第八章 城
「地獄と孤独の世界…?」
「ええ、そうです。」
「なんでこんな事に?」
「それは女王様が命令したからですよ。退屈なんだそうです。」
「あなた、よくこんな中暮らしているわね。」
「女王様の配下にいるだけあってこれでも強いんですよ?
以前は女王様護衛隊の隊長に任命されたことも。」
白兎の話す様子は誇らしげでありながらもどこか馬鹿馬鹿しいとでも言っているようにも見えた。
「それで、その『女王様』ってのはどんな人なの。」
「皆からは『ハートの女王様』と呼ばれています。女王様は常に快楽を求める方です。闘技場で人々を戦わせてはそれを楽しんで見るような方です。まぁそれはアリス様も同じとは思いますが。」
「…何故知っているの?」
「それは内緒です♪」
そう言って白兎はにっこり笑う。だがこの場ではとうてい不気味なものとしか思えない。
「あなたは私を知っているの?」
「えぇ、そりゃあもう。昔々から。あなたが城に養女として行く前から。」
「…養女…?」
「あ、知らなかったですか。つい口を滑らせてしまいました。おっともうこんな時間だ。
アリス様、時間が無いです。少し早歩きしましょうか。」
そう言って懐中時計をポケットへしまう。
…この男は自分の何を知っているのだろうか…
…私はこの男と知り合い?…
…あの『闇』の中で私は白兎と会ったように思った…
…何故だろう…
…白兎は私を知っていて、私は白兎を知らない…
…一体こいつは…
「アリス様、どうかなさいましたか。眉間に皺がよっております。」
「あなたに関係無いわ。」
「ずいぶんと冷たいですね。私のことを考えていらっしゃるのでしょう?
どこで会ったかまだ思い出せないでいる様子…。」
白兎は口に手を当てクスクスと笑う。
「女王様の下へ行けば嫌でもわかりますよ。」
「………。」
アリスは無表情で白兎を見つめた。
二人は大きな城の前で立ち止まった。
「ここです。」
「……何だか見覚えがあるわ……。」
「行きましょう。」
「えぇ。」
城の大きな扉はひとりでに開いた。
中に入ると暗闇だった。
「ここは…。」
ボッ…
二人の両脇にあった蝋燭が突然、炎を揺らめかせた。
蝋燭の炎は止まらず前の蝋燭にも火がついていく…
「案内?」
「みたいですね。」
「みたいですねって…あなたこの城のことわかってるんじゃないの?」
「来るたび城の中は変わるんですよ。女王様は模様替えが好きなのです。
ですがそれはあまりにも酷すぎて近頃は廊下や部屋の位置まで変わってしまっています。」
「何、ここの女王は魔法使いなの?」
「そんなものです。」
「それにしてもこんな不気味なものを作るなんて相当悪趣味ね。おまけに性格も悪そうだわ。」
白兎は苦笑した。
炎は一つの扉を照らした。
「ここ?」
「…のようですね。」
キィ……
暗闇の中に、一本の燭台を持った女性が一人立っていた。
「…誰?」
アリスの問いかけに彼女はこちらを振り向いた。
その途端、目を輝かせた。
「白兎さんっ!!!」
彼女は走ってこちらへ向かってきた。
「私、白兎さんのことをお待ちしておりました!
いつの日のことか…白兎さんが表世界へ行ってしまった時、私は泣き止むことができませんでした。
嗚呼、白兎さんはいつになったら帰ってくるのか…私はずっとそう思っていました…!!」
「あっちの世界へ行ったのは今日の朝だけど?ラヴィ。」
ラヴィと呼ばれた女性は白兎の言葉に照れ笑いをした。
「アリス様を連れてきた。女王様の所へ案内してくれるかな?」
「かしこまりました!」
ラヴィはパチンと指を鳴らした。
すると周りが明るくなった。
「こちらです。」
「アリス様はどこの出身なのですか?」
「え?」
ラヴィの突然な問いかけにアリスは面食らった。
「ラヴィ、アリス様が困るようなことを聞くな。」
「困るようなことですか?…さぁ、着きました。」
コンコン…
「女王様、アリス様のご到着です。」
「入れて。」
扉の向こうから声がした。
ガチャ…
「何か用がありましたら、いつでも言ってください。」
そう言ってラヴィは二人を中に入れ、扉を閉めた。
バタン…
入ると椅子に深く腰をかけている後ろ向きの女性がいた。
「ようこそ、地獄と孤独の世界へ。」
…白兎と同じことを…
「アリスよ、何故穴へ入った?」
「…?」
「何故、白い兎を追いかけたのか。」
「……。」
「答えることができないか、アリスよ。」
「あなた、一体何なの。」
「私はハートの女王ファリス。独房ゲームの創造者よ。」
はぁ、やっと出てきましたよ。
「独房ゲーム」
まだこれの意味はわかんないと思いますが
次でしっかりきっちり説明させていただきます!!
ということで!どなたか次話を楽しみにしててくださ〜い…!