第十九章 壁の向こうで
「あなたは…チェシャ猫…?」
「当たりぃ、お姫様♪」
と言ってチェシャ猫はにっこりと微笑んだ。
「それにしても、ここは…。」
「迷路さ。独房ゲームの目的はここに入ることなんだ。」
「ここに?」
アリスは首を傾げた。
「そ。さっきの街の中からここに行き着いた者が
本当の独房ゲームを始めることが出来るってこと。」
「そんなの…私でさえも適当に路地入って来れたんだから誰だって来れるでしょ。」
「アリスは運が良かったのさ。
さっきの道だって0.01秒でも遅かったらこの道は閉ざされてたんだ。」
「何、ずっと同じ場所にあるわけなんじゃないの?」
「入り口はランダムに変わるのさ。だから運が良かったってこと。」
チェシャ猫はクスクスと笑っていた。
「それにしても、そっちの奴は…?」
「ファドリア。途中で仲間になったの。白兎達と離れてしまって…。」
「白兎?白兎はまだここに来ちゃいねえなぁ。どっかで戦ってんじゃねえか?」
「わからないけど…。」
白兎達を心配するようにアリスはうつむく。
「ねぇ、あなたはいつからここにいたの?」
「かなり前。」
そう言うとチェシャ猫はポケットから黒いゴムを取り出して髪をまとめた。
「何、変?」
「それより…白兎達は来るのかしら。」
「さぁな。」
「さぁな、って…。」
「先に進んでようぜ。」
「でも…。」
アリスは口を尖らせた。
それを見てチェシャ猫はため息をつく。
「そこの…あー…ファドリア?」
「ファドでいい。」
「あっそう。で、そのファドはどうしたいよ。」
「俺はさっさと前に進みたい。」
「だとさ。」
「………。」
アリス達は迷路を進む。
長い長い道を進む。
アリスは左手を壁につけながら歩く。
「…この迷路には休憩する所も無いの?」
「休憩って…。」
「だってさっきから目にするのは白い壁ばかり。なんなの?」
「白い壁、ねぇ…。」
「何よ。」
「いいや?」
何か隠してるな…?と思いつつもアリス達は前へと進む。
その時ファドがピタリと止まった。
「どうしたの?」
「壁の向こうから声がする。」
「声?」
アリスは壁に耳を当てる。
その向こうでは男の声が聞こえてくる。
アリスは神経を集中させて何を言っているのか聞こうとする。
「…ェ…ャ…と…リ…が…は…と…さ…して…る…うで…。」
聞き取れない…。
「だ…じ…う…こ…ちに…こ…つがいる…。」
…何かがいる?
「な…えは…んと…い…まし…たかな。」
もうちょっと近ければ聞こえるのに…!
「リン…だ。」
…リ、ン?
アリスは壁から離れた。
「アリス?」
「…リン…?」
「何を聞いたんだ、アリス?」
リンが、ここにいる?
この壁の向こうに?
「アリス!」
「あ、ご、ごめん。」
「何か聞こえたのか?」
「ファド…ううん、何も聞こえなかったわ。
聞き取りにくくて何を言ってるのかよくわからなくて…。」
「そうか…。」
リンという名前が聞こえたのは内緒にしておこう。
何か久しぶりに書いた…。
別に今まで忙しかったわけじゃないけど。
あぁ、何か疲れた。