8.冒険者と新たな仲間
志吹の宿、ラウンジ。テーブルの上には網で香ばしく焼いたとうもろこしが三本。
「これ俺たちの親が働いてる農場で採れたんだよ。今朝採れたばっかのやつを持ってきたから絶対旨いぜ」
「もしかしてとうもろこしは苦手? あ、ほら、口に残るから、残るからね、苦手って人がいるからね」
「あ、うん、大丈夫。……その、いただきます」
テーブルを囲んでいるのはロロ、瑞葉、ハクハクハクの三人だ。ハクハクハクは中央に置かれたとうもろこしに手を伸ばし、そのまま掴み取る。粒の一つ一つを間近でじっくりと見て、たまにロロたちの様子を伺い、少しの逡巡の後にがぶり、と噛り付いた。それからしばらくもっ、もっ、と咀嚼しては、またロロたちの様子を伺い、視線を逸らしてまた咀嚼する。
ロロはそんな彼女の様子をじーっと一心不乱に見つめているようにも見えた。実際のところはほとんど何も考えておらず純粋に自慢のとうもろこしを気に入ったかどうかが気になるといった程度。対して瑞葉の視線はテーブルの端とハクハクハクの顔を行ったり来たりしている。
「えっと、その、気に入らなかった?」
ハクハクハクの咀嚼音だけが鳴る妙な空気に耐えられなくなったのは瑞葉だ。しかし口を開いてすぐに、普段ならもっと気の利いた言葉が出たはずと自己嫌悪に陥る。
「あ、うん、はい、あ、いいえ。……とても、おいしい、です」
ハクハクハクの方はといえば未だ現在の状況にさえついて来れてはいないように見える。自分の言葉一つとってもその意図を話した後から精査しているようにぐちゃぐちゃだ。このまま二人に話をさせたなら何時間経っても実りある会話はできないだろう。
「それでさ、これからどうする? 俺はやっぱり魔物退治かなって思っててさ。どうよ?」
訂正しよう。この状況で会話の主導権を握らせてはいけないのは間違いなくロロだ。なぜならば今の発言に誰一人ついて来れなかったからだ。ここまでハクハクハクを連れてきたのはいいがその目的など何も説明していない。現状、ただとうもろこしを御馳走しているだけだ。ハクハクハクはおろおろとロロと瑞葉の顔を交互に見つめる。いくら丙族に思うところがあるとはいえ、瑞葉はその様子をただただ不憫に思った。
「ごめんなさい、その、一から説明するから聞いてくれる?」
自分がしっかりしなければ、一種の使命感のようなものを感じた瑞葉は順序だてて現在の状況を説明する。自分たちがついさっき五等星の冒険者になったこと。依頼を受ける為に他の五等星を探していること。ゴウゴウに話を聞いてハクハクハクのことを知ったこと。
「急に連れてきたことはごめんなさい。それで、その、もしよければ……、いや、断ってもいいんだけど。一緒に依頼を受けないかって、頼もうかと思っていたの。急に引っ張ってきてしまったし、そんな奴らとは一緒にやりたくないって気持ちはわかるから断ってもいいんだけど」
悪いことをしたと思っているのが半分、できれば別の人がいいと思っているのが半分で瑞葉はそんな消極的な頼み方をする。対してようやく状況を理解したハクハクハクは二人の表情をじっと見つめる。それから自分が食べ残った三本のとうもろこしの芯に目を落とした。
「わ、私は……」
それから次の言葉が出てこない。ひたすらに葛藤している。過去の出来事を思い起こし徐々に丸まる背中、俯く顔。そしてとうとう意を決して次の句を発した。
「私は、迷惑をかけると思う。だから、やめた方がいいかも……」
やめた方がいい、その言葉に少し安心したのが瑞葉だ。ただし彼女は目の前で俯く少女の姿に罪悪感のようなものを抱きもした。自分の中にある感情は目の前で悲しみや辛さを感じて、泣いてしまいそうになっている彼女より優先されるべきものなのか、と。
「……あの」
「よくわかんないんだけどそれ関係なくないか?」
瑞葉が勇気を持って言おうとした言葉はロロの声にかき消された。唖然としながら睨み付ける姿に気付くことなくロロは言葉を続ける。
「俺って結構できないこといっぱいあってさ、勉強苦手でさっき受けた講習も実はまだ全然覚えてないことだらけなんだ。だから今から依頼ってなったら俺だって迷惑かけるぜ?」
依頼でなくとも後で勉強会を開かされる私の身にもなれ、と瑞葉は念じる。
「いずれは迷惑かけるようなこともなくしていくけど、最初はしょうがないだろ。人に迷惑をかけるし誰かが失敗したときは助ける。それでよくないか?」
「……まあ、限度ってものはあると思うけどね。ただ、私たちここまで勝手に連れてきて、その上で頼み事もしてる身だからどの口でって感じだけど」
「あ……。ごめん、確かに無理矢理だったよな。その、つい……。あ、迷惑かけた分はきちんと埋め合わせする。何かしてほしいことあったら何でもやるぞ! ……ほんとごめん」
今更自分のやったことが人攫いめいていたことに気付くロロ。罪悪感に苛まれて項垂れ縮こまる。どうしようどうすれば、ここにいる三人の気持ちが一つになる瞬間。カウンターでこっそり話を聞いていた崎藤が間に入るべきか迷っていたのだが、その必要はなかった。あまり握ったことのない拳をぎゅっ、と握りしめて立ち上がる。そんなハクハクハクの顔には強い決意が秘められている。
「あの、私、迷惑ばかりかけるから、かけるけど……。二人が気にすることなくて、いや、私が悪いから、えっと、違くて……。あの、私も連れてこられて、だけど私も迷惑かけるの。かけたいわけじゃ、ない、けど。その、だから迷惑をかけられて、かけて、でお相子で、いいと思う……、かな。えっと、だから……」
徐々にその顔から決意の色が消え、羞恥と憂患の色が濃くなっていく。勢いだけで話し始めたそれが自分でも要領を得ないと理解できてしまう。何を言いたいのか、いや、何を言っているのかが段々とわからなくなっていって彼女の生来持っている弱気な部分がどんどんと強くなっていく。しかし、強い決意を持って放った言葉は時に人を大きく動かすものだ。
「迷惑をかけて、かけられてなら確かにお互い様だよね。ハクハクハクには先に私たちが迷惑をかけたもの。だから依頼の中で何があってもお互い様。むしろかけてくれないと私たちが悪者かな、だからさ」
ハクハクハクの言葉を自分なりに解釈して瑞葉が手を差し出す。
「ハクハクハクは私たちと一緒に依頼を受けてくれる?」
瑞葉は本音を言えばハクハクハク以外の冒険者を探すつもりだった。しかし目の前の少女の顔を見た時に思ってしまったのだ。この子はこの子なりに前に進もうとしている。恐怖や不安を乗り越えて。その恐怖や不安がどんな理由なのかは知らなくとも、その決意を足蹴にするほど腐った人間にはなりたくなかった。だから瑞葉はハクハクハクの意を汲んで彼女を誘った。その答えは当然。
「っ! うんっ!」
ハクハクハクが力強く頷き手を取る。ずっと沈んでいたロロが顔を上げて状況がわからないといった風に二人を交互に見て、とりあえずと手を挙げて喜んだ。瑞葉は顔を手で覆って大きくため息をつく。彼女には色々と思うところはあるのだろうが、悪い気分ではないらしい。手で覆われた表情は優し気に微笑んでいた。
三人が共に依頼を受けることは決まった。しかし三人だけで依頼を受けることはできない。それにどんな依頼を受けるかも決まっていない。
「それで、どうする? 誰に頼んで何を受ければいいんだ?」
「ハクハクハク……、長いからハクって呼んでいい?」
「うんうんうん」
何度も首を縦に振るハクハクハク。
「ハクは今までに依頼を受けたことは?」
「うん、何度か。その、みんなに迷惑ばかりかけて……」
語気の弱まりと共にハクハクハクが沈んでいく。
「何か責めたりするわけじゃないって。単に今までどんな依頼を受けてきたか聞きたかっただけだから」
「わかってる、大丈夫。ちょっと思い出して、うん。えっと私が今まで受けてきたのは、護衛とか、魔物退治とか、かな。五等星になってから三回ぐらい、三回も迷惑を……」
「ああもう」
瑞葉が頭を押さえながらハクハクハクの元へ。手を握って大丈夫、大丈夫、と言って気を落ち着かせようと試みる。幼子をあやしているようにも見えるが、歳はハクハクハクの方が二人よりも上なのだ。
「ごめん、ちょっと落ち着いた」
「まあ気にすんなって。それでさ、俺は魔物退治の依頼がいいかなって思うんだけど、どう思う?」
「考えあってのことなんでしょうね?」
ロロの性格を考えればどうせ冒険者といえば魔物退治などと言い出すんじゃないか、瑞葉はそう思っていた。
「そりゃもちろん、冒険者といえば魔物退治だろ」
そして実際にロロはそう言った。
「冒険者といえば魔物退治なの?」
「ああ、少なくとも俺が読んできたような本ではそうしてたぜ。それに試験で護衛依頼は受けたからな。一回魔物退治がどんなか知っておきたいんだ」
「少しは考えてたのね」
「当たり前だろ」
そこから特に反対意見が出ることはなく、ロロの提案通り魔物退治の依頼を受けることで決まった。
魔物退治、それは文字の通りで街同士を繋ぐ道や作物を育てる農場などに現れた魔物を退治することだ。人々の安全な生活の為に近隣の町や土地の所有者などが魔物退治を冒険者の拠点に依頼するのである。三人はカウンターにいた崎藤にどんな依頼があるかを聞きに行った。
「君たち五等星が受けられる魔物退治の依頼ね。今は三つあるから好きなのを選ぶといいよ」
崎藤がそう言って取り出したのは三種類の依頼書。一枚はトウボクサイの討伐。二枚目はフクレドリの討伐。三枚目はミノヒツジの捕獲だ。
「捕獲と討伐がありますね」
「目的が違うからね。討伐は駆除によって安全を確保するのが目的。捕獲は安全確保の一面もあるけど、基本的には生態調査が目的かな。ミノヒツジについてはわかっていないことも多くて今回は捕獲で依頼が出されてるんだ」
「難しそうだな」
「ものによるよ。今回は近隣の村に被害が出ているから討伐しても依頼が失敗ってわけじゃないよ。ただ追加の報酬がなくなるだけ」
「色々あるんですね」
「まあね。受ける依頼が決まったら早めにおいで。早い者勝ちになってるからお目当ての依頼が無くなってるかもしれないからね」
「ああ、わかったぜ」
再びラウンジにたむろする三人。
「何があるって言ってたっけ」
「トウボクサイ、フクレドリの討伐とミノヒツジの捕獲ね」
「ああそうだそうだ。ミノヒツジは討伐しても大丈夫って言ってたな」
「そうね。ただなるべくなら生きたまま捕獲してほしいってことでしょ? 正直私たち向きではないと思うわ」
「何で?」
「だって私たち魔物との戦闘自体経験がほとんどないのよ? それなのにただ倒すよりも難しい生け捕りって。今回はそれができる自信がある人たちに任せた方がいいんじゃないかしら」
「……まあ、一理あるな。その方が依頼主は喜ぶよな」
「ええ。だからトウボクサイかフクレドリの討伐がいいと思う」
「俺も同感だな。……それで」
ロロがずっと黙りこくっているハクハクハクの方を向く。瑞葉も同様だ。それに対してハクハクハクは最初気付いていないかのようにじっと二人の方を見ていたが、やがて自分のことを見ているのだと認識して恥ずかしさに顔を伏せた。
「え、と、何? あ、いや、何でしょうか」
「いや、何じゃなくて、ハクハクハクも意見言ってくれよ。俺たち一緒に依頼を受ける仲間なんだから」
「そうよ。変に遠慮しないでね」
「……うん、あの。二人の意見で、大丈夫だと思う」
難儀しそうだ、瑞葉はそう感じていた。ハクハクハクのことは嫌いとまでは思っていない。しかしこの人見知りの激しさはこれから共に依頼を受けるうえで良い方向に働くことはないだろう。
「俺たちの意見がどうじゃなくてハクハクハクが何を思ってるか知りたいんだって。例えばトウボクサイはどんな魔物だから嫌とか、いいとかさ」
「え、あ、うん」
ロロの言葉に少しハクハクハクは考え込む。それは確かに自分の意見を考え発しようとしている証だ。仲間の良さは一説によれば互いの短所を互いの長所で補える部分にあると言う。この時、確かにロロはハクハクハクと瑞葉の弱い部分を補っていたのだろう。
「私は、あの、あまり魔法の制御が得意じゃなくて……。捕獲はちょっと嫌かな」
「魔法の制御が? どんな風に?」
「あ、うん。力加減が、あんまり……」
「力加減ね。それならやっぱり討伐の方がいいわね。加減を間違えて捕獲を失敗、ってこともあるし。初めてだから失敗するのも当然かもしれないけど、とりあえずはハクの実力を見てからにしたいわ」
「ならトウボクサイとフクレドリのどっちにする? この前トウボクサイとは戦ったし俺はフクレドリと戦ってみたいな」
「フクレドリかあ。たまに農場を荒らしに来るやつね」
農場は都の中でも郊外にある。都とその周辺を分けるように城壁で囲い魔物や獣の侵入を防いでいるのだが、上空を飛んでくるものに対しては無力だ。フクレドリは空を飛ぶのが得意な魔物ではないが、それでもたまに城壁を超えて農作物を荒らしに来るのである。それ故にフクレドリはロロと瑞葉には馴染み深い魔物の一種だ。
「ハクは見たことある?」
「あ、一応、うん。その、どっちも依頼で、その討伐に行ったことがあって」
「お、ならどっちでも大丈夫だな。今回はフクレドリにしようぜ。何度も農場を荒らしに来たことを後悔させてやる」
拳を掌に当ててロロはやる気を燃やす。その姿に瑞葉も頷いて応える。
「そうね。そうしましょう」
「え、あ、うん。じゃあ、それで……」
この時、不安そうな表情のハクハクハクに二人が気付くことはなかった。
三人が受ける依頼を決めてしばらく後、ミザロがカウンターに姿を現す。三人はそれを見て待ちかねていたとばかりに立ち上がり彼女の元へ向かった。
「ロロと瑞葉、それにハクハクハク。初めて見る組み合わせですね」
「今日初めて会ったからな。……初めましてだよな?」
唐突に話しかけられてハクハクハクは驚き、慌てて、考え込んで、頷く。
「……あの、うん。宿で見かけたことはある、ような、気もするけど、話すの初めて」
「なら初めましてでいいか。だから当然初めて見る組み合わせだな」
「そうですか、何か御用で?」
「ミザロ姉って暇?」
聞き方を間違えている、瑞葉がそう思うのも無理はなくミザロも怪訝な顔をしている。
「えー、あの。私たちフクレドリの討伐依頼を受けようと思っているんです。この三人で五等星の人数は揃ったんですけど三等星以上の人を誰にしようか悩んでいて。ミザロさんの時間があるようなら一緒に行って頂けたらな、と」
「ああ、そういう話ですか。後進の育成も冒険者の拠点に課せられた仕事の一部ですし一緒に行っても構いませんが……」
歯切れの悪い言葉に瑞葉が訝しむ。ミザロの視線はハクハクハクの方を向いていた。ハクは迷惑をかけるからと何度も言っていたがミザロもそれを知っていて、その上に警戒するほどのことなのか。瑞葉の中でそんな疑念が渦を巻く。
「あなたたちと一緒に行くなら私よりも竜神の方がいいですね。幸い昨日都に帰ってきたところですから丁度いい」
竜神という言葉に瑞葉はどきっ、とする。この話の流れは彼女にとってあまりいい流れではない。
「竜神さんどっか行ってたのか?」
「ええ。ザガのチームには遠方の討伐依頼を任せていたので。おそらく今日は打ち上げですから飲み屋街を練り歩いているはず。依頼を受けるのが明日で良ければ後で話をつけておきますよ」
「昨日までそんな遠くまで出ていたのにまた依頼に引っ張り出すのも気が引けるような……」
瑞葉は控えめながら話の流れに抵抗する。しかし。
「新人育成は冒険者の義務ですから気にすることはありません」
バッサリと切られる。ハクハクハクという丙族に加えて竜神という畏怖の対象まで出て来るようだ。瑞葉は今から胃がきりきりと痛むような思いがする。
「竜神さんかー、そういやあの人が戦ってるとこ見たことないんだよな」
今から楽しみだとのんきな様子のロロと想像するだけで胃が痛くなる瑞葉。対照的な二人の様子をミザロはただ黙って見ていた。彼女は大勢の新人冒険者を見てきたがここまで対照的なのに一緒にいるのも珍しいとぼんやり思う。
「よっしゃ、そうと決まればハクハクハクと親交を深める会でも開くか」
「何それ」
「滝でも見に行くか? 出店で何か買って食べようぜ」
「私に聞かないでハクに聞いた方がいいと思うけど」
「それもそうだな。よし、ハクハクハクはどっか行きたいところあるか?」
「え、あ、いや……」
「じゃあ滝に行こうぜ。何か奢るからさ」
ロロが駆けて宿を出て行く。瑞葉とハクハクハクは二人で取り残された。二人の視線は合わない。
「ハク」
瑞葉が僅かに体をハクハクハクの方に向けてそう呼んだ。やはり視線は合わない。
「その、よかったの?」
「あ、うん。滝は、嫌いじゃない」
「あー、いや、その、そこじゃなくて。色々と」
「色々と」
オウム返しでそう呟きハクハクハクの動きが止まる。俯いた表情は長い前髪で隠されている。彼女はゆっくりと今日の出来事を思い返している。この日起こったことは彼女にとって青天の霹靂だった。冒険者になって一年以上、しかし彼女が依頼を受けたのは片手で数えられる程度。そのどれもで周囲の人たちに迷惑をかけ続け、怪我を負わせることさえあった。冒険者にはなりたかった、強い自分になりたかった、前へと進みたかった。そんな想いと裏腹に彼女が何かを成すことはなく、ただただ無為に日々が過ぎてきた。それなのに今日、この日、手を取って走り出した人がいる。まだ迷いを抱えている、恐怖もある。それでも。
「大丈夫」
力強い言葉に思わず瑞葉の目がハクハクハクの方を向く。視線が合ったその目には力強い光が宿っているように感じられた。
「……なら行きましょう。ロロに目いっぱい奢らせないと」
「うん……、えと、いいのかな?」
「ええ、もちろん」
二人がロロの後を追う。憑き物でも落ちたのか二人共それまでよりも自然な足取りで。
翌日、志吹の宿。戸を開き中へ入る三人の若者。ロロと瑞葉、そしてハクハクハクだ。
「来たか」
彼らを出迎えたのは大柄で筋肉質な女性、竜神だ。昨日、ミザロに言われて三人と共に依頼を受けることになっている。そんな彼女は三人を品定めするようにじっと見つめる。
「竜神さん、今日はよろしくお願いします」
礼儀正しさからか視線に耐えられなくなったからか瑞葉が頭を下げる。それに倣うように隣にいた二人も頭を下げた。竜神はその様子に嘆息して顔を上げさせる。
「研修を担当した縁もある。固いことはなしで行こうか」
その言葉だけでロロはすぐに気を緩めてわかったぜ、などと言うが他の二人はそうもいかない。昨日夕食を共にし多少は打ち解けた三人だが、いざ本番当日となるとそれぞれに様々な緊張や不安がぶり返してくるものだ。
「竜神さんはハクハクハクの研修も担当したんだってな。昨日ハクハクハクから聞いたぜ」
「そうそう。もう一年ぐらい前だったかな。ロロよりはずっと物覚えがよかったよ」
盛り上がる二人と話を聞いてもいない二人、間近にいながら別世界の住人にさえ思えるほどだ。
「さて、何はともあれ依頼を受けようか」
一旦話を打ち切って竜神がカウンターにいる崎藤を指さす。
「よっし、じゃあ行こう!」
ロロが崎藤に話しかけ依頼を受ける。詳細な内容の説明を受け、四人は外へ出る。
「行くぞ、フクレドリ討伐!」
振り上げた拳に視線が集まる。その先に見えている景色はそれぞれ違うのだろう。ロロたちの初依頼が今、始まる。