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Bad×Endアンインストーラー  作者: Free Fly
アンインストール ~ターゲット『S・E』~
17/17

FOLDERー17 八転八倒



「やっと着いたー」


 雪丘を小脇に抱えたまま、真っ先に飛び出したのは玲奈だ。いや、抱えたというよりも抱きつかれたまま、という方が正しい。

 小柄な雪丘は倒れぬよう、再度ふらふらとその腰にしがみつく。


「‥‥また、吐きそう」


 大将というイレギュラーな人員の増加により、更に窮屈になった機内からようやく解放された。行きよりも帰りが賑やかなのは珍しい。つーか、あり得ねぇ‥‥


「ん、んんー」


 五時間という長いフライトを終えたことで固まった体を各々がほぐす。体のあちこちから小気味いい音が鳴る。

 往復で約十時間、既に日は沈み、辺りを照らすのは第二飛行場を囲うようにして設置されたライトの明かりだけだ。


「よっし」


 雪丘に労いの声でもかけようと、背もたれから腰を上げる。だが、

 ‥‥‥コン‥‥

 コン?

 突如投げ込まれた物体を視界に捉え、そして叫んだ。


「ッ!全員目と耳を塞げ!!」


 瞬間、轟音を引き連れた光が炸裂した。

 百四十万カンデラを超える閃光と、約二百デシベルの爆音は狭い機内を跳ねるように駆け巡り、手の隙間すらくぐり抜けた。

 対閃光手榴弾用の装備を持たない彼らは、それらを全てを正面から受け、沈黙した。

 玲奈と雪丘の悲鳴が遠くに聞こえた。思考と意識を割断された状態では何もできない。掠れた意識を必死に繋ぎ止めようとするも無意味。

 ‥‥ああ、クソ‥‥‥‥







 さて、状況を整理しよう。

 手には手錠型の軍用拘束具が、頭にはウェーブの出力を下げ、外への干渉を抑制する効果を持つフルフェイスヘルメット状の機器が、そして、寄りかかった壁からは硬質な感触を感じる。

 ああ、やっぱりな‥‥

 わかっていたことだが、捕まったと考えるのが妥当な状況だ。


「まずったなぁ‥‥」


 辛うじて声は漏れる。

 ぼんやりとした思考で導き出した結論はこうだ。

 ハーフレイヴンの在り方を否定する内部勢力が起こしたもので、俺たちのような主力部隊や上位階級の者が狙われているだろう。一般兵は総員解雇され、発言力を持たない者も片っ端から排除されたはずだ。

 一種の内乱とも言えるコレは、特別案件処理班の帰投と同時に開幕された。

 あの時、開いた輸送機の扉から転がり込んできたのは閃光手榴弾で、それにより大半が無力化、残った非戦闘員ごと拘束され、現在に至る。

 恐らくハーフレイヴンは事実的に解体され、半民主制という要素が抜け落ちた政府組織と化すだろう。民営の企業や団体に干渉されることを毛嫌いする政府の仕業だ。前述した内部勢力を利用し、解体に漕ぎ着けたのは想像に難くない。

 それでなくとも武装した民間企業と蔑まれ、国民からの目は冷たかった。解体されるのが時間の問題でもあったのだ。

 ‥‥当然か‥‥‥

 戦争の火種を生み出し、それを拡大させている用にしか見えない行為なのだから。だがそれこそが経済の回転を加速させ、戦火を摘み取っているものだ、と言ったら何人が頷くのか。

 争いを生業としている者が消耗した国家の支えとなっているのだから皮肉なものだ。

 人は解釈をする生き物だ。故に裏に隠れた真実よりも、表層の事実だけを読み取ってしまう。


「んで、どーすかっね‥‥この状況‥‥‥」


 協力を仰げるような連中が残っているとは思えない。

 周囲の状況は推測でしかない、という流れは如何にして覆せるものか。

 ‥‥もしかしなくてもコレってピンチじゃね?

 唯一残されたのは考えるということ。それをしない、という選択肢はとっくに排除されてる。

 ジタバタしても始まらない。ならどうするか?それを考えるのが今の自分の仕事だ。

 生憎と、十七年間超過密な人生を経験してきたんだ‥‥このぐらいじゃ、へこたれねぇよ‥‥‥







「総理、この時期に潰してしまって宜しかったのですか?」


 スーツを着込んだ長身痩躯の男は問うた。

 その対角線状にいる、だらしなくジャージを着崩した男は手に持った知恵の輪に夢中で、しかし僅かに目線だけを上げた。


「‥‥ボクさぁ、そーゆー難しいこと‥‥あっ‥‥‥考えるのは苦手なんだよねー‥‥‥おっ‥‥だからこそ山科(やましな)が居るんでしょ?」


 直ぐに目は伏せられる。

 ジャージ男は話の合間にも手を休めない。対して山科と呼ばれた痩躯の男は、手元の小型スクリーンから目を離さずこめかみに手をやった。


「‥‥まあそうなんですが、いい加減真面目な話してるときぐらいは止めたらどうです?」


「えー?何、聞こえなーい」


 額に青筋を浮かべた山科は、耳元で、


「その玩具を離せと言っているんですよクズ。頭だけじゃなくて身体にも障害があるのですか?というかそうですよね?」


「え、や、あの、ごめん‥‥」


「‥‥今日は予定が多いですね。ええと、十二時から米国大統領と電話会談、その後二時からは閣僚たちとの会議があり、さらに五時からはヨーロッパで行われる軍縮会議の予定を確認し、一時間分のスピーチを覚えて貰います。あと、七時からは海外視察のためにジェット機へ。勿論、食事と休憩はありません。むしろ無くします」


 スーツの裾や襟を整えた山科は、一切の言動を無視し一方的に話を切り上げた。


「‥‥では失礼します。用があっても呼ばないで下さい、時間の無駄なので」


「倒置法だと?‥‥プッ」


 何が面白いのかいきなり吹き出した男は、しかし硬直した。

 何故なら、手にした知恵の輪が衝撃と共に吹っ飛んだから。理由はドアから見える、チラチラと動く黒い金属製の物体が原因だろう。


「‥‥ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「静かに待機してて下さいよ。クズ野郎‥‥いえ、総理」







 今日はとても気分がいい。答えは簡単、


「登闇が帰ってくるっ」


「天恵ちゃんは元気いいねー」


 作業机の手前、簡易ベッドとして用いているソファーの上で、グッタリとした様子の真実は呻くように言った。

 既に数日前のようなふざけた服ではなく、上下軍服で揃えたバリバリの仕事モードである。


「モッチロンさぁ」


 それにしても登闇遅いなぁ‥‥もう、今日は一緒にテレビ見ようっていってたのにー‥‥‥


「むー、暇だー」


 周囲を見渡す。

 が、お世辞にも面白いといえる本はなく、代わりに頭を抱えるようなタイトルばかりが陳列されれている。

 試しにホコリを被った古風な造りの棚から一冊、手に取ってみた。手の届かない位置にあったので少し苦労したが。

 『軍事力の保持とそれにおける戦争の関わりについて』という小難しいタイトル。結論まで約一秒。電光石火で生まれたそれを熟慮の結果とし、本を棚に戻すべく手を伸ばした。


「はしゃいだり暇になったりと、ずいぶん忙しいね‥‥」


 顔を赤くしながら背伸びして本を押し込む天恵を視界の端に捉え、やれやれと言葉を放つ。

 ‥‥‥高い位置の本って、取るときは楽なのに戻すのは大変なのよねー。


「真実ー、何かない?」


 んー、としばし考える仕草をした真実は、その姿勢を維持したまま頭だけガクッと崩れた。


「うん。寝よう」


 ここ最近の忙しさ故に、まともな睡眠時間を確保するのが難しかった。だから、天恵には悪いが、寝る‥‥


「じゃ、私も寝るー」


 言うなり、タオルケットを羽織って睡眠体勢をとっていた真実の上にダイブした。その結果、


「ぐへぇ‥‥」


「へへー、お休みなさい‥‥」


 真実の上に垂直落下した天恵はタオルケットを奪い取り、自分にもかけると、一言残して意識を飛ばした。


「寝るのはやっ!‥‥と、私も限界‥‥」


 幸か不幸か、この二人がいる部屋はこれ以降物音を無くし、ハーフレイヴン解体に巻き込まれることはなかった。

 書類仕事などの雑務をこなすために作られたこの部屋が長期間放置されていたこと、更には作業音や外部の音を消すための遮音性の高い壁と扉が幸いしたのだろう。

 彼女たちが物音を絶った後も、扉の前には幾度か政府の兵士が通りかかったが、両者が気づくことはなかった。







「大将、この状況、ちょっと前に見た、映画っぽく、ないですか?」


 毅仁の右肩には玲奈が、左肩には竹島が、


「ぬぁ、はははは!それ忘れ、たぞ。全く、老体をこき使い、おって」


 大将の左肩には古馬が、右肩には雪丘が、


「せめて、俺も担いで、下さいよっ!!」


 爆走する大佐と大将を追いかけながら、三島は悲鳴じみた声を上げる。

 先頭の三人に後続するように五、六小隊分の政府兵が迫ってくる理屈は単純明快。大隊に拘束された大将が暴れ、付近の連中を一斉に解放したからだ。その中で見知った顔が合流した結果、こうなった。


「君は、そういう立場じゃ、なかったのかい?」


「そういう立場、って、どういう立場、ですかぁ!」


 曲がりくねった道、撒き散らされた薬莢、更には飛び交う弾丸。感覚を研ぎ澄ませ、それら全てに対応していく。

 そんな状態で言葉を交わしているため、どうしても単語の区切りがおかしくなる。

 大将はともかく、大佐も馬鹿みたいに力あるなぁ‥‥もしかしてこの中で一番役に立ってないのって、俺?

 二人に担がれている四人は気絶している。戦力的には論外だ。


「どんな時でも、笑いを捨てない、っていうのじゃ、ないのか?」


「ちっがいますー!!」


 こんな状況でよくそんな冗談が言えたものだ。

 たった今も唸りを上げた銃弾が二発、髪を掠めた。たった一つのミスが、偶然が、己を貶め、死に向かわせる。

 俺は、自分の身を守るので精一杯なのに‥‥この人たちはホント、スゲェや‥‥‥


「ぬぅ!?少年、この二人を頼む!!」


 少し開けた広場に出たところで大将が担いでいた二人を投げてよこした。


「えっ?ちょっと‥‥って、おわっ!」


 いきなりの行動に驚いたが、何とか雪丘はキャッした。古馬は‥‥すぐ側に落ちた。

 ゴメン、古馬‥‥でも、でも俺、男を抱き抱えるとかマジで無理なんだ‥‥‥

 落ちた衝撃で起きてくれれば有り難かったのだが、都合よくは行かない。ぐぶ、という鈍い響きを聞いた気がしたが、空耳だろう。


「それにしても‥‥」


 不謹慎だと思う。先の大将たちをどうこういえなくなるが、目に飛び込むものは否応なくその思考すら蝕む。

 雪丘って‥‥その、カワイイよな‥‥肌とかメッチャ白いし‥‥あ、いや、でも俺ロリコンとかそんなんじゃないんだ!ただ年下とかいいよなぁ、とか控え目な胸が好みなんだよねー、とかそれだけしか考えてないんだ!ホントだぞ、ホントだからな!俺は純粋に‥‥‥


「何ボケッとしてんだ!伏せろ!!」


 へ?、と返す前に爆音が轟いた。

 見れば三十メートルほど離れた場所にいる大将が、個人携行用有線式熱源探知弾、パシュアーの直撃を受けている。


「のあっ!!」


 爆風で吹っ飛びそうになりながらも様子を窺う。

 個人携行用と言っても、城塞などの攻略に用いられる対重装甲向けの破砕弾だ。あの大将であっても、もしものことがあるかもしれない。

 まだ危険があるので、地面に転がっていた古馬も一応回収しておく。


「我が輩を殺す気かぁ!?」


 いや、逆に聞きたい。どうすればあんた死ぬんだ、と。ちょっとでも心配したこの気持ちを返してくれ、とも言ってやりたい。


「はぁあああああ!!!!!」


 お返しだとばかりに、気合い一声。

 叩き付けられた拳を中心に半径数メートルが陥没した。そして、その範囲内にいた者は内側から圧力がかけられたようにして破裂した。

 複数の人間が内蔵を垂れ流す光景はいささかグロテスクだが、惨状を見慣れた者にとっては今更な感情だ。嫌な慣れでもある。

 恐怖を、死への恐怖を忘れたわけではない。だか、ゆっくりと浸透する麻薬のような慣れは、徐々にだが確実に感覚を侵し、蝕む。人の死に触れる度に、慣れてしまう。自分を保とうとする保身的な行動とも呼べるが、保とうとすればするほど自分から離れるということでもある。


「‥‥大佐、毎度思うすけど大将って人間ですか?」


 半目で問いかける三島の横を、再び弾丸が駆け抜ける。


「‥‥愚問だな。筋肉に決まっているだろう」


 対する毅仁は大真面目な顔でそう切り返した。


「少しでも人間だと思ってた自分がアホでした」


「それは誉め言葉として受け取っておこう!」


 いつの間にやら傍らにいた大将は、いつもの笑い声を上げると近くの壁を粉砕し、建物へと促した。コンクリートの壁といえど、こうも簡単に破れるものだろうか。

 試しに崩れかかった近くの壁を殴る。


「‥‥~~っ!!」


 ‥‥‥軽くでこれだ。もう絶対にやらない。絶対にだ。


「ふん!」


 続き、大将は個室のようなものも貫通させた。

 もはや人外の所業は見慣れた。ただ、何かしでかす前に確認ぐらいしてほしい‥‥あと説明も‥‥‥


「うむ。我が輩の勘は正しかったな」


「ん?大‥将‥‥?」


 拘留所と化した倉庫の中、その一番奥には見慣れた者の姿。

 至る所に拘束具が付けられてはいるが、登闇だ。何故ここにいるかは、それこそ愚問だろう。


「いかにも我が輩であるが?余分なことをしたかね?」


 言うや、登闇の拘束具を一つ一つ破壊していった。

 まだ拘束されてから数時間と経っていないはずだが、登闇の様子は疲弊している。任務の終了直後故に、疲れが溜まったままなのだ。それは他の者にも同じことが言えるのだが、三島などはほぼ気力で、気絶している四人が未だに起きないのはそれに因るところが大きい。ちなみに大将はノーカウントだ。


「‥‥ふぅ、助かりました。危うく昼寝しそうでしたよ」


 強がりとも取れるボケをかました登闇はズボンの汚れを叩き、そして立ち上がった。


「ぬぁはははは!礼など要らん。もう一食ほど奢ってくれればそれでいいかるな」


「たたた大将!?」


「そう慌てるでない、冗談だ」


 三島は胸を撫で下ろす。

 大将がやたらめったら壁を壊してたのは捕虜を探してたから、かな?

 考え過ぎか、と思いつつ別の思考も巡らせる。少しでも気を抜くと、手元にある超強力邪念の素に理性が持って行かれそうになるからだ。


「幸い、ここは中央制御室の近くみたいだからな」


 一息、


「さてと、反撃開始といきますか」


 腕まくりをした登闇は力強く宣言した。





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