ルーネのぼうけんたん 〜 まほんのせかいを歩こう 〜
ルーネはアルラウネのお姫さまなんだよ。錬生術師カルミアと、鉱石細工師ノヴェルのつくった田園の魔本の森のなかで、マンドラゴラのこどもたちと楽しく暮らしているの。
アルラウネやマンドラゴラはお花の妖精のお仲間なんだよ。ルーネはマンドラゴラの子供たちに囲まれて、みんなでなかよくたのしく、お歌をうたって踊るのが大好き。
悪いおっきな邪竜さんを魔王さまや、アストやカルミアがやっつけてくれたから、ルーネの暮らす森も安心になったんだよ。
アストはね、女の子なのに強くて、偉いんだよ。カルミアと仲良しでいつもいっしょなんだ。
カルミアはね、錬生術師だから、素材と魔力があればなんでもつくれるんだよ。でも筋力がないから、重たいものが運べなくていっつもゼーゼーしてるの。
ルーネが運ぶのをいつも手伝だってあげるんだ。ルーネはね、カルミアが大好きだから、喜んでくれると嬉しいの。
今日はね、みんなで森の探検に行くことになった。魔王さまが魔本に魔力を使ったんだって。
だからカルミアが、霊樹を新らしく植えるから候補地を探してってお願いされたんだよ。
調査しないと魔力だまりから魔物が出てきて危険なんだって。カルミアのためにルーネは役に立ちたい。だから頑張って候補地を見つけるね!
「‥‥ブリオネ、ラゴラ戦隊を集めてね」
カルミアが作ってくれた手乗り人形戦隊を率いるブリオネはルーネの友達で、お花の妖精さんなんだよ。ルーネの呼んだマンドラゴラの子供たちといっしょに戦ってくれるんだよ。
「私もついていくよ」
ドライアドのドローラも小枝人型の姿でいっしょに来てくれることになったんだ。
「みんなそろったのかね。ならば僕について来たまえ」
みんなが集まると、手乗り人形と同じ大きさになったアストがやって来た。
「アストも行くの? カルミアに怒られないの?」
アストが偉い女王様になったから、忙がしくてネコの手も借りたいと、猫人まで働らかせようとしていたのに、いいのかな。
「忙がしいのはカルミアだけだからよいのだよ」
アストがそういうならいいや。ラゴラ戦隊のマンドラゴラの子供たちを先頭に、ルーネたちは森への冒険をはじめた。
「ルーネ、みて。アカネシアンの花があるよ」
「へへん、こっちはリュウガソウみつけたもんね」
楽しそうなマンドラゴラの子供たち。危険な調査なんだよってルーネが教えてあげたのに、忘れちゃったみたい。
「ギュワワラァァァ────!!」
「ギャラアァァァァァァ!!!!」
森猪が突進して来て、大騒ぎになった。もう、だから言ったのにぃ。ラゴラたちはおっちょこちょいで、すぐに調子に乗るの。
「ふむ。身体を小さくすることで、猪一頭狩るのも大事だな」
アストがひとりだけ楽しそうにつぶやく。アストはわざわざルーネたちと同じ小さな身体にしなくてもよかったと思う。
────バンッ!
森猪に踏み潰されまいと、必死なマンドラゴラの間から、アストが魔銃で猪の頭を撃ち抜いた。
「か、カッコいい〜〜」
ブリオネがルーネに抱きついて喜ぶ。ルーネは知ってたよ。アストは普段はパンツ一枚でウロウロして怒られる変態さんだけど、戦かう時はカッコいいんだよ。
「ルーネ、君の魔法の歌でラゴラたちを安心させてやりたまえ」
プルプル震えるラゴラたち。怖いめにあって泣いていた。
「わかった。ブリオネとドローラも一緒にね」
ようし、歌うよ〜。
ゆうきをだしてワッハハーーー
ラゴラはつよいこどもたち
アストのためにたたかうぞ
ルーネたちが勇気の出る歌でラゴラたちを励ます。
「ピギィィィィやるよ」
「ルーネ、ありがとー」
マンドラゴラの子供たちは、ルーネにお礼を口にした。元気になってよかったよ。探検を再開する。
枯れ蛇や、山リスや、はぐれ狼がルーネたち小さな冒険者の前に現られても、ルーネとブリオネのラゴラ戦隊はアストとドローラを守るように囲み、今度は逃げなかったよ。
「やるじゃないか、ルーネたちも」
アストは耳あてを通しても聞こえるマンドラゴラの金切り歌唱に、心を踊らせた。ルーネたちは平気なんだ。人の耳には、ラゴラたちの声はうるさく聞こえるんだって。
マンドラゴラの合唱は人には恐怖や混乱をもたらす力が働くんだよ。いつもカルミアの呪詛のような独り言を耳元で聞かされているので、アストは普通の人より耐性が高いんだって。アストは凄いね。
岩熊など、ルーネたちの十倍以上あるってアストが教えてくれた。得意の魔法の歌で動きを鈍らせて、吠え声を封じてやっつけた。へへっ、ルーネも頑張ったよ。
「魔物が増えたようだ。ドローラ、魔力溜りの一番強いのはどこだい」
みんなも頑張ってくれたけれど、ラゴラの子供たちはさすがにヘトヘトになって、しなびてきている。魔晶石と肥料を混ぜたおやつをあげると、また元気になったよ。
「‥‥ありました。見て下さい、あの美くしい泉を」
ドローラが指し示した水辺にはルーネにもわかるくらいの魔力が集まっていて、鳥喰いと呼ばれる巨大な蜘蛛がまどろんでいた。
「どうしよう。あいつはぼくらの歌が効かないよー」
「熊のように力持ちで、狼より速いんだよー」
勇気をふりしぼって踏みとどまるラゴラたち。何体もの仲間たちが、鳥喰いには何株もやられていたから怖いんだ。
「ウギャーーー!!」
「キュピーーー!!」
「みんな逃げちゃ駄目ー。あいつはバラバラになったところを狙ってくるよ!」
ルーネの叫びも虚しく、天敵に怯えてラゴラたちは散り散に走りだしてしまう。鳥喰いはネバネバする糸を吐きだして、マンドラゴラたちはあっさりと捕食されてしまった。
マンドラゴラの断末魔の悲鳴も巨大な蜘蛛には効いていない。
「うぅ、みんな⋯⋯」
ようやく戦士として戦えるくらいに育ったマンドラゴラたちが全滅し、ルーネは悲しくてしかたなかった。
ルーネはアルラウネのお姫さま。だから魔力が尽きるまで、何度だってマンドラゴラの子供たちを呼べる。
でも⋯⋯大事に育てたラゴラたちが、目の前で簡単に喰われて悲しくないはずがないよ。
みんなルーネには、大切な仲間だから。いずれカルミアに素材としてその身を捧げることになるとしても、ルーネは悲しい気持ちを忘れない。
「カルミアが諸悪の根源のように聞こえるのは否定しないが⋯⋯ルーネ、君は彼女と約束したのだろう」
「‥‥うん。ルーネを助けてくれたカルミアのために、ルーネは役に立ちたい」
「ならば引受けた仕事を果たしてみせたまえ」
アストが泣きじゃくるルーネの頭をなでてくれた。アストは女王さまだから、上に立つものの責務に詳しい。ルーネにはよくわからない。でもアストが、ルーネのために厳しいことを言ってるのはわかるよ。
ラゴラたちを齧って回った鳥喰いは、ルーネたちに狙いを変えてきた。
鳥喰いの飛ばす糸は、ルーネとドローラの蔦の魔法で防ぐ。ネバネバ糸はルーネたちにひっついて絡めようとするのだ。
しかしルーネたちの蔦は、魔力を使ってもっと上手く捕まえるんだからね。
蔦を自由自在に動かし、さらに魔力をこめれば枝葉をのばし、刃のように切りつけ、槍のように貫くことも出来るんだから。
「ブリオネ!!」
ラゴラたちを失なって悲しんでいたブリオネが、蔦に絡まり動きの鈍った巨大な蜘蛛に麻痺花を咲かせてくれた。
「泣きべそかきながら、よくやったよルーネ。トドメは僕に任せたまえ」
蔦と麻痺で動けなくなった蜘蛛の頭をアストは撃ち抜いた。強力な魔法のこめられた弾で鳥喰いは動かなくなったよ。
「ルーネ、ブリオネ、ドローラ。蜘蛛の魔晶石を取り出して、この霊樹の種と泉の先の丘に埋めるんだ。カルミアには僕から伝えておく」
「うん」
アストはルーネの身体ほどの大きな種を渡してきた。候補地をみつけるのが仕事。アストもカルミアから霊樹を植える候補地に種を植えるように頼まれていたみたい。
「魔晶石がなくとも充分育ちそうだな」
アストはそう言いながら、喰い散らかされたマンドラゴラたちの亡骸を集めてまわっていた。
「ただいま、カルミア」
「おかえり、ルーネ。霊樹の候補地見つけて植えてきてくれてありがとうね」
「うん。でもラゴラたちみんな大っきな蜘蛛にやられちゃったの」
「そう、それは残念ね。でもルーネや先輩を守って立派だったと思うわよ」
カルミアがアストと同じようにルーネの頭を優しく撫でて、みんなを褒めてくれた。
「ドローラ。ヒュエギアと代わってルーネとブリオネと今日は休みなさいな」
元のサイズに戻ったドローラに連れられて、ルーネの冒険はなんとか終了したよ。
────ルーネがブリオネたちと休んだあと、カルミアに促されて、アストがマンドラゴラたちの遺骸を手渡した。
「僕が言うのもなんだが、ルーネを泣かせてまで得たいものなのかね、ソレは」
「えぇ。見てよ、先輩。この苦悶と絶望に満ちた表情。素材の効果がね、断然違うのよ」
狂った錬生術師と異名があるだけあって、なかなかエグい採取方法を行う。
「最高の素材を得るためだもの。ルーネの涙の結晶まで手に入るのよ?」
ルーネの好奇心や探検心を利用して、マンドラゴラを追いつめた犯人はカルミアだった。魔物を放ってお膳立てしたのも彼女の仕業だったのだ。
「ルーネの宿主は君だからな。くびり殺されて僕の大切な護衛がいなくならないように気をつけたまえよ」
「ルーネは幼くみえても、賢いから平気よ。それに⋯⋯次はもっとうまくやるわよ」
良くも悪くもルーネはカルミアやアストの仲間だということだ。カルミアの仲間は、素材提供のために酷い目に遭い、泣かされてきた。
ルーネの初めての冒険は、宿主のカルミアにとっては大成功だったようだ。
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