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Bad×Endアンインストーラー  作者: Free Fly
アンインストール ~ターゲット『S・E』~
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FOLDERー05 交錯



 毅仁への報告を済ませた登闇は、その足で妹が入院している病室に寄った。

 この病棟は入院患者の少なさ故に、複数人で使用する部屋よりも個室のほうが圧倒的に多く、理解力の高い良心的な医師が配置されている。個室内の行動は、許可の下りる限りは自由であり、天恵が患者用ベッドの上に私服姿で座っていても何ら不思議ではなかった。


「調子はどうだ?」


 ごく普通にかける言葉。

 一般的な患者に対する入室者の第一声としては正解だが、この兄妹に取っては不正解であった。


「普通」


 感情を感じさせない声質。普段とは明らかに違うので、意識的にそうしているのだろう。


「何だその変なしゃべり方は?」


 何となく聞かなければならない気がしたので聞いてみた。地雷原に飛び込む気分だな、こりゃ‥‥


「この一ヶ月ヒマでヒマでしょうがなかったから」


「そっか、悪かったな」


 ベッド脇の簡易テーブルの上に無造作に置かれた見舞いの品を整えながら呟く。その呟きには多少の罪悪感が含まれているのだが、天恵は気付かない。


「‥もう平気だからそろそろ退院したいな」


 天恵の病は大したものではなかったのだが、結託した過保護な兄と育ての親が天恵を病院に押し込めた。

 登闇に取って天恵はたった一人の血の繋がった家族であり、未だに独身の毅仁に取っては自分の娘同然。ニ人が過保護になるのは当然と言えば当然なのかもしれない。

 しかし、変なところで鈍い天恵に、登闇と毅仁の思いが通じるかどうかは怪しいものである。


「ああ、多分今日か明日には退院できるはずだからもう少し我慢してくれよ」


「もう、我慢はたくさんしてきたよ」


 幾分かトーンダウンした天恵は、ベッドの上に畳まれていたタオルケットを手繰り寄せて体に巻いた。

 その様子を見て雲行きが怪しくなってきたのを感じた登闇は、常套手段にでた。


「‥‥」


 無言で白銀の髪を撫でた。

 まだ両親が生きていた頃、こうして撫でてもらうのが大好きだった。

 登闇は一つ下の妹がそうされているところを何度も見てきた。どんなに機嫌が悪いときでも、こうすると少しは機嫌が直る。

 撫でられて機嫌を直すという流れは、天恵に取っては刷り込まれた反射的な行為であったため抗いようがない。

 卑怯なことをしている自覚はあったが、天恵が気持ち良さそうに目を細める姿を見ているとそんなことはどうでもよく思えた。‥‥コレじゃ変態だよなぁ‥‥


「‥‥登闇、ひきょーだよ」


 拗ねたように言った天恵は、登闇が撫でるのを止めた髪を弄った。

 天恵の髪が透き通るような白銀色をしているのは色素が薄いからだ。それが原因なのか、黒目付近を流れる血液を完全に覆い隠せず、やや赤みがかった色をしている。

 本来、色素が薄い人間は紫外線に弱いと言われているが、最近の医療技術を持ってすればこの点を克服することができる。

 色素が薄い人間は多々いるが、天恵はその中でも特殊な例らしい。髪が白、目が赤というのはかなり希少なようだ。入院中にも何かにつけて検査を迫られたに違いない。


「ハハッ、悪いな。さっきみたいな泣きそうな顔はあんまり見てたいものじゃないんだよ‥‥‥って、別に変な意味ないんだぞ?ホントだぞ?お兄ちゃんは変態じゃないからな?」


 自分で言っていてかなり恥ずかしい台詞である。まるで口説き文句だ。内心の動揺が露見しないのは助かった。この時ばかりは代表者という立場に感謝したい。流石俺だ。微塵も怪しい動きがない。


「ふふ‥妹じゃなかったら惚れちゃうよ?そんなセリフ言われたら」


 よく仲が良いと言われる兄妹であったが、お互いを完全な異性として見たことはない。

 ただ、登闇はあまり意識していないが、耳にかかるぐらいの黒髪と人形のように端正な顔立ちから、圧倒的な支持を得ている。天恵にしても並み以上の容姿をしているため、登闇と同じく支持率は高い。

 そんな二人を、兄妹と知らない人が見ればお似合いのカップルにしか見えないだろう。


「な、な、なーに馬鹿なこと言ってんだ。俺はそろそろ帰るぞぞぞぞ?」


 登闇が帰ると言ったのは、用事があったからではない。何となく居づらくなったからだ。一旦変わった空気の流れを逆流させるには多大な労力を要する。

 ふと時計に目をやって時間を確認する。知らぬ間に時が過ぎていたが、慌てて帰るような時間ではない。


「アハハ‥‥うん、仕事がんばってねー」


 登闇が自分の見舞いに来るのは仕事のない暇な日だけということを知っている天恵は、ニヤっと笑うと『仕事』という単語を強調して、登闇を病室から送り出した。




「なんだかな‥‥まったく」


 広大な敷地面積を誇るここ、ハーフレイブンには、実験的設備や娯楽施設、兵士宿舎など様々なものが存在する。本棟には各部署、各棟に伸びる無数の道があり、本棟を中心に円状の形を取っている。

 そしてその中の一つ、病棟から本棟に続く道は直線距離にして約四百メートル。本棟までは六分前後で到着する。

 到着するまで誰にも会わないのがベストだが、そうはいかないようだ。


「‥‥今日は面倒ごとが多いな」


 病棟を出てすぐに、後ろから近づく人影を目の端に捉えた。後ろに張り付き、追い抜こうとしているその人物は、見慣れた顔だった。



私的な理由で投稿が遅れました。すいません(_ _)


次話の投稿が何時になるかわからないので御容赦下さい。

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