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第1話 「 転生 カンパーニャマーチ始動!! 」

「佐藤、またお前のせいだぞ」


部長の叱責が守の身体を勢いよく、通り過ぎた。


(お、俺のせいではないのに)


佐藤守は心中で嘆息をした。年齢は30歳。職場を転々としているため、この職場もまだ日が浅い。


しかし、何故かよくどこの職場に行っても上司には目を付けられる。


「・・・って聞いてるのか、おい、佐藤」


部長の怒号がまたフロア内に響いた。

周囲の従業員はそんな光景は見慣れているのか、特に関心といったそれもない。

聞き耳を立てている者もいれば、守のことなど意に返さず、黙々と仕事に打ち込んでいる者もいる。



「は、はい。部長聞いております。すみません」


心中で軽く舌を出しながら守は深々とわざとらしく頭を垂れた。

この部長という生物は人を怒鳴るだけ怒鳴ると気分が晴れるのか、すぐにそのことに対して関心がなくなるのを守は知っていた。

普段から怒られ馴れている守が分析した結果だ。


「ふん、謝ってばかりで芸の無い奴だ。まぁ、いい。ならさっさと今すぐ始末書書いてこいよ。

今すぐにだ。分かったな!!」


部長はまくしたてるように言い、言い終わると守を手であっちへさっさと行けというように促した。

守は軽く会釈をし、自分の席にゆっくりと戻り、腰掛けた。

肉体的にも精神的にも重いし、だるい。

何故こうなったかというときっかけは割愛するが大元の現況はこの部長の通達ミスが原因である。


(やれやれ・・・何で俺が部長の尻拭いをしなくてはならないんだ・・・)


いつものようだがやはり精神的にくるものを守は感じた。フロアの何もない天井に視線を移し、ぼっーと見つめる。

自分がこの天井の白い壁に吸い込まれるようなそんな錯覚になる。

天井の一部分に溶け込むといった表現が正しいのかもしれない。

部長の雷が落ちたときはいつも守はこうしていた。自然と考えて行っているわけでなく。


(さてと・・・そろそろ書き始めるとするか)


守はようやく視線を天井からデスクに移した。そこにあるのは小さないつも見慣れ、書きなれた紙切れだった。






「ふううう・・・。疲れたな・・・。」


守は深いため息をし、ゆっくりとイスにもたれかかった。時刻は夜の8時。

あの後始末書を書き、自分のやるべきことをしてから会社から帰宅した。

始末書は手馴れたもので間違いなど指摘されたことなど今までほとんどなかった。

自慢することではないが。

そのとき、テーブルの上に置いた携帯電話が小刻みに振動した。

画面を見るとそこには佐藤柚子というデジタル文字が表示されていた。


「柚子からか、いったいどうしたんだろう」


守は着信ボタンを押して電話に出る。


「おにいちゃん? 柚子だけど」


「おぉ、柚子か。どうしたんだこんな時間に?」


守は聞き返した。


「どうしたんだじゃないよー 今日が何の日か忘れたの?」


「んー、なんの日だったっけ??」


守はわざとらしく聞いた・


「むー、おにいちゃんの馬鹿。忘れちゃったの!!」


電話越しだが自分の妹がふくれっ面で話しているのを守はすぐに感じた。


「なんだったっけかなぁ」


守はさらにわざとらしく聞き返す。


「お、おにいちゃんのば・・・」


柚子が馬鹿と言おうとした時だった。


「合格おめでとう、柚子」


守はすでに知り得ていた情報を伝えた。


「し、知ってたの!?」


「うん、前に実家に帰ったとき偶然受験票見てしまってさ。今日いのいの一番で確認してしまったよ。本当におめでとう」


「ありがとう、おにいちゃん」


守はこの柚子のことを溺愛している。守とは年齢が15も離れた妹で昔からよく面倒を見ている。


「今度お祝いでもするよ。何が食べたい?」


「んー、和食でも洋食でもどっちでもいいよ。おにいちゃんと一緒なら私は」


(まったく自分の妹ながら本当によく出来てる)


「分かった。ならお店はこっちで決めておくよ。予定の空いてる日を後で知らせてくれ」


「うん、分かったぁ。ありがとう。おにいちゃんいつもありがとうね」


「気にするな。兄妹だろ、俺達」


「うん、じゃあ今日は切るね。おやすみ」


「あぁ、おやすみ」


静かに電話は切れた。守にとっては唯一の心が休まるひと時でもある。

今日、始末書を書いたことなどなかったかのように守の心は晴れていた。


(柚子・・・)






 柚子との電話が終わり次第、守はすぐに夜の街に繰り出した。

喧騒する繁華街を抜け、守の向かう先はもう決まっていた。

某アダルトショップである。所望するジャンルはもちろん妹系である。

自分の好みの娘をパッケージを見て千差万別する。

パッケージだけではその娘の全てを判断することは出来ない。何故ならパッケージは得てして写りがよく加工されていて、ブスでも美人に変貌を遂げている可能性が大いにある。

守の選択の仕方としてはまず良さげなパッケージのものを品定めし、それから某有名通販サイトの口コミを見てから熟考してから審議を下すのが大まかな流れである。


 「むむっ・・・おぉこの娘は」


守の視線の先にあったのはおさげのよく似合った瞳のまん丸とした麗しき淫靡な年端もいかない少女だった。早速口コミを見てみるが星4.5以上。合格である。


 「今日のディナーは君に決めた。俺のマスターボールも品切れ間違いなし」


レジで諭吉と永久とこしえの別れをし、第一任務を遂行した男は足取り軽く、家路に着いた。

あとは第二任務を遂行し、ミッションオールコンプレートを目指すだけ。

そのはずだった。

まだ人影のそこそこ多い街中の横断歩道で赤信号待ちをしていた守の視線に写ったのは赤信号なのに横断歩道を渡っていこうとする一人のおさげの少女だった。

どんどんと少女は怖いものなどないように進

んだ。しかしそこに制限速度を明らかに破った車は猛スピードで少女に突っ込んできた。

守の身体はすでに動き出していた。少女の二の腕を掴む。そこには無数のリストカットの痕があった。死にたがりなんだろうと守は思った。


 「君は死なせない。絶対にだ。守の名前は伊達じゃない」


守は少女に満面の笑みを作り、少女を横断歩道側に力強く、押し返した。少女は何か叫んでいたが守にはどうでもいいことだった。

迫りくる車のフロントライトに照らされながら守はつぶやいた。


 「すまねぇ、柚子。おにいちゃん約束守れないわ・・・」


と。その直後、守の身体に激しい衝撃が流れた。守の身体がおもちゃのように後方に吹き飛んだ。


 「痛い・・・寒いよ・・・」


精神的な痛みは常日頃感じて馴れてはいるが、肉体的な痛みは馴れてはいない。

次第に身体の感覚がなくなっていった。


 「柚子・・・柚子」


守の手の先にはまだ封が開けられていない妹系のAVががっしりと握られていた。






惑星カンパーニャ。

緑豊かなこの地には多くの種族が混在している。

人間族、獣人族。他にも様々な種族が共存し、侵す、侵さずの絶妙のバランスを保ちながらそれぞれが生活している。

この侵す、侵さずのバランスが崩れた時、争いの火蓋が切られ、カンパーニャは戦火に包まれたことが過去に数回あった。

そしてカンパーニャの地に新たな命が芽吹く。


(ここは一体・・・どこだ?)


守の意識がようやく戻る。しかし視線の先に移ったのは路上の冷たいアスファルトではなく木造の小奇麗な天井だった。

周囲を見回すが自分の知っているどの部屋の天井にも該当しない。


(どこなんだ、いったいここは?)


どことなく雰囲気と感じがイメージ的にカナダの大自然の中にある田舎のウッドハウスに似ている。

コンクリートを使用しているところはないようだ。


(むっ!?あれっ・・・・・あれ)


守は自分の周囲のことばかりで全く気がつかなかったが、一番の衝撃を今まさにここに受けてしまった。


(なんじゃあこれぇぇぇ!?)


守の視線の先には小さな紅葉のような赤子の手と、よくオモチャ屋で見たことのある赤ちゃん人形の胴体が自分の首から下に付いているのを確認してしまった。


(なんだ!? これは。 俺は車に轢かれて・・・・頭がおかしくなったのでは・・・)


十分、ロリコンで妹を溺愛している時点で、かなり危ないグレーゾーンには違いないが。それを差し引いても守は自分置かれている状況を飲み込めずにいた。


(何で、赤ん坊なんだ俺・・)


今の自分の心境を言葉にしようとするが赤ん坊のことゆえ、言葉にすることが出来ない。


(あぁ・・・これは夢だ。きっと夢なんだ。)


そんなことを考えている内に激しい睡魔が押し寄せてきた。

守はその睡魔に打ち勝つことが出来ず、ついつい意識が遠のいていくのを感じた。


(目が覚めたら自室の床か、病院のベッドの上だったらいいなぁ・・・)






ダッダッダッ。


激しい大きな足音が聞こえ、守が眠っている部屋のドアが勢いよく、開けられた。


「男じゃと!!」


「お父様、まだ眠っておりますの」


「おぉ、そうじゃったわ」


「父上、もう少し静かにしてください」


守はその図太い声に意識が完全に覚醒してしまった。

ゆっくりと視線を開ける。その先には美しい20代前半くらいのにこやかな表情をした女性、同じく20代前半の若い神経質そうな男とまるで鉄を彷彿するような肌の色をした立派なひげを生やした年配の巨漢の男がいた。


(お父様? 父上? 誰だ・・・この人たち)


守は聞こうとはするが赤ん坊のため、いかんせん声が出ない。

でたとしてもあっー、あっーという言葉にもならない赤ちゃん言葉だ。


(ちくしょー。もどかしいわ)


守は心中で嘆いた。そんな守の心中などお構いなしにひげの男が動いた。

丸太のような二の腕が近づいてくる。


「むっ、ラナス抱いてもよいか?」


巨大な二の腕が止まり、ひげ男が隣にいる女性に聞いた。


(ラナス。ラナスと言ったな。この優しそうな女性はラナス。)


「もちろんです。抱いてあげてください」


ラナスはそう答えたが


「ちょっとお待ちください。父上。まず一番先に抱くのはこの子の親であるこのニースケン・ダンディスからでしょう」


ニースケンと名乗った男はひげの男の行動を制しながら言った。


(この神経質そうな男の人の名前はニースケン・ダンヴィスって名前か。)


「なんじゃと・・・むむ・・・ううむ」


ひげの巨漢の男は苦虫を潰したかのような表情を浮かべながら渋々後方へ下がった。


「すみません、お父様」


ラナスがひげの男に軽く謝った。


「よいわ、よいわ。其の方達の待望のお子じゃ。まずは其の方達が始めに抱くのが道理じゃわ。すまんかったのぅ」


ひげの男はニースケンとラナスに謝った。


「では貴方、抱いてやってくださいな」


ラナスがニースケンに抱くように促した。


「よしっ」


馴れない手つきでニースケンは守を抱えた。守は自分の身体がこうも簡単に持ち上げられたことがないので妙な違和感を感じた。

赤ちゃんだった頃は誰しもがされてきた行為なのだが記憶には残っていないだけだ。ニースケンは気が済んだのか守をベッドの上に戻した。


「では次はお父様」


ラナスは微笑み、ひげ男に抱っこを促した。


「よしっ!!」


親子それぞれ掛け声は同じだ。ひげ男の二の腕がついに守を捉えた。

力強く抱え込み、胸の前でゆっくりと守を固定し、軽く揺さぶる。


(何だろ。何だかとても懐かしいような。そんな気がする)


守自身、昔このように親や祖父母に抱かれたこともあったのではなかろうか。


「あらあら、お父様に抱かれて喜んでおりますわ。この子」


ラナスが守の表情を見て、喜んでいると感じたのかそう言った。


「おぅおぅ、喜んでいるか。それはよかった、よかったわ。強く、たくましい男になるんじゃぞ。自分の母上を守れるようなどでかいのぅ」


ひげ男は暖かな視線で守を見つめながら言い、ラナスに守を手渡しした。

見た目とは違い、とてもおおらかで優しそうな人だと守は感じた。


「そうそう、お父様みたいに強くなるんですよ。見た目どおり、この方はとっても強い方なの」


ラナスは宝物である守を暖かく、抱きしめ言い聞かせるように言った。


「ラナスよ・・・。ワシのようになってはいかんぞ。なるとしたらニースケンのような男になってもらわないとな」


少し複雑そうな表情をひげの男は一瞬したのが見て取れた。


(この人・・・)


その曇った表情を守は見逃さなかった。しかし、すぐ後に


「それに如何に強くなろうがワシのようにはなれまいて・・・何故ならワシは思った以上に強いからのぅ!!」


年齢とはうって離れた若々しい表情、鋭い目つき、真っ白い歯を見せ、にやりと笑いながらひげの男は再び、大きな足音を立てながら部屋から出て行った。


(なんだこの人・・・よう分からないけど面白い人だな)


これが守がダンディス家との初めての出会いなのであった。

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