プロローグ
『それじゃあ今からこちらの線路に飛び降りたいと思いまーす!』
雲一つ無い晴天の屋上。そこに響くスマホからの場違いなほど明るい声。私はその妙にふわふわとした甲高い声に眉根を寄せ、スマホの電源を切った。誰もいない屋上に不意に叫び出したくなる衝動を堪え、小さくため息をつく。外れか、と思わず呟いた。さっきの配信、手や服の周りだけ微妙にぼやけていた。合成だろう。釣りの自殺配信など今や珍しいことではない。十中八九は釣りなのだから元々期待などしていない、本物に出会うことのほうが稀だ。ただ、正直今回のは少し残念だった。配信の冒頭に話された自殺動機は本物、本当に死にたいと思っている人の理由だったし、目にも光が宿っていなかったから本物だと踏んでいたのに。
私はごく普通の高校1年生だ。…不登校である事と、”自殺補佐”を生業としている事を除けば。不登校で、学校に来ても今のように屋上でスマホをいじるだけの私の生きがいはこの”自殺補佐”にあると言っても過言ではないだろう。『苦しい』『死にたい』『生きている意味がわからない』。そんな声にならない叫びを汲み取り、彼彼女らの行動を助ける。こんな犯罪まがいの事意味が分からないと思う人もいるだろうし、実際そういう人が大半だろう。以前の私だったら、もちろんそう思ったに違いない。でも、もう死ぬ事しか考えられない、そうするしかない人はたくさんいる。『死にたい』の一言を聞いただけで救える人間が大勢いるのには目が止まるのに何故救えない人からは目を逸らすのだろう、と思ってしまう。
そんな事を考えていた日だった、全てが変わってしまったのは。
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