木の下には芋が埋まっているのよ」


「へー」


「芋嫌いー」


 アンコは思ったとおり、肉が好きで他の野菜類が嫌いなようだ。


 ちなみに、森にもあったのでこの芋の事は知っている。

 無知と言ってもアンコより長い期間この世界に住んでいるのだ、これでも。


「そういや、ノイエ達はなんで人の集落にいるの?」


 自分たちの種族が居る集落に居ればいいのに。

 ……って言いながら後悔した。

 俺はたまに、本当にうかつだな。言った後に気づくのだ。


「私の最初の集落は、なくなっちゃってね。別の集落に入れてもらってたんだけど、馴染めなくて出てきちゃったのよ」


 ここは日本のような平和な世界じゃないし、差別を受けながらもそこに居るなんてそれなりの理由があるのは当然なのだ。やらかした。


「アンコの村は滅んだ」


「えっ、軽っ」


 めちゃくちゃ重い事を軽く言わないで。

 俺の気持ちを知ってか知らずに、二人は思い出話をするように、重い話をぶつけてくる。

 いや、アンコは間違いなく知らずにやってる。ノイエは多分わかってやってる。


「アンコの村にドラゴンきて、気づいたらみんななくなってた」


「アンコはね、アンコのお母さんと逃げたのよ。そこで私と出会ったんだけど、アンコのお母さんはひどい怪我をしていて、すぐに亡くなってしまったの」


 ひどい事故だ。心の準備もできない。

 みぞおちの奥のあたりがきゅーってなる。


「それから私と二人で旅をするようになって、今に至るの。ちなみに私の最初の集落もドラゴンによって滅びたわ。子供の頃の話よ」


 やめて。

 もういいから、もうわかったから。やめて。


「俺もドラゴン討伐に失敗してジジイ亡くしてるし、みんな一緒。ほら、もうこの話やめよう」


「そうね」


 どこかいたずらっぽい笑みを浮かべるノイエ。妙に大人っぽい。


 前から思っていたけど、もしかしてこの人俺より年上なんじゃ? 女性に年齢を聞くなんてマナー違反と教わったので聞いてないが。

 ちなみに俺は26歳だから。

 外見は16から17歳位で、ほぼアンコと同い年だけどね。外見詐欺ってやつ。ノイエも。アンコも。俺も。

 ……全員じゃねーか。





 その後、雰囲気も特に暗くならず、むしろ外が暗くなってきたので野宿の準備をすることにした。


「たけのこの家『バンブーハウス』」


 ズボっ。


 地中に魔力を通して地中で形作った後、地上に持ち上げれば完成しているって寸法だ。

 土をわざわざ山のようにして家を作るかまくら方式より、こっちの方がやりやすい。


 前みたいに地下に作るのも良いが、手間かけて家を作る訳だし、偶然通りかかった旅人あたりが使えればいいかな? と思って残す事にした。

 地下の場合、雨が降るとひどい事になる。



 肉は昨日の分が残ってるから狩りする必要もないし、風呂でも作るか。


 家の横に穴を彫り、水を入れても土が混じって濁らないように石でコーティングした後、水を入れてから温めてお湯にした。

 広さはだいたい直径2m。広い。


「さて、皆さんにはこれからお風呂というものを説明します」


「知ってるわ。お湯でする水浴びでしょ」


 知ってました。

 宿の人がこの辺にはないような事を言っていたので、ちょっと上から目線で説明しようとしたらこの有様でした。恥ずかしい。


「アンコ知らない」


「あら、じゃあ後で入る時に教えるわね」


「おー」


 ……風呂入って気分転換しよ。



 風呂の横に二辺の壁を作り、ノイエ達から見えないようにしたあと、ゆっくりと風呂に浸かる。

 魔法は便利だ。色んな事ができる。

 偶然に手にしたにしては有能すぎる力だ。


 星を見た。

 草原の方はちょっとよく見えない。でもいい景色だ。

 露天風呂というのはいいものだ。





 そして翌日。

 順調に王都へ向かい進む中、事件は風呂の時間に起こった。


「おいす」


 俺が風呂に入ってる最中にアンコが中に入ってきたのだ。もちろん俺もアンコも全裸だ。尻尾をぶんぶん振っている。


「うっぎゃああああ。何!? 何で!?」


「お?」


 お? じゃないから! なんで入ってきてるの!?


「ノイエっ、ノイエーーー!!」


「うるさいわね。いいじゃない、入れてあげてよ」


 何騒いでるのよ、と言いたげな返事を壁の向こうからされてようやく俺も冷静になってきた。


 アンコは子供だから恥ずかしがるのがおかしいと。

 男の俺と入っても別に不思議じゃないと。そういうことなのね。


 んな訳あるかっ! 見ろよこいつを! 違う! 見るな、目をそらせ! 10歳だって肉体は見た目15歳じゃん! R18って言葉を知らねえのか!!

 いや、15歳はセーフなのか? アウトだろ!


「ぎゃーす」


 全然気の休まらない風呂の時間が過ぎ、出た頃には疲れきっていたが、なんとか乗り切った。


「あのですね、いいですか、アンコさん。女の子は男と一緒にお風呂に入るのはいけないことなのですよ? わかりますか?」


「おー!」


「こいつわかってねえわ」




 お叱りを入れてまた翌日。

 風呂を壁で囲ったら負けだと思い、しかし2辺から3辺に増やしたが、アンコは入ってこなかったので壁は役には立たなかった。


 別に残念じゃないよ。



 安心したさらに翌日、また入ってきた。


「なんでだよ!?」


「お?」


「お? じゃない!」


 それからも叱っては休んで、叱っては休んでと一日おきに入ってきたので、とうとう俺の方が折れた。


 あれだ。

 俺、ちょっと最近テンションが高すぎたと思う。

 人里に下りてきて、女の子と知り合って、久しぶりすぎる生活に舞い上がってた。

 こんなの俺のキャラじゃなかった。

 ……ほんとだよ?


「はぁ、俺の負けだ。アンコ、こっち来な。頭洗ってやるから」


「頭? かみの毛? 顔?」


「髪」


 のこのこと寄ってきたアンコの髪をわしゃわしゃと洗ってやる。

 石鹸はないので水洗いだ。

 石鹸のつくり方なんてわからないし、王都に売ってるといいな。なかったら代用できるものを探そう。


 なんだかんだで慣れてきた俺は、この事態も役得だと思えるようになり、それからは普通にアンコと風呂に入るようになった。

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