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志高く剣を取る ~ロロはかっこいい冒険者になると誓った~  作者: 藤乃病


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35.冒険者と吹き荒ぶ嵐

 山河カンショウの国、赤倉の町。冬の寒さが染み渡るこの時期にこの町では特大の嵐が吹き荒れようとしていた。

「町長が殺された?」

 宿の前でロロは目の前の男から発された言葉をただ繰り返す。それも仕方ないだろう。なにせそんなことが起こるなどと誰も想像していなかったのだから。

「そうだ。それでもう朝から大騒ぎだよ。その、みんな疑心暗鬼で色々とな」

「そうだったのか……。教えてくれてありがとう」

 ロロはそそくさと宿の方へ戻り入り口から様子を見ていた瑞葉とハクハクハクの下へ戻り今聞いた話をする。

「え……」

「……あ、うぅ」

 そして唖然として言葉を失う二人。それも当然だろう、つい昨日に会った人が殺されるなど誰が想像するというのだ。

「え、と、どうする? いや、どうなるんだろう……」

 瑞葉はこれから何をすべきかを考え、そして気付く。この状況において自分たちの立場がかなり微妙になっていることに。

「……ロロ、ハク、一旦中に入ろう」

 そして人目を避けるように彼女は二人を連れて宿の中へ戻った。

 廊下を歩きながら瑞葉は頭を働かせる。しかし考えれば考える程に自分たちがまずい立ち位置に置かれていると認識してしまう。

「なあ、もうちょっと話聞いてからでもよかったんじゃないか?」

 ロロの言葉を聞いて確かにそこらにいる人に話を聞かなかったことは少し後悔したが、それ以上に彼女はあの群衆の目が怖かったのだ。

「……とりあえずゴウゴウさんたちと合流してからね」

 彼女は一旦考えを保留し急ぎゴウゴウ達の部屋を目指す。


 ゴンゴン。

 瑞葉は扉を思いの外強く叩いてしまったことに自分で少し驚いていた。よく見れば彼女の手に必要以上に固く握られもう片方の手は襟元を摘んでいる。彼女自身は気付いていなかったが額には冷や汗も流れていた。

「ご、ゴウゴウさん、起きてますか?」

「瑞葉か。入っていいぞ」

 中へ呼びかけるとすぐに返事があったのに安堵して彼女は扉を開く。そこにはゴウゴウとエゴエゴが緊張した面持ちで佇んでいた。

「外の、騒ぎ、聞きました?」

「お前たちも聞いたか」

 どうやら二人は一足先に外の騒ぎを知っていたようでこれからどうすべきかを先に話し合っていたようだ。

「話はどこまで聞いた?」

「俺たちは町長さんが、その、殺されたって。……それだけしか聞いてないけど」

「すみません。その、外に居辛くて私が」

「いや、その判断は正しい。今俺たちは積極的に姿を現すべきじゃない」

 ゴウゴウは三人のそれぞれの表情を見る。瑞葉は傍から見ていても心配になる程に深刻な表情をしている。この先に起こることに想像が付いているのだろう。ロロは困惑の表情を浮かべており未だ状況に付いていけていない。ハクハクハクは周りの顔色を伺ってびくびくしている。

 三者三葉の姿を見てゴウゴウは何から話すべきか考える。

「……まず、町長が殺されたというのは間違いないだろう」

「まあ、わざわざそんな嘘をみんなでつく意味無いですもんね」

「俺が聞いた話では町長は自分の部屋で剣を胸に突き刺され殺されていたということだ。もっとも噂は尾ひれがつくものだ。それが真実とは限らないが」

 要するに町長がどのように死んでいたのかは直接そこへ赴いて自らの目で見なければ確かなことは言えないと言いたいのだろう。実際、宿の前で話される人々の話は既に勘違いや妄想が入り混じり始めている。中には魔物が人に擬態しただとか丸盆の町の陰謀だとか言い出す者まで現れ始めていた。

「剣で突き刺し殺したというのが事実なら犯人は間違いなく人だ。人が法を犯したならその処遇は警察に任せるべきだが……」

 ゴウゴウは何かを言い淀む。しかしその先の事を既に察している者もいる。

「そもそもこの町に自警団……、警察ってあるんですか?」

 瑞葉の問いに答える者はいない。その沈黙こそが答えでもある。やがてゴウゴウが重い口を開く。

「瑞葉、お前が察した通りこの町には警察組織は存在しないようだ。本来ならこの規模の町であればあるべきだが……」

 この町は交易の中継拠点となることで急速な発展を遂げた。その一方で町の拡大と共に増長した町長は敢えてこの町にそのような組織を設けず自らの権力を高めようと考えた。警察組織を設ければ国は必ずその管理に口を出してくるだろう。逆にそのような組織を作りさえしなければ町長は自らの権力でこの町を支配できると考えたのである。

 町長のこの考えは自らの首を絞めたと言わざるを得ない。国の支配を受けなかったのは事実だが、それと同時に国からの支援も受けることが出来なかったのだから。丸盆の町が二つの都を繋ぐ交易路を作る計画を立てた際に二つの都がその後ろ盾となるよう後押ししたのは他ならぬ山河カンショウの国の国王である。赤倉の町は国の支配を拒んだが故にいとも簡単に見捨てられたのだ。

 ゴウゴウは昨日の夜に色々と調べた結果その辺りの事実を把握していたが今重要なのは警察組織がこの町には存在しないという点に尽きる。

「表に集まっている住民はこの町の混乱の現れだ。これから事実が知れ渡ることでより混乱は広がるだろう」

「よくわかんねえけど町長さんを殺した犯人を見つけないといけないってことか?」

「それもこれから俺たちが取れる手段の一つだろうな。いずれにせよ現場に行ってみなければ何とも言えないのが実情だ」

 ゴウゴウが立ち上がり外を見る。視線の先は当然、町長の家だ。


 一行は町長の家へと向かう。道中にはどこに隠れていたのか大勢の人が微妙に距離を取りながら立ち話をしている。内容は勿論、町長の事だ。

「全身縛られてナイフでめった刺しにされたとか聞いたけどほんとかい?」

「あの人はちょっとまあ、頑固だからねえ。恨んでる人も多かったんじゃない?」

「どうせ殺すなら魔物を殺してくれたらよかったのにねえ」

「村の中に人殺しがいるってことだろ? 俺んとこに来なきゃいいが」

 皆好き勝手に言っているが町長が死んだことを悲しんでいる様子はあまりない。住民たちにとってどのような存在だったのかなんとなく想像がついてしまう。

 そんな町中を通り過ぎて辿り着いた町長の家の周りには想像よりも野次馬は少ない。

「もっと大勢人がいるかと思いました」

 瑞葉が思わず呟く。自分たちが泊まっていた宿の周りにも十数人の人がいたというのにここには家や木々に隠れるようにして町長の家を覗いている者が数人いるのみ。

「道中の人だかりを見るに既に町中にこの話は伝わっている。しかし町長の家にまで見に行こうという度胸がある者は少ないらしい」

「……度胸って言うのはなんだか違う気もしますけど」

 家に近付くと周囲の視線が一際集まるのが感じられる。見た覚えが無い余所者がこんな時に町長の家を訪ねている。その事実は人々の心に好奇心や猜疑心の火を点けるだろう。そんな熱視線を浴びながら一行は家の中へと消えて行く。


 出迎えてくれた町長の息子、ジョセアは憔悴した様子で項垂れている。

「……冒険者の皆様には申し訳ないが、今は緊急の事態で……。外はこの話で持ち切りだろう? 既に話は聞いていると思うが、君たちにも話を聞きたかったところでな」

 彼の動揺は相当なものだ。たとえ親子でいがみ合っていたとしても同じ家でずっと暮らして来た家族だ。父親が殺されたという事実は彼の心に相当な傷を付けたのかもしれない。

「我々は冒険者であり決して公的な機関ではない。しかし誰かの為に奔走することは我々の望みでもある。当然、この事件の解決には可能な限り協力すると約束しよう」

「……ありがとう。では聞きたいんだが」

 何か言おうとしたジョセアをゴウゴウが手で制する。

「申し訳ない、先に実際の現場を見ても構わないか。我々は外で話こそ聞いたが魔物が殺しただ剣でめった刺しにされただのと尾ひれがついた話が出回っていて細部に関しては把握しているとは言い難い。緊密な協力の為には正しい情報を確認してから話をさせて欲しい」

「あ、ああ。外ではそんな話まで出てるのか。わかった、付いて来てくれ」

 ゴウゴウの言葉の勢いのままジョセアは頷き、そのまま踵を返して歩き出す。向かう先は町長の部屋だ。高価な木材を使用して造られたこの家は細部までこだわり抜かれており、廊下を歩く間も柱に彫られた美しい紋様を楽しむことが出来る。そしてその柱には町の中央を通る広い道を馬車を連ねて走る隊商の絵が飾られていた。画角からしてこの家の二階の軒下から描かれているようだ。これらはここを訪れた者に町長の威厳を示す物品の一つであったが、その主は今から向かう先で二度と起き上がることのない屍となっている。

 ジョセアは一際意匠の凝った扉の前で立ち止まるとポケットから一本の鍵を取り出す。鍵の先は少し厚みのある薄い板に幾つかの窪みがあるような形になっている。

「珍しい形の鍵だな」

 ゴウゴウは思わずそう呟いた。彼が見たことのある多くの鍵の中にそのような形のものは無かった。

「ああ、特注で作ったと自慢してたよ。イザクラの都から訪れた鍵屋に作らせたとかで時間が無かったから合鍵も作れなくてこれでしか開かないと。何でも単に同じ形の物を作っただけでは鍵が開かないとか」

「ほう、そんなものがあるのか」

 そんな会話をしながら手早く鍵を開けると、そのまま扉を開く。

 押し開けられた扉、その向こうには凍湖シンシンの国で獲れた獣の毛皮の絨毯が出迎える。扉の影には高原にしか自生しないと言われる珍しい観葉植物が飾られ、部屋の壁には幾つかの名画が飾られる。部屋の奥には町長としての事務作業を行う場所なのか本棚に机と椅子があり、それらはどれも王都に住む高名な家具職人が製作した物だ。反対側には窓がありそこからはあまり手入れされず荒れている庭園と立派な塀が見える。そして視線を移すと一際目立つベッドがある。不要と思えるほどに飾りが多くそれは睡眠の為と言うよりは周囲への自己顕示欲を満たす為の物体に見えた。そしてそのベッドで二度と目覚めぬ眠りに就いたものがいる。

「うっ……」

 瑞葉は思わず眩暈を起こしそうになった。気分が悪い、馬車の揺れとは全く違う気分の悪さだ。彼女は幸運にもこれまで人の直接的な悪意に触れる機会はあまりなかった。精々、学校に通っていた頃に成績の良さに嫉妬されちょっとした失敗をねちねちと揶揄われたぐらいだろう。しかし今、目の前にあるのは……。

 ベッドの上で町長は仰向けに横たわっており、その胸は赤く染まり短剣が光る。それは心臓を貫きそのままベッドまで串刺しにしており、どれだけ力強く突き刺したのかが想像されるだろう。このような現場を見慣れない者は直視するのも抵抗が残る程だ。

「……抵抗した様子は無いな。眠っているところを一突き、と言ったところだろう」

「相当な力だぜこれ。よっぽど恨みでもあったんだろうな」

 瑞葉やハクハクハクが思わず後ずさりしている中で、ゴウゴウとエゴエゴは冷静に観察と思考を続ける。

「これを発見したのは?」

「俺と啓喜って町の住人だよ。あいつが親父に話しがあるって言うから一緒に部屋に来て……。そしたら親父がこの有様だった」

「今朝の話だな」

「ああ。まだ日が昇って間もないぐらいだ。六時半ぐらいか? 啓喜のやつはすぐに飛んで出て行っちまった。あいつは何でもかんでもすぐ話すから、今の外の騒ぎはたぶんあいつがそこら中で話回ってるせいだ」

 町長の死は町にとって大きな意味を持つ。たとえこの町が寂れ死にかけの町だったとしても、その中で最も権力を持っていたのは彼なのだ。その舵取りが正しかったかはともかく舵取りをする者が消え、住民たちはこれから先の進む先に漠然とした不安を感じている。その結果何をするでもなくただ外に出てその不安を同じ住民と共有しているのだ。暴動などの騒ぎにならないのは助かるが、可能な限り内々で話を進め犯人を捕らえてから改めて町長の死を発表できていれば余計な混乱は起こらなかっただろう。

「……起きてしまったことは仕方ないだろう。町長を殺害した犯人を早急に捕らえるのが今の俺たちに出来ることだ」

「……まあな。あんたらを呼んだのはこんなことをさせる為じゃなかったんだけどな」

 ジョセアは吐き捨てるように呟く。

「無論、魔物退治の方も責任を持って行うことはここで宣言しておこう」

「ああ、頼むよ」

 気疲れしているのだろう、彼は目の下に隈を作りただただ気だるげにそう返事をした。


 犯罪の捜査と言えば警察か探偵の仕事であろう。現場検証や聞き込みで情報を集め犯罪の証拠を探し出し犯人を炙り出す。しかしてその心得が冒険者一行にあるかと言うと。

「なあゴウゴウさん。とりあえずどうするんだ?」

「……とりあえず第一発見者に話を聞くというのが定石、のはずだ」

「おいおい、旦那がそんなんじゃ困るぜ?」

「このような事態に遭遇したことが無いとは言わない。が、都で起こった事件は自警団に任せるのが当然の決まりだ」

 冒険者として、また丙自治会の会長として様々な経験を積んだゴウゴウでさえ自身でこのような捜査を行ったことは無い。しかし往々にして経験と言うものは他の事柄にも応用がきくものだ。この時点で彼には幾つかの

「人に話を聞き情報を集めるという意味では普段やっていることとそこまで差は無いだろう。どうあれやるだけのことはやってみるべきだ」

 こうして一行はジョセアに第一発見者である啓喜を町長の家に連れて来るように頼んだのである。彼が出て行くと各々が気になった箇所を適当に調べて回る。

「こんな短剣どこにあったんだろうな」

 ロロは物怖じすることも無く町長の死体とその胸に突き刺さっている短剣を見つめる。

「これ、抜いてもいいのか?」

「二人に話を聞くまではなるべくそのままの状態を維持したおいてくれ」

「そっか」

 町長の上半身は毛布に覆われておらず、おそらく確実に一突きで殺す為に犯人がどけたのだろう。そしてその短剣は見たところ余計な飾りも無く町長の趣味には合わなそうだ。血が短剣を突き刺した場所から溢れ町長の高そうな衣服を濡らしている。その後もロロはベッドの周辺や下を色々と探しているようだが新たな発見は無さそうだ。

 瑞葉は入り口の扉を念入りに調べている。開けたり閉めたりを繰り返し、鍵穴やどうやって鍵が閉まる仕組みになっているのかを見ているようだ。

「見た感じ普通だけどなあ」

 どうやら鍵が特注と聞いて興味が沸いていたようだが鍵穴を覗いたりした程度では仕組みは分からないらしい。しかし内側から閉める際はつまみを回すことで閂がかかるという一般的かつ物理的な仕組みで閉まっているようだ。瑞葉はガチャガチャと開け閉めを繰り返して見るも何もおかしな所は無い。

 他の三人は部屋の中や外の廊下を気の赴くままに歩き回っている。窓から外を覗いてみたり、廊下の何か落ちていないか隅々まで観察したり町長の机周辺を見て回ったりだ。そしてその探索は成果らしい成果も無くジョセアと啓喜が戻ってくることで中断される。


 この町の住人である啓喜は三十半ばでこの町ではかなり若い人物だ。頬がこけて痩せた体付きは生活に困っているのを想像させる。

「え、と。この人たちがお前が招いたって言う冒険者か?」

 彼は町長の部屋に入って来るなりそう言った。ここに来るまでの間にジョセアから話は聞いていたのだろうが実際に彼らを見て少々不安気な様子を隠そうともしない。実際、丙族であることを隠そうともしない大人が二人に明らかに酒も飲めない年齢の子供が三人。この状況で彼らを見て思うところが無い者はいないだろう。

「俺たちは確かに彼の依頼を受けてこの町に来た冒険者だ。依頼内容は魔物退治であって殺人犯の捜査ではないが話を聞かせてもらいたい」

「まあ俺は何であれ解決するんならいいけどさ」

 そんな前置きから尋問は始まる。

「ここに来たのはいつ頃だった?」

「七時前ぐらいだな。日が昇ったら行こうと思ってたから」

「町長に話があって来たとのことだが、目的を聞いても?」

「金だよ。俺の家は商売をやってたんだが今はこの町じゃ商売あがったりだろ? それで今はこの町のお株を奪ってよろしくやってる丸盆と取引を始めようと思って。一応この町の周辺にゃ木材や果実ぐらいはあるし金にならないかと思ってな。ただまあ生憎うちはそんな取引を始める為の金も残ってねえんで幾らか融通してもらおうと、な」

「町長は金貸しの真似事もしていたのか」

「いやいや、貸してくれるなんて思ってねえよ? でも金を持ってるのはもうあの人だけだったんでね、可能性があるとしたらそこしかなかったってだけさ」

「……事情は分かった。では話を戻すが、七時前にこの家に来て、そこにいるジョセアと共に町長の所へ向かった、で合ってるな?」

「そうそう。家に来たらジョセアが出迎えてくれてな。んで町長と話したいって言ったらなら俺も一緒に行こうって」

「親父は金を貯めこむだけで何の役にも立てようとしないからな。一言言ってやりたかったんだ」

「では二人でここまで来て、それからどうしたんだ?」

「それからさあ、扉叩いても返事ないし、開けようとしたんだけど鍵が無くってどうするってなったわけ」

「鍵が無い?」

「そうそう。結局窓から見に行こうってなって、そしたらジョセアがまだ寝てるみたいだってベッド指差してよ。んでよく見たら胸になんか刺さってて、慌てて中に入ったんだよ」

「あの窓からだな」

「そうそう。こっちも鍵開いてなかったからさあ、ガラス叩き割って無理矢理だよね。んで中入ったら町長死んでんじゃん、ねえ……」

「思わず逃げ出した?」

「ああ、だって死体だぞ? 殺されてんだぞ? 怖くてさ、逃げちまうだろ」

「でもお前そこら中で言いまわっただろ。外がだいぶ騒ぎになっちまった」

「え、あ。いやいや、悪い、その、ついなあ」

 とりあえずざっと流れを聞いたところジョセアが話した内容と差異は無い。二人が共謀していなければ真実を話しているということになる。

「鍵はどこで見つかったんです?」

「そこのベッドの傍に落ちていたさ」

 瑞葉の問いにジョセアがすぐさま答える。

「入って親父の所に駆け寄る時にすぐ見つけたよ。絨毯と色味が違うから目立つだろ?」

 ジョセアが青と黒を基調にした絨毯の上に銀色に輝く鍵を置くと確かにそれは目立って見える。しかしそんなことよりも気になることがある。

「鍵がかかっていて、室内に鍵があった?」

「ええ」

「なんか悪いのか?」

 それが意味するところを理解できていないのは今やロロ一人だ。

「……鍵は特注で、今ジョセアさんが持っている一つしか合鍵が無い、ですよね」

「……ああ」

「え……、あ!」

 そしてロロも事態の異常さに気付く。

「犯人はどうやって中に入ったんだ?」

 この事件が密室殺人であることに。ただし、彼はもう一つの事実には未だ気付いていない。ふとロロは皆の視線がある人物に集まっていることに気が付く。その人物は長年の時を冒険者として過ごし、様々な魔法を扱い、多くの者に忌み嫌われる丙族で、昨日町長と最も長く話をした人物。

 ジョセアがその人物を指差す。

「……あなたならこの状況でも殺すことが出来るんじゃないのか?」

 全員の視線が指差した先にいる一人の男に向けられる。

 この町に吹き荒れる嵐の中ではたまたま来ただけの冒険者とて無関係ではいられない。突き付けられた指先を見ながらゴウゴウはこの場をどう納めるべきかを考え始めていた。


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