プロローグ
プロローグ1と2を統合しました。
その際に、アシュクロフト(爺さん)視点だったのを主人公視点にしました。
あ、と思ったときには遅かった。
光る足元。身体に絡みついてくる謎の紋様。手すりの低い歩道橋から落ちる俺。近づく地面。
――それから、見なくても分かるくらい重量感のあるクラクション。
目が覚めるとどこかの洞窟に居た。
あと、なんか爺さんが居る。
「??????????」
???
言葉がわからない。
マジでまったくわからない。
英語っぽいイントネーションでもないし、フランス語とか中国語とかでもない気がする。
それにしては、そんなに外人っぽい顔付きでもない。
そんな奴が俺に話しかけている。
まったくわからない言葉で。
「何ここ」
「???????!!」
「うわっ、急に興奮するなよ。怖い。ってか誰?」
「???????!!」
やべえ、何もわからねえ。
興奮する爺さんを放置して、洞窟……っていうか洞穴? を出ると森だった。
っていうか、歩きにくい。っていうか、なんか身体が小さい!?
「??????!!」
興奮する爺さん。混乱する俺。何もわからん。
どうすんだよ。俺。何を? 何が?
???
◇◇◇
「コレ、ノ、ナマエ」
3週間ほど経つと何だかんだで言葉を少し覚えだした。
でも、それだけ。まだ何もわからない。
「ココは、国、アトレイア」
どうやらここはアトレイアという国らしい。
全然聞いたこともない国だ。
どの辺? 地図とかないの?
「なんじゃ、トーヤは魔法が使えないのか」
3か月も経つと大分コミュニケーションも取れるようになった。
人間必死になるとすごいのだ。自己紹介だってできた。俺、新木 十矢。
んで、この爺さんはアシュクロフト ナーミンとかいうクソかっこいい名前してる。
っていうか魔法!? 何言ってんだ、この爺さん。
「賢者の石を使ったからか、トーヤは魔法の物覚えが良いな」
どうやら、このジジイは命の恩人らしい。
こっちの世界? に来た際、死にかけだった俺に賢者の石を使う事で命を長らえたらしい。
ただ、いまの俺が5歳児くらいの外見になってるのは賢者の石が原因ではないとか。
っていうか死にかけたの、ジジイが俺に魔法掛けて、びっくりした俺が歩道橋から落ちたからじゃん。
5歳児になったのも、その魔法が原因なんじゃねーの? なあ! ボケ! 家に帰せ! ピカピカの高校生だぞ、俺。
「それはスライムじゃな」
段々と分かってきたが、ここは地球ではないっぽい。
森でスライム拾ったし。ありえない位黄色いし。ウミウシかよ。陸上で。
なんか土乗っけたらプリンっぽいなコイツ。あープリン食いてえ。
つーか、なんで俺たちこんな所に居るの? 他の人類とかいないの?
「ワシは隠居したんじゃ。人に嫌気が差してな。宮廷魔導士なんてやってたのも昔の話じゃ。今は籠って魔法の研究ばかりじゃよ」
知るかボケ。俺を巻き込むな。勝手に引きこもってろ。家に帰せ。
「トーヤはすごいな。天才じゃ。こんなにすごい魔法使いは初めてじゃよ」
マジ? 才能ある? まあ自分でも怖いくらい物覚え良くてびっくりしてるんだけど。
この間なんて空飛べるようになったんだぜ。
「こんな魔物を一人で狩ってきたのか? すごいのお」
ほんとかよ。適当におだててりゃ木も登るとか思ってるんじゃねーの?
まあ、このレベルの魔物はジジイじゃ無理だし?
俺に任せておけばいくらでも狩ってくるけど?
「好々爺?」
そういう言葉があるんだよ。いつもニコニコしやがって。本当に人間嫌いで引きこもってんのかよ。このジジイ。
っていうか、俺を町に連れてけ。
なんで、町に買い出しとか行くときに俺を置いていくんだよ。
◇◇◇
あ、と思ったときには10年程が経っていた。
地球とこの世界の差に慣れ、明らかに低い文明に慣れ、生活に慣れ、魔法も覚えた。
そしたら10年も経っていた。
元の年齢に追いついちゃったよ。外見。
「ドラゴン退治?」
「そうじゃ」
いわく、この世界において最強の生物らしい。
身体が大きく、力が強く、堅く、魔法まで使う。
ようするに魔法を使う恐竜みたいなもんだろ?
っていうかそんなの退治するのかよ。
「この間、どっか行ったかと思ったらそんな用事頼まれてたのかよ。隠居じゃねーのかよ」
「こんな儂にも声が掛かっての。まったく国という奴は」
たまに俺を置いてふらっと出かけるジジイだが、何やら依頼を受けてきたらしい。
まあ、こんな洞穴生活でも、金は必要だからな。土産も買ってきてもらってるし。
「俺もついていこうか?」
「ダメじゃ」
「何でだよ、連れてけよ。最強だぞ、俺」
「ダメじゃ」
魔法を覚えた俺はハッキリ言って最強を名乗れる自負がある。
賢者の石のせいか、膨大な魔力を得た上に、なぜか面白いように魔法を覚えられるので、俺は調子に乗った。
しかし、調子に乗るのも仕方がないと思う。
国でもトップクラスらしいジジイですら、俺の足元にも及ばないのだから。
だから連れてけって。
絶対、役に立つから。絶対。
「国からの依頼というのはそういうものなんじゃよ」
「じゃあこっそりついていくから」
「ダメじゃ。この依頼には人が大勢参加する。だからダメじゃ」
「やっぱりそれが本音じゃねーか。大丈夫だって。俺、元々10万人以上の人が居る都市に住んでたんだぞ」
ジジイが人に嫌気が差していて、俺と他人を合わせたくないのは知っている。
だが俺だって、陰湿なインターネットのやり取りやクラス内ヒエラルキーを経験した現代人なのだ。
だから平気だって。
って言ってるのにこのジジイは。
「ダメじゃ」
「くそ頑固ジジイ。死ね!」
このジジイまじ頑固。
素直に聞いてる俺も俺だが。
「本当に死ぬかものう」
「じゃあ連れてけよ」
ドラゴンがそんなにやばくて、人が集まってもダメなら、尚更俺が居た方がいいだろうに。
ジジイ程度で人類の中でも上位なら、俺なんて無双ゲーム並みに暴れられるぞ。
「ダメじゃ。もしも。もしも、儂が帰ってこなかったら、ここにあるものは皆トーヤの物だから。それを使ってどこか近くの村にでも……」
「いや、この期におよんで村かよ。っていうか帰ってきて、魔法の開発するんだろ。俺が帰るための」
「……そうじゃな。トーヤを家に帰さないとな」
「そうだそうだ」
このジジイも律儀なもんで、もう10年ずっと俺を帰す為に、魔法の研究をしている。
引っ張ってきたのだから送る事も出来そうだが、世界の特定というか座標合わせというか、そっち方面で苦労しているようだ。
「じゃあ行ってくる」
「ダメそうなら逃げ帰ってこいよー」
「もちろんじゃ」
そう言って、ジジイは帰ってこなかった。
一応古い方は『短編とか。』の方に送りましたが、読まなくて結構です。