FOLDERー11 宴の中の喧騒
短くなってしまいましたが、修正版です。
「ずいぶんと遅かったねー」
「ん、チョイと野暮用でな」
真っ先に顔を出した少女は、登闇を見るなり飛びついた。
「天恵、ようやく到着か」
病棟から直ぐに来たらしい。まだ病院着の代わりに着ていた飾り気のない私服姿だった。
「ふふ、お腹減っちゃったからさぁ」
登闇の周りをピョコピョコと飛び跳ねる天恵は上機嫌だ。病院のベッドから解放されて、自由に動けるのがよほど嬉しいのだろう。
「どーしてこう、俺の周りにはよく食う女が多いんだか」
「ふーん?登闇の回りにはそんなに女の子が多いのかなぁ~」
冷やかすような声音の天恵は、目を細めた。
「‥‥それはそうと、顔合わせがあるから付いてきてくれ」
パン!!!!
天恵の発言を軽く聞き流した登闇は、そそくさとその場を離れようとした。だが、それを遮るように響いた発砲音に顔をしかめた。
「‥‥はぁ~、やっぱし待ってろ天恵」
「動くな、一登闇!動けばコイツを撃つ!」
喧騒が割れ、ハーフレイヴンの軍服を着た男二人、女一人の計三人が顔を出した。先頭を行く女の手には猟銃と、人質であろう女性兵士が携帯していたハンドガン。両手に持ったそれらの一方は人質へと、もう一方は登闇へと向けられていた。
女の斜め後ろに一人ずつ付いた男たちは、女と同じ猟銃を手に、周囲への牽制を行っている。一番厄介なのは先頭の女。所持している銃の形状からして、魔術を使用する可能性が高い。
‥‥ベッタベタの展開ですねーこれは‥‥
「お前ら、遠山拓人の仲間だろ?」
大まかな分析を終えた登闇の鋭い声が飛ぶ。いくら何でも、一人で乗り込む可能性は低い。保険ぐらい用意していてもおかしくない。ただ、その保険が暴走するのは如何なもんかと思うがなぁ。
「黙れ!」
登闇の言葉に全く耳を傾けない女は、人質を盾にジワジワと近づいてくる。この三人の腕と判断力は悪くないが、如何せんアホだな。
直感的に動いている部分が大きいものの、訓練を積めば優秀な兵士に成長するだろう。それだけの者を仕込むんだ、遠山たちも生半可な覚悟で望んではいないようだ。
「動くな!動けば撃つと言った!」
ポケットに手を伸ばした登闇に静止を促す声がかかる。だが登闇は止まらない。
‥‥目立たないよーに、目立たないよーに‥‥‥それは無理か。
「撃つんじゃないのか?」
ポケットに手を入れたまま、互いの距離を縮める。
「撃てよ」
更に距離は縮まる。
「撃て」
言葉は強く、命令に。
手を伸ばせば届く。だが、三人とも動かない。
「早くしろよ。それともさっきのは笑えないジョークか?」
登闇は、手を上げると、指を、鳴らした。
ドン!!!
「な!?」
初弾とは明らかに異なった鈍い音。至近距離で放たれた猟銃の弾丸は、人質の頭部をスイカが潰れたような姿に変形させ、勢い良く吹き飛ばした。
壁に激突した女性兵士の頭は大分変形していて、人相が全くわからない。
「体が、勝手に‥‥」
取り残された体と、血まみれの自分を見て呆然と呟いた。強い力によって引きちぎられた首は、異様に皮が伸びている。そこからは鮮血が滴り、床に斑点模様を残していた。
「どうした?最初に言ってたじゃないか。動けば撃つ、って。それを実行しただけだろ。何を不思議がる?」
登闇は歩みを止めない。やがて、接触するぐらい近くで、そっと声を漏らした。
「もしかして人殺したことなかった?腕はいいんだけどな~。何か足りないって思ってたんだよ」
「‥‥」
玉のような汗を浮かべた男たちは微動だにしない。僅かに身じろぎをしたのは女だけ。
「一言で言うならそうだな‥‥狂気、だよ。それと、へっぴり腰はよくない、よ」
女は全身の毛穴が開くのを感じた。コイツはヤバイ。いや、コイツらはヤバイ。
軽く押された女は、為すすべもなく仰向けに倒れ、男たち共々気を失った。
「なっさけないねぇー」
周囲の人間たちは何が起きたかわからなかった。何せ、『人質を取った三人組がひとしきり喋った後、いきなり気絶した』ようにしか見えなかったのだから。
「ハーイ、酔っ払いの寸劇はコレにて終了です。ありがとーございました」
「なーんだ、酔っ払いかぁ」
「ちぇー、つまんねぇのー」
何事もなかったかのように場を収めた登闇は、人質の女性に何か囁くと天恵の待つ人混みに戻って行った。