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自宅にダンジョンが発生したので、自動レベルアップのインフラ整備をしました!

作者: ファイアス
掲載日:2025/12/09

「なんだあれは?」


 夕食を終え、二階に向かおうとしたそのとき、廊下の先に見慣れない何か黒い影が駆けていった。

 子猫ほどの大きさがあり、ゴキブリやカメムシのような害虫ではない。

 この家に一人で住む男子大学生の佐伯(さえき) 理一郎(りいちろう)は、慎重にその影へと近づいた。


「はぁっ!?」


 その正体は魔物だった。

 魔物とはダンジョン内で初めて生息が確認された生物の総称だ。


「何で家の中にブラックスライムがいるんだよ!」


 約10年前から世界各地で発生したダンジョンには、様々な魔物が生息している。

 現在までに約400種類ほど確認されており、廊下に現れたブラックスライムもそのうちの一種である。

 ブラックスライムはダンジョン探索の経験がない人間でも、手軽に倒せる下級の魔物だ。

 週一ペースとはいえ、ダンジョン探索が習慣化している理一郎にとって、ブラックスライムなど敵じゃない。


 シューーーーッ!


 理一郎は近くにあった害虫駆除用のスプレーをブラックスライムに噴射する。

 素手でも簡単に倒せる魔物だが、彼はブラックスライムに触りたくなかった。

 不衛生だからだ。


 オォォォォ……


 スプレーを散布されたブラックスライムはもごもごと苦しむ様子を見せた後、すぐに動かなくなった。

 ブラックスライムの処理はすぐに終わった。

 しかし、問題はなぜこの魔物が室内に現れたかだ。

 魔物たちは稀にダンジョンから湧き出てくるが、その活動範囲はあまり広くない。

 特にブラックスライムのような弱い魔物が、居住空間に侵入してくることは考えにくい。


「もしかして、家のどこかでダンジョンが発生したのか?」


 ダンジョンの発生原因は未だ解明されていない。

 だが、発生しやすい条件は分かっている。

 人目に付きにくい空間であることだ。

 主にダンジョンが発生するのは空き家だが、人の住んでいる空間でも多数の発生事例がある。

 理一郎はダンジョンが発生しやすいと思われる場所を中心に、家の中のあらゆる場所を確認して回った。

 家の中を確認していくと、押し入れの扉が半開きになっていることに気づいた。


「これだ……」


 その隙間はちょうどブラックスライムが通れる程度の間隔だった。

 ここから抜け出したのだろう。

 理一郎は押し入れの中を確認すると、そこには存在しないはずの階段が地下へと続いていた。

 間違いない、ここがダンジョンへの入り口だ。


 理一郎は自室に保存してあるダンジョン探索用の装備を持ち出すと、それらを携えてダンジョンへと入っていった。


「一応、今のレベルを確認しておくか」


 ダンジョンの内部では専用のスマホアプリに繋いで顔認証を行うと、自身の成長状態を示すレベルが確認できる。

 理一郎のレベルは現在13であり、脱初心者まであと一歩といったところだ。


 一層の魔物は自宅の廊下に現れたブラックスライムの他に、二体ほど別の魔物がいた。

 いずれも脅威となる魔物ではない。

 今後再びダンジョンから湧き出し、家の中を歩き回ることになっても焦らなくていいだろう。


 ダンジョンの構造は極めて単純で広い大部屋が四つと、それらを繋ぐ通路があるだけだ。

 太陽の光が差し込むことのない空間にもかかわらず、ダンジョン内は昼間のように明るい。

 迷子になることはまずありえない。


 二層に突入した理一郎は遭遇した魔物を倒しながら、探索を続けた。

 二層の魔物は一層にいた魔物より強力だったが、理一郎が苦戦するような敵ではない。

 理一郎は二層も難なく突破すると、三層へ突入した。


「ゴーレムか、さすがに厄介だな……」


 三層に降りると、まず目の飛び込んできたのは岩石の体でできた巨人ゴーレムだった。

 あまり積極的に襲ってこない魔物だが、理一郎の実力では少々骨の折れる相手だ。

 しかも厄介なのはゴーレムだけではない。

 辺りを見渡すと、他にもゴーレムと同格の魔物がおり、戦いながら突破するのはさすがに厳しい。


「避けて進むか」


 理一郎は魔物に気づかれないよう注意を払い、慎重に先へと進んだ。


「ここが最深部か」


 三層の奥へ向かうと、最深部であることを示すダンジョン(コア)が輝きを放っていた。

 この核を破壊すればダンジョンは消滅し、元の押し入れへと戻る。


「……」


 だが、理一郎はダンジョン核を前に破壊することをためらっていた。

 何かに利用できないだろうか?

 自宅の押し入れに発生したこのダンジョンは、自分以外の人間と遭遇することがない。

 それならば他人の迷惑を気にする必要はないし、トラブルになることを恐れる必要もない。

 つまり、他のダンジョンでは許されない検証が行える!

 そう考えた理一郎はダンジョン核を破壊することなく、ダンジョンを後にした。


 翌日から、理一郎の検証が始まった。

 そして検証の結果、明らかになったのは以下の通りだ。

 ・魔物の発生頻度は各層で一時間に一体ほどとなる。

 ・レベルアップに必要不可欠な経験値は、飛び道具や罠を用いて倒した場合でも蓄積される。

 ・一層の入り口に簡易的な柵を設置しておけば、魔物が押し入れから飛び出すことはない。

 ・他のダンジョンと違ってアイテムの発生は起こらず、それは魔物を倒したときも同様である。


「収入を増やせそうにはないな」


 ダンジョン探索者の主な目的は、内部に発生するアイテムを換金して小遣い稼ぎすることだ。

 理一郎も例外ではない。

 しかし、このダンジョンはそういった活用方法を見込めなかった。


「レベルアップは見込めるが……」


 魔物を倒せば経験値は獲得できるし、レベルアップもできる。

 それは一部の例外を除けば、どこのダンジョンだって同じだ。

 決して特別な旨味があるとはいえない。


「いや、待てよ……」


 けれど、理一郎は検証で得た知識を無駄にはしなかった。


「罠で魔物を倒しても経験値が入るなら、不労所得ならぬ不労経験値が得られないか?」


 ダンジョン内に罠を張り巡らす行為は、他の探索者に危害を加える可能性があるため、法律によって著しく制限されていた。

 だが、このダンジョンの入り口は自宅の押し入れだ。

 自分以外に誰かがやってくる可能性を考えなくていい。


 不労経験値を得られれば、ダンジョン探索に向き合ってない間もレベルアップが期待できる。

 そんな夢みたいな機会を逃すわけにはいかない。


 不労経験値を得るアイディアを閃いた理一郎は、すぐさま通販で大量の罠を買い揃えた。

 その投資額はダンジョン探索で得ていた収益の約六か月分にも上る。

 しかも購入した罠は害獣の駆除に用いられるものだ。

 法規制の問題から、魔物向けの罠があまりないためだった。

 採算が取れるかどうかは怪しい。


 けれども理一郎は止まらなかった。

 不労経験値という概念に価値を見出していたからだ。


「よしっ、セット完了」


 理一郎は各層に罠を張り巡らすと、それから毎日ダンジョン専用アプリでレベルを確認するようになった。


「良い調子だ」


 罠を設置した翌日の朝、レベルが14になっていることを確認できた。

 しかも次のレベルまであと20%ほどだ。


 一週間が経過すると、そのレベルは19まで上昇していた。

 悪くないペースだ。


 さらに一ヶ月が経つと、理一郎のレベルは30にまで上昇していた。

 あまり強い魔物がいない自宅のダンジョンでは、そろそろレベルアップが難しくなるだろう。

 けれど、何の問題もない。

 朝起きて、電車に乗って大学に向かい、サークル活動をして、家に帰宅する。

 これまでと変わらない毎日を過ごしているだけで、どんどん成長できるのだから。


 そんな不労経験値の幸福感に満たされた理一郎は、試験明けの休日にサークルの仲間たちと外部のダンジョン探索へ向かっていた。


「あれ、理一郎ってこんなに戦えたっけ?」

「そういえば……」


 サークルの仲間たちは以前までとは明らかに違う理一郎の活躍に驚きを隠せなかった。

 本気でレベルアップに励めば、理一郎くらいのペースで成長する人間がいても不思議ではない。

 だが、理一郎は大学の授業をさぼらず出席しており、サークルにもほぼ毎日顔を出している。

 それなのに彼は専業の探索者にも勝る勢いでレベルアップしていた。

 だからこそサークルの仲間たちは驚いていたのだ。


「はははっ、たまたま成長期がきたってだけですよ」


 理一郎は自宅のダンジョンについて公言しなかった。

 自宅のダンジョンに彼らの関心が向くのを避けたかった。

 仮に彼らを自宅のダンジョンに招けば、設置した罠によって死亡事故が起こりかねない。

 その上、そのときは理一郎が法律で罰せられることになる。

 そんなことだけは絶対に避けたかった。


「よしっ、今回はこれで切り上げようか」

「おっす」


 サークルのリーダーが切り上げ時を指示すると、みんな一斉にダンジョンの外へと向かった。


「資源の換金をしたら、あとでみんなに配ってくださいね」

「おぅ、分かってるって!」


 報酬の分配について確認し終えると、今日のダンジョン探索はお開きとなった。


「今日は楽しかったな」


 大勢で行うダンジョン探索は必然的に報酬の分け前が減ってしまう。

 理一郎はそれでも楽しかった。

 仲の良い仲間とワイワイ探索していたこともあったが、もちろんそれだけの理由ではない。

 今まで体験することのなかった優越感に満たされていたからだ。


 今や個人で外部のダンジョンを探索するときは、数ランク上のダンジョンに潜るようになり、その結果必然的に得られる生活資金も増えていった。

 未だに通販で買った罠代を超える収入は得られていないが、もう十分元は取れたと言えるだろう。


「そろそろ新しいダンジョンが欲しいな……」


 今では自宅ダンジョン三層の魔物さえもすっかり格下になってしまった。

 その結果、一日に獲得できる不労経験値は、レベルアップに必要な経験値の1%にも満たない。

 だから設置している罠が壊れてしまった後は、あのダンジョン向けに再び買い直す価値はない。

 そのため、理一郎は次の目標を定めていた。


「空き家の所有者を探して、新しい私有地ダンジョンを確保するか」


 空き家に発生するダンジョンは社会問題化していた。

 管理の行き届いていない空き家で発生したダンジョンから、魔物が湧き出し近隣住民に危害を加えているからだ。

 そうした問題から、政府は管理されていない空き家の所有者に対する罰則を検討していた。

 だからこそ理一郎はそうした空き家を譲り受けるチャンスとして伺っていたのだ。

 周辺地域の空き家を自分の敷地にして、ダンジョンを独占してしまえば罠を仕掛け放題だ。

 そうすれば、自分のレベルに見合った不労経験値の獲得ポイントを生み出すことができる。


 自宅のダンジョンで得た不労経験値に旨味があったのは、せいぜい最初の二ヶ月だけだ。

 けれども、あのダンジョンで得た成功体験のノウハウは今でも理一郎の中で生きている。

 だから彼はこの先の未来に迷いや不安はない。

 これからも成長し続けられるビジョンが見えているのだから!

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