【髑髏の歌】
フッフフーン。
鼻歌が響く。
人気のない倉庫。
コンクリートの床には血が流れ、老人の遺体が横たわっていた。
その傍らで、アキラは機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。
ギコギコ。
ノコギリが骨を断つ。
グチャ。
肉が裂ける。
解体される。
フッフフーン。
まるで家事でもしているかのようだった。
「相変わらず気味悪ぃな」
見張り役のケンジが顔をしかめる。
「仕事なんだから仕方ねぇだろ」
アキラは笑った。
「死体は放っとけば喋る。細かくすれば黙るんだよ」
そしてまた鼻歌を歌った。
フッフフーン。
その音が、ケンジは昔から嫌いだった。
――数か月後。
犯罪集団の金の分配で揉めた。
「俺の取り分が少ねぇだろ!」
ケンジに掴みかかるアキラ。
「解体しかしてねぇくせに、偉そうに言うな!」
怒号が飛ぶ。
殴り合いになる。
そして。
「殺せ」
誰かが言った。
皆が頷いた。
日頃から気に入らなかった。
気味が悪かった。
アキラなら消えても困らない。
――深夜。
山奥。
ドラム缶の中で炎が燃え上がる。
グジュ。
グジュグジュ。
肉の焼ける音。
脂が弾ける音。
黒煙が空へ昇る。
炎の中で筋肉が縮む。
アキラの遺体が、まるで動いているように見えた。
「うわっ」
タクヤが後ずさる。
「気持ち悪ぃ……」
「ただの収縮だ」
リーダー格のケンジが吐き捨てる。
――数時間後。
残った骨をドラム缶ごと埋めた。
誰も振り返らなかった。
――翌日の夜。
ケタケタケタ。
笑い声のような音が聞こえた。
「……なんだ?」
ケンジは顔を上げる。
誰もいない。
だが。
ケタケタケタ。
また聞こえる。
音のする方を見る。
そして凍り付いた。
そこに頭蓋骨があった。
机に置かれている。
空洞の眼窩。
剥き出しの歯。
そして――
フッフフーン。
歌っていた。
アキラの鼻歌だった。
ケタケタケタ。
フッフフーン。
ケタケタケタ。
気味が悪い。
だが。
同時に面白かった。
ケンジは動画を撮影した。
SNSへ投稿する。
その日のうちに数万再生。
翌日には数十万。
【髑髏の歌】
ケタケタケタ。
フッフフーン。
本物か偽物か。
コメント欄は大騒ぎになった。
ケンジとタクヤは笑いが止まらなかった。
「金になるぞ」
二人は企んだ。
――三日後。
動画配信者のダイスケとユウタを雇う。
仕事内容は単純。
歌う髑髏を持って全国を回るだけ。
報酬も悪くない。
若い二人は喜んで引き受けた。
ケタケタケタ。
フッフフーン。
歌う髑髏は大人気になった。
イベント会場。
商業施設。
怪談フェス。
どこへ行っても人だかりができた。
――二ヶ月後。
ついにテレビ局から出演依頼が来る。
生放送。
全国ネット。
司会者が笑顔で紹介した。
「本日は話題の歌う髑髏に来ていただきました!」
拍手。
歓声。
カメラが向く。
だが。
髑髏は歌わなかった。
静寂。
スタジオが凍り付く。
ダイスケが焦る。
「お、おい」
ユウタも青ざめる。
「いつも歌うのに……」
その時だった。
カタ。
髑髏の顎が動く。
ケタケタケタ。
笑った。
そして――
歌い始めた。
「俺はケンジに殺された~♪」
スタジオが静まり返る。
「タクヤも一緒に俺を埋めた~♪」
司会者の笑顔が消える。
「俺たちは犯罪集団~♪ 人殺し~♪」
ケタケタケタ。
「三人埋めた~♪」
「二人沈めた~♪」
「六人解体した~♪」
ケタケタケタ。
フッフフーン。
観客がざわめく。
生放送は続いている。
全国へ流れている。
ダイスケとユウタは呆然としていた。
何も知らない。
本当に何も知らなかった。
――警察署。
テレビを見ていた刑事が立ち上がった。
「……まさか」
未解決事件。
行方不明者。
歌の内容と一致する。
捜査が始まった。
髑髏は証拠品として警察に保管された。
それでも。
ケタケタケタ。
フッフフーン。
歌は止まらない。
ケンジが逃げれば。
「今は大阪~♪」
タクヤが隠れれば。
「港の倉庫にいるぞ~♪」
ケタケタケタ。
フッフフーン。
逃げ場はなかった。
二人は逮捕された。
髑髏は裁判でも歌った。
犯罪を白日の元に曝す歌。
――刑務所。
ある夜。
ケンジは目を覚ました。
髑髏はない。
ここは独房だ。
それなのに。
耳元で。
ケタケタケタ。
フッフフーン。
ケタケタケタ。
「やめろ……」
フッフフーン。
「やめてくれ……」
鼻歌は止まらない。
昼も。
夜も。
眠っても。
起きても。
ずっと。
ずっと。
ケタケタケタ。
フッフフーン。
ついにケンジは箸を握った。
隣の独房ではタクヤも同じことをしていた。
二人は同時に叫ぶ。
「もう聞きたくねぇ!!」
ザグッ!
箸が耳を貫いた。
鼓膜が破れる。
ブシュ――
血が流れる。
世界から音が消える。
二人は安堵した。
これで終わった。
そう思った。
だが――
闇の中で。
頭の中で。
それでも聞こえた。
そして――
別の声が混じった。
『わしは~ お前らに殺された老人~♪』
ケタケタケタ。
『私は~ あなたたちに埋められた女~♪』
ケタケタケタ。
また別の声。
『俺は海の底~♪』
『私は山の中~♪』
『俺は豚の餌~♪』
ケタケタケタ。
歌声は増えていく。
一人。
二人。
三人。
十人。
何十人も。
もう誰の声なのか分からない。
笑い声。
鼻歌。
恨み言。
助けを求める声。
それらは混ざり合い、いつまでも脳内に響いていた。
ケタケタケタ――
フッフフーン――
ケタケタケタ――




