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【第三章 力に気付く男と虐げられた人々】

『なろうコン応募作品』です。第三話、宜しくお願いいたします!

◆1


 五人の男が一同に部屋に現れた。秋の長雨もそろそろ終わるとはいえ、部屋の中は湿気でじめじめしている。そこへ男五人も棒立ちで佇んでいるのだ、非常にむさ苦しい。

「マジかよ。本当に出来たんだけど……」

 茶髪の男が、背格好がまるで同じな五人の男を眺めて感動していた。

「はははははっ! 本当に自分の分身が五人も出来た! コイツは便利だ!」

 腹を抱えて笑い崩れる男。五人の男たちも、それにつられて同じ笑い方をする。

「うるせぇ、黙れよ。面倒臭えな」

 男が命令すると、しんっと静まり返る男たち。どうやら、男の命令には絶対のようだ。

「そうだ、お前らは俺の手足だ。どうやらお互いに自我があるみたいだが、本体である俺の意志に逆らえない」

 満足そうに頷くと、男は突然何かを思い付いたようだ。目を見開き、口角を吊り上げて不敵に微笑む。

「この力があれば、俺は楽して金が稼げるな。ついでにストレス発散もしておくか、ははははははっ!」

 男は笑いながらPCの電源を立ち上げた。起動の最中に、男は分身たちにこう告げた。

「指令だ。一人目はこの間行ったスーパーで万引き、二人目はPC五台を買ってこい。中古でいいけど、COAが動くスペックかどうかだけは確認しろよ? 三人目はダミーサイトの立ち上げを急げ。RMTリアルマネートレーディングサイトを偽装して、来訪した奴の個人情報を盗むスクリプトを埋め込むんだ。で、四人目と五人目は、このメモに書かれている男をぶちのめしてこい。俺はこれからバイトだから。うまくやれよ」

 男は鼻歌交じりに部屋を後にしていった。

 すると、分身たちは各々の命令を遂行するべく各自行動を開始した。一人目は顔が隠れるように黒のパーカーのフードを深くかぶって出かけていき、二人目は手元のスマートフォンでPCの価格チェックをしながら部屋を後にしていった。三人目はモニタの前に陣取り、早速スクリプトを組み始め、四人目と五人目は完全に顔が隠れるようにサングラスとマスクを装着、一人目同様に黒のパーカーのフードをかぶる。更に催涙スプレーとスラッパーを懐に隠し持って出ていった。

 こうして、『気付いた』男は、その力を私利私欲のままに使い出したのだった。


 ◆2


 渋谷駅。とある少女は制服姿で誰かを待っているようだ。その制服は、私立聖モイライ学園のものだ。COA運営会社のグノーシスが出資と運営をしている小中高一貫学校である。それぞれ学年が低い順にタイの色が臙脂、群青、翡翠と分かれており、彼女のタイが翡翠色のところを見ると、どうやら高等部のようである。しばらくすると、遊び人風の背の高い男が少女の元へやってくる。彼女はすぐに駅のトイレで制服から露出の多い服に着替えると、男へ体を寄せ合い、人目もはばからずに何度も抱き付いたのだった。そして、二人は期待に満ちた顔つきで歩き出す。どうやら、このままホテル街へ向かうようである。

 その後ろを、サングラスとマスクで顔を覆った男二人が、静かにカップルの後ろを付けまわっていた。カップルは自分たちの世界に夢中で、後ろの男たちの存在など全く気が付いていない。カップルの行為は更にエスカレートしていき、片割れの男性は路上で女性のミニスカートの中へと手を滑り込ませるなど歯止めが効かなくなっていく。女性も満更ではなく、自分の股間に滑り込んでくる男の手の感触に、身をよじって羞恥と快感に浸っているようだ。その後ろを、ただ静かに例の男たちは身を潜めて観察し続ける。

 ホテル街が目前に迫った頃、カップルの片割れの男性が急にそわそわしだす。尾行していた男たちは慌てて物陰に隠れた。そっとカップルを影から覗くと、男性が上気だった顔付きで路地裏へ女性を連れ込んでいくのを目撃した。男たちは目配せすると、気配を消しながらカップルが消えていった路地裏へ進んでいく。そこは、ちょうどとあるラブホテルの真裏に当たり、ビルとビルの隙間と言えるくらいの通路しか存在しない道であった。街灯はここまで届かず、異世界のように闇だけが静かに充満していた。無論、ここを普段通るのは野良猫くらいで、人が通るような道ではない。

 しかし、カップルはこの道を進んでいった。まさか感付かれたのか。男たちに緊張が走る。通路の中程まで進んだところで、男たちはカップルを発見した。相変わらず二人の世界に没頭しているようで、黒ずくめの男たちなど眼中にないようだ。男たちは目を疑った。男性が女性を抱きかかえるような姿勢で腰を振り合っていた。おおかた、ホテルを目前にして両者我慢できず、スリルを求めてこのビルの隙間で始めてしまったんだろう。風邪を引いた野良犬のような女性の喘ぎ声が、断続的にこの通路にこだまし続ける。

 この光景に、男たちは激しい憎悪の念が込み上げてきた。一人が催涙スプレーを手に取ると、素早くカップルの元へ駆け寄ってスプレーの中身を振り撒いた。

「あぁぐぁっ!? げはっ! おうぇっ!」

「いやっ! げっほっげほ! なに、これぇっ?」

 突然の襲撃に、二人は下半身を挿れたまま崩れ落ちる。何が起きたか分からないカップルは、目が開けられないため手を周囲に振り回し、この異常の原因を互いに確かめあっていた。

「いて、いててて! マキ、お前、痙攣してる! あんまり動くな、千切れるだろ!」

「んなこと言ったって、目が痛いしビックリしたし、超最悪!」

 このやり取りを見下ろしていたスプレーを持った男は、上半身をねじり込んで振り子の要領で女性の顔面に回し蹴りを叩き込んだ。男の蹴りは、彼女の鼻下に直撃すると、いとも簡単に鼻柱はおろか前歯をも粉砕し、顔の真ん中がまるで陥没したかのように減り込んでいった。

「ぎゃっ!」

 男が悲鳴を上げる。女は蹴られた勢いでビルの壁に後頭部を強打、そのお蔭で繋がっていた男性の陰部を必要以上に引っ張りながら結合部分から外れていったからだ。女性は先程の一撃で白目を剥いたまま、口から泡を吹いて気絶してしまった。少女からむあっとした生暖かい湿気とアンモニア臭が立ち込める。どうやら気絶した際に失禁したようだ。

「さすが。安全靴は蹴りの威力が違うわ。靴の先端に鉄板が仕込んであるし」

「お、お前、その声!」

 未だ目の開かない下半身丸出しの男性が、黒づくめの男の声に反応する。

「陽海? 加藤かとう 陽海はるうみなのか?」

「おい、ばれちまったじゃねぇか」

 スラッパーを握り締めながら、催涙スプレーの男を咎める。

「計算外だ。コイツが俺らのこと、覚えてると思ってなかったろ?」

「確かにな。すっかり忘れてたと思い込んでたぜ」

 けらけらと笑う男たち。だが、その声に男性は首を傾げる。ようやく目が開き、襲撃者の姿を男性は自身の目で捉える。

「え、陽海が……、二人?」

 そこには、背格好と声も同じの加藤陽海が二人いたのだった。

「なんで、なんで二人いるんだよ? まさか、双子?」

「ンなわけねーだろっ」

 片方の男がスラッパーを男性の頭部に振り下ろす。スラッパーとは、砂鉄と鉛玉などが入った革袋で、相手へ外傷を与えずに効果的なダメージを与えられる護身グッズである。だが、人間の急所を攻撃すれば、一撃で即死させる程に強力な暗器でもある。男性の頭部はこの一撃で軽くめり込み、男性はその場に卒倒してしまった。

「一撃必殺って気持ちいいな! COAの時も、よくお前と一緒に雑魚を一撃で殺してたよな、懐かしいなぁ」

 スプレーの陽海が、安全靴で男性の腹を力強く踏み付けた。男性は口から空気を漏らし、苦痛に顔を歪めていた。

「お前がCOA誘っておいて、勝手に引退したと思ったら、俺の付き合ってた女と陰でよろしくやってやがって。全部こっちはネタ上がってんだよ」

「ゆ、……許してくれ! もうマキと手を切るよ! ……でも頼む、マキにこれ以上暴力振るうのを止めてくれよ。マキ、もともとお前の暴力から逃げたい一心で、俺のところに……」

「まだ喋れる元気あるんだねー、おらっ」

 スラッパーが男性の股間をクリーンヒットした。同時に、何かが潰れる鈍い音がした。あまりの激痛に声すら上げられずに悶絶する男性。

「俺の『所有物』を俺がどう扱おうと、誰かにとやかく言われる覚えはねぇよ」

 そのまま二人掛かりで男性を足蹴にする陽海たち。しばらくして、男性の顔面が腫れ上がり個人の判別がつかなくなったところで、陽海たちは男性の衣服を全部脱がし、全裸の男性をラブホテルの裏手にあったポリバケツの中に放り込んで蓋をした。衣服の中から財布を見付けると、現金とカード類を全て抜き去る。のちの計画に必要不可欠だからだ。衣服は自宅に持ち帰って細かく裁断して処分する予定だ。

「さぁ、帰るか。憂さ晴らしとコイツのカード類をゲットできたしな」

「奴の引退したアカウント、まだ使えるはずだな。ちょっと借りておこうぜ」

 人目を避け、素早く二人は渋谷駅へと向かっていった。


 ◆3


 貴博は嫌々であったが、母親に渡されたメモを頼りに食材の買い出しに来ていた。ここは比較的都心で大きなスーパーで、値段も良心的なことで有名だ。

「ゲームばっかやっていないで、家のことも手伝いなさい!」

 父親との小競り合いの結果、今回は貴博が一歩引いた形で落ち着いた。

「あんまり親に反抗しすぎて、不良やひきこもりのレッテル張られるのは勘弁だな」

 そう一人で愚痴っていると、妙な違和感に気が付く。三十代前後の短髪の男性が、がに股で足音をずしずしさせながら歩いていたのだ。

「……なんだ、あいつ? 凄い感じが悪い店員だな」

 男性の顔はこちらから伺えないが、相当何かに焦っている雰囲気だけはこちらへ存分に伝わってきていた。

「なんだかなぁ。イライラするのは勝手だけど、接客中であの態度は感心しないな……」

 ますますお遣いへの意欲が削がれた貴博であった。

「えっと、野菜はOKと。あとは豚肉とサンマと……、え、ポテトチップス? 母さん、そんなもの食べてるから肥えるんじゃないか」

 最近、一層丸々としてきた母親の姿が目に浮かんだ。

「ついこの間、ダイエット始めるって言ってたのに。やっぱり意志の弱い人は駄目だな」

 貴博は呆れながらも、メモ通りポテトチップスを買い物カゴに放り込んだ。その時、ドンッ、と貴博の背中に黒パーカーのフードをかぶった男がぶつかってきた。

「あ、すいません……」

 貴博は自分の買い物カゴが通行の邪魔になっていると思い、男に頭を下げた。だが、男は貴博の素振りを無視し、急いでレジ脇の通路へと早足で向かっていく。何も言わずに去ろうとする男の態度に、貴博は猛烈に腹が立った。

「おい、そっちからぶつかっといて無言で去っていくなよ!」

 男の肩を無理矢理右手で掴んで自分の元へ引き寄せた。男はバランス崩し、抱えていた商品を落としてしまった。

「や、やめろ! 放せ!」

 貴博の手を懸命に払おうとするが、貴博は決して右手を放そうとしなかった。別に貴博は男に因縁を付けようとしているわけではない。では、何故放さないのか? 答えは、男のパーカーの腹部にあった。

「おい、パーカーの中にまだお菓子隠してるだろ? クッキーの箱、はみ出てるぜ?」

「だから、放せって!」

 万引きがばれてもがく男を、貴博は決して放そうとしなかった。貴博は男の右腕を両手でしがみ付くと、大声で店員を呼ぶ。

「ここに万引き犯がいるぞ!」

 店内中の視線が、貴博の声のするほうへ向けられた。

「ちっ! 余計な真似を!」

 男は右腕に密着する貴博の腹に、左拳を数発打ち込んだ。肝臓の辺りを強打され、思わず右腕にしがみ付いていた力が緩んでしまう。すると、男は貴博を突き飛ばし、パーカーの中の商品を全て床にばら撒きながら外へ逃走していった。

「くそっ! 逃げられた! あだだだだ……」

 殴られたショックで立ち上がることが出来ない貴博。気が付けば、周囲には騒ぎを聞き付けてきた野次馬に囲まれていた。思った以上の騒ぎになってしまったことを気まずく思いながらも、貴博はゆっくりと立ち上がる。そして、犯人がばら撒いて言った商品を自発的にかき集め始めた。なんとなくだが、自分で片付けるべきたと感じたのだった。

 と、そこへ。

「ちょっと、事務所に来てもらおうか」

 貴博は首根っこを捕まれ、突然後ろ向きに引きずられていく。店内をがに股で巡回していた男性店員に、犯人と勘違いされているようだ。

「ちょっと待ってくれ! 俺は万引き犯を捕まえようとしたんだぞ!」

「少し事務所で話をしてもらうだけだ。ほら来るんだ!」

 店員に引っ張られ、そのまま貴博は事務所へと引きずられていった。

「俺は本当に何もやってない!」


 ◆4


 形振り構わずに走ること数分、後ろから誰も追ってこないことを確認した陽海の分身は、息を切らせながらスピードを緩めていった。線路沿いの歩道に出た分身は、深呼吸をしながらゆっくり歩いていく。パーカーの中は空っぽ。完全に失敗してしまった。まさか、邪魔が入るとは思わなかった。

「向田……、またお前が邪魔するのか……! 何度俺の邪魔をすれば気が済む!?」

 舌打ちをしながら、道端の石ころを蹴飛ばす分身。その口ぶりは、まるで貴博をよく知っているかのようだ。

「でも、まさかアイツもCOAやってたなんてな……。あの優等生が、意外だな」

 陽海の分身は、自分の右掌にある紋章のような痣を眺めて呟いた。

「アイツの右手が俺に肩から離れた時、一瞬だけ同じような痣が見えた……。恐らく、アイツもディスクを手に入れたに違いない。たまたまアイツの能力が俺に向けられなかったのは、わざとなのか、それとも気が付いていないのか……?」

 パーカーのフードをかぶり直し、再び歩き出す分身。その手に握られているのは、向田貴博と書かれた、顔写真入りの学生証だった。

「どちらにしろ、この借りは必ず返させてもらうからな。今までの恨みも合わせて、死にたくなるほど苦しめてやる。俺のこの力、強欲の『ローバーズ』でな」

 苦虫を潰したように顔をしかめなら、早足で陽海の分身は自宅へ戻っていった。


 ◆5


 貴博は事務所に連れてこられて初めて気が付いた。貴博を捕まえたのは、彼が通う私立聖モイライ学園で、昼休みに仕出し弁当を購買部で販売している男性だった。彼の名は柴山 巧。貴博とは顔見知りで、密かに人気の弁当を特別に取り置きしてもらっている。昼休みの購買部前で繰り広げられる争奪戦に参戦せずに済むのだ。その代り、巧へは定期的に学園のアイドル、中等部の山口陽菜の生写真(生徒間で闇流通中)を提供している。何事もギブアンドテイクなのだ。

「なんだ、君か……。君なら万引きなんてするはずないよな」

 スーパー店員はがっくりと肩を落としていた。巧の優等生ぶりは、学園でも専らの評判だからだ。

「当り前です! この俺がそんな事したってメリットがありません! いずれ総理大臣になるこの俺が、つまらない犯罪に手を染めるわけがない!」

「ははは……。いつもの向田君だ」

 貴博の相変わらずの中二病ぶりに安心した巧は、すっと頭を下げた。

「疑ってすまなかった」

「……頭上げてください。間違いは誰にでもありますから」

「学園のOBとして、生徒を疑うだななんて! なんて情けない!」

「もう怒ってませんから、俺。だから頭上げてください。山口陽菜の新作ピンナップもありますよ」

 鞄から陽菜の愛らしい笑顔のショットを取り出す。

「持つべきものは後輩だな!」

 写真に釣られ、いっぺんに態度を改める巧だった。笑顔で写真を催促する巧を嗜めるように、陽菜の写真を自分の背後に隠す貴博。

「教えて下さい。何であんなに焦ってたんです? よりによって、この俺を犯人扱いするくらい正常な判断が出来なかったところを見ると、よほど事態は切迫している。そうですよね?」

 貴博の推測に、すがるように嗚咽を漏らし始める巧。

「そうなんだ……、そうなんだよ。実は……」

 巧は、店長が今日出勤していないことをいいことに、店長から受けていた仕打ちを全て話した。万引き犯を捕まえないとこの店から追い出されてしまうことも、もれなく話した。

「酷い奴だな……。そういう人間がいるから、この世の中は腐乱していくばかりなんだ」

 店長の仕打ちを聞いた巧は、奥歯を噛み締めて遺憾の意を露骨に顔に出した。

「被害を予防することは出来ますよ。簡単な方法で」

「ど、どうするんだい?」

 貴博は事務所に置かれたA4用紙を指差した。

「犯人の似顔絵を描いて、店内に張り出せばいいんです。犯人の顔がそこらじゅうに張ってあれば、警戒して被害はなくなるはずです」

「でもそれじゃ、犯人捕まえられないんじゃないかい?」

「柴山さん、スーパー店員は無理して犯人を捕まえなくていいんです。犯罪を未然に防げれば、それで完璧なんです。店長のやっていることは完全にパワーハラスメントに該当してますから、しかるべきところへ行って相談することを勧めます」

 しっかりと巧の顔を見て、真剣な口調でそう言う貴博。そして巧の手の平に、陽菜の写真を握らせた。

「俺たちは仲間じゃないですか。リアルでも、『フラグメント』でも。な、『天楽』?」

「『ギルマス』……、恩に着ます!」

 巧は感涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。そして二人は、堅い友情の握手を交わし、犯人の似顔絵作成について話を詰めていったのだった。


◆6


 巧が卒業し、貴博や陽菜が通う巨大小中高一貫学校、私立モイライ学園。COAを運営するグノーシスス社が出資するだけあって、授業の一環にCOAが組み込まれている。この名目は、『ネットワークコミュニケーション(NWC)』という授業で、一般の学校教育では教えることのない、ネットマナーや円滑なコミュニティ運営などを小等部から指導しているのだ。授業中は学校専用サーバー(通称、学園鯖)でのプレイであるため、授業中は一般参加者に迷惑は掛からない仕様である。しかし、その延長で、放課後などに一般エリアへプレイする生徒が後を絶たない。そのせいか、主に一般エリアでも各部活単位でギルドが形成されていることが多い。ちなみに、貴博たちの『フラグメント』のメンバーも、ほぼ学園メンバーで構成されているのだ。しかし、まだ貴博は巧(天楽)と陽菜(陽菜)、そしてジャバウォックしかリアルの人物像を把握していない。同じ学園にいるとはいえ、全校生徒千人を超す中から自分のギルドメンバーを絞るのは容易ではないのだ。

「山口 陽菜に関しては、裏で出回っている生写真でしか顔を拝んだことないしなぁ」

 屋上で座って、仕出しの弁当を頬張りながら、貴博はそう呟いてみせた。陽菜がCOA内で個人情報をあそこまで露呈しなかったら、絶対にギルドメンバーは気が付かなかっただろう。

「鮫島さんも見ますか? 山口陽菜のプール授業のベストショット! スク水姿の陽菜ちゃんマジ天使ですよ」

 給水塔に寄り掛かる少年に貴博は声を掛けた。赤毛の長髪のその少年は、大欠伸をした後、眠そうな声で返事した。

「マジだりぃ。あんま興味ねぇなぁ……」

 声の主は、鮫島さめじま 直人なおと。中等部二年、学園でも有数の不良の一人だ。いつもは極度の面倒臭がりだが、殴られると鬼神の如く反撃をする二面性を秘めている。学園内ではその二面性から、『知らぬが鮫島』や『触らぬ鮫島に祟りなし』などと恐れられている。なのに、何故貴博は一緒につるんでいるのか?

「鮫島さん、俺をカツアゲから助けてくれた事、覚えてますか?」

「またその話か、好きだなぁ、タカも」

 呆れる直人だったが、貴博は構わず続けた。

「俺は総理大臣になる男だが、面倒な事件に巻き込まれたくない。経歴に傷を付けたくないんです。それなのに、アイツらは卑劣にも数人がかりで俺に暴行を働いた。手を汚すわけにはいかない俺は反撃が出来なかった。そんな困っていたところ、鮫島さんがやってきたんだ」

「たまたま通り過ぎたら、ゴミが俺様に突っ掛ってきた。だから潰した。それだけだ」

「いやぁ、かっこよかった。俺を殴る奴らの手を掴んで、『お前ら、だせぇな』って言ったときは! あれで一発殴られて、鮫島さんが暴走化。十秒満たずに終わったんですよね」

「あー、そんなんだっけか? 覚えてるのもマジだりぃ……」

 直人は横になると、まもなく寝息を立てはじめてしまった。

「鮫島さん、あんたは俺より年下だけど、色々と学ばせてもらう……」

 給水塔を見上げ、貴博は微かに笑いながらそう言った。

 と、ここでどたばたと屋上への階段を駆け上がる足音がしてくる。勢いよく屋上の扉が開かれると、高等部の巨乳の女子生徒と、侍のような黒ポニーテールが印象的な小等部の童女が飛び出してきた。

「いっちばぁ~ん! ウチの勝ちです! お姉ちゃん、早く早くです! 一緒にお昼食べましょう!」

「もう……、わざわざ駆けっこしなくたって……、はぁ、はぁ……」

 全く気が切れていない童女と、息を切らしている巨乳女子生徒。どうやら二人は姉妹のようだ。

「あれ? 誰かいるです?」

 童女が首を傾げながら、貴博のいる方へ振り向いた。貴博は立ち上ると、童女と女子生徒の方へ歩み寄った。

「初めまして。高等部三年C組、向田貴博です。そちらのお姉さんは、もしかしたら名前くらいは知ってるんじゃないかな?」

 急に指名され、びっくりする女子生徒。

「あ、はい……。この間の中間テスト、学年総合成績トップだった向田先輩ですね?」

「その通り。君は……、二年生か。校章の縁の色で分かる。もしよかったらこれも何かの縁だ、君の名前を教えてくれないかな?」

「え、えっと……?」

 女子生徒は警戒の色をあからさまに強めていた。これには貴博、内心動揺していた。女性を目の前にして、どのような行動を摂るべきか、実体験が少なすぎるためである。今の受け答えは、ファッション雑誌に載っていた特集、『モテ男の条件、それはさりげなさ!』を実践してみたのだが、どうやら大失敗のようだ。お互い戸惑い、無言の時間が流れる。それを、横にいた童女の放つ金テキキックで打開された。

「お姉ちゃんをナンパするなんて、お兄さんは不届き者です! いっぺんミトコンドリアから出直してくるです!」

「こ、こらっ……! ぐぬぬ、男の股間は、蹴っちゃ駄目なんだ……!」

 この世のものとは思いたくないほどの激痛を、貴博は股間に感じながらその場にうずくまる。痛みで胃の中がぞわぞわと波打っている錯覚に見舞われ、危うく咀嚼した弁当を吐き出しそうになる貴博。だが、童女は仏頂面でぶりぶりと怒りながら、貴博に向けて怒鳴り散らした。

「ふーんっだッ! どうせお兄さんも、お姉ちゃんのEカップのおっぱいが目当てですねッ? お姉ちゃんのおっぱいを狙う変態という名の紳士どもは、妹のウチが片っ端から股間を潰すです!」

「何この子、超怖い!!」

 痛む股間が更にきゅっと引き締まる。それ以前に、おっぱいを狙ってなんかいない貴博であった。

「お姉ちゃん、今のうちにここから逃げるです! さぁ、早くです!」

「ちょっと、つばめ? 今度は何処行くのー?」

 童女に手を引っ張られ、屋上を後にする巨乳女子生徒。屋上の扉をくぐる際に、貴博へ一度振り向き、会釈をする。

「妹が失礼しました……。でも、ごめんさい。いきなり誘われても、あたし、もっといろいろと先輩の事を知ってからでないと、男女のお付き合いは、ちょっと……」

「おい待て。色々と誤解だ!」

 慌てる貴博だが、まだ股間の痛みが酷くて、両手が股間から離れることが出来ない。

「大丈夫です。あたし、このことは誰にも言いませんから。先輩の気持ち、嬉しかったです。失礼します」

 花のような優しい笑みを浮かべ、再び会釈をすると、今度こそ屋上から姿を消した女子生徒だった。呆然としている貴博に、給水塔から声が響く。

「タカ……、失恋した感想はどうだ?」

「いや、違いますって、鮫島さん!」

 その後に食べた弁当の味が、やけにしょっぱいと感じた貴博だった。


 ◆7


 数日後。ギルド『フラグメント』に一挙三名の新人が加入した。長髪のコモン♂、オレンジ髪のイリュージョン♀、そして一つ目怪人の姿をしたカオス♀の三人である。メンバーの慣習として、新人に対してアイテム支援をすることになっている。メンバーは何の疑いもなく新人にアイテムを受渡し、新人たちにモンスターから得たドロップ品の一部を分け与えてやった。次の日も新人が多数入り、ユーリたちは笑顔でアイテム支援を行った。だが、またその次の日も新人がやってくると、メンバーは何かに感付く。こんな短期間に新人が急に入ってくることは異常だし、加入した新人は初日以降あまりログインをしていない。ユーリはある疑念を彼らに抱かざるを得なくなった。

「なぁ、ちょっといいか?」

「なんでしょうか?」

 オレンジ髪のイリュージョン♀は、ユーリの言葉に振り向くと小首をちょこんと傾けた。

「最近、新人が多く入ってきてるよな?」

「ええ、そうですね。なんか賑やかですよね」

 彼女がはにかむが、ユーリはそれを首を振って否定した。

「閑散としているの間違いじゃないのか? 人数増えた分、ログインしないメンバーが目立ってるしな」

「はぁ……」

 ユーリの発言に、彼女はどうも要領を得ないらしい。ユーリは更に突っ込んだ話をしだした。

「新人が増えることはいいんだけど、何か妙なんだよ。もともと、『フラグメント』はギルド募集に力を入れていないんだ。来る者は拒まずだけど、広報活動を全くやっていない今、短期間でこんなに新人が来るのは異常だ」

 これに彼女はクスッと笑うと、笑顔で意見を述べる。

「でも、『フラグメント』は結構有名なギルドですよ? 先日の対抗戦自滅騒動は、かの掲示板でも物議を醸してましたし」

「う、そうだったな……」

 実際にそのスレッドをユーリも確認しており、スレッドの最後尾まで読み終わるまで心が持たなかったくらいにボロクソ書かれていたのだ。

「ギルドサイトは情報WIKIも兼ねててためになりますし、ユーリさんとミッシェルさんの手記も読んでて楽しいです。充分に存在感ある要素をこのギルドは持ってます。自然と人が来るのは自明の理ではないでしょうか?」

 彼女の言うことは、一応筋が通っていた。だが、ユーリはそれでも納得いくことが出来ずにいた。

「でも、どうしても分からないんだよ」

「何がです?」

 彼女の問い掛けに、鋭い目付きで彼女を睨むユーリ。

「まるで、ギルドに加入するとアイテム支援が受けられることが当然のように思っているような態度が見られるんだ。なんでなんだろうな?」

 彼女の表情は全く変わらない。発言もない。ユーリの発言に集中しているのか、一切のエモーション機能や動作を行わずに直立不動のままである。

「確信したのは今日だ。さっきの新人たちがな、支援品を受け取ったときに、『思ったより少ない』って言ってたんだ。ミッシェルたちは『そんなくらいでしょげてるなんて、まったく欲張りな新人たちだねぇ』と呆れてただけだった。でも俺はある疑惑が浮かんだんだよ」

 ユーリは彼女を指差し、はっきりと言ってのけた。

「お前、いや、、全員グルだろ?」

 彼女は途端に身振り手振りでユーリに向かって訴え掛けだす。

「酷いです! 何を言い出すかと思ったら! 濡れ衣着せるなんてあんまりですよ!」

「じゃあ、なんで支給品が以前より少ないって知ってるんだよ?」

「え?」

 彼女はまた首を傾げて動きを止めてしまった。

「実は、一気に新人が入ってきたから、ギルド内で支援品として集めているアイテムの在庫が底尽きそうだったんだ。だから今日の新人たちに渡すアイテムは、昨日の半分くらいになってしまった」

「そうだったんですか。私たちの知らないところで色々と大変なんですね」

「まだシラ切るつもりかよ? いいか? 何も知らない正真正銘の新人ならば、いきなりアイテムを貰ったら、その反応は大きく二種類に分かれるんだ。恐縮して突き返そうとするか、大手を振って喜ぶかのどっちかだ。そこにアイテムの量はまったく関係ないはずだ。だから、貰える量が少ないからって、はいないんだ」

「……」

 彼女はすっかり固まってしまった。再び棒立ちのままユーリの発言だけだチャット欄を埋めていく。

「ということは、アイテムの量に不満を漏らすなんて奴は、このギルドの慣習を詳しく知っている奴の別アカウントのキャラしか考えられない。大体、新人用にアイテムを収集しているギルドなんて、どこを当たったって俺たち『フラグメント』くらいしかいないと思うし、この情報自体、メンバー以外は門外不出だ。乞食キャラが加入するのを防ぐためにな」

 ユーリは彼女を見据えて、宣言する。

「お前をギルドから追放する。アイテムもすぐ返せ!」

 ユーリは権限コマンドにより、目の前の彼女をギルドから追放した。彼女の名前の表示に記されていたギルドの名称が消える。これで完全に彼女は『フラグメント』から除外された。そして、次々とここ数日加入した新人を全て追放していったのだ。

「なんて……、なんてひどいことを――ッ!」

 彼女は泣き崩れるような仕草で、地べたに座り込んでしまった。しかし、ユーリは強硬姿勢を崩さない。

「んじゃ、違うって言うなら証拠を見せろ。たとえば……、新加入したメンバーをここに集めてくるとか」

「なんだ、そんなことでいいんですか? 今すぐできますよ? 呼んできましょうか?」

 安堵する彼女の笑顔に、ビシッと指を差すユーリ。

「何で出来るんだよ? ログインもろくにしていないメンバーだ。どこの誰かすらも分からないって言うのに、二つ返事で承諾しやがって。お前ら、やっぱりつるんでたんじゃないか!」

 すると、彼女は虫も殺さぬ優しい笑顔のまま、ユーリに向かって罵詈雑言を並べ始めた。

「はん! 今日の支援品はマジでシケてたな! 回復薬に帰還装置? そんなもの、露店で帰るじゃねぇか!」

 その言葉に、いよいよユーリは確信した。

「お前、やっぱり俺たちを騙してしていたんだな!」

「は? 何言ってるの? アンタたちが勝手にくれただけじゃん。騙し取っちゃいないんだけど?」

「そんなの屁理屈だ! さっさと受け取ったアイテムを返せよ!」

 ユーリが凄んでみせるが、彼女には全然効いていない。それどころか、ユーリに対して彼女は舌を出しておちょくるなどの挑発をしてきた。

「んなの、もうとっくの昔にRMTで換金しちまったよ。このキャラだって、用が済めばアカウントごと売りさばく予定だ。アンタはこちらの素性は一切掴むことが出来ないんだよ!」

「ふざけんなよ! 『闇突やみとつ』!」

 ユーリはいきなり攻撃呪法を彼女に放った! 彼女の身体に、影の刃が深々と突き刺さり、その場に崩れ落ちてしまう。

「あらあらあら、PKとか予想外すぎるぞ。カッとなって刺し殺すなんて、アンタさぁ、リアルでもやりかねないんじゃない?」

「黙れ! 俺は今、リアルのお前をぶん殴りたくて仕方がないんだ。キャラ殴ったって、一向に俺の怒りは収まらないけどな!」

「怖い怖い。ネトゲ廃人はやっぱり頭がおかしい奴らばっかだな」

 体力が底尽きて横たわったままで会話をする彼女に、ユーリは近付いていく。

「お前をGMに通報する。ここの運営、こういう『なりすまし』やRMTにはうるさいところだからな。駆け付けた時点で、お前の関連アカウントは全部停止になるだろうな」

「ふぅん。別にいいけど?」

「な?」

 てっきり許しを請うものだと思っていたユーリは唖然としてしまった。

「もう、こちらの仕事はさっき全て終わった。次の段階に入る時期だ」

「次の段階?」

「そうだ、お前への復讐だ」

 ユーリはこの発言に目を疑った。自分への復讐。一体自分自身がなにをやったのか、全く分からなかった。

「お前は分からないだろうな。でもそのほうが都合がいい。そのまま苦しんで社会のゴミになって死ね」

 彼女の死体が消えた。どうやら、近くの町の中継拠点へ戻されたようだ。

「ここからだと、セドキナポートが近いな。GMに連絡しないと」

 ユーリがGMへ違反者通報をしようとした、その時だった。

「マスターぁぁぁーっ! 大変だよぉぉぉ!」

 うぅたんが急にギルドチャットに慌てた様子で発言した。

「なんだ、うぅちゃん? ちょっと待ってくれないか?」

「待ってらんない! 大変なんだよ!」

「分かった分かった! でも今、GMに違反者報告しなきゃいけなんだ」

 ユーリは「ああ、子供はせっかちだなぁ」なんてのんきに構えつつ、GMへ送るメッセージを作成していた。ふと、うぅたんが違反者という言葉に反応した。

「違反者って、もしかしてギルドに潜り込んでた人たちのこと?」

「そうだ! あいつら、新人を装って、貰ったアイテムをRMT……、つまり、リアルのほうでユーザーに売って現金をせしめていたんだ!」

「じゃあ、またリアルで売られちゃうんだね……。折角集めたのに」

 うぅたんの言葉に、ユーリは眉をひそめた。

「うぅちゃん。もしかして、何か盗られたのか?」

「そうだよ! だから大変なんだよぉぉぉ!」

「ちょ、それを早く言ってくれ!」

 ユーリは素早くGMへのメッセージを送信すると、うぅたんの居場所を確認する。

「ギルド倉庫前? ――って、まさか!」

 ユーリの血の気が、頭からすーっと引いていく。部屋の中なのに、極寒の冬の空の下にいるような悪寒を感じる。

「そうだよ、マスター。マスターが口論している間に、あの人たちは倉庫の中身を全部持ち出しちゃったんだ」

「お、おい。冗談だろ?」

「冗談じゃないよぉ! レアアイテム、レア装備、消耗品やイベントアイテムまで、全部全部、みーんな盗まれちゃったんだよぉっ!」

「うわぁ……、うわあああああ!」

 呆然と立ち尽くすアイテムコレクターのユーリ。しばらくはショックでそのまま呆けることしかできなかった。


 ◆8


 加藤 陽海は満面の笑みを浮かべていた。間一髪、GMによる各キャラのアカウント停止処分よりまえに、以前ボコッた男が使っていたキャラへアイテムを移管し終えたのだ。

「これでまた現金が入ってくる。ははははは――! 本当にネトゲ廃人はどうかしてるな! こんなデータの一部分に、福沢諭吉を差し出す阿呆がいるんだからな!」

 もはや、陽海にとってCOAは遊びではなくビジネスになっていた。ネトゲは往々にして、プレイ時間に比例して強くなったり、レアアイテム獲得のチャンスが増えるものである。だが、社会人や学生は空き時間で行う場合が殆どで、自宅を警備している廃人ニートと比べたら成長やレアアイテムなんていうのは比べ物にならないほど見劣りしている。

 故に、この差を現金で埋めようとする輩が出てくるのは当然であろう。たかがデータの一部とはいえ、それはCOAでは何物にも代えがたい強力な装備であったり、経験値差を埋めるための手段であったり、自己資本を増やして悦に浸る目的であったりするのだ。

 だが、RMT商法は犯罪の温床とも言われ、事実、陽海のように偽装サイトを踏ませてIDとパスワードを掠めとり、不正にゲーム内のアイテムを略奪して換金しようとする者が後を絶たないのだ。

「でも、残念だったな、向田。新人全部がグルだってところが実に惜しいな」

 陽海は振り返ると、五人の分身を見渡した。各自一台、PCでCOAをプレイしていたのだ。

「グルはグルでも、。まぁ、分かるわけないけどな!」

 一斉に嘲笑う陽海たち。強欲の異能力、ローバーズ。五人の分身を生み出せる異能力。一般人には到底想像できないであろう。

「俺は必ずアリバイのある場所にいればいい。ただそれだけ。分身が何か事件起こそうが、俺にはアリバイがある。絶対に崩しようのないアリバイがな。すると警察はどう思うか? 他人の空似か、被害者がトチ狂って証言したか、どっちかに違いなって思うんだからな!」

 完全に警察を馬鹿にしている口振りで、陽海はひたすら笑い続けた。

「さて、早くもRMTの稼ぎが安定してきた。今度はもっとでかいヤマ引き当てようぜ」

 そういうと、ハンガーに掛けられた黒装束と警備員の制服を眺めてほくそ笑む陽海であった。


 ◆9


 うぅたんの言う通り、倉庫はもぬけの殻であった。アイテムはおろか、倉庫に預金しておいたギルド資金までも持ち去られていた。

「うわー、見事にやられたね。ここまで見事にやられると、敵ながらあっぱれとしか言えないよ……」

 ミッシェルは倉庫内の惨状を眺めて発言した。他のメンバーもその伽藍堂の倉庫を見て、すっかり言葉を失ってしまった。

「ひっでぇな、これ。でも、この中には相当の数のアイテムがあったはずだよな?」

 ジャバウォックは顔をしかめながらあたりを見渡す。

「確か、倉庫の要領はポイントアイテム使って最大まで拡張しているのよね?」

 アゲハがそう漏らした。ポイントアイテムとは、ウェブマネーでゲームポイントを購入後、ゲーム内にある専用ポイントショップにて購入できる特殊なアイテムである。倉庫拡張などの機能充実系や経験値増幅チケット、はたまた特殊なアバターなど様々なものを扱っている。

「ええ、アゲハさんの言う通り、倉庫は最大一〇〇種類のアイテムが入ります。でも、各キャラの鞄は、どんなに拡張しても三〇個が限界です。俺が犯人の一味とやりとりをしていたのはほんの数分。一人じゃ到底無理です。恐らく、向こうは最低八人使って持ち出しと受け取りをしたんだと思います」

 ユーリの説明に、陽菜が不思議そうに手を上げた。

「なんで八人なんですかー?」

 すぐに説明が付くことをわざわざ疑問に思う陽菜に、一同苦笑いするしかなかった。

「持ち出すのに四人。受け取りに四人必要だからだ。ギルド倉庫が使えるなら、受け取り側は一人で十分だけど、犯人グループが急造のギルドを持っていると思えない。それにギルドの倉庫拡張は金額もさることながら、ギルドのランクにも影響される。対抗戦に参加しないとランクが上がらないし、犯人グループがそんな目立つような場所に行きたがるとは思えないな」

「ユーリちんの言う通りだね。今までCOAで窃盗グループが暗躍しているなんて噂、βテスト時代からいるけど一度も聞いたことないよ。それだけ運営が凄く厳しく取り締まっているからなんだけどさ。でも、この手口、もうプロだよね。もうずっとこういうことをこなしている人間の仕業にしか思えないよ」

 ミッシェルはますます首を傾げて考え込んでしまう。と、ここで天楽が気まずそうに発言しだした。

「すいません、ちょっといいですか?」

「天楽、どうした?」

「ギルマス、今回の件、倉庫の盗難だけじゃないですよ」

「おい、狗。どういうことだ?」

 ジャバウォックの言葉に、天楽は怒りを露わにして言葉をぶつけた。

「今さっき、肉球決死隊のリーダーから聞いたんです。ギルマスと俺の別アカウントキャラと名乗る人物が、昨日からあちこちでRMTを持ちかけてるって! しかも、ジャバ様に命令されてやってて逆らえないとか、そんなことまで言ってるらしいんですよ!」

 これにはいつもは「マジだりぃ、どうでもいいわ」といなすジャバウォックも怪訝な顔をせざるを得ない。

「何で俺様が黒幕扱いなんだよ? ふざけんなよ、本当、何で俺様の名前使うんだよ……」

 ジャバウォックはうつ伏せになってそのまま動かなくなってしまった。この状態を、メンバーの間では『冬眠状態』と呼ぶ。

 ジャバウォックがヘコみ、現実にもネトゲにも行き場のないやりきれなさが極限まで達すると、意識を四次元へ逃避行させて考えることを止めてしまうのだ。

「ああぁー! ジャバ様ぁ、しっかりしてぇ!」

「ジャバ様ー、ふぁいとー!」

 うぅたんと陽菜の声援虚しく、ジャバウォックは冷凍マグロのようにうつ伏せに転がっていた。天楽は自分のせいで『冬眠状態』へ移行したと思い込み、ひたすらジャバウォックに頭を下げ続けた。

「すいません、ジャバ様に怒ったわけじゃなくて、俺自身、やり場のない憤りが少しもれちゃっただけなんで……」

「天楽、ああなるとジャバさんは丸一日動かないから」

 ユーリは諦めろと言わんばかりに溜息を吐いた。天楽も、その様子から謝っても無意味だと悟ったのだった。

「でも弱ったわね。犯行グループは徹底的に『フラグメント』を潰しにかかってるわ。特に、ユー君と天ちゃんは念入りにすり潰す気だわ」

「すり潰すって、アゲハさん。『潰す』の強調で『すり潰す』って使いませんよ……」

「天ちゃん! 今は上げ足取っている場合じゃないわ!」

「はい」

 何故か怒りをアゲハの怒りを買ってしまった。

「あたしだって、ムカムカして今にもお腹が空きそうなのに。更に怒らせて、空腹感に苛まされたらどうしてくれるの?」

「お姉ちゃん、やめて。本当にやめて」

 本気で怯えるうぅたんである。一方、アゲハの怒り方に呆然とする天楽。

「えっと、何で俺、怒られてるんですか? お腹が空くのと、どう関係が?」

「そっか、天楽は知らないのか。後で教える……」

 ユーリは密談チャットで天楽に事実を伝えた。

 驚愕していたのか、リアクションがなかった。

「とにかく、このままじゃボクたちはCOA内で完全に村八分になっちゃうよ。何としてでも食い止めないといけない!」

 ミッシェルは真剣な目付きでメンバーに訴え掛ける。

「ユーリちん、本来なら責任問題に発展する事件だけど、今はそんなこと言っている余裕はないよ。まずはボクたちの信頼回復が先決だ」

「そ、そうだな。まず大手のギルドへ俺が当たってくる。誤解を早く解かないと」

「ギルマス、俺も行きます」

「じゃー、陽菜も行くー」

 と、いうことで天楽と陽菜も同行することになった。

「あとは、失った倉庫の充填だね。仕方がないけど、ボクの所持金の九割をギルド資金として投入する。これで少しずつ買い足していこう」

 早速ミッシェルからの資金がギルド資金として注ぎ込まれる。その額、なんと七〇〇万エン。ネットゲーム内では相当の資金である。

「ミーちゃん。あたしも手伝わせて。最近、超レア品が売れたから所持金に余裕があるの」

「ありがとうございます、アゲハさん!」

「じゃあ、入れるわね」

 そう言って、アゲハも資金を投入した。その額、何と五千万エン!

「ちょっ、アゲハさん? 一体何を手に入れたらこんな大金が?」

 ミッシェルは自分より一桁多い資金に度胆を抜かれてしまった。

「暗黒惑星って知ってるかしら? そこのフィールドボス討伐に参加したとき、偶然手に入っちゃったの。分配額より凄く高く売れたわ!」

「あそこですか……。ボクも時々誘われて行くけど、あそこは廃人を超越した存在たちが跋扈する領域だから、あんまり好きじゃないんだよなぁ」

 嫌な思い出があるのか、何故か暗黒惑星について良い顔をしないミッシェルだった。

「えっと、あとは……」

「ミッシェル。あとは他のギルドに協力を仰ごう。犯人グループの足取りを大人数で探すんだ。こればかりは流石に俺たちだけじゃ難しいし、他のギルドへの注意を促す意味でも必要だ」

 ユーリの提案にミッシェルは笑顔で頷いた。

「そうだね。それ、ユーリちんの方でお願いできる?」

「勿論、そのつもりだ」

 ユーリもそれに応じた。

「そういえばー、でんとさんはー? ログインはしてるみたいですけどー」

 チャットに反応しない雷斗が気になる様子の陽菜。

「何処行っちゃったんですかー? こういう時、大抵メンバーが揃うと思ったのにー」

「ん? いるんですけど?」

 突然、雷斗がひょっこりチャットに顔を出してきた。

「ヤッベェ、寝落ちしてたんですけど! 寝落ちとかマジウケるわ」

「あ、でんとさんがやっと来たねー」

「ひなっち、だから『でんと』じゃなくて『らいと』だから……」

「えー、テントウムシみたいで可愛いのにー」

 陽菜は肩をすぼめて下を向いてしまった。

「姫ちゃんが『でんとさん』で通せば、きっといつか喜んで振り返ってくれるはずだよ」

 すかさず天楽がフォローを入れると、陽菜は天楽の顔を見上げて微笑んだ。天楽の表情がだらしない。その忠犬の姿勢に他のメンバー一同、「ブレない奴だ」と色んな意味で感心させられてしまうのだった。

「チャットログ見返したら、マジでヤバいんですけど? つーかぁ、オレ、多分犯人見ちゃったんですけどー」

「「え?」」

 犯人を見た、という発言に一瞬チャット欄が凍り付く。

「雷斗、詳しく聞かせてくれ」

 ユーリが雷斗にそう尋ねると、いかにも軽い口調で目撃したことをひゃべり始めた。

「オレが寝落ちするちょっと前なんですけどー、倉庫前にジャバ様がいたんですよ。ジャバ様、異様に周囲を気にしてたんスよ。で、レア装備数点取り出して出てったの見たんですけど?」

「それ、ただ装備を取り出しただけじゃないのぉ?」

 うぅたんの指摘に雷斗が噛み付く。

「それだけじゃないし! オレ、なんか気になったんでジャバ様の後を付けていったんスけど、そこで決定的証拠を目撃したし!」

「決定的な証拠? 何を見たの、雷君?」

 アゲハが聞くと、雷斗は堰を切ったかのように話し始めた。

「別アカウントのキャラ! それにレア装備を引き渡してたんですけど! その証拠に、すぐにその装備を身に付けたんスよ? そこに新人として潜り込んでたキャラも同席してたし! これって、ジャバ様がアイテム横流ししている現場をオレが見たってことじゃね? これ、超ヤバいんじゃね?」

 雷斗の言い分に、一同驚愕してしまった。ミッシェルはジャバウォックにすぐに確認をしてみた。

「ジャバ様、起きてる? 今の雷ちんの話、本当?」

 しかし、反応が返ってこない。相変わらずうつぶせのまま身動き一つしない。

「ねぇ、ジャバ様? このままじゃジャバ様に疑いが掛かっちゃうよ? ボク、そんなの嫌だよ。ねぇ、返事してよ!」

「やっぱ、本当のことは言い辛いんじゃね?」

 雷斗がいつの間にかギルド倉庫前に佇んでいた。ジャバウォックの姿を確認すると、ふんっ、と鼻で笑う。そのままゆっくりとジャバウォックの元へ歩み寄っていく。

「本当のこと言われて引き籠っているだけじゃね? 黙ってればうやむやに出来るとか思ってたら大間違いなんですけどー?」

「おい、雷斗。それは言い過ぎだ」

 ユーリが雷斗の前に立ち塞がった。ユーリと雷斗。両者の睨み合いがしばらく続いた。

「ちょっとー、どいれくれませんか、マスター? 犯人へ直に尋問できないじゃないスか」

「ジャバさんは犯人じゃねぇよ」

「っ?」

 ユーリの発言に雷斗は息を呑む。

「ジャバさんはそんなことをやる人じゃねぇんだ。ジャバさんはな、いつも口ではだるいとか言ってるけど、悪さをする人なんかじゃねぇよ。ジャバさんは、漢の中の漢だ。俺がリアルで不良に寄ってたかって殴れてたところを、通り掛かったジャバさんが助けてくれたんだ。あの人は誰かの痛みが分かる人なんだ。詐欺や盗みなんてするわけがない!」

「どうしてそんなこと言えるんスか? リアルだろうが、ネットだろうが、人の中身なんて分かりっこないっスよ」

「分かるさ!」

 ユーリは力強く断言した。

「このギルド、『フラグメント』はな、ジャバさんの信念の証なんだ」

「どういうことスか? マジ意味不明なんですけど」

 雷斗は馬鹿馬鹿しいのか苦笑いをしている。そこでユーリは雷斗に詰め寄って、必死に胸の内を訴えた。

「ジャバさんはどうしようもないくらい怠惰だ。でもな、ただ怠けているわけじゃない。『安心できるから怠けてる』んだ。後輩へのサポートを手厚くしたり、仲間との絆を重視したり、そういう『フラグメント』の姿勢は、全部ジャバさん自身が安心して寝ていられるようにするための信条だ。フラグメント(ひとりひとり)が安心してCOAを楽しめるように、今までジャバさんは必死に動いてきたんだ」

「そういえば、ジャバ様ってギルマスだった頃は今よりも断然動いてたよね。いつもギルドのことを考えてたよ。今はユーリちんに任せて、悠々自適だけどね」

 ミッシェルがユーリの意見に補足を加えてきた。

「雷斗は俺がギルマスのなってからの加入だから、そういうのを知らないんだよな。だからこそ、疑うのはやめてくれないか? ジャバ様に限って、そんな他人を傷つけるような真似をしない。大体、ジャバさんにとって、そんな事をする意味がないんだ」

「ちょっと、オレは見たままのことを言ってるだけなんですけど!」

 必死にすがる雷斗だが、ユーリには一切聞き入れてもらえなかった。

「雷斗、それは恐らく見間違いだ。それにジャバさんが戻ってこない限り、本人の口から証言が出来ない。なんにせよ、今ここでは雷斗の意見を肯定出来ない」

「なんだよ……。オレが信じられないんスか?」

 奥歯を噛み締めながら不服そうな表情で睨む雷斗。ユーリもそれに対して一歩も引かない態度で対峙していた。

「チッ、ランカーだか古参だか知らないんですけど、そうやって他人の意見を聞かないとか、マジであり得ないっつーか、ヤバくね?」

 イライラしながら雷斗は別のフィールドへ向かっていったのだった。倉庫内に重い空気が漂う。

「……雷斗さんの話、本当なんでしょうか?」

 天楽がぽつりと漏らした。

「ジャバ様がやったなんて、普通なら嘘でも言えませんよ。たしか、ジャバ様のリアルって、素行が悪いって聞いたことありますし、もしかして本当に……」

「それ以上言うな、天楽!」

 ユーリが言葉を遮った。

「その話は、ジャバさんが戻ったら直に聞こう。本人の口から違うって言ってもらうんだ」

「でも、ライトはなんでジャバ様がやったなんて言ったんだろうねぇー?」

 うぅたんは仏頂面で呟いた。それにユーリが答える。

「分からないな。さっぱり分からない。二人がいがみ合ってるところも見たことないしな」

 考えれば考えるほど、思考がこんがらがっていく。更に空気は沈んでいき、誰もしゃべらなくなってしまった。沈黙がしばらく続くと、ミッシェルが堪えきれずに飛び上がった。

「なんくるないさー!」

 一同、呆気にとられたままミッシェルの顔を一斉に見詰めたのだった。

「もう、だから! こういうときこそ、でっかく構えて、なんくるないさーって言うんだ!」

「ミーちゃん、沖縄の人だったのね」

 アゲハが意外そうな顔で驚いてると、若干照れ気味でミッシェルは答えた。

「あー、生まれは沖縄だけど、親の仕事の都合で今は都内在住で、って今はその話は後!」

 ミッシェルはおもむろに手を前に出す。

「今こそ、ボクたち『フラグメント』が結束する時だよ! みんなで協力すれば、きっと解決できる! なんくるないさ!」

 ユーリもミッシェルの行動の意味が分かったようで、手を前に差し出した。

「俺のせいでみんなを困らせてしまった。この落とし前は必ず付ける。もう少しみんなには迷惑掛けてしまうけど、どうか俺に付いてきてくれ」

 天楽も手を差し伸べる。

「今回の件、どうもキナくさいんです。何か裏があるような気がしてなりません。ギルマスにはリアルでも仕事のことで協力してもらってますし、こっちでも協力し合いましょう!」

 陽菜も手を差し伸べる。

「これってー、対抗戦の時のアレだよねー? 陽菜、このギルド好きだよー。なくならないように陽菜も頑張るっ!」

「ウチもウチも! 絶対犯人見つけてやるんだからぁ!」

「あたしたちをコケにしてくれたお仕置き、何がいいかしら? 楽しみだわ~」

 うぅたんとアゲハも皆に倣って手を差し伸べる。そこへ、もう一本腕を差し伸ばす人物がいた。

「ジャバ様……」

「ジャバさん……」

 如何にもだるそうなオーラを身にまといつつも、しっかりと皆が手を差し伸べている中心へと腕を伸ばすジャバウォック。

「ったくよぉ、ライの野郎! 俺様がふてくされている間に完全に犯人扱いしやがって。マジだりぃぜ。大体、この『働き者』の俺様がそんなことするわけないだろ、なぁみんな?」

 この言葉に一同の顔に笑みがこぼれた。怠けてばかりいる印象のジャバウォックだが、実は倉庫管理だけは彼自身が行っていたのだ。故に、普通ならば雷斗の言う通り、最も犯人に近い存在と言える。だが、ギルドのメンバーは、ジャバウォックが常日頃欠かさず備品の補充をしていることを知っていた。彼の無実の証明に、この事実は充分事足りるのであった。

「ギルドのことを本当に想っていなけりゃ、こんなだりぃ事を続けてられないもんな」

「究極の怠惰の人が、唯一COA内で欠かさず行っていることだもんね!」

「ミー、もっとましな言い方があるだろうが?」

 ジャバウォックがミッシェルを一喝すると、「てへぺろ★」と誤魔化すミッシェルだった。

「俺様が思うにライの野郎、なんか俺たちに隠してやがるな。ユー、そっちも洗ったほうが良いんじゃねぇの?」

「そうですね。そっちはミッシェル、ジャバさん、アゲハさん、うぅちゃんでお願いします」

「「了解!」」

「んじゃそろそろ、アレ、やろうぜ!」

 一同、静かに頷く。ユーリは深呼吸をした後、一気にまくしたてた。

「よし! 絶対犯人捕まえるッ! 全力出すぞ!」

「「おう!」」

「何度でも立ち向かえ!」

「「おう!」」

「目指すは勝利ーッ!」

「「イエェェェェェェス!」」

 フラグメントの勝利の儀式、円陣が決まった。さっきまでの重たい空気が一変、みなやる気に満ちて活気あふれるものになっている。

「それと、提案があるんだ」

 ユーリの発言に、メンバーは注目した。

「一度、リアルで会えないか? オフラインで対策を練りたいんだ」

 その言葉に、一同は思わず顔を見合わせた。


 ◆10


 流れるギルドチャットを、イラつきながら眺める人物がいた。

「ちょっと予想外だな、意外とあいつら結束してやがる。裏を返せば、それだけ俺がハブられてたって訳だ」

 モニタ前で雷斗は呟いた。

「メンタルが弱いジャバウォックを叩けば、ギルドに動揺が走って空中分解、のはずが、ちょっと見込みが甘かったか。まぁいい。アイテムはがっぽり戴いたし、もうこいつらに頼らなくてもいいくらいに他人のアカウント情報は集められたからな」

 別のPCのモニタに映し出されているのは、羅列された大量の個人情報だった。アカウント情報で、本名はおろか住んでいる場所まで特定できてしまう。

「今の世の中、呼吸をするのと同じくらいに個人情報を自ら流出してるんだもんな。おかげでこっちは金に困らなくていいけどな、ハハハハ――!」

 薄暗い部屋に雷斗の笑い声だけが響く。そこへ、五人の男が何処からともなく部屋の中に現れた。だが、ほどなくすると、雷斗は近くにあったゴミ箱を勢いよく蹴り倒した。

「でも、いくら金があっったって、怒りは全然収まらねぇ! 向田、お前はマジでムカつくんだよ! あのスーパー、いつの間にか俺の似顔絵と防犯カメラの画像を、店内のそこら中に張り出しやがってよ! お前の浅知恵のおかげで、俺はあそこで万引きが出来なくなっちまった、クソがッ! お前はいつも俺の前に平然と立ち塞がりやがる、そこが気に食わねぇ。前回の中間テストの学年総合の順位は俺よりも上だった、学校では同じ優等生キャラなのに人望と学園カーストは奴が紙一重で常に上を行きやがるし、運動だって俺の方が出来るのに注目されるのはいつも向田だ。極め付けは、大学の推薦枠をお前が奪っていった事が何より許せねぇ! 何でだよっ! 先に推薦の話を振られていたのは、そもそも俺の方だ! それを後から推薦を希望した向田に奪われるとか、全然納得いかねぇ! あんなリアル厨二病患者が、俺より優れているわけねぇだろ!」

 雷斗は拳を力一杯机に叩き付け、身体の奥底から湧き上がる怒りを露わにする。

「……絶対に潰してやるからな! 今度は、この日本にいられなくしてやるぜ……、ハハハハハ――!」

 五人の男とともに、雷斗こと、加藤陽海は楽しそうに声を上げて笑っていた。

次回、【第四章 ネトゲ廃人は凶悪犯の夢を見るのか?】!

お楽しみ!

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