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Bad×Endアンインストーラー  作者: Free Fly
アンインストール ~ターゲット『S・E』~
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FOLDERー06 力



 特定の人物に会いたくない時には、決まって会ってしまうものだ。そして肝心な時にはわざとやっているのかと思いたくなる程タイミングが悪く、会えない。ある意味で世界の真理と言っても過言ではないだろう。


「ねぇ」


「‥‥‥」


「ねぇねぇ」


「‥‥‥‥‥」


「抱きついてキスするよ?」


 追いついた少女は叫ぶ。

 栗色の髪をセミショートに整え、軍服を着た少女は幾度となく登闇にチョッカイを仕掛けるが、そのことごとくが失敗に終わる。

 特別案件処理班所属、水苑真実(みずそのまなみ)。比較的個性の強い者が多い特別案件処理班では、まともな部類に入る。そして、例に漏れず彼女も魔術師である。専ら書類仕事が主な、非戦闘員でもあるのだが。


「なあ?もう少し静かに出来ないのか?ここ病棟の近くだぞ。あと、さっきのは無しな」


 口を開いた登闇から出てきた言葉は、真実を満足させるものではなかった。


「やっと喋ったと思ったら何よもう。生憎と私の辞書に黙るという字はないわよっ」


 堂々と胸を張って言えることじゃないだろうに。

 ‥‥‥相も変わらず、テンション高ぇーな。静かにしてれば見てくれはいいのに‥‥


「だったら俺がその役に立たない辞書ごと頭ん中綺麗にしてやろうか?」


「それは勘弁!登闇君が言うとシャレにならないから」


 笑いを押し殺しながら発せられた登闇の言葉に敏感に反応した真実は、ブンブンと手を振って否定の意を示した。

 たまにはこうしてはしゃぐのも悪くない、と。彼女とのやり取りは思わせてくれる。そのことは心底感謝しているだけどな‥‥


「冗談だよ冗談」


「そ、そうだよねー」


 この年ならば学校に通い、たくさんの友人に囲まれ、その友人とくだらないことをしては笑いあう。普通ならそうするし、そうすることを望むはずだ。

 だが登闇にはそれが許されない。過剰な力が邪魔をする。争うためにしか使うことができなかった不必要なもの。縛り付けられてしまった足枷。そう思っていた。

 だが最近は考え方が変わった。力の使い方は一つではない。自分が正しいと思うことに、自分の望むことに使えばいい。ただの傲慢かもしれないが、それならそれでもいい。望まないことをして後悔するよりマシだ。


「‥‥‥‥」


力、それは多面的なもの。

ただ一面にあらず。


 どこで聞いたのだろう。とても深く心に響く。いや、抉られる‥‥


「どうしたの?急に静かになっちゃって。喋り辛いじゃない‥‥」


 どうやら思考に意識を割いたために気を使わせてしまったようだ。考え過ぎるのは悪い癖だといつも思う。


「いや、気にするな。ちょっとお前のこと考えてただけだから」


 含みのある笑みを向ける。


「えっ!?それってどういう‥‥」


 真実の耳先が徐々に赤みを帯び、緩やかに広がっていく。それが顔に到着するかしないかのタイミングで登闇が訂正を口にする。


「今のじゃわかり辛かったな‥‥お前のバカさ加減についてだよ」


 俯いていた真実の頬に先程とは別の赤さが浮かび上がる。擬音で言うならばプツン、だ。


「ッ!!!!」


 変な誤解させて悪かったと謝罪をいれた登闇は、先程から感じる不穏な気配から遠ざかろうと、歩く速度を上げた。


「まあ待ちなさい。少しお話ししましょう?私を弄んだ罪は重いわよ」


 面倒な事態になるとわかりきっていたので、真実が次の言葉を発する前に去ろうとした。が、背中を向けた際に、男性用軍服の後ろ襟を掴まれた。引っ張る力は意外に強く、動こうにも動けない。


「おい、俺は今すぐここを離脱せねばならんのだ」


 不味い‥‥このままでは更に面倒なことに‥‥‥


「あ!いた!」   


 来た。

 美しい漆黒の長髪を揺らしながら走ってくる少女、玲奈だ。

 目を凝らしてみればこの前見たときにはない変化が見られる。着ている服が一般的な淡い緑色の軍服から、特別案件処理班に所属する者の証明ともいえる濃緑色の軍服に変わっている。

 彼女が異動して来たのはつい数日前のことだ。登闇としては同じ部署に身を置くとなるとどうにも落ち着かない。自分でもそれなりに恥ずかしいことをした自覚があるからだ。そして彼女は何故か模擬戦(?)を終えたあたりから会う度に襲ってくる。

 俺は何か怒らせるようなことをしたのか?

 同じ議題で何度も自問自答をしてみたが、一向に答えが見えてこない。つまりは身に覚えがないということであり、殴られてやる筋合いは無いのである。故に逃げることは正当な防衛行動のはずだ。


「面倒くさいのが来たからそろそろ行くわー。また後でなー」


 誰に言うでもなく勝手に結論付け、真実の拘束をすり抜けた登闇は一言残すと、跡形もなく消えた。


「何ですか?今の?」


 息を切らしながら玲奈が質問を口にした。揺れるものが髪しかないというのは同じ女性目線からしてもどこか悲しい。


「いつものことよ‥‥って言ってもウチに来てあんまり経ってないか」


「一応アレとは模擬戦かな?‥をしたんですけどね。あ、でも戦ったと言うよりは何だろ?深い人生相談‥?みたいなものでした」


 登闇のことをアレ呼ばわりした玲奈は、あれ以来性格も明るくなったんですよーと笑いながら付け加えた。

 本当に変わったと思う。以前の彼女とは話し方も考え方も変わり、彼女を知る者からすれば信じられないくらいの変わりようだ。


「ああ、それね。最近登闇君そういうの多かったからなぁ」


「そういうの?」


「え?いやいや、何でもないから気にしないで」


 キョトンとした顔でたずねた玲奈をなだめ、話題の転換をはかった。‥‥別に悪いこと隠してるわけじゃないんだけど、聞いたら怒るよねぇ‥‥

 日は既に傾き始め、道を行く二人の影を照らし出していた。




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