タオルケット
私は怪物を倒して英雄になった
私の一番汚いところの泥水を啜りに行っている。
面白い人だ。
啜っても啜ってもどこからともなく溢れてくるというのに。
ゆさゆさと揺れている中、天井だけが現実だった。
おじさんは三万円くれた。
だけどまだ足りない。
私は四人殺している。
最初に私を浄化したのは僧侶だった。
髭の濃い、少し贅肉のついた一見人の良さそうな四十の男。
親族だけど血のつながりはひとつもない、他人。
けれど。
聖女の気狂いまでは浄化しきれなくて、私はまず階段を降りようとしていた僧侶の隙をつき、押した。
僧侶は断末魔と共に醜い獣の姿となり、それを見た聖女は泣き叫んだ。
縋りつきながら涙を流す姿をどこか哀れにも思ったけれど、魔獣だったのだから仕方がない。
そのことを話したが理解はされなかった。
それどころか、私を断罪し、口汚く罵り、襲いかかってきた。
口には牙が見えた。
なんていうことだろう、聖女も既に何がしかの魔物に乗り移られていたのだ。
私は逃げた、手には何もなかったのだ。
逃げ惑う部屋という部屋の中、ベッドへとたどり着いた。
もう逃げ場がない。
ふと手に触れたタオルケットを持ち、いよいよとなって応戦した。
浄化したかったが、私は僧侶ではなかった。
獣の口からは泡沫が飛び、私をぐずぐずに溶かしにかかる。
咄嗟に、持っていたタオルケットでその口を塞いだ。
どれくらいの時間が経っただろう、急に静かになり、物音もしなくなった。
目の前には目をむき倒れる獣が倒れていた。
手を見る。
私の手には力がある。
笑ってしまった。
笑うしかなかった。
あと二体ほど、倒したような気もするがよく覚えてはいない。
覚えているのは揺れる天井、啜る音、遠ざかる意識。
握りしめたお札、ただそれだけだ。
私は英雄になったが、褒賞などどこにもなかった。
だからこうして、生きるためのお金を手に握る。
ただ、握る。
私を浄化してくれる僧侶は見つからない。
多分、これからも。