FOLDERー12 新たな芽
「ひっさしぶりー!さて、オレ様の素晴らしいぎた‥」
「耳元で騒ぐな。目と耳と鼻と口と脳が腐る」
小柄で可愛らしい顔立ちをした少女が、軽くウェーブした黒髪を払った。少しつり上がった目尻と凛とした雰囲気が特徴的で、小柄なのに気圧されそうな迫力がある。
「ええ!?多くね?腐るとこ多くね?」
「だから騒ぐなと言っているだろう」
「い、痛いって!アイアンクローはマズイっしょ!」
先ほどからやけに騒がしい金髪の男が、ギターを片手に悶絶していた。
男の体格は引き締まっており、背も高い。今現在その男は、頭一個分以上の身長差がある少女に頭をギリギリと絞め上げられている。シュールな光景を目にするのは本日二度目だ。
「三島も雪丘も、そこら辺でやめとけよ~」
雪丘と呼ばれた少女はようやく手の力を抜き、ギターを持った男、三島を解放した。
「え?オレ悪いんすか?!」
頭を押さえながら悲鳴じみた声を上げる三島は、俺は無実だと叫ばんばかりの勢いだ。暑苦しい‥‥
「了解しました」
不満顔の三島に対し、雪丘はまったく表情を変えない。
「お前らも相変わらずたなぁ」
今まで無表情だった雪丘は、たった今緊張が解けたようで、目尻を僅かに下げ、心なしか表情も柔らかくなった。緊張する要素がどこにあったのかは不明だが。
「なあなあ隊長ー、さっきのテロリスト‥‥だっけ?あいつらどしたの?」
三島は合流際の一騒動について尋ねた。詳しいことはわからないようだし、裏事情もさっぱりらしい。
「うーん、話し聞く気がなかったみたいだから少し驚かせて、落ち着いたところで、説得した。そんで、そのままお引き取り願った」
登闇の言葉をそのまま受け止めるなら割と軽い感じに伝わるが、実際は酷いものだったのだろう、と三島は推測した。
「どーせまた精神崩壊寸前まで追い込んだんでしょ。言わなくてもわかりますよ」
「あ!登闇さーん、先程はどうもありがとうございました」
通りかかった女性兵士がペコリと頭を下げた。あの場に居合わせた者が見れば何のこっちゃ、と首を傾げるに違いない。
「ああ、怪我が無くて良かった」
微笑んだ登闇は、軽く手を挙げて応えた。
「全く、あんたの反則っぷりには驚かされるわ」
「まぁ今更なんだけどねぇ」
遅れて合流してきた真実、玲奈、古馬の三人はそれぞれの手に数個のコップを持ち、早くとってくれと急かしてきた。慌ててそれらを受け取り、それぞれに配った。
何はともあれ特別案件処理班の面子が勢揃いした。
「私は除け者かー」
「わ、る、い、わ、る、い、だ、か、ら、ゆ、す、る、な」
天恵が小柄とはいえ、肩を掴まれてガクガクと激しく揺すられてはたまったもんじゃない。
「ちょっとタイム‥‥気持ち悪い‥‥」
「シャキッとしてください。登闇さん」
「お前まだそのままなのかよ‥‥いい加減目の毒‥‥もとい、不自然だから直せ、服装と言葉使い」
「あーら登闇さん?もう一回揺すって欲しいですって?しょーがないですねー」
不気味な笑みを浮かべた真実は、手をウネウネと動かしながら近づいてきた。‥‥ホント、もう勘弁してください。
「わ、ちょっと待て!そんなのは後だ後!ほら、玲奈これみてくれ」
机の上から分厚い辞書のようなものを取り、玲奈に手渡した。高級感漂う装飾が施された冊子だ。
「うわ、おもっ‥‥ん~なになに。ハーフレイヴンに所属する特殊人員のプロフィール?へーこんなのがあるんだー‥‥ってかアナログねー」
赤と黒の縁取りで装飾された辞書のようなそれを開いた。始めのページは目次らしく、黒地に白い文字で人名がびっしりと書き込まれていた。その文字を目で追っていくうちに、目的の団体を見つけ、指定のページに飛んだ。
『一登闇。特別案件処理班隊長。精神干渉系の魔術を得意とし、圧倒的な演算能力、情報操作能力を持つ。また、この点に関しては不明な部分が多く、不確かではあるが、SystemEmethに最も近い者であると言われている。階級の扱いは特例として少尉。十七歳。』
『一天恵。特別案件処理班に所属し、一登闇の親族である。その戦闘能力は数多の魔術師の中でもトップクラスと評されるが、身体的なハンディキャップを持ち、身体能力にやや難あり。魔術の使用には大佐以上の者の許可を要する。階級の扱いは無し。十六歳。』
『香月玲奈。特別案件処理班所属。火器の扱いに長け、身体能力も高い。総合的な能力は幹部クラスの人間に匹敵し、主に物理攻撃系の魔術を行使する。階級の扱いは無し。十七歳。』
『水苑真実。特別案件処理班所属。主に事務関係の仕事をこなすが、戦闘員としても活動可能。物理的内部干渉系の魔術を使用する。階級の扱いは無し。十六歳。』
『古馬勝彦。特別案件処理班所属。隊員の中で唯一戦闘能力皆無の人員。作戦の考案及び指揮を執り、最小の被害で最大の効果を得るという目標を掲げ、それを実戦している。階級の扱いは上等兵だが、作戦指揮時のみ特例として准将。二十歳。』
『三島慶一。特別案件処理班所属。他の隊員に比べ、戦闘能力は低いが、主に諜報活動と作戦のバックアップを務める。魔術関連は以前不明で、本人からの申告待ちである。階級の扱いは兵長。二十三歳。』
『雪丘美幸。特別案件処理班所属。一登闇ほどではないものの情報操作に長け、近距離から遠距離までの戦闘をこなす。得物として弓と刃物を好み、それに準ずる特殊な魔術を使用する。階級の扱いは無し。十八歳。』
未成年の者には、特例以外階級が与えられていない。
コレはどこの隊員でも同じことである。
「ふむぅ~」
自分が評価されているのは嬉しいが、恥ずかしくもある。それに、知り合って間もないこのひとたちの軍人としての一面を見ることもできた。だけど、最終的なその人の人柄は、しばらく付き合っていかないとわからないものだ。だから、少しでも多くの言葉を交わし、少しでも多くの顔を見たい。
「なんか説明だけみると凄い集団ね、ココ」
「実際はどうだか知らんがな」
雪丘なりの冗談らしい。本人は少しだけ笑っている。
‥‥あんま喋らない人かと思ったけど‥‥
「んもう、つれないこと言わないで下さいよー美幸さん」
「んなっ、ま、待て」
玲奈が雪丘ににじりより、飛びかかった。だがそれだけでは終わらず、抱きつきいて頬ずりし始めた。
「ほっぺたやわらか~」
「は、恥ずかしいから、やめ‥‥」
無表情だった顔が赤らみ、困ったような顔にる。周囲の視線は微笑ましい。
「赤ちゃん肌だ~」
「は、話を聞けっ」
人間関係は今のところ問題なさそうだ。こうしてすぐに打ち解けられるのも、玲奈の持つある種の才能なのかもしれない。
「これで終わりでいいのかなぁ?私もあの中に混ざってこよーかなー」
「そっか。んじゃ、お疲れさまー」
「おっと隊長?何処へ行くんすか?」
「登闇くん?せっかくだし退院パーティー兼親睦会といこうじゃないか」
三島と古馬に両腕を拘束され、身動きが取れない。何故かこんな時にだけ力が強い。ズルズルと連れ戻される登闇の顔には、言葉とは裏腹に、嬉しそうな笑みが張り付いていた。
「「せーの!!」」
「わわわ!マジかよぉ!」
二人がかりで投げ飛ばされた登闇は、悲鳴と共に湧き上がってくる笑みを消すことができなかった。
夏休み忙し過ぎて、なかなか更新できませんでしたorz
遅めの更新にお付き合いいただき、ありがとうございます