67.復帰
ショウリュウの都、志吹の宿。多くの冒険者が集まるこの場所に年若い三人の冒険者もまた同じように集まっていた。
「えー、この度はご心配をおかけしまして、誠に申し訳ありませんでした」
そんな第一声で同席する二人をぽかん、とさせたのは瑞葉だ。彼女は深々とお辞儀をしてそんな二人の様子に目を向けることも無く言葉を続ける。
「母との問題は無事解決しまして、再びここに戻って来れました。その、ご心配をおかけしましたお詫びにこちらを」
そう言いながら瑞葉が懐から出したのは都でも有名な店の羊羹の箱だ。
「これって高いやつだよな?」
思わずそう言ったのはロロだ。実際、それは彼の言う通りで素材や味に拘ったそれは見た目は何の変哲もないのだが一般的な贈答品の数倍の値段が付いている。そもそもさして都の菓子事情に詳しいわけでは無いロロが知っている時点で如何にこの店の羊羹が素晴らしい物かは想像がつくだろう。
「あの、瑞葉ちゃん、私は別に迷惑って、思ってないよ?」
ハクハクハクも当然この店を知っており思わず受け取るのを遠慮してしまう程だ。実際に迷惑を掛けられたつもりが無いのであればいきなりそんな高価な物を出されても、という思いもあるだろう。
「いや、ハクハクハクには特に、その、あまり良い思いはしなかったと思うし……」
瑞葉は結局、三日ほど冒険者稼業を休んでいた。その間はずっと母と色々な事を話していたらしい。そしてその切っ掛けと言うべきか原因と言うべきか、そこにはハクハクハクが丙族であるという事と瑞葉の母が丙族を嫌っているという事が関係している。
その点で少なくともハクハクハクには不快に思う理由自体はあっただろう。
「わ、私は、その、瑞葉ちゃんと、その、また一緒にいられる、って、それだけで十分だよ」
しかしハクハクハクにとってはそんな些末な事よりも瑞葉と一緒にいられないかもしれない、という事の方が心に来ていたようだ。瑞葉が休んだ初日は事情を聞いた後はしばらく落ち着きを見せ、寧ろロロと二人きりという事の方に気が行っていたのだが、日が経つに連れもう一緒に冒険者をすることは出来ないのではないかと不安になっていたのだ。
今日、こうして瑞葉の姿を見た時の彼女の気持ちは言葉で言い表せないほどだろう。
三人揃ったからには以前のように依頼をこなす日々に戻る、わけでもない。というのもロロの腕がまだ完全には治っていないからだ。
瑞葉とハクハクハクは近辺で出来る簡単な依頼をこなし、ロロは一人残って早く自分も冒険者として活動を再開したいと思いながらうずうずするという日々が続く。
それがおおよそ十日ほど。
今、三人は病院にいた。
「……もう動かしても問題無さそうだね」
「え?」
「ほらな、言った通りだろ」
この日、ロロが腕が治った気がすると言い放ち急遽三人は病院に来たわけである。そこで検査の後に医者が言ったのが先の言葉だ。
「でも予定ではまだ二週間ぐらいかかるんじゃ?」
「こういうのは個人差もあるからね。ロロ君は自然治癒力が高かった、そう言う事だろう」
折れた骨は完全にくっ付いておりこれ以上固定していたところで無駄であるとのことだ。
「治ったと言ってもしばらくは派手に動かさないように。少なくとも一か月半も動かさなかったことで弱ってるからね」
「分かったぜ!」
その左腕の固定が解かれて行く。久しぶりの再会にロロは感嘆の息を吐くとそのままぐるぐると腕を回した。
「……何か前と感覚が違う気がする」
「それが弱ってるという事だ。それに慣れるまでは無理をしないように」
「はーい」
病院を後にした三人は志吹の宿への道を歩く。
話題は当然ロロの事だ。
「本当にその腕大丈夫なの?」
「お医者さんが大丈夫って言ったんだから疑う事ないだろ」
「それはそうなんだけど……」
未だに心配そうにしているのが瑞葉だ。今回はロロが何か無理をしたわけでも無く、医者の保証があるにもかかわらず不安そうにしている。もうこれは彼女の性格の問題でありどうにもならない部分なのだろう。
「私は、その、早く治って、嬉しいよ。また一緒に、ね、依頼に行けるし」
「だよなだよな!」
純粋に喜んでいるロロやハクハクハクの反応の方がこの場合は正しくもありそうだ。
「……今日はお休みに」
瑞葉がちらりとそう呟くとロロは唇をひん曲げて不満を顕わにする。
「……わかったよ。但し簡単な依頼ね。お医者様も無理するなって言ってたしまずは町の人の手伝いでもしよう」
「よしよし、それじゃ行くぞっ!」
そう言ってロロは駆け出した。一歩遅れて瑞葉とハクハクハクもそれに続く。
腕の枷が取れたロロを止められる者など居ないのかもしれない。
今日の依頼は広場の清掃手伝いだった。三人はそれを手早く終わらせると広場の管理人がお礼にとくれたお菓子を手に寛いでいる。
「ロロ、どうだった?」
「んー、やっぱりまだなんか違和感あるな。左手がさ、もう全然力入んなくて」
「でしょうね。一か月以上ずっと吊るしてたんだから」
「帰ったら剣の素振りでもして慣らさないと魔物相手はまだ危ないかもな」
そんなこんなで三人は今後の予定を立てて行く。
話し合いの末にとりあえず一週間ほどは様子見で簡単な依頼を受けて、その後ロロの左腕の調子を見て改めて考えるという流れになったようだ。ロロと瑞葉の意見が対立し中々まとまらなかったことも付け加えておこう。
宿に戻った三人は報酬を貰いいつものようにしばらく寛いでいた。そこに声を掛ける者あり。
「……お前、もう腕は大丈夫なのか?」
「安川さん!」
何度か依頼を共にして来た冒険者、安川だ。ロロが腕を折ったクビナシトラとの戦いの時も共に戦っていた冒険者でもある。
安川は三人に勧められるまま席に着くと訝しげにロロの腕をじっと見つめる。
「確か予定じゃ完治するのはまだ先じゃなかったか?」
「そうなんですけどね」
「自然治癒力が高いから治ったんだろうって言われたぜ」
「あー、まあ確かにお前はそういう所ありそうだな」
流石に野生の獣みたいだ、という感想を安川は飲み込む。彼は大人である故に言うべき事と言うべきでない事の分別があるのだ。
「野生の獣みたいなもんですよ。普段頭を使わないから代わりにって事じゃないですか?」
子供の瑞葉にはそんなものが無いようだが。まあこれは幼馴染であるが故に遠慮が無いだけであろうが。
「でもまあ、まだ本調子じゃないみたいですよ」
「そりゃあそうだろ。一週間でも筋力は衰えるらしいし一か月以上ともなれば猶更だ」
「しばらくは簡単な依頼をこなして調子を戻すんだ」
「そうか……」
安川はそれを聞いて少し考え込む。三人を値踏みするように見つめやがて口を開いた。
「なら今度簡単な依頼があるんだが、一緒にやるか?」
その言葉を聞いた三人は各々驚きの表情を見せた。言葉で表現するのが難しい程に彼らにとってその言葉は衝撃だったようだ。
「……まさか安川さんが俺達を誘ってくれるなんて」
ロロが呟いたその言葉が驚きのわけを完璧に表している。
元々、三人が安川と出会った時、彼は色々と限界を感じて冒険者を引退しようと考えていた。しかし色々とありその考えを改め今はより高みを目指して努力をしているようだ。しかし基本的には一人で何でもやりがちで、複数人で何かをする時も自分から積極的に周りを誘うような事はしない。
こちらから話せばそれなりに話をしてくれるものの安川から何か話してくるような事はまずない、それが多くの者が彼に抱く印象だった。
三人も例に漏れずそう思っていたのに、今、なんと、安川が彼らを誘ったのだ。
「どうしたんですか? 何か困り事でも?」
「何であれ俺達を頼ってくれるのは嬉しいな」
心配そうに声を掛ける瑞葉とご満悦な様子で頷いているロロ。ハクハクハクはそんな二人とどこか後悔するような表情を見せる安川を代わる代わる見つめている。
安川は大きく息を吐いた。色々と三人の態度に、というか主にロロの態度には思う所があるようだが全て飲み込んで話を進めるらしい。
「もうすぐ七月になるだろ」
「まあまだ二週間ぐらいあるけど」
「去年七月に何してたか覚えてるか?」
「去年?」
三人は一年前の事に思いを馳せる。そしてすぐに思い至った。
「ナナユウ村の祭りだ」
それは安川と三人が初めて一緒に行った依頼だ。
ナナユウ村では七月の初めから二週間ほど祭りを行っており、ここにはいない牛鬼とここにいる四人でその警備の依頼を受けたのだ。そこは紆余曲折があり彼らが仲を深めた地でもあるので中々思い出深い地となっている。
「わざわざ話題に出すって事は今年も警備の依頼を?」
瑞葉が尋ねると安川はどこか答え辛そうに目を逸らす。その反応に一行は訝しげに彼を見つめる。
ナナユウ村の警備依頼は元々魔物や獣が周囲にほとんど居らず祭りを見て回る時間も設けられる為、休暇の小旅行の気分で依頼を受ける者も多い。彼もその一員で警備の依頼を受けるのが恥ずかしいのだろうか?
いや、そんなはずは無い。それならばわざわざ三人を誘わずとも良いのだから。それに彼らは去年、その祭りの際に周辺に多くの獣が現れるという事態を経験している。その原因は既に消えているのだが、とはいえ警備が無駄にはならないことをはっきり理解しているのだ。何も恥ずかしがることは無いだろう。
ではなぜ安川は質問に答えないのだろうか?
「おいおいおい、まじかよ!?」
その声は遠くの席から唐突に響き渡ったものだ。驚きの声を上げた彼は視線が集まっている事にも気付いていない。
「今年もナナユウの祭りにO・デイが!?」
「馬鹿、声がでかい!」
どうやら彼らは山河カンショウの国を回り歌を披露している歌手、O・デイ愛好者のようだ。
O・デイの人気は凄まじく彼女が大々的に行う音楽祭ではその愛好者が国中から列を為して現れ、現地ではごった返す人の波に周囲の店が大わらわという話だ。そんな彼女が去年からナナユウ村の祭りに参加していることはそこまで大きく知られてはいない。
が、このようにどこからか情報を仕入れている者もいるらしい。
「O・デイかぁ」
「今年も来るんだね」
去年祭りに行った彼らは当然ながらその歌を堪能したものだ。
そして思い出す。その時に彼らの隣には安川がいなかったことを。
「そういや去年は音を大きくするあの……、何だっけかが足りなくて安川さんが」
「スピーカーね。想定より人が多くて会場に入り切らない人数だったって言ってたね」
「あ、あの、もしかして……」
自然と三人の視線が安川に集まる。
去年、O・デイは音を増幅する装置、スピーカーの不足に悩まされていた。それが分かったのは今にも歌い始めようとした時で、運営の人が走り回って探していたが小さな村でそんな物を急遽用意出来るはずも無い。本来ならば諦めて終わりだったのだろうが、そこに偶然安川がいた。
安川は音を操る魔法を扱う。当然、音を単純に大きくすることも可能でスピーカーの役割を果たす事が出来るのだ。長時間それを行う事は出来なかったが本来ならば僅かに聞こえる音を楽しむことしか出来なかったであろう人たちに彼女の声を届けた功績は大きい。
それはもう、O・デイ本人がその働きを気に入って今後も一緒にやらないかと誘いをかける程に。
「O・デイから祭りの手伝いに来てくれと打診があった」
安川は観念したように事情を話し始める。
実のところ彼は去年の祭り以降も何度かO・デイから興行の手伝いに来て欲しいと打診を受けていたらしい。しかし自身の実力不足などを言い訳にその全てを断り続けていたようだ。
「断ってたんだ」
「三十分しか持たないスピーカーに価値なんかあるか?」
「それはまあ……」
去年の祭りではおよそ三十分で魔力の限界が訪れていた。その時は突如追加のスピーカーが必要になったという事情故にそれでも然程問題は無かったが、普段の興行の中で一つだけ時間制限のあるスピーカーがある必要は全く無いのだ。
「それでまあ、これまでは手紙や彼女の仕事仲間が来て頼まれてたんだが……。今回は本人が家にまで来たんだよ」
「本人が!?」
ショウリュウの都をO・デイ本人が大っぴらに歩き回れば彼女の愛好者がその後ろに列を為すだろう。故に彼女が姿を現すのは基本的に興行の時だけであり、わざわざ本人が家にまで押しかけると言うのは中々聞くことの無い話だ。
「そうなると流石に断り辛くてなぁ……」
「めっちゃ気に入られてるんだな」
「何が良いんだか俺にはわからん」
「まあスピーカーを増やせば事足りる話ではありますよね」
安川の魔法で音を増幅した方が特別音質が良い、というような事も無く彼らにはどうしてO・デイが安川に拘るのか疑問符が浮かぶばかりだ。
それはそれとしてロロ達にはもう一つ疑問があった。代表して瑞葉が口を開く。
「それで、何で私たちを誘ったんですか?」
安川がO・デイに誘われたことは分かった。しかしそれとナナユウの祭りの警備に彼らを駆り出すことはあまり関連が無いように思える。祭りの警備はあくまで外の魔物や獣相手に行われることであり、彼女が興行を始めた時にはロロ達はただの観客だ。安川の事だ、自分の一世一代の晴れ姿を見て欲しいなどと思うような性格でもない。
ではなぜそんなことを?
その問いに対して再び安川は答え辛そうに視線を逸らす。それを見てハクハクハクが一つ思い付く。それは彼女も似たような部分を持っているからなのだろうがそこを深堀する必要は無いだろう。
「……もしかして、その、逃げる、口実、みたいな……」
逃げる、その言葉が何を指しているのかロロと瑞葉はすぐにはぴんと来なかった。が、逃げる相手など一人しかいないのは考えればわかる話だ。
「……ああ。O・デイさんとずっと一緒だと息が詰まりそうだから知り合いに挨拶みたいなこと言って抜け出そうとしてるって事?」
ハクハクハクが頷く。そして三人の視線が安川に。
「……そんなわけないだろ」
その声は喉の奥から絞り出されたようにか細くハクハクハクの想像が正解だと告げているのと同じだった。
「さ、最低……」
「見損なうぜ……」
ロロと瑞葉の言葉に倣うようにハクハクハクも安川に冷たい視線を送る。
「いや待て落ち着け誤解だ。何も仕事を放り出そうってわけじゃない」
「本当ですか?」
「ああ、家まで押し掛けられて圧力に屈して受けた仕事だが……」
心の底から不本意であると言わんばかりの態度に皆の視線が一層厳しくなるが。
「しかし仕事は仕事、受けると向こうに伝えた以上出来ることはやるさ」
「なら私たちいらなくないですか? 逃げるも何もみんなの憧れO・デイちゃんと一緒にいられるなら寧ろ役得だと思いますけど」
「同じ冒険者にもいるが、ああいう押しの強い女は苦手だ……」
三人はそれが誰を指しているのか即座に理解する。つい先日まで行動を共にしていた冒険者、ソラだ。
魔法師を自称するソラは安川が扱う音の魔法に関して教えを請う為に彼を追い掛け回しているという話だ。安川を気に入って自身の興行に連れて行こうとするO・デイとどこか重なる部分があると言えるだろう。
そんな話を聞いて瑞葉とハクハクハクは一つ思うことがあった。
「安川さんって……」
「何だ?」
「いや……、ソラさんにO・デイにって……。ハクもそう思わない?」
「……色男、みたいな」
国中の人を虜にするO・デイはその歌唱力は言うまでも無いが明るく可愛らしい見た目も魅力の一つだ。彼女が一面を飾る新聞はその切り抜きを保管する者も多いと聞く。対してソラは中身が少々奇天烈な部分こそあれ、その見た目に関しては志吹の宿に通う冒険者の中でも一、二を争うほどだろう。
そんな二人に追い掛け回される安川に対してハクハクハクのような感想が出るのは自然と言えるのではないだろうか。
「何が色男だ、俺からすれば女難に遭ってるだけだぞ」
幸い三人は大して気にしなかったようだが、もしある種の男性に言えばそのまま喧嘩にでも発展しそうな一言だ。
最終的に三人はロロの腕の調子を戻すのに丁度良いとナナユウの祭りの警備を受けることにしたようだ。ついでに安川が逃げ出さないように監視もするとか。
時は過ぎて七月の中頃。
いつものようにロロ、瑞葉、ハクハクハクの三人が志吹の宿に集まっていた。瑞葉は新聞を手に今来たばかりのハクハクハクに何やら息巻いている。
「ハク、新聞見た?」
「え、ま、まだ」
「これこれ」
新聞の一面には大きな写真一枚、そこにはO・デイが大きく写っている。その背景は彼らにも見覚えのあるものだ。
「これ、お祭りの?」
「そうそう、祭りの時の写真!」
ナナユウの祭りは今年も盛況であり、特に最終日に行われたO・デイ主催の音楽祭には大勢の人が集まった。去年は席が足りず多くの人が会場の外に押し出されてしまっていたが、今年はそれを見越してかなり大掛かりな舞台が用意され村のどこにいてもO・デイの声が聞こえるような工夫が凝らされていたのだ。
そんな中で三人は安川の伝手でO・デイの姿を見る事の出来る席を用意してもらい中々良い思いをしていたようである。
そんなお祭りの、もとい音楽祭の様子が記事になっており三人は興奮しているのだ。そしてその写真を隅から隅まで見ているとふとハクハクハクが気付く。
「……この端の人」
「ん?」
彼女が指差したのはO・デイが立っている舞台の端、小さな人影。
「……安川さんに、似てる、気が、する……」
それまでO・デイばかり見て二人は気にしていなかったようだが改めてその小さな人影を見つめると確かに背格好は似ているように見えた。
「でも安川さん外で音の調整をしてたって言ってたよな?」
それはショウリュウの都への帰り道、O・デイが歌っている間に姿を見せなかった安川に聞いた話だ。
「でもよく似てるね……」
それは見れば見る程本人としか思えなくなるほどだ。そして三人は思う、もしも舞台の上にいたのだとしても安川はそれを恥ずかしがって言わないかもしれない、と。
「今度会ったら聞いてみるか?」
「そうだね」
そんなささやかな悪戯心をと共に新聞を閉じる。
話は移り変わりロロの腕の話へ。
「そろそろ慣れて来た?」
「まあまあかな。結局魔物も獣も出なかったけど時間ある時は素振りとかやってたし」
そう言いながらロロは左腕をぐるぐる回す。それは包帯を解いてすぐの時よりも滑らかに動いているように見えた。
「だったら今日は近くで弱めの獣や魔物が出てないか聞いてみようか」
「まあ見てなって、剣の腕が錆び付いてないって所を見せてやるぜ」
「元々振り回してるだけだったでしょ」
「いやいや、これでも本を読んだりしたんだぜ」
「どうせ触りだけでしょ」
「まあな」
そんな他愛もない話をした後、三人は依頼を受けに向かう。間が良いことに都近郊の山で牙獣の討伐依頼があり早速引き受けると山へと向かった。
そして何の問題も無くその依頼を終え都へと戻る。
「腕はもう大丈夫そうだね」
「だから言ったろ? もう全然大丈夫なんだって」
襲い来る牙獣の攻撃を躱しつつ一刀の下に切り伏せる。そんな姿を何度も見せロロは自分の体力や腕力が既に戻っていることを見事に示して見せたのだ。
「次はどんな依頼を受ける?」
「感謝祭も近いしなぁ。もうあと一か月だろ?」
「そうだね、そこもしっかり考えとかないと」
魔王討伐感謝祭はロロと瑞葉にとってある意味で外せない用事だ。祭り自体を楽しむのではなく父母が働く農場の手伝いをするという意味で。それに今年はサキサキサが自分で作った物を売るという話もありそれも見に行きたいと考えている。
他にも色々な催しが目白押しであり二人は勿論、ハクハクハクにとっても感謝祭の時期を外で過ごすと言うのは考えられない。
「ま、しばらくは都の近くの依頼をたくさんこなす感じかな」
「そうだね」
ハクハクハクもその提案に同意するように頷く。
そして彼らは志吹の宿の扉を開けた。
「おや、丁度良い所に」
そこには宿の看板娘ことミザロが。彼女は驚き入り口で止まっている三人の背後に回ると受付に押し込む。
「な、何かあったんですか?」
押し込まれながら瑞葉がそう尋ねると。
「いやあ、実はちょっと提案があって」
返事は受付に立っていた宿の店主、崎藤の方から聞こえる。
「イザクラの都、行ってみない?」
結論を言えば彼らはこの提案を受けることになる。
先ほど感謝祭までは都近くの依頼を受けようなどと言っていたのだが世の中ままならない。何か考えがあったところでその通りに行くことなどほとんど無いようだ。
ただ、結果としてそれが事前の計画よりも良くなるか悪くなるかはこれからの彼らにかかっているのだろう。




