1 君の願いのために。
世界樹の年代記 クロニクル
君の願いのために。
世界は平等ではない。天秤はつねに傾いているんだよ。誰かの心によって。誰かの命によって。あるいは、死によって。大きく、傾いている。
若き英雄の肖像と皇帝の死
「皇帝になりたいんだ」とファスカは言った。
「皇帝に? どうして?」とアルカンノースは言う。
二人は今、帝国の帝都にある皇帝の城にいる。その皇帝の城では今、帝国皇帝の崩御による国葬が行われているところだった。
その皇帝の棺が何万という帝国民に見送られながら運ばれていくところをじっと見つめていた。(それはとても壮大な風景だった)
「この世界を救いたいから」
そんなファスカの言葉を聞いて、思わずアルカンノースは大きな声を出して笑ってしまった。
「なに子供みたいなことを言っているだよ。そんなことを言ったらみんなに笑われるよ」とフィスカを見ながらアルカンノースは言う。
でも、フィスカは笑っていなかった。いつもならこんな冗談を言うときには、フィスカはいつも誰よりも子供っぽい顔で笑っていた。
「本気なのか?」
「うん。本気だよ」とフィスカは言った。
フィスカは皇帝の棺が運ばれていくところを見る。
アルカンノースも同じように、もう一度、皇帝の死体の入っている棺を見た。豪華な棺だ。でも、死んでしまったら、皇帝であっても、普通の人々となにも変わらない。死は、誰にでも平等に訪れる。死神の訪問を断ることはできないのだ。大陸最高の権力者であっても。神の御心を告げる聖女でも。
……、あるいは、生まれたばかりの赤子だったとしても。
「なら、僕が剣になってあげるよ」とアルカンノースは言った。
「フィスカ。君の剣に。そのために僕に今、このときに君の夢を僕に打ち明けてくれたんだろう?」とアルカンノース言って、フィスカを見た。
するとフィスカはにっこりといつもの子供っぽい顔で笑って「うん。そうだよ」とアルカンノースに言った。
この年、フィスカは若きルドース王国の王として、北方のルドース王国の軍を率いて、帝国に戦争を仕掛けた。その戦争が引き金となって、世界を巻き込んだ大戦争が始まる。