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志高く剣を取る ~ロロはかっこいい冒険者になると誓った~  作者: 藤乃病


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28.5 裁かれる者

 山河カンショウの国、ハイドウ村。ツルバネ討伐の宴も終わりを迎え子供は眠りに就く時間。柳とディオンは連れ立って宿を出て、とある場所へ向かっていた。

「ふーむ、あの三人は寝付きが良くて助かるな」

「全くだ。……ハクハクハクはよくあんなに食って寝られるな」

 柳は少々食べ過ぎたとお腹を押さえる。宴の際にどっちが早く食べられるかなどと言い出したのは良かったが、丙族に勝負を挑んだのは間違いだったと気付いた時には後の祭りだった。

「うむ、あの子はよく食べるからな。以前に一緒に依頼を受けた時は串焼きを百以上食べていたぞ」

「とんだ化け物だ」

 二人がそんな談笑をしていると目的の場所、村長の家に辿り着く。扉の隙間からは灯りが漏れており、中には二人を待つ人物がいるのだろう。

「面倒にならないと良いが」

 代表して柳が扉を開く。中の衆目の視線が二人に集まる。

「来たか」

 そこにいるのは村長、狩人の代表を務める者、村人の顔役として知られる者三名、それにトキハ。そんな彼らの中心には全身を縛られ身動きが取れない状態にされた者、もはや狩人からは除名された元狩人の寿天がいる。

「すまないね。抜け出すのが遅くなった」

「いや、あの子たちに余計な心配や面倒をかけるべきではない。故に遅くなるのは仕方のないことだ。今はこの話し合いを早く終わらせるとしよう」

 当然だがここに集まった者には目的がある。それは元狩人、寿天の処遇をどうするかを決めるということだ。彼のやったことは許されるべきことではなく裁きを受けなければならない。

「話は聞いたが本当に寿天がやったのか?」

 声を上げたのは村人の顔役の一人。信じられない、というよりは信じたくないのだろう。村で共に過ごして来た仲間の中から子供を攫い囮にしようとしたなど考えたくないのだ。しかし他の者はそれに対して何も言わず言葉を濁す。

 寿天は何も返答らしきことをしなかった。そもそも今は口も塞がれているので何も話すことはできないが。

「信じたくない気持ちはわからなくもないが、事実だ。藍天、こちらへ」

 村長の声に従い一人の男が奥の部屋から出て来る。どうやら皆が来る前からそこにいたらしい。彼は寿天の甥にあたり、彼の協力者としてハクハクハクを呼び出した人物だ。

「まずはお前の口から話してもらおう」

「は、はい」

 藍天は委縮しているのか、返事こそしたものの中々話そうとしない。順番に周囲の人物の顔色を伺い、自らをこの件に巻き込んだ叔父の顔色を伺い、一人俯いて冷や汗をかき、何度か深呼吸、それでようやく話す意思が固まったのか口を開く。

「お、俺は、その……。ハクハクハクのやつを攫う、というか、魔物退治に巻き込むって決めたのは昨日なんだ。朝にその、そこの人とハクハクハクともう一人が俺の所に来て、ハクハクハクがいるのにもその時に気付いたんだ。……俺は寿天さんにあいつの両親のことは聞いてたし俺自身もあいつに、その色々して来たから……。復讐、するつもりなのかと思って、怖くなってその場は逃げたんだ」

「お前はそのことを寿天に話したのだな」

「……はい。その、寿天さんには世話になってて、ハクハクハクが来ていることを伝えたんだ。俺、こ、怖くて。もしかしたら眠っている間に家ごと吹き飛ばされるんじゃないかと思って」

 彼が小さな頃はまだこの村に丙族がいた。そして彼らは村の周囲の魔物を退治していたのだが、その光景を彼は見たことがあった。中には強く派手な魔法で敵を吹き飛ばす者もあり、ハクハクハクもその気になれば同じことが出来るのだろうと、そしてその矛先が向くのは自分の方なのだろうと悪い想像が膨らんでいたのだ。

「寿天さんに狩人のみんなで監視した方が良いんじゃないかって言ったんだ。そしたら、その……」

 彼は目の前に寿天本人がいることもありその先を言い淀む。しかし周囲からかけられる無言の圧力についには耐え兼ねてゆっくりと口を開き出した。

「も、もっといい方法が、あるって」

 寿天は単独行動を好む狩人だった。その最大の原因は彼自身の過激な性格に周囲がついていけなくなったからだ。元々は丙族を排斥することに熱を上げていた者も多かったがハクハクハクの両親が命懸けで村を守ったことを知って以降、徐々にその熱が村の中から冷えて行く部分があった。個人差こそあったが最近はトキハの介入で余所者への抵抗も若干ずつではあるが薄れ、人によっては過去の自らの行いを反省することもあったほどだ。

 しかし寿天は違う。一時期は大人しかったが最近は特に異様なまでに丙族への憎しみを隠すことなく周囲へ見せていた。ハクハクハクの両親の行動も、丙族と魔物を同士討ちさせるなんて良い方法があったもんだ、などと一人呟いていたのを聞いた者もいる程だという。

 そして彼は村の中で孤立していた。しかし実力には村の誰もが一目置く人物でもあり、彼は一人で狩りを続けた。そしてこの村で初めて再びツルバネが現れたことに気が付いたのである。

 彼は甥から話を聞いてまるで悪魔のような笑みを浮かべこう言った。

「あの丙族の娘か、さぞ魔法が得意なんだろう。監視なぞ必要ない。もっといい方法がある。お前、そいつをここに連れて来い。そいつの喜びそうな話でもしてやろうじゃないか。そして同じようにこの村の役に立ってもらおう」

「え、それって……」

「あれをツルバネの餌にしよう。死にそうになればお得意の魔法を使ってくれるだろ、両親みたいにな。両方死ねば後始末も楽でいいな」

 およそ人の心を持った者の発言では無い。藍天は流石にハクハクハクの下へ行くのを躊躇した。今日話をした丙族の少女よりも目の前の叔父の方が余程恐ろしく感じられたからだ。しかし恐ろしいからこそ彼は拒否することが出来ず、彼女の下へ急ぎ向かったのである。

「なるほど、藍天、話を聞かせてくれたこと感謝する。しばらくそこに控えていてくれ」

 彼の話はここで終わり、そして本命の話へ移る。先ほどからずっと床に転がったまま話を聞くことしかできず、ただ村長を睨み付けている男、寿天の番だ。

「寿天、お前の話を聞こう。口の布を解いてやれ」

 彼の口を覆う布が解かれた時、村長はおそらく口汚い言葉で周囲を罵るのだろうと想像していた。しかし現実は予想とは違った。寿天は黙ったまま周りを見ているだけで何も話そうとはしなかったのだ。仕方なく村長は自ら話を聞き始める。

「寿天、先の藍天の話に何か言いたいことはあるか?」

 この場の誰もがどんな言い訳が飛び出るかと次に出て来る言葉を固唾を吞んで待つ。だが、寿天は落ち着いた様子で、苦々し気に歯ぎしりをする程度の事しかしない。そして話し出すと口調はあくまで冷静そのものだった。

「何も否定する気は無い。俺が丙族を嫌っているのは知っているだろう。ただそれだけだ」

「……殊勝な態度だな。変に暴れられるよりはずっといいが」

 集まった面々は彼の態度にひどく違和感を覚えていた。長年共に過ごして来た村人たちは勿論、ろくに話をしたことの無い柳やディオンでさえ目の前の男の様子が不自然に映る。本当にこの男が今回のような過激な事件を引き起こしたのかと。

 柳は剣を抜き一足の元に寿天の前へ飛ぶ。突然の行動に誰もが呆気に取られただ彼女の姿を見つめていた。寿天の眼前に剣を突き刺す彼女の姿を。

「お前、そうやって反省した様子を見せれば許されるとでも思ってるのか? 今日ハクハクハクは偶然生きて帰れたが、お前がやったことは私に言わせればただの人殺しだ」

 柳は恐ろしい形相と共に床に突き刺した剣を徐々に徐々に深く沈めていく。その圧は昨日に村長や藍天と相対した際に見せたものと同じだ。並の者ならば耐え切れずその思惑を全て話し、どんな無様な姿を見せようと助かろうと命乞いを始めるだろう。

 しかし寿天は柳の様子に動じた様子は無い。いや、より正確に言えばそもそもそんな脅しの意味が無いのだ。

「そうだな。俺は人殺しと言われても仕方ないことをした。然るべき罰を受けるだろう」

 寿天は既に自らの罪を受け入れているのだから。

「寿天、お主らしくないではないか」

 思わず狩人の代表が声を上げる。

「罪を受け入れることは正しくそれに対して何か言いたいわけでは無いが……。これまで我らが見てきたお主はそのように殊勝な様子を見せたことは無い。一体何があったのだ?」

 散々な言われようだとこの場の誰もが思う。しかし寿天とはそうなのだ。彼の粗暴さは村の誰もが知っているし、狩人達の中でも高圧的で自己中心的な性格で率直に言えば嫌われ関わるのを避けられるでほど。そのような人物であるとよく知るからこそ今の態度が信じられないのだ。

 皆の視線が集まる中、寿天が口を開く。

「俺は丙族が憎い。俺の妻と子を殺したのは奴らだ。今もその光景が俺の頭に鮮明にこびりついて離れない」

 彼は奥歯を噛み締め憎しみを顕わにする。

「妻を剣で刺した奴の顔を覚えている、息子を火炙りにした奴の顔も覚えている。俺は憎しみに囚われたまま生きていくだろう」

 彼の憎しみの炎が消えることは無い。なぜならば、その復讐の対象は既にいないからだ。

「お前……、何がしたかったんだ?」

 柳は訝しげな表情でそう言うと、床から刀を引き抜きそのまま納める。彼女は目の前にいる男の憎しみを感じ取り、それが妻と子を殺した者へのみ向いていることに気が付いていた。故に違和感が残る、なぜハクハクハクにその憎しみを向けたのか。

 寿天は俯き、たどたどしく震える声で言葉を紡ぐ。

「俺は……。俺は、あの丙族、が憎かった。のか? いや、ハクハクハク、あの子が悪くないことは分かっている。関わりを持つ必要が、ない」

 その様子は明らかに不自然だった。彼は自身の考えでハクハクハクを攫いツルバネを誘う囮として使ったはずだ。しかし今になって自らの行動に首を傾げ理解できないという風に眉根を顰める。

「……俺は丙族を誰彼構わず殺したかったわけじゃない、はずだ」

 ハクハクハクの両親が死んだ際、彼は一人祝杯を挙げた。時が経ち狩人として獣や魔物を狩り続けている内にどうしても今いる者だけでは手が足りないと感じることがあった。丙族が強力な魔法で一撃で倒して見せた大型の魔物、それを何時間も弓を射続けて倒す日々。前のように村の守りを彼らに任せて森の奥を探りに行くこともできない。人手が足りないなら都から人を雇えばいい、そう思ったこともあった。しかし元々いた彼ら丙族はここを去るまで村の為に力を尽くしていただろう。わざわざ人を雇わずとも良かったはずだ。

 寿天は憎しみに囚われ丙族の死に祝杯を挙げたことを恥じた。理解していたはずだ、丙族と関わりを持つことがどれ程辛くとも彼らはこの村の為に戦っていたと。それを自らの感情に任せ否定したことを後悔していた。

 それからの彼は我武者羅に一人で狩りを続けた。元々の粗暴さが輪をかけて露出し周囲が辟易するほどに。罪悪感と自らの意地から村の周囲の魔物を全て狩り尽くそうとしていたのだ。

 そして彼はある者に出会う。

「そうだ、俺は丙族に会った」

「ハクハクハクか?」

「いや、違う。もっと前だ。もっと、もっと、前。そうだ、狩りで森の奥の方へ行った時……。そこに女の丙族がいた」

 俄かに周囲ざわつく。森の奥は魔物が多く生息する危険地帯、そしてその先に町村は無い。ここ何年かは丙族が村を訪れたことは無く、それを思えばそんな場所に丙族の女がいるはずも無い。

 そして柳とディオンは更に別の疑惑を思い浮かべ冷や汗が背を伝うのを感じていた。この二人は不審な丙族に心当たりがあった。

「その丙族、覚えている限りの特徴を教えろ」

 柳の問いに寿天は自らの記憶を絞り出すようにして口を開く。

「背、は高かった。マントを羽織っていて……、細身だったな。色黒で、髪は短かった、と思う。離れたところから見ただけで……、覚えているのはそのぐらいだな」

 柳はその言葉から架空の女丙族を頭の中に思い浮かべる。

「……ディオン、どう思う?」

「ふーむ、特徴は当てはまっているな」

 どうやら二人の意見は一致したようで、故に緊張した様子なのだが他の者は置いてけぼりだ。それに痺れを切らしたのだろう、トキハが一歩前に出る。

「どうやらお二方には何やら心当たりがある様子ですね。私たちにも説明はあるのでしょうか?」

 当然の質問、それに対し若干の間を空けて柳が口を開く。

「少し前にザガ十一次元鳳凰がある組織を潰した。そこは詳細は省くが犯罪組織で……、トキハさんなら知っているだろう?」

「ええ、新聞にも出ていましたね。私が持ってきたもののどれかに載っていたはずですが」

 トキハが村の者に目をやると、そういえばと新聞を読んだらしい者が声を漏らす。

「その時に全員を捕まえられはしなかったようでね。私ら一部の冒険者には見つけ次第捕らえるよう連絡が来てるんだ。その中に女の丙族がいた」

「そういうことでしたか。特徴は合っているのですね」

「しかしだいぶ前らしいからな。こんなところにはもういないだろう」

 組織を攻め入ったのは一月程前。寿天の口ぶりだと丙族を見たのはおそらくもっと前の事だろう。仮に二人の目的の人物だったとしても、ここにまた現れる可能性は低い。しかし情報として聞きたいことはある。

「その女、何かやっていたか? 魔法を使ったりとかしていたならどんな魔法を使えるのか知っておきたい」

「……いや、俺が見た時は休んでいるのか木に寄りかかっていた」

 柳の期待とは裏腹に新しい情報は得られない。そもそも今も逃げられ続けているような者は十分に慎重さを有している者だ。目立つような真似はしないだろう。

「……そういえば」

 ただ、この時に得られた情報はいつか必ず彼らの役に立つだろう。

「あの女を見た時だ。ふと、丙族を殺さないといけないと思った」

 今はまだ、この場にいる全員を困惑させるだけだったとしても。


 山河カンショウの国、王都、感謝祭まであと僅かに迫った時分。崎藤とザガ十一次元鳳凰の面々は久しぶりの王都を散策している。崎藤が見知った顔を見て隣を歩く竜神に耳打ちする。

「見てよ、あれって楼山の剛毅万来だよね。やっぱり今年も彼らが来たねえ」

 剛毅万来と言えば山河カンショウの国にある四つの都の一つ、楼山の都が誇る冒険者の一団だ。中核を成すのは二等星の豪紀、万、ライライの三人で彼らは今王都の土産物を覗いている。竜神はそんな彼らを見てにこにこと笑顔を見せる崎藤に呆れているようだ。

「毎年の事だろ、続々とああいう連中が集まって来る頃合いだ。サインでも貰いに行くか?」

「豪紀君かっこいいし結構好きな人多いんだよねえ。うちの冒険者にもいつかは楼山に行って剛毅万来に入りたいって人が何人かいるし、ちょっと頼んでみようかな」

 そこは拠点の責任者としては嘆くところだろ、と竜神は思ったが一方で崎藤にそんなことを期待するだけ無駄だとも知っている。そういうところが気に入って志吹の宿に身を置いているのもあるのだろう。

「よーし、俺様が代わりに頼んできてやろう」

「あ、待て馬鹿」

 竜神の制止も空しくザガが三人の下へ。

「リーダー行っちゃいましたけどどうします?」

「……ほっとけ、先行くぞ」

 竜神は面倒になってザガの世話を剛毅万来の三人に押し付けその場を去ることに決めた。彼らは明日から国王の側近との会談を控えており、その準備に忙しいのだ。それが終われば今度は国王との食事会、感謝祭でも崎藤と竜神はザガを伴って貴族のお相手をすることになるだろう。できることなら避けたいものだがショウリュウの都や志吹の宿が負う責任を考えれば仕方のないことでもあった。

「あの三人ならあの馬鹿の面倒も見れる。私は少しの間は気楽にできる、良いこと尽くめだ」

「そうだねえ。感謝祭はまだだけど王都には面白い店もたくさんあるし、僕らは僕らで今の内にお店を回っておこうか」

「そうだな。よし、じゃあ適当に別れて夕方には宿に戻るように」

「「了解!」」

 ザガ十一次元鳳凰の面々が何組かに別れて散り散りになる。残ったのは崎藤、竜神、空天赤坂の三名。

「空天、お前も行っていいんだぞ」

「あ、いえ。私は竜神さんと一緒が良いので……」

「ふうん、まあいいか。じゃあ行くぞ。崎藤の奢りだ」

「え、僕?」

 王都には大勢の人が居り、今いる通りには山河カンショウの国でも名高い職人が揃う店が多々ある。被服、陶器、家具、機械、武器や防具に至るまで様々で、一品物の道具を欲しがる者の中には他国からわざわざ足を運ぶ者もいるらしい。生まれも育ちも様々な人の波を擦り抜けて歩く、その中で不意に崎藤が振り返った。

「何かあったか?」

 竜神の問いに崎藤は答えない。黙ったまま後ろの去り行く人々の方を見ている。

「知り合いでもいたか?」

「……いた、気がするんだけど」

 判然としない言葉だけが宙を浮く。

「まあ行こうか」

 しかしすぐに気のせいだったのかもしれないと再び歩き出した。


 崎藤たちが通り過ぎて行くのを見送る影が一つ。彼は崎藤と擦れ違った直後に路地に身を隠していた。こんな場所でそんなことをすれば不自然この上ないのだが不思議と彼を気にする者は誰もいない。まるでそこに存在しないかの如き様子だ。

「崎藤さん流石に老けたなあ」

 そんな風に呟いた彼は壁を蹴って建物の屋根の上へ。人々の目から死角となる位置で人を待つ。そしてその相手は幸いにもすぐに現れた。

「ニド」

 現れたのは丙族の女だ。背が高く短髪で色黒、コートを羽織っているがそこから覗き見える体の輪郭は細身に見える。彼女はぼうっと王都の街並みを見ている男、ニドに尋ねる。

「王都はどう?」

「随分久しぶりに来たけど相変わらず華美でいいね。僕とは正反対だ」

 自虐的な言葉を挟みながらニドは穏やかに微笑む。丙族の女は遠ざかって行く崎藤たちの姿を見つめ、それから少し腹立たし気に息を吐いた。

「この感謝祭を狙わなくて本当に良かったの? ザガ十一次元鳳凰が全員揃っていないのがわかっているこの絶好の機会を」

 彼女の声は棘のあるものだったが、ニドは穏やかな笑みを崩さないままだ。

「確かにザガや竜神さんみたいな化け物を相手にしなくていいのは分かるけどね。あの人たちがいたら僕らに勝ち目はないよ。僕と君とリュウキの三人がかりでどっちか一人相手に出来ればいい方かな」

「ならばやはり」

「でも今は駄目だ。琳さんがいるからね。あの人がいたら自警団という組織の力にあっさり吞み込まれるだけだよ。初めから言ってるけど勝ち目の無い戦いをする気は無い」

 ニドの言葉に丙族の女は反論できないのか黙り込む。しかし不満そうな表情はそのままなのをニドは確認し、もう一言付け加えた。

「今はまだ機ではないだけ。大丈夫だよ。確実に琳さんも彼らザガ達もいない時期があるんだ。僕らが動くのはその時だよ」

「……お前の言葉を疑うつもりは無いが」

「逸る気持ちがあるのは分かる。でも僕らが相手にするのはショウリュウの都だ。相手を甘く見たらトウボクサイの前の若木よりあっさりと圧し折られるだろうね。君もただ戦うのではなく、どうせなら勝利が欲しいんじゃないか?」

 丙族の女はその言葉に黙って頷いた。ニドはそれを見て少し安心したのか息を吐き空を見上げた。

「僕ら虐げられた者がどんな思いで燻っているのか……。裁きの日が来るんだ」

 呟きは空に溶けて誰の耳にも届かない。彼の想いを知る者などこの国にはいない。

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