第9話:仲良くしたい
ひと仕事終えた父のように家族(嘘)の元へ戻ると、ノイエ”は”暖かく迎えてくれた。
「どこ行ってたのかはわかるけど。何してたのよ」
ぅぅぅ――。
「ちょっと奴隷の人達の怪我が気になったから治療の魔法をかけてきた」
「あなた治療の魔法まで使えるの? 呆れた。あなたホントお人よしね。治療院でもやればいいのよ」
あー、その案があったか。
冒険者なんてことわざわざしなくても、治療費で稼げばよかったのか。感謝もされるし一石二鳥じゃん。
って、実はその案前からありましたー。
やりすぎて、有名になって、搾取されて、依存されそうだったからやめたんでしたー。
ぅぅぅぅぅぅ――。
「ところでノイエさん。あの、俺、なんで唸られているのでしょうか?」
見ないようにしていたが、我慢できずに聞いてみた。
本人に、ではなくノイエに。
やっぱり救出時に落としちゃったからでしょうか?
さっきうーうー言ってたのとは勢いが違う。
「奴隷商館に入れられてる間に人間が嫌いになったみたいなのよ。ほらアンコ、さっきも言ったでしょ。この人が助けてくれたのよ。悪い人じゃないの」
ノイエが懸命にアンコをなだめてくれるが、効果は感じられない。こっを見て唸っている。こわい。
10歳に怯える26歳。おれ。
「ちらっ」
「ぐるるるるるぅ!!!」
「ノイエーー!!」
「アンコッ!」
それでも唸るアンコさんに、とうとうノイエのお説教と説得が始まった。
そういえば俺って、こういう風に露骨に人に嫌われたことってないかも。
日本に生きてた頃は出る杭でもなかったし、友達との喧嘩はあってもこうやって露骨に嫌われるようなことってなかったような気がする。
こっちに来てから知ったけど、意外と夜って明るいよね。
星の光っていうかさ。
雲に覆われてなければ、影だってできそうな位に明るい。
星の数が多いからだろうか。
そんなことをぼーっと考えながら、ノイエたちを見守る俺。
こうやってぼーっとしてたら問題解決しないかなー、とか。無理かな。
10分後、アンコは唸らなくなったが睨まれている。
怯える俺。
ため息を吐くノイエ。
「とりあえずここを離れましょう。もう真っ暗だけど野宿出来る場所を探さなきゃ」
「あ、俺用意出来るよ。この件に関してはノイエに謝らないといけないけど」
隠してたから当然なんだけど、野宿しなくていいのに3日も野宿させたからね。
「そういえば先ほどの魔法を使えるなら確かに野宿もできそうね」
なるほど地下か。
確かに落盤しないようにしっかり固めれば、地上より地下の方が外敵を気にしなくて済むな。よしそうしよう。
町から離れ、もう大丈夫だろうと思った所で、地面に手を当て魔力を浸透させる。
「地を這う獣が身を守るため、さらに地下に身を隠す『アンダーランドカフェ』」
地下に空間を作り、加熱して殺菌をする。
そのあと二箇所の穴を開け、一つをそこから中に入れるように階段を作る。もう一つは空気穴。
明日になったら出ていくし、人なんて通らないだろうけど、一応蓋や格子?で穴を保護して完成。
それにしてもまたポエムってしまった。もう癖なのかもしれない。これ。
しかも絶対カフェ関係ない。それにアンダーランドよりアンダーグラウンドの方がよかったかもしれない。
まあいいか。
「出来た」
「何が?」
「?」
アンコだけではなくノイエも首をかしげている。
いや、地下に部屋を作るって説明したじゃん。
部屋の中に入り、光の魔法を使うと、入口が照らされ外からでも中が見えるようになった。
「何、これ? なんでもう出来てるの? 前から思っていたけど、そもそもおかしいのよ」
唐突に俺に対するノイエの訊問が始まった。まるで裁判か何かのように。
そういえば、小学生の頃は学級裁判みたいなのがあったなーなんて思う。
裁判を起こすのはいつも気の強い女の子だった。
起こされるのはいつもウェーイ系のやんちゃ坊主。
「あなたが魔法使いってのがまずおかしいし、今見てもあなたから魔力の漏れが殆どないし。それに今の魔法だって、人どころから魔法が得意なエルフだって無理なことをしているわ」
疑問で頭がいっぱいになったのか矢継ぎ早に言葉を繰り出すノイエ。口がいっぱい動いてる。
それに、いつの間にか魔力視も使っている。
だが言い終わった瞬間、冷静になったのかしおれた。かわいい。
「違うわ、ごめんなさい。こんなにお世話になったのに、責めるようなことを言ってしまったわ」
「ノイエ……」
アンコがノイエに寄り添う。
それでいながらこちらの方も心配そうに見る。俺の事嫌いなはずなのに優しい。
でも安心して欲しい。いっぱいしゃべるノイエを見て、俺は今なんか気分がいいんだ。
さっきの首をかしげてた時にも思ったけど、このアンコって子結構素直な気がする。今はアレだけど仲良くなれたら仲良くできそう。
今はそれよりもノイエの方か。
「いやいやいや、全っ然気にしてないから。俺がおかしいのはわかってるから。説明するからとりあえず座ろう」
そして俺たち3人は地べたに座ると、俺の秘密を打ち明けた。
アシュクロフト・ナーミンという男に召喚されて、別の世界から来たこと。
その際に死にかけて賢者の石を使ったら身体……というより血液が賢者の石になってしまったこと。
結果、無尽蔵に近い魔力を手に入れたこと。
魔力を上手に操作できるようになったこと。
それが人とは比べ物にならないほど上手なこと。
そのおかげか、体内から漏れる魔力が殆どないこと。
長い時間をかけて練習したので、色々な魔法が使えるようになったこと。
こんなに話してもいいのかなってくらい話してしまった。
秘密を打ち明けると、肩の荷が下りたような気がする。
他人に許してもらいたいと思う気持ちがある。
「ノイエわかった? アンコは魔法がすごいこと以外、全然わからなかった」
この子本当に素直だな。
10歳といいつつ15歳くらいに見えるけど、頭の中はもっと低いのではないだろうか。
いや、10歳ってこんなもんかもしれない。
俺が10歳の頃は小学4年生とかだったし、こんなもんだったかな、とも思う。
「にわかには信じ難いけど、疑うにはちょっと魔法の出来が異常ね」
いえ、やっぱり全面的に信じるわ。と言い、ノイエは考え事を始めてしまった。
何を考えてるのかわからないけど、今はあまりつつかない方が良い気がする。
「今日はもう遅いし寝るというのはどうかな? どうでしょう? それと、その前にアンコさんちょっといいかな」
歳が半分以下の子供に、つい、さん付け。
「な、なに?」
アンコさんはビクッとしたが、こちらの話を聞いてくれるらしい。
いつの間にか、だいぶ態度が軟化していたようだ。
ノイエの説得のおかげかな?
「その首輪が気になっててね。取りたいんだけどいいかな」
「金属に魔法は効果ないわよ」
考え事をしていたノイエも、こちらが気になったのか話に参加する。
「そんなことないよ。単純に出力不足でしょ。金属は俺でも手応えを感じるから、きっと普通の人には出来ないだけだと思う」
そんなわけ……、と驚くノイエを尻目にアンコさんに近づき首輪に触れると魔力を込めて破壊した。
およそ腕力などでは起こらない、崩れるように金属の首輪が破壊される。
「ほらね」
「おー」
アンコさんも感嘆の声をあげる。
「はぁ。もう色々わかんない。もういいわ。もう寝ましょ。今日は色々あったから」
ノイエは自暴自棄になっている。一見するとふて寝だ。
きっとエルフなりの魔法に対する自信とプライドがあるのだろう。
「そうだ、ついでに肩の焼印も治すね」
そう言いながら回復の大魔法『エーデルワイス』を使う。
ほい、治った。
「もう、やだぁ」
キャラ崩壊を起こしたノイエの可愛らしい声が地下にこだました。