FOLDERー09 死神遊戯会
大分遅れてしまいましたorz
すいません(_ _)
脳が限界を訴える。手が震え、膝が笑い出す。胃液が喉元まで迫り、警告する。大袈裟かもしれないが、かなりキツい。
「‥‥うぐ」
「ハハッ、無理しちゃあダメだよ」
余裕の言葉を投げかけた青年を軽く睨み付けた登闇は、机の上に置いてあったコップを掴み取ると、水差しから水を注いで一気に呷った。
普段、机の上は書類と機器で溢れかえっているのだが、今日は特別だ。
「古馬ぁ、お前覚えてろよ」
ぼんやりとした頭で呟くが、いかんせん凄みが足りない。
「うーん‥僕あんまり記憶力良くないんだよね。それに、今回ばかりはキミの責任じゃないかなぁ」
古馬と呼ばれた青年はわざわざ登闇の気に障る言葉を選んで話す。古馬の言うことはもっともなので、登闇は特に言い返すでもなくただ睨み続けた。
古馬勝彦。切れ長の目と淡い金色の髪、スラリとした体型が特徴的な特別案件処理班所属の新米兵士だ。
「‥‥」
「それはそうと天恵ちゃん、退院したんだってね」
そうだ。今日は妹の退院パーティーだったはずだ。それなのに何故こんなことになっている?
状況が上手く読めない。ただ、朧気ながら覚えていることはある。
真実と話した後、しばらくしてから古馬に引きずられ、飲んだり食ったりしてそのまま酒の飲み比べを‥‥‥
自分の行動を見直してみてことの原因がわかった。未成年の身で酒を飲んだ罰だ。特別酒に強いわけでもなく飲み馴れてるわけでもない。比較的よく飲む古馬に敵うはずもない。
‥‥未成年飲酒が許されるのも、俺らの特権、か‥‥
いつもならこんな失敗は犯さないのだが、今日ばかりは場の雰囲気に流されたのかも知れない。あぁ、本当に今日はツイてない。
「ん、あぁ‥‥」
「どうしたの?心ここに在らずって感じだよ」
「うっせえ‥‥‥頭グワングワンするー」
片手でこめかみを押さえながらも反撃はする。余裕な古馬の態度はわざとだとわかっていても、ついつい言い返したくなってしまう。
「今日はもう寝たほうがいいんじゃない?」
「そうしたいんだけどな。まだ玲奈はメンバー全員に会ってないから紹介しなきゃならん」
「ふーん、そうなんだ‥‥その喋り方、大佐にそっくりだね」
目を細めてクスリと笑う姿も、一々何かを狙っている感じがして煩わしい。
「うるせえ、俺も少しは気にしてんだよ」
古馬に適当な相槌を打ち、突っ伏していた机から立ち上がる。危うくずっこけるところだったが、椅子に捕まって辛うじて耐える。
「気をつけてねー」
「顔合わせするだけだぞ。何に気をつけるんだ?」
声音こそいつもと変わらないが、その足取りはふらふらしていて危なっかしい。
「くくっ‥‥いろいろ、だよ」
笑いを押し殺した古馬も席を立った。
「お前も何か用事あんのか?」
「いやあ、ちょっとトイレにね。飲み過ぎたからさ」
「そうか。じゃあまた後でな。遅れんなよ」
立ち上がった二人は軽く挨拶を交わすと別々の方向へと歩き出した。
古馬と別れた登闇は玲奈を探していた。決して狭くはない部屋だが、パーティーの準備中に視界を遮る物はほとんど片付けられているので、目的の人物は直ぐに見つかる。
「オイ、玲奈‥‥」
机や台などに体をぶつけながらも玲奈のもとまでたどり着いた。後ろを向いていた玲奈を振り向かせようと声をかける。
「ほふぁ!!ひひふぁひほふぁふぁ!!」
振り向いた玲奈は口一杯に食べ物を詰め込んでいた。登闇はその姿を見て呆れ、ため息をついた。酔っ払った自分より情けない。
「っと‥‥何やってんだよ。さっさと飲み込め」
少しふらついてしまう。いくら何でもこんな短時間でアルコールは抜けてくれない。あんまりやりたくないが、魔術を使えば緩和できるので少しだけ使うことにした。
‥‥酔っ払いにだけはばれちゃいけない技術だな。確実に集られる。
「ふょっふょふぁっふぇ」
最初と同じように、口の中の食べ物のせいで、もごもごとした喋り方になっていて全く聞き取れない。
「何喋ってるかわかんねえ」
「‥‥ふう。急に話しかけないでよ。ビックリするでしょうが!」
ハムスターのごとく溜め込んでいた食べ物を咀嚼し、ようやくまともに喋れるようになった玲奈は、早々に文句を口にした。
「俺はお前のそのテンションにビックリだ‥‥そんながっつく必要ないだろーが‥‥ここに来るやつの数はたかが知れてるし」
「それがねえ~、下請けのお兄さん達とか大佐の連れとかが沢山いて、用意されてたやつが足りなくなっちゃったみたいなの。だから無くなる前に食べようと思ってさ」
このバカ騒ぎはあらゆる場所に飛び火しているようだ。目に映る人数以上に騒がしいのは下請け連中とオヤジどもが原因らしい。
‥‥ったく
今更ながらこの企画が成立したのが不思議だ。許可を出した者としては無責任過ぎるかもしれないが、それ以降のことには関与していない。予算や上層部への掛け合いは全て古馬を中心とした部下たちが行った。もしかしなくても、毅仁が関与しているに違いない。
「理由はどうであれ女としてどうなんだ?」
「うっさいわねー‥‥それよりもあんた、酒臭いんだけど」
「ちょっとな‥‥男にゃいろいろあんだよ」
鼻をつまんで手をパタパタやりながらぼやく玲奈に、登闇は誤魔化しつつ話題の転換をはかった。
「お前ってまだ俺んとこのやつ全員に合ってないよな?」
特別案件処理班の人員は出払っていることが多いので、全員が揃う機会は極めて少ない。そのため、今日はやや強引に集まって貰った。まだ数人到着していない者もいるが、追々合流するだろう。
「え?うん、そう言えばそうね。まだあんたと真実ちゃんと古馬さんにしか会ってない気がする」
「だよな。今日はお前を他の奴らに紹介しようと思ってな」
「へぇ、何人くらいいるの?」
登闇の振った話に耳を傾けつつ食事を再開した玲奈は、特に興味も無さそうな様子で聞き返した。どうでもいいことだが、真実は左利きらしい。
「まあ、正式なのは全員で6人、非公式とか下請けとか入れりゃあ数え切れない」
酔い醒ましに良さそうなものを適当に摘まんで口に放り込んだ。言動に変化はないが、足取りが未だに心許ない。‥‥そろそろ効いてくんだろ。
「あ、そうなんだ」
『ああ!?んだよ!』
『クソが!!』
玲奈が登闇の言葉に興味無さそうに返したのとほぼ同時に怒号が響いた。
「‥‥‥ちょっくら様子見てくるわ」
思わずため息が漏れた。
「ガンバってね~」
依然、食べることに意識を割いていた玲奈は、諸々の雑音を聞かなかったことにしたようで、黙々と食べるという作業を続けていた。
一応であっても主催者としての立場上行かざるを得ないと判断し、問題の階へと急いだ。
次話投稿も遅くなるかもです