22.冒険者の旅する今
ショウリュウの都、郊外の農場にある家。その中でロロは身支度を済ませ出掛けようとしていた。
「それじゃ行って来るぜ。遺物がもらえたらお土産で持って帰るよ」
「そうか。気を付けて行ってこい」
父に見送られ外へ。今日は遺跡探索の体験会が行われる日だ。ロロは考古学自体にそれほど強い興味はなかったが、いざ遺跡探索というものに行くとなると楽しみで父を相手にずっとその話ばかりをしていた。
外へ出ると彼は少し離れたところにある木の陰に身を寄せる。そこからは瑞葉の家が見えるからだ。二人の家は近く、一緒に出掛ける時は大抵この木の下で待ち合わせる。ロロは熱心に説明会の話を聞いていたことだし瑞葉はきっと今日もやる気満々だろうと彼女の家の方を見ていた。。
身支度は前日の内に全て済ませてあった。しかし念の為にもう一度だけ確認すると瑞葉はリュックを背負う。
「それじゃあ行って来るね」
「行ってらっしゃい」
帰って来たのは義父の声だけ。瑞葉がそのことに少し疑念を覚えていると母である樹々が小走りで瑞葉の下へやってくる。何か忘れ物でもしただろうかと不安を覚えるが、寧ろ不安そうな表情をしているのは樹々の方だ。
「どうかしたの?」
流石にそのまま放置して出て行くことなど出来ず瑞葉はそう促すが、樹々はそれでも何かを言いかけては言わずに口を噤むと言うことを繰り返した。今から行くのが遺跡探索の体験会であることは既に伝えてある。樹々が考古学に対して特別な思い入れが無いことは瑞葉も承知のことだ。それ故に遺跡探索自体に何らかの忌避を抱いているということは無い。では、一体どうしてか。瑞葉には思い当たることが一つあるが、それを口には出さない。
「瑞葉……。あのね……」
「何? お母さん」
樹々は猶も口にすべきかを迷うように俯きがちになって襟元を押さえている。そしてとうとう口から出た言葉は。
「……気を付けてね」
そんな当たり障りのない言葉だった。
「……わかってるよ。ちゃんと帰ってくるから」
瑞葉はそんな母の言葉に極力明るく振舞って返事をする。そして家を出て声が聞こえないぐらいに離れると大きく溜息をついた。
「はあぁ……、どうして私はサキ先輩の名前出しちゃったんだろう」
瑞葉は過去のことを悔やむ、せめてサキサキサでなくサキ先輩とあの時点で呼んでいればこんなことにはならなかったのに、と。瑞葉は数日前に遺跡探索を丙族であるサキサキサに誘われたと話した。そうなれば当然その遺跡探索にはサキサキサが来ると考えるのは自然の流れだし、事実としてもそうである。丙族にある種の恐れを抱く樹々にとって娘が丙族と一緒に何かをすると言う事実は、それだけで最悪の結果を想像するに難くないことだ。瑞葉を呼び止めた際、おそらく樹々はそのまま家に引き留め今日の遺跡探索へ行くのを止めさせたかったのだろう。しかし冒険者になることを許した時からこんなことが起こるのはわかっていたことでもある。人との関わりを基礎とする冒険者稼業において丙族と関わらないことなどあり得ないのだから。
「……だからあそこで言い淀んでたんだろうな」
娘を心配する気持ちとそれを許したのが自分だという理性とがぶつかってああなったのだろう、瑞葉には母の想いが理解できる気がした。理解はできてもそれに従うつもりは彼女には無かったが。
「来たな。早く行こうぜ」
そしてそんなことの相談は目の前ののんきな幼馴染に出来るはずもない。彼女はもう一度大きな溜息をついた。
ハクハクハクの朝は早い。今日も朝早くに目が覚めると彼女は倉庫の掃除を始めていた。特にこの日は熱心でもう拭く意味もないほどに綺麗な銅像の表面を布で磨き続けている。普段ならばここまで綺麗な銅像を磨くことなど無いのだが、今日彼女の意識は掃除に向けられていない。
「……い、今からでもやめたりとか」
彼女の頭はこの後に控えている遺跡探索のことでいっぱいだ。今もどうにか行かずに済ませることはできないかと考え続けている。なにせそこには間違いなくサキサキサがいるのだから。
丙自治会の集会所で出会った二人は歳が近く、学校にも一緒に行くような仲だった。そして互いに冒険者になることを目標にしていたという共通点もあった。十五の歳になるとサキサキサが十五になるのを待たずハクハクハクは一人先に冒険者になり、そしてすぐに冒険者を休業した。五等星のバッジを手にした際に我がことのように喜んでくれた友達や集会所の人たちに会わす顔が無かったハクハクハクは、それでも不甲斐ない自分を恥じて謝ろうと何度も集会所の近くまで行ったが結局中へは入ることが出来なかった。
偶然からサキサキサに再会したハクハクハクは流れで共に遺跡探索の体験会へと向かうことになっていた。友達と一緒に過ごせることを嬉しく思う気持ちはある。互いに目標としていた冒険者になれたことを喜ばしく思う気持ちはある。ただ。
「サキちゃん、私のことどう思ってるんだろう……」
一年ほど顔を見せていなかった自分のことをどう思っているのか恐ろしくてたまらない。数日前に少し話をした時はそれほど不快そうに思っている様子はなかった。しかしハクハクハクから見たサキサキサとはとても明るく優しい友達だった。そんな彼女ならばたとえ不快な相手であっても周りに配慮してそれをおくびにも出さず応対することは想像に難くない。
「ほ、ほんとは、私のこと嫌いで一緒になんていたくないんじゃ……」
ハクハクハクは人に嫌われるのには慣れている。丙族である彼女は初めから白い目で見られることの方が多いのだから。しかし一度気を許した相手に嫌われた経験は無かった。彼女はそんな初めての事態に震えを隠せない。
「や、やっぱり私行くのやめようかな……」
そう呟きはしたがロロや瑞葉が待っているし、他の人たちにも迷惑が掛かるのはわかっている。彼女は本質的には善良なのだ。それ故にハクハクハクは鬱々とした思いを抱えていようとも最終的には自ら家を出て集合場所へと向かうのだった。
集合場所、自警団の本部前。早めに着いたロロと瑞葉は自警団の本部である建物を見上げている。
「流石に立派だよな。この前のイザクラの支部とは全然違うぜ」
「あれはあれで凄いとは思うけどね」
自警団の本部は煉瓦造りのお手本のような建物で特別感はないが立派な建物であることが一目で分かる。二人はこうして間近でこの建物を見るのは初めてのことだ。何分、一般人はあまり関わりを持つことは無く大人たちが何かしらの手続きなどで向かうことがあるぐらいだ。
「しかし何でこんなところに集合なんだろうな」
そしてこの建物、場所としてはショウリュウの都の中心部に位置している。
「まあ、どうせ外に出るんだからどこかの門に集合で良かのよね」
目的地の遺跡はショウリュウの都の北方に位置する場所で、乗り物で行くには道が無く普通ならば歩いて山を一つ二つ超える必要があるだろう。そして当然そんな場所に行くには都の外へ出なければならない。彼らには門から遠く離れた場所を集合地点にする理由があるとは思えなかった。
二人がそんな話をして少しすると遠くに見覚えのある影が現れる。
「お、二人共早いね。おはよう!」
元気な挨拶と共に現れたのはサキサキサだ。彼女はハイタッチでもしそうな勢いで二人の下へ走って行く。そして二人に顔を近付けると。
「ハクちゃんは?」
と、小声で尋ねた。サキサキサは今日の遺跡探索を通じてハクハクハクと前のように話ができる関係になろうと画策している。どこにいるのか確認したくなるのは当然だろう。
「まだ来てないな」
「いつもは早いんだけどね。寝坊してないといいけど」
実のところロロも瑞葉もハクハクハクがどこに住んでいるのかを詳しくは聞いておらず、本当に寝坊したとなれば呼びに行くこともできない。今までそんなことを心配したことが無かったのは待ち合わせの約束をしたならばハクハクハクが必ず十五分以上の余裕を持って集合していたからだ。
「う、うううぅ、ハクちゃんにいいところを見せるんだから来てもらわないと困るんだけどぉ」
「心配しなくてもそのうち来るって」
二人は頭を掻きむしって騒がしくするサキサキサをどうにか宥め続ける。そんな中で次に現れたのは今回の発起人、九岳だ。彼は自警団本部の中から扉を開け姿を現す。
「早いな、若者たちよ。待たせたかな?」
「今来たところよ」
サキサキサは先ほどまでの態度を一変させ親指を立てる。もしもその髪が乱れていなければ先ほどまで大騒ぎしていたと言っても信じないだろう。ロロと瑞葉はその様子に呆れつつも若干感心していた。
「そうか、時間の十分以上前に来るとは良い心がけだ」
九岳は特段何も疑うことなく素直に感心しているようだ。サキサキサは褒められたと浮かれているようで胸を張って鼻を高くする。しかしながらその隣、瑞葉はそんなことよりも気になることが幾つかあった。一つは今現れた九岳がこれといった荷物を持っていないこと。事前の説明会で遺跡探索には様々な機械が必要になると聞いたが、今回彼は精々服のポケットに入る程度の荷物しか持っていないだろう。そしてもう一つ。
「あの、なんで自警団から?」
なぜ彼が自警団の本部から姿を現したのかということだ。彼はイザクラ考古学団の一員であるからして基本的には自警団に用向きなどないはずである。ましてこれから遺跡に向かおうという時に行くような場所であるとは思えなかった。
「それについてはここで説明しても良いが……。全員揃ってからまとめて説明するとしよう」
瑞葉はなんとなく誤魔化された感じもしたが、後で説明するという言葉を信じそれ以上の追及を止めることとした。
それから少ししてまた一人姿を現す。
「おー、もしかして俺が一番最後か?」
彼は説明会の際にロロたちの前の席に座っていた男で、名をテレンスと言う。四等星の冒険者であり遺跡や遺物の蘊蓄を幾つも持っている博識な男だ。
「いや、あと一人来ていない。丙族の女の子、名前はハクハクハクだったか」
「いっつも早く来るんだけどなあ」
ぼやくロロを余所に結局ハクハクハクが姿を現したのは時間ギリギリになってからの事だった。それも建物の影に隠れるようにして一行に近付いて来るものだから最初は不審者と間違われかけていたのだ。
「お、遅くなって、その、すみません」
「時間ぎりぎりだ。しかし間に合っている、問題は無い」
九岳は全員が揃ったことを改めて確認すると、咳ばらいを一つ。
「ごほん。これより遺跡探索体験会を始めようと思う。各々準備を整え今日という日を迎えてくれたことを心より感謝する。色々と話したいこともあるが……、こんなところで長話などつまらないだけだな。早速遺跡に向かうとしよう」
その言葉を受けて瑞葉は手を挙げて尋ねる。
「あの、都からそこまで離れていないと言っても歩いて行けばそれなりに時間かかりますよね? 本当に日帰りで行けるんですか?」
これから向かう遺跡は北方の山が多い地帯に存在する。優秀な冒険者ともなれば山歩きにも慣れており辿り着くのは問題ない。しかし山を越えるにはどうしてもそれなりに時間がかかる。おそらく彼らが一般的な道を使うのであれば遺跡に入ってろくに調べもしない内に周囲が暗くなり帰る時間だ。
「その疑問は尤もだ。しかしすぐに答えはわかる。今の君の問い、そして先の君の問い。両方のな。着いて来たまえ」
九岳が歩き出した先に見えるのは自警団本部。彼以外の者はその行動に疑問を隠せず足もなかなか動こうとしなかった。しかし振り返ることもなく当然のように歩みを進める九岳の姿に結局はその後を追う。自警団本部の扉を開き中へ、守衛に軽く挨拶をし奥へ奥へ。
「自警団の中ってこんなになってるんだ……」
大人たちの多くは何かしらの理由で年に一度ぐらいは訪れるものだが、建物をまともに見るのすら初めてなロロたちは当然中がどうなっているかなど知る由もない。建物内部は非常に単純な造りで、正面に見えるは幾つか並んだ長椅子と受付。そこでは自警団員と何やら話している人がいるのが見え、おそらく何かしらの手続きに来ているのだろう。そこから右に行けば会議室などがあり日夜ショウリュウの都を守る為の会議が行われている。
今回一行が向かうのは地下へ向かう階段だ。警備の者に軽く頭を下げて横を通り抜ける。その先にあるのは幾つもの頑丈そうな扉。そして数人の自警団員。
「イザクラ考古学団主催の遺跡探索体験会の御一行様ですね。お待ちしてました」
先頭に立っていた自警団員がやや大袈裟に見えるほど丁寧に頭を下げる。
「目的地へご案内します。私の後に続いて頂ければ幸いです」
自警団員がそう言って歩き出すと九岳、ロロ、サキサキサ、と続き他の者も少し遅れて歩き出す。先頭の彼以外の自警団員は一行を後ろから囲うように歩き、まるで余計なことをしないように見張っているかのような圧を感じさせた。
「目的地は北のキカト砦でしたね。こちらのゲートをお通り頂ければすぐに着きますよ」
頑丈そうな鉄の扉の向こうには巨大な台座の上に人の背よりもずっと大きな輪がある。そして輪の内側はまるで熱で揺らめく空気を何倍も酷くしたような空間の歪みが見えた。
「ゲートってまさか転送ゲートか?」
そう尋ねたのはテレンスだ。彼がそのように驚くのも無理はない。転送ゲートとは遠距離を一瞬で行き来できる遺物のことである。これは世界的にも有名な遺物なのだが、有名なのは物語で頻出するが故である。一般人が現実で使うことなどまずあり得ないのだ。
「ここのゲートはかなり昔から使用されているものだ。発掘されたのも随分前のことだしな」
九岳がそんなことを言いながらゲートを見つめている。その視線は興味本位で見ている野次馬というよりは、正に彼の本分たる研究者然としたものである。遺物を構成する部品の一つ一つに目を配るその姿はおそらく故障などが無いか確認しているのだろう。やがて一通りの観察を終えると、彼は振り返って後ろの面々に宣言した。
「では行こう。これを通れば往来の時間が何時間も短縮できる」
自警団員が見守る中、一行はゲートを潜る。備え付けられた階段でゲートの中心部に向かってひょいと跳び込んだり、特に何も考えず普段通り歩いてみたり、躊躇いがちに足先からゆっくりとゲートに入ったり、何を思ったか階段を二段飛ばしで駆け上がって走り込んでみたり。次の瞬間どこにいるのかはお楽しみだ。
ゲートの先に待っていたのは見たことのない世界、などと言うことは無く頑丈な石造りの砦だ。ここはショウリュウの都の北部、山々に囲まれた中にある盆地。そしてこの砦は転送ゲートを有していた遺跡の上に建てられたものである。
九岳以外の者はやって来た見知らぬ建物を警戒するように周囲を見回す。部屋の隅に警備らしき自警団員が二人。後ろには自警団本部にあったのと同じ形の遺物。この部屋は何も物がなく、入り口が一つのそこそこの広さの部屋であることだけがわかるだろう。
やがて全員が揃うと入り口から顔を出す者があった。
「ようこそキカト砦へ」
姿を現して一行を出迎えたのは自警団の一員たるカクラギだ。
「カクラギさん? なんでここに?」
「ロロ君に瑞葉ちゃん、久しぶりだね。最近は私も忙しかったから中々会う機会がね。しかし色々と頑張っていると噂は聞いているよ」
ロロと瑞葉は冒険者試験の際にカクラギと共に依頼に行っており、まともに話をするのはその日以来であった。他の面々とも軽い挨拶を終えると一旦外に出ようという話になる。カクラギの案内の元、一行は砦の内部を上へ上へと向かって行く。
「今日は私も遺跡探索に同行することになっているんだ」
歩きながらカクラギがそんな話をし始める。
「大きな仕事を終えて少し手が空いていたところでね。そんな時に九岳さんに話を聞いたものだから是非にと頼み込んだんだ」
そう言ってロロと瑞葉に微笑みかけるカクラギ。ロロと瑞葉は自分たちの成長を見てもらえる良い機会だと手に力が入る。そんなカクラギに対して九岳は渋い顔をしていた。
「あなたの興味は遺跡には向いていないように思えるが」
「ははは、まあそう言わないで頂けると」
そんな話をしていると砦を覆う石垣の上に出た。人が歩けるように整備されたそこからは周囲の景色がよく見え、ロロやサキサキサは感嘆の声を思わず上げた。
「すごい山の中……」
瑞葉が思わずそう呟いた。盆地に位置するこの場所からはどの方位を向いても山が見える。忘れそうになるがついさっき、ほんの十分前ほどには彼らがいたのはショウリュウの都の中心部だ。こんな山奥ではない。今の彼らにはどちらにどれだけ行けばショウリュウの都があるのかさえ分からないだろう。
「ここからだとショウリュウの都があっちにあるんだ。あの山の頂上まで行けば都が遠くに見えるよ。私たちの目的地は反対方向になるけど」
カクラギが指差した山を見れど彼らにはその向こうに都があるなどとは思えない。ただただ唖然とするだけだ。
驚きも一段落すると九岳がこれから向かう場所の説明を始める。
「正面に見える山があるだろう。ここから真っ直ぐ行きほんの少し登ったところに洞穴がある。その中に我々がこれから向かう遺跡がある」
「あの山に遺跡が……」
「普通の山にしか見えないな」
ロロと瑞葉がじっと山を見つめるが普段から見える山々や自分たちが上り下りしてきた山々との違いがさっぱり分からない。本当に遺跡があんなところにあるのだろうかと訝しむのも無理は無いだろう。
「……ふっふーん、私にはわかる。あれは間違いなく遺跡があるね! こう、あの山の特別さみたいな、心に感じる何かがあるわ!」
サキサキサが突然そう言い出したのは言うまでもないが本当にそんなものを感じたからではない。すぐ傍にいるハクハクハクにいいところを見せようとしているだけだ。ハクハクハクはそれを真に受けたのか目を凝らして山を見始めるが、彼女の思惑を知っているロロと瑞葉は流石に無茶が過ぎると心の中で突っ込みを入れていた。
「いや、山自体には何ら特徴は無い。あの山の植生などは自警団の皆が調べた記録があるが特別な所は何もなかった。遺跡とは何ら変哲の無い場所にあるものだ。我々の住む場所も地下を探ってみれば遺跡に辿り着くやもしれない」
そして九岳からは無慈悲にも心の中でなく口から発せられた言葉で突っ込みを入れられる。無論、九岳はサキサキサを貶めようとする意図などまるで無く、ただ単に考古学者として真摯な意見を述べただけなのだが。
「……まあ、その、それはそうだけどぉ……」
学者の言葉に対してそれ以上何かしら主張をするほどサキサキサの頭は悪くない。それ故にごにょごにょと何かしら口ごもって精一杯の抵抗を示すだけだ。
「ねえ、大丈夫だと思う?」
「……どうだろうなあ」
サキサキサの様子に首を傾げるハクハクハクを見てのロロと瑞葉の言葉である。先行きが心配ではあったが、彼女ら二人の仲が良くなることに反対などする理由は無い。ロロと瑞葉は約束もしたことだし上手く行くようできることをしようと互いに頷き合う。
一行は自警団の面々に見送られ砦を出て遺跡へと歩を進める。
「遺跡までは二十分ほどだ。道中は危険も無いだろう」
「この辺りはさっきの砦を中心に獣や魔物が棲みつかないよう監視されているんだ。さっきの砦もそれを目的に建てられたものだね」
山に囲まれたこの地帯はショウリュウの都に程近い場所にありながら人々が気軽に近寄れる場所でなく、過去には魔物が繁殖し冒険者や軍によって山狩りが行われた過去もある。その後この地に遺跡が発見され、更にその中には転送ゲートが発見された。様々な話し合いの末、遺跡の上に砦を建築しこの一帯を自警団の監視下に置くことで危険な生物が棲みつかないよう監視する運びとなった。
そのような経緯を考えれば当然のことであるが、特に問題が起こることも無く遺跡があるという洞穴へ辿り着く。
「……獣でも出てくれれば私のかっこいいところが見せられたのに」
サキサキサが後方でそんな愚痴を漏らしていたが獣も魔物もいないものは仕方ないののだ。洞穴の前で一度立ち止まると九岳が前に立って改めて注意を促し始める。
「ここからは遺跡の内部に入る。改めて皆に言っておくがここから先では必ず私の指示に従ってほしい。一度我々が入って中を詳細に調べていると言ってもその全てを調べ上げたというわけではない。無闇に壁や物に触らないのは勿論、勝手に先へ進んだり一人離れたところへ行くのも禁止だ」
その言葉に全員が肯定の意を示したのを確認すると九岳は洞穴へ歩みを進める。
「それでは皆ついて来るといい」
洞穴は暗く事前に配られた魔力灯がその内壁を照らしている。大人が屈まずに通れる程度の広さで壁はしっかりと固めてあるのが見える。
「この洞穴は以前からあったんですか?」
瑞葉の声が壁に反響しこだまする。九岳は歩みを緩めることなく質問に答える。
「良い質問だ。この洞穴自体は何年か前に自警団に発見されている。当時はもっと小さな穴で獣の巣ではないかと思われていたな。しかし周辺の監視からこの辺りに獣が棲みついている様子は無くしばらく放置されていた。半年ほど前に我々が自警団の日誌からこの場所についての情報を得て調査に入ったのだ。その際にこの穴は広げられ壁も固めてある」
「壁を固めるのってどうやるんだ? シャベルで叩くとか?」
「流石にそのような方法ではない。壁を固めるには幾つか方法はある。トンネル工事では穴を掘ると同時に木枠などで支え、その間に固い壁材で補強することが多いだろう。我々のように小規模な穴ならば魔法で固めることの方が多い」
「魔法で? そんなことが出来るのか?」
「私にはできない。しかしイザクラ考古学団の中にはそのような魔法を習得している者も多い。利便性を考えれば当然とも言える。それを抜きにしても志吹の宿にはそれが得意な者もいる。おそらく君たちも知っているし彼女は交友関係も広いから話をしたこともあるだろう」
「女性ですか? 誰だろう……」
「わかった! ミザロ姉だ!」
「ミザロか。彼女は時折探索の手伝いを頼むことはあるが違うな」
「ハクハクハクはわかるか?」
「ん、えあぅ……、あの、りゅ、竜神さん、とか……」
「その通りだ。彼女は地形を丸ごと変えてしまうような大規模な魔法が得意としている。このような穴であれば開けてそのまま周囲を固めるところまで一人で終わらせてしまう。手を貸してもらえる時には非常に助かるものだ」
そんな遺跡にまつわる四方山話をしながら洞穴を進むこと五分ほど、突然に開けた場所が現れる。そしてそこには建物が鎮座していた。
「これがこの場に埋まっていた遺跡だ」
それはそれなりに大きな建物で人が住むには少々広すぎるきらいがある。おそらく大勢が集まる集会所のような役割があったのだろう。長年土の中で埋まっていたにしては劣化も少なく、見る者が見れば建材が現代とは違う特殊なもので作られていたのだとわかることだろう。しかし一般人が見た際の感想は違う。
「都にあっても遺跡だなんて思わないかも」
サキサキサが何気なく呟く。そしてこれこそが多くの者がこの建物に抱く感想だろう。九岳はサキサキサの言葉に頷き肯定する。
「良い着眼点だ。遺跡の中には現代と大きく変わらない建物も多い。逆説的に言えば過去の技術水準は現代と同等以上のものだったという証左でもある」
そこから九岳が建物の建材や建築様式について少し詳細な説明を始めたが、サキサキサは自分の何気ない呟きからここまで話が広がるとは思っておらず少し戸惑いを見せている。他の者もその辺りの説明を真面目に聞いているのは瑞葉とテレンスだけのようで他の者は聞いている風を装いながら遺跡の外観を眺めたりしていた。
九岳の話が一通り終わり、ようやく建物内部へと向かう。正面の入り口はあまり見ない材質であるが普通の扉で、ともすればここが遺跡であるということを忘れかねない。そしてその扉を開くと。
「……なんか普通ね」
サキサキサが見えた景色に思わずそう言った。それからはっ、として様に表情を変え。
「あ、いや、私には当然すごい遺跡だってわかるけどね」
と、続ける。入った先は正面に広い空間、そして左右に廊下が続いている。廊下には幾つかの扉があってその先は当然何かしらの部屋になっているのだろう。総じて、普通だ。
「そう無理に取り繕うような言葉を言わずともいい。調査の結果をはっきりと言ってしまえばこの施設は特別な機能を持っていたとは考えられていない。おそらく人々が交流する施設だ。宿か、集会所か、役所か、それらのような役割を持っていたと考えられている」
九岳のその言葉にサキサキサは額を掻いた。そんな彼女を余所に他の皆はとりあえずといった体で周辺の観察に勤しんでいる。しかしながら九岳の言葉通り大したものは見つからないだろう。埃っぽさが少し気になるだろうが、それも九岳に言わせれば大したことは無い。
「この廊下は我々が初めに調査に入った時、今よりもずっと埃が積もっていた。それが最も大きな違いだろう。他の差と言えば壺や植木鉢らしきものがあったぐらいだ」
九岳が懐から写真を取り出す。あまり鮮明とは言い難いがそこには彼らが調査に訪れた時の様子が写っている。
「イザクラ考古学団には写真機まであるのか」
しかし写真に写ったものよりも写真そのものへの驚きの方が強かったようで、テレンスが思わず声を上げた。
「写真ってそんな珍しいのか? 新聞にも時々載ってるだろ」
「あれは高いぞ、エアコンよりは少しましってぐらいだ。やはり有名なチームだけあって持ってる設備も違うな」
「写真に関しては必要に駆られて、という方が正しいだろう。発見当時の遺跡の状態を確認できる資料になるからな。調査の際にどうしても物を回収しそれなりの設備がある所へ持って行きたいが、発見当時の状態から考えられることも多い。例えば当時の生活習慣や、その水準などを推定する助けになる」
「なるほど。そう言われて見れば確かに使わない理由がないぐらいに便利だ」
おじさんが納得したところで改めて写真を見るが、九岳の言葉通りでおそらく観葉植物でも植えていたのであろう植木鉢や単に飾りとして置かれていたと思われる壺などが棚の上に置いてある。
「こんなところだと調べてもあんまり意味無さそうだな」
ロロがそう言ったが、それに対して九岳は少し考える素振りを見せる。それはつまりロロの言葉は肯定できないということだろう。
「こういうところもしっかり調べないとダメなのか?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。事実として我々の調査ではこの廊下で何ら特別な発見はできなかった。しかし廊下での調査自体が無駄であったとは言えない。……少し奥へ行こう」
九岳が右手の廊下へ歩みを進め、他の者もその後に続く。三つ目の扉の前で立ち止まりその横の壁を照らした。
「は……、い……、うしつ? 何ですかそれ」
そこにあったのは文字が書かれた一枚の板。それに書かれていた文字はかすれて読みづらくなっている。
「これはおそらくこの部屋の名称だ。ここに書かれていた言葉の目的で使用されていたのだろう」
「でも読めませんよ」
「その通りだ。このかすれた文字では完全な判別は難しい。次の場所へ行こう」
九岳は来た道を戻り、そのまま逆方向の廊下へ。その突き当りの部屋の前で立ち止まる。そして先ほどと同じように横の壁、そこにある板を照らした。
「今度のは読めるわ! 食糧庫ね!」
サキサキサの言葉通りそこには食糧庫とある。金属の扉の向こうでは多くの食料が貯蔵されていたのだろう。
「そうだ。ここは食糧庫。中にあった食料は既に廃棄した為残ってはいないが」
「でもさ、それがさっきの話と何か関係あるのか?」
「遺跡調査においては新しい区画へ入る時に最も注意が必要だ。今いる場所で言えば、廊下部分から別の部屋に入る際に当たる。この扉を開けてみてくれ」
「ん、ああ」
ロロが扉についた取っ手を持ち横に引く。
「うおっ!」
その直後、ロロが勢いよく取っ手から手を離す。まるで指先を切ったり熱いものに手を触れた時、思わず手を引いてしまうように。ロロは自身の手と先ほどまで握っていた取っ手を繰り返し見てぽかん、としていた。
「何かあったの?」
「いや、何か急に来てさ、痛いっていうかなんて言うか……」
ロロが自身の体験したそれを上手く言語化できないでいると九岳が答えを出す。
「今のは電流だ。微弱な雷があの取っ手を伝って君の手に流れたのだ」
「え、大丈夫なんですかそれ?」
「問題ない。少し痛みを感じる程度のものだ。扉を閉めてもう一度開ければ同じように電流が流れる」
九岳がそう言って扉を閉める。要するにやってみろということなのだろうが、痛いと聞いてやりたい者など普通はいない。しかしながらそこまでやってもらって何もしないというのも、そんな責任を感じるような者でなければ開けはしないだろう。
「……う、わぁ。……痛たっ」
瑞葉が電流の痛みを知ったところで元の話へ戻る。
「この電流が何の為に流されているのかは現状は想像でしかものを言えない。例えば幼い子供が食糧庫に勝手に入らないようにする為の仕掛けかもしれない。或いはこの電流に痛みを感じない者が食料の管理をすると決められていたのかもしれない。しかし調査を円滑に行う為にはこの扉を開けることは電流の危険を伴っているという事実こそが重要だ」
「確かに痛かったけどそこまで問題になるのか?」
「人間の手には少し痛いだけだが電流が一部の機器に流れると壊れる恐れがある。それに不要な痛みなどない方がいいだろう?」
その言葉には全員が頷く。だからこそ先ほど進んで扉を開けたがる者はいなかったのだから。
「さて、なぜ何もない廊下や入り口正面の空間を調査をする必要があるのかという話だ。この取っ手に流れていた電流に関してだが、実のところ入り口正面の広間に電流を切る仕掛けがあったのを我々は発見している」
「え、じゃあ俺はさっき電流を喰らう必要はなかったのか?」
「調査を怠らなければ」
九岳曰く、基本的に建物とは全体で一つの用を為すように作られている。故に何もない空間と思えてもそこを調べ上げることで建物の構造や使用目的などを推定することが出来る。壁の仕掛けを発見すればその仕掛けがどこに繋がっていて何を為そうとしているのかを調べることが出来る。
「我々は取っ手の電流を喰らうその前から、この扉を一定の部分まで開くと電流が流れる仕組みであるということを看破していた。このように可能な限り危険を避けて調査することが遺跡調査には重要である。……時には痛いなどでは済まないからな」
最後にそんな言葉で結んで九岳が食糧庫の中へ入って行った。
「最後のってどういう意味?」
瑞葉がそう尋ねるがロロとハクハクハクは首を傾げるだけだ。それを見てサキサキサがごほん、と咳払いをする。
「いい? 遺跡探索っていうのはとっても危険なの。何年も前に探索中に遺物が急に動いて何人も亡くなったって話もあるのよ」
遺跡で発見された遺物の中には危険な物も数多い。それらを不用意に触ることで何日も動けないような怪我を負ったり、或いは体の一部を失ったり、時に命を失うということは何度も起こっている。
「個人で遺跡に入ったりする人も多いらしいけどそういう人の中には帰ってこない人も多いんだって。まあ私ぐらいになるとそんなぐらいじゃ怖がったりしないけど」
そう言ってサキサキサが意気揚々と食糧庫へ、それに続いて他の面々も歩き出す。最後尾にいるロロと瑞葉は二人顔を見合わせる。
「サキ先輩はずっとあの調子で行くつもりなのか?」
「そうなんでしょうね。どうにかハクに良いところを見せれるようにしてあげたいけど……。あの感じに何か言うと白々しく感じるから難しいわ」
団体行動の中で二人で話している様子もないし、この遺跡探索体験会の中で二人の仲をを元のようにするのは難しいのかもしれない。ロロと瑞葉はそう思わずにはいられなかった。
食糧庫、調理室、人が集まって何かしていたのであろう幾つかの部屋を探索し一行は地下へ向かう。
「地下があったのか」
ロロがそう呟くのも無理はなく地下への階段はわざわざ扉の向こうに設けられていた。そこから下を覗くと狭く急な階段の向こうに暗く先の見通せない闇が広がっており、まるで人を飲み込みそうにさえ見える。
「何でこんなところに階段が?」
「それに関しては調査中だ。君たちも何か思うところがあれば遠慮なく言ってくれ」
九岳が先頭に立ち階段を降り始める。狭い場所故に一列になってロロ、瑞葉、ハクハクハクと続き。
ビイイイィ。
ハクハクハクが扉を潜ったと同時に警報のような音が鳴り響く。それは建物のいたる所で鳴っている。
「全員廊下へ!」
九岳の鋭い声が響いた。その言葉に最も早く動いたのはカクラギだ。彼は即座に盾を構えると廊下の安全を確認、何があっても動ける体勢を整える。その次はロロとテレンスだ。ロロは踵を返すと戸惑っている瑞葉を抱えて廊下へ出る。テレンスもハクハクハクの手を引いて廊下へ引っ張り出すとそのまま周囲を警戒していた。
階段に一人残った九岳が内から扉を閉める。直後。
ガンッ、ガッ、ガンッ。
三度、何かが激しくぶつかる音がした。しばし警報音だけが廊下に反響し続ける。多くの視線が扉に向けられる中、ゆっくりとそれが開く。
「廊下では何も起こらなかったようだな」
九岳はそう言いながら出て来ると全員の安否を確認する。
「こちらは問題ありません。音は継続して鳴っているようですがそれ以上のことは何も」
カクラギが相変わらず周囲を警戒しながら答える。九岳は少し考えるような素振りを見せ、今度はハクハクハクの方をじっと見た。
「……ん、え? あ、あの」
ハクハクハクは自分が何かしてしまったのだろうかと怯えるが、九岳はすぐに視線を扉へと移す。
「……さて、今のは先ほど説明したことの第二弾だな。新しい区画へ入る時に注意が必要という話だ。先の食糧庫の一件で皆は油断してはいなかったか? しかし遺跡においてそのような油断は禁物だ。見たまえ」
九岳が扉を開けるとその内側には矢が突き刺さっている。
「先ほど君たちが廊下を出た後にこの矢が階段の下から飛んできたのだ。もしも先へ進んでいれば避けることもできずに体を貫かれていたことだろう」
その場にいた全員が呆然と扉に刺さった矢を見つめる。九岳が矢を引き抜くとそこにはしっかりと矢じりが付いており先の電流と異なり明らかな殺意を持った仕掛けだとわかる。
「下にその矢を放つ仕掛けがしてあったということですか?」
「地下は有事の際に人々が避難する為に作られたと考えられている。故に外からの侵入者が来るとあのように矢が放たれる仕掛けが施してあるのだ」
「そうなんですか……」
瑞葉は何か誤魔化されているような気がしていた。食糧庫の電流は仮に触れたところで怪我をすることも無いだろう。実際に彼女自身が体感したことでそれをはっきりと理解している。しかし今の仕掛けは違う。中にいた者は当然、扉を貫いて後ろの人を怪我させる可能性もあったはずだ。その仕掛けをわざわざ残して注意喚起に使うだろうか。彼女の目からは九岳は安全にかなり気を遣っているように見え、それからすれば今の行動には違和感がどうしても付き纏う。
「一旦仕掛けを外しに行く、少しここで待っていてくれ」
「私も行きますよ」
九岳がその場を離れそれにカクラギが付いて行った。瑞葉はこの行動にも違和感を覚えた。仕掛けを外しに行くのはわかるがカクラギが付いていく必要はない。まるで引率側の二人で話したいことがあるかのようだ。
しかし彼女はそれらの疑問について口に出さないことを決めた。隠そうとしていることを暴くのは常に何かしらの危険が伴うということを理解していたかもしれない。
階段を下りた先には他よりも一層頑丈な扉があり、九岳が幾つかの鍵を使ってその扉を開く。その先は細い通路になっており、それを過ぎるとだだっ広い空間がある。中に入った者は皆、首を上下左右に動かしてその広さをただただ視認するだろう。
「上の建物より広くないですか?」
瑞葉のその言葉は、まさしくその通りである。上にある建物の敷地より倍はあろうかという広さで、これだけのものをよく作ったものだと感心する一方、なぜこんなにも広く作ったのかという疑問も湧き出る程だ。
「きっと秘密の特訓をしてたのよ。これだけ広かったら武器も魔法も好きなだけ特訓できるでしょ?」
「成程、確かにそのような考えもできるな」
サキサキサが冗談半分に言ったその言葉を九岳だけは真剣に受け止める。イザクラ考古学団ではこの場所を避難所的な位置付けとして考えているがそれにしてもこれだけの広さに作った理由はわかっていない。案外、訓練の為の施設であった可能性も存在しているのだ。
九岳が周囲を観察しながら考え込んでいるが、そうすると困るのは他の面々だ。彼の指示が無ければその場から動くこともできず、はっきり言えば手持無沙汰になってしまう。
「九岳さん、ここは好きに見てもいいのか?」
それで痺れを切らしたロロが皆を代表して尋ねる。九岳はその言葉にはっ、として少し反省しそれから周囲を再び一瞥してから口を開いた。
「向こうに戸が見えるだろう。あの先に行かなければ好きに見て触れて構わない。と言ってもここにはほとんど何も残っていないが」
「わかったぜ。よし、あっちの方見てみようぜ」
ロロが指差した先は何やら木箱や遠目ではよくわからない荷物が置かれている場所。一足先に駆け出したロロに続くように他の面々も歩き出す。
広い空間の端、乱雑に積まれた荷物はおそらくここで使う為にとりあえず置かれていたのだろう。収納用の部屋などは作られていないらしい。木箱の横にあった物は上から布を被せられておりぱっと見ではそれが何かはわからない。
「よっ」
そして何も憚ることなくロロは布をどける。そこに姿を現したのは一見すると長さの異なる棒の数々。錆び朽ち果てたそれらは一見しただけでは何かわからなかったが、ロロはすぐに気付いた。
「……これって武器か?」
長らく手入れなどされず見た目こそボロボロだがそれらは確かに武器だ。剣、槍、斧などが鉄製の四角い骨組みの中に乱雑に突っ込まれている。
「本当にサキ先輩の言う通り訓練場なのかもね」
後ろから追い付いて来た瑞葉が呟く。こんなものがあるのだから本当にここは武器術の特訓や稽古などに使われていたのだということを否定するのは難しい。
「だから言ったでしょ!」
サキサキサがすごいだろ、と言わんばかりに胸を張るとその姿をハクハクハクはうんうん、と頷いていた。
「じゃあ次はこの木箱開けてみようぜ」
ロロが幾つか積まれていた木箱を皆の前に下ろす。以前にイザクラ考古学団が調べたはずだが、それから幾らかの日が過ぎたそれは随分と埃っぽく、ロロが少々雑に下ろすものだから周囲に埃が舞ってしまう。
「ちょっと、もう少し丁寧に下ろしてよ」
「別にいいだろ?」
「埃がすごいんだってば!」
瑞葉が口元を押さえながら文句を言うとロロは口を尖らせて不満そうだったがそこからは丁寧に箱を下ろし出す。
「じゃ、開けるぜ」
自分が下ろしたから開けるのも当然自分だとばかりにロロが木箱の上蓋に手をかける。そして開かれたその中には。
「空っぽね」
「……薄々そんな気はしてたぜ」
箱を一度持った手前そのことを予想していたのだろう、ロロはやっぱりと言った体で肩をすくめる。
「空箱をあんなに置いてどうするんだろ」
瑞葉の視線は無数に積まれた木箱の方へ。
「教えてあげよう」
サキサキサが胸を叩いて前に出る。ロロと瑞葉はどこからその自信が湧いてくるのか不思議でならない。そんな風に思われているとは露知らず、彼女は木箱を一つ持ちあげて移動させる。
「この木箱はね、こうやって……」
木箱は立方体に近い形で、腰ほどの高さがある。それを幾つか並べて置いたかと思えば、次はその上にもう一つ重ねる。そうして作られたのは即席の壁だ。
「これを幾つも作ると見通しの悪い場所でどうするかって言う訓練ができるでしょ? これは箱じゃなくてそこそこ軽くて壊れにくい壁材なの!」
「……へえ。確かに結構、悪くないかも」
見通しの悪い場所で戦うことなど珍しくはない。その環境を幾らか再現しながら訓練するというのは非常に効果的な部分があるだろう。たとえ実戦で同じ動きができる場所がなくとも、そのような場所での心構えが身に付けばよい。そして元が箱である分必要なくなった時にどかすのも楽だ。
「サキ先輩って結構頭いいですね」
その言葉を聞いたサキサキサは結構って何、と思った。しかしそれに抗議することはない。なぜならば抗議するよりも先に別の声が届いたからだ。
「そうだよ、サキちゃん、と、とっても、頭、いいの」
とても小さな声だったがサキサキサはその言葉を聞き逃しなどしない。
「は、ハクちゃん……」
感激している様子のサキサキサは涙さえ流しかねない様子だ。
「……今みたいにハクハクハクが何か言いやすそうな感じにしたらいいってことか?」
「そう、かなあ。そもそもさ、私にはあの二人が何であんな風になってるのかわからないんだよね。普通に話をすればいいんじゃないの?」
「それはまあ、そうだよなあ……」
その後カクラギから自警団でも似たように移動させやすい物で壁や段差を作ることがあると聞き、益益サキサキサは調子に乗っていく。どうあれここが訓練所として開放されることがないことは確実で仮に彼女の予想が合っていたとしてもその役目を果たすことはもう無いのだろう。
大して物の無い殺風景な部屋を探索すること数分、丁度皆が飽き飽きしていたところで九岳がやってくる。
「そろそろ向こうへ行くとしよう」
どうやら彼の中で考えはまとまったのだろう。再び九岳引率の元、遺跡探索が再開される。
広い空間の奥、簡素な戸を開けるとその先はまた別世界のような空間が広がっている。壁、床、天井は陶器のような質感でできたタイルで固められ、中央には円筒状の柱に囲まれた機械が佇んでいる。
「この部屋は発見された時から調査の為に軽い掃除ぐらいはしてあるがそれ以外はその時のままだ。状態から見てここはあの機械を使用する為に作られた部屋であることは間違いないだろう」
中央の機械に近付くとその無機質さから巨大な金属に威圧されているかのような錯覚を覚えるだろう。見上げると上部から天井を通じて周囲の柱と繋がっているのが見える。柱に目を向けると入り口からは見えなかった裏側に開閉でできそうな部分が見えた。
「この柱と機械は遺物として登録されている。これらには密接な関係があると考えられており、おそらくはこの機械の動力部に当たるのがこの柱ではないかということだ」
九岳が柱の裏側の開閉部を開く。それはかなりの大きさで人一人が簡単に入れるだろう。
「ここに動力源を入れることであの機械を動かしていたのだろう。現状では何を動力としていたのかがわかっておらずあの機械を動かすことは成功していない」
「魔力で動かないのか?」
ロロの疑問は尤もで、遺物を元に作られた物の多くは魔力でもって動く。今彼らが手にしている魔力灯などはその代表だろう。しかし九岳たちがそれに気付いていないはずもない。
「……おそらく魔力が動力源なのは間違いない。壁などを覆うタイルがあるだろう。触れてみるといい」
不思議に思いながら皆が手近なそれを触れてみる。その時、勘の良い者や冒険者としての経験が豊富な者は違和感に気付く。
「結構固いな」
「ちょ、ちょっと、冷たい」
気付かなかった二人はのんきなものでそんなことを言っているが、気付いた者はタイルをじっと見つめて口の端を歪めていた。
「何だか、気持ち悪い感覚が……」
「魔力を使い過ぎた時みたいな気分がする」
瑞葉とサキサキサは感覚的な気持ち悪さを訴えている。
「そうだな」
そしてその言葉に頷きながら補足するようにカクラギと親切なおじさんが言葉を続ける。
「随分昔に魔力を吸収する鉱石ってのが発見されたんだが、それがこれに近い感覚だったな」
「ええ。おそらくそれで間違いありません。自警団でも稀に扱うことがありますが魔力を吸われるというのはやはり気分が悪い」
魔力は心臓近くにある魔臓によって作られる。魔臓を酷使することは一般に良いこととはされず、時に魔臓を痛め魔力が作れなくなることもあるほどだ。魔力を吸われる際、人は無意識に吸われた魔力を補充しようと魔臓が急激に活発に働く。その際に魔臓が危険を訴えるように防衛反応として気持ち悪い感覚を覚えるのではないかと言われている。
「彼らの言う通りだ。この壁を覆うタイルの素材には魔力を吸収する鉱石が使用されている。逆に言えば、そのような素材で壁を覆わなければこの機械を扱うには危険だということなのだろう」
「周囲に影響を及ぼすほどの魔力を動力とする、と?」
現在ショウリュウの都には魔力灯以外にも魔力を動力として動く機械が無数にある。しかしその中で最も魔力を必要とするものでさえ、魔法の訓練をしていない者でも動かせるようなものだ。この機械はそれらとは明らかに一線を画している。
「しかしこれが何の為に存在しているのかは未だ不明なのだ。この施設の様々な部分と繋がっているのは確かなのだがな」
「魔力が動力ならとりあえず試してみれば少しぐらい動くんじゃないのか? 俺のでよければ魔力を込めてみるけど」
「我々も流石にその程度のことは試している。私を含め四人分の魔力を込めてみたのだが何ら反応は無かった。どこかが壊れているのか、或いは魔力以外の何かが必要なのかはわからない」
「そうなのか……」
ロロが柱を見上げる。うずうず、と擬音が聞こえてきそうなほどじっと見つめている。
「……まあ、我々が既に試したことだ。君たちが試してみたいというなら許可しよう」
「やった!」
ロロは早速とばかりに柱に手をつくと、じっと瑞葉たちの方を見る。
「何?」
「早くしろよ。柱は四本もあるんだから俺だけじゃ足りないだろ」
どうやら勝手に他の面々もやると決めつけていたようだ。
「いや私はやるって言ってな」
「それもそうね!」
そしてその言葉に乗り気なのがサキサキサだ。
「イザクラ考古学団の人たちが私よりも知識も経験も豊富なのは認めるけど、私の方が魔力がすごいって教えてあげるわ! ハクちゃんもやりましょ!」
「え、あ、えと……」
「ハクハクハクも魔力すごいだろ。やろうぜ!」
二人から誘われたハクハクハクはそれでもまだ悩むようにしていたが、結局はサキサキサに引っ張られて柱に手をつく。瑞葉は三人がそうするのを見て渋々といった様子で残った一本の方へ歩いて行った。そして大きく溜息をつきながら手をつく。
「じゃあせーので行くぞ」
ロロの言葉に三人が頷く。彼らの様子を見守る大人たちも心なしか緊張した様子に見えた。
「せーの!」
四人が一斉に柱に魔力を通わせる。それぞれの魔力量の差から一本一本の柱を覆う魔力には大きな差があったが、確かに四本の柱を魔力が伝って行く。それは柱の上部から線を伝って中央の機械へと流れ込むだろう。
時間が過ぎて一分ほど経った。中央の機械には何らの反応もない。
「おっかしーな、何も起こらない。俺の魔力が届いてるはずなんだがなあ」
「どうだか」
実際はロロの魔力はほとんど機械に辿り着いていない。彼の魔力制御はまだまだ未熟で機械までの長旅を全うすることはほぼできなかったのだ。瑞葉はそれと対照的に彼女自身が持つ魔力の量こそ特別多くは無いがその類稀な魔力制御により込めた魔力の大部分を機械まで届かせている。
「私とハクちゃんの魔力は絶対行ってるはずなんだけどなあ」
サキサキサの言葉は正しい。彼女らは特別魔力制御が得意ではないが丙族特有の多大な魔力により押し流すかのように多量の魔力を機械まで届けている。
しかし機械には何らの反応も見られない。
このような時に自らの無能さを認めるのは難しい。何かしら非が別の所にあると考えたくなるものだろう。瑞葉はこの時に正にそういった気分で、関わった以上せめて失敗の原因を何か見つけたかった。それでじっと考えていると一つ、仮説が思い浮かんだ。
「そういえば柱のここを開けて動力を入れるって言ってませんでしたっけ?」
九岳がこの遺物について説明する際に後ろの開口部を開きそこに動力を入れるのだと確かに説明していた。
「これってもしかして柱に手をついても意味無いんじゃないですか? 後ろを開けてそこから魔力を込めないと駄目とか……」
その言葉を聞いて九岳はじっと瑞葉を見つめるとやがて拍手を鳴らす。
「そのように自ら違和感に気付く洞察力は遺跡探索において非常に大切なことだ。それに気付かなかった結果、大発見を見逃すこともある。私が調べた限りでは柱の内部から上部に続く管を通して魔力を送ることが出来るようになっている。つまり、柱の内部に入って魔力を放出する必要があるのだろう」
「えー、早く言ってくれよ」
思わずロロがそう文句を言ったのだが、九岳に悪びれる様子は無い。
「あくまでも遺跡探索の体験だからな。自ら何かをする必要もあるだろう。遺物について調べる際は自らの常識に縛られていてはいけないという教訓だ」
ちぇー、と不満を顕わにするロロ。彼はそういう教訓がどうだとかの説教くさい話は苦手なのだ。
「中に入ってもいいの?」
サキサキサが尋ねる。その質問に対して九岳は一瞬迷うように機械の方へ視線を動かした。しかしすぐにサキサキサの方へ向き直ると頷く。
「いいだろう。中に入ると上部に管の先端がある。そこから魔力を機械へ流せるはずだ。しかし一度に大量に流すのではなく少しずつ流すように」
「やった! じゃあ早速」
サキサキサが柱の開口部を開き中を見る。そこは然程広い空間ではないが大人が一人で入るには十分だろう。上に魔力を通す管の先端がある以外には変わったところは無く、少なくとも自らそこへ入りたがる場所ではない。
「みんなも早く!」
しかし彼女は早く機械が動くかどうか試したいようで他の者を急かしながら中へと入った。それに続き他の三人が全員入ったのをサキサキサが確認すると、今度は彼女が音頭を取る。
「じゃあ行くよ。せーの!」
部屋中に響き渡る彼女の声を合図として四人が同時に管の先端から魔力を中央の機械へ向けて送り出す。当然ではあるが、イザクラ考古学団はこれと同じ行為を既に試している。九岳を含めた優秀な団員が四人で同時に魔力を機械に流した。その結果は既に説明があったが、僅かばかりの反応さえなかったのだ。
誰かの魔力が機械に届く。九岳は魔力をその目で見ることが出来る為、それを視認していた。彼は機械が動くはずは無いと思っている、そう思っているに違いないとここにいる誰もが思っていたはずだ。それ故に外にいるカクラギとテレンスが中央の機械に注目する中、九岳が緊張するように拳を強く握り締めていたのを誰も知らない。
ギ、ギギ、ギギギギ。
長年動かされていなかった機械が動き出し金属が軋むように鳴く音。彼らの魔力が届くと同時に機械の下部を覆う歯車状の部分が回ろうとしている。イザクラ考古学団という遺跡や遺物の専門家がいくら試しても動かなかった機械が、今、動き始めたのだ。
「九岳さん?」
カクラギが動き出したそれを見て指示を仰ぐように九岳の方を見る。しかし肝心の九岳は遺物の動きを食い入るように見つめるばかりで動こうとしない。
「と、止めた方がいいのか?」
突然動き出した機械に不安なのはカクラギだけではない。その隣にいるテレンスも動揺を顕わにしながら九岳に問う。しかしその九岳が何か言うより早く周囲の変化が始まっていく。
「壁が……」
機械の歯車の動きに合わせるように壁が動き出す。その先には広い空間があり、中にある何かが見えようとしている。その時、九岳がようやく声を上げた。
「四人を引き摺り出せ!」
カクラギとテレンスがすぐさま手近な柱から中にいる者を引っ張り出そうとする。普通ならばその程度のことはほんの数秒で終わると思われた、しかしそうはならない。
「な、壁?」
柱の開口部は開いていた。しかしその穴を覆うように半透明の壁が出来ている。テレンスが軽く殴ってみたがそれは固く並大抵の攻撃では壊せないようだ。九岳は自らそれを見ると、即座に判断を下す。
「カクラギ、壊せ!」
その声を聞きカクラギは自らの拳に魔力を込める。自警団の面々は身体強化、物体硬化の魔法を重点的に訓練している。彼らの身に付けている金属製の籠手を合わせればその拳の威力は凄まじい。
バリィィン。
半透明の壁が派手な音と共に破壊される。そしてそれは地面に落ちる前に空中に溶けるようにして消えて行った。
「魔力の壁だ! 再生する前に引っ張り出せ!」
九岳が声を上げたがそれを聞くより早くカクラギは中にいたサキサキサの腕を掴みそのまま自らの身体ごと後ろに跳んで引っ張り出した。直後、半透明の壁が再び生成される。しかし先ほどよりも心なしか厚みがないように見えた。
「今ので壁も脆くなったはずだ!」
そう言いながら九岳が壁を壊す音が響く。テレンスもそれに続き派手な音を鳴らした。それから十秒も経たぬ内に柱の中にいた四人は外に連れ出され、動力を失った機械は動きを止めていた。部屋の中に静寂がこだまする。
一行は一旦部屋から出て広い地下空間の端で身を休めることにした。柱の中にいたハクハクハクとサキサキサの消耗は激しく歩くのも覚束ない様子で、それぞれカクラギと九岳に背負われて移動している。二人を壁に寄りかからせると九岳は自らの荷物から飲み物を二人に手渡した。
「魔力を相当吸われたようだ。これは多少の薬効がある飲み物だ、少しは楽になるだろう」
二人はぐったりとして身じろぎ一つせず相当辛いのが傍から見ていてもわかるだろう。肩で息をしながら差し出された飲み物を少しずつ飲んでいく。
「吐き気やめまいなど体に異常は無いか?」
「私は、大丈夫です」
サキサキサはそう言ったがその言葉には多少の強がりも含まれているように思われた。ハクハクハクは喋るのも辛いようでじっと黙り込んでいる。
「しばらくここで休むとしよう。今日はそのまま帰るのが良いだろうな」
その言葉を聞いてサキサキサが軽く身を起こす。
「だ、大丈夫だって、ば……」
自らのせいで遺跡探索が終わりになってしまう、というのが気になるのだろう。まだ動けるというのを必死に伝えようとしているのだ。
「たとえ君たちが普段通りに動けるようになったとしても今日はここまでだ。その決定を変えるつもりはない」
対する九岳は頑なでおそらく何を言ってもその考えを変えるつもりは無いだろう。それは彼なりの最低限の責任感故だ。そして帰るべきだと考えているのは彼一人ではない。
「サキ先輩、今日は帰ろうぜ。ここで無茶するのは良くないぞ」
「ロロにしては良いこと言うわね。私も九岳さんの言う通りだと思う。また体調を万全にしてから来た方が遺跡探索も捗ると思うし。……九岳さん、また私たち、ここに来れますか?」
瑞葉の考えを九岳は理解していたが、しかし彼は考古学者として言葉を紡がねばならない。
「……我々としてはここで早急に調べたいことがある。イザクラ考古学団は近いうちにここを調べ尽くすだろう。その間は部外者は立ち入ることはできない。その調査が終わった後であれば君たちを招待することもできるだろうな」
「あー……、その調査への同行は難しいですよね」
「申し訳ないがそうなる。今回のような遺跡探索の体験会とは違うということだ。君たちは五等星の冒険者で、未知の遺跡探索に同行させるにははっきり言って心許無い」
現実を突き付けるような言葉だ。サキサキサは己の無力さに思わず唇を噛んだ。彼女の横で相槌も打てず俯いているハクハクハクもその内心は穏やかでない。瑞葉もどうにか慰めようとしたつもりが返って来た棘のある言葉に思わず襟元を摘む。
「じゃあさ」
少し暗い空気を吹き飛ばすような声が発せられる。その声の主に周囲の視線が集まる。
「九岳さんが頼み込んでくるぐらいすごい冒険者にならないとな」
誰もが呆気に取られていた。しかしその言葉は、その想いは、その願いは、どうしてだか頼もしくて勇気をくれる。
「くふっ」
ハクハクハクが思わず笑みを零す。彼女はロロと初めて出会った時のことを思い出していた。一人で思い悩みどうすることもできず、じっとうずくまっていた自分を彼が引っ張って行った時のことを。ハクハクハクの笑みを見た瑞葉が大きく息を吐く。馬鹿みたい、なんて言ってやろうかと思っていたのに結局は自嘲するように首元を掻いただけだ。
「……そうだね。頑張ろうか」
サキサキサは呆れたようにそう言った。とんでもない後輩が現れたのかもしれないな、なんて思いながら。
それからハクハクハクとサキサキサが動けるようになるまでしばしの休憩を取ることになった。その間に九岳がロロと瑞葉を呼んで話を聞く。
「さっきの柱の中で何があったか聞きたい」
それは考古学者として当然調べる必要があることだろう。ロロと瑞葉も実際に自分たちが体験したそれを思い返し話し出す。
「何があったって言われてもなあ。俺はとりあえず上にあった穴の所に手を突っ込んで魔力をばーっ、ってやったんだよ。それで気付いたら壁みたいなのができてて、これ動いてるんだと思ってそのまま魔力を出してたな」
「私も大体同じです。まあ途中でちょっと怖くなって魔力を出すのは止めましたけど」
「二人は体調に問題は無いようだな」
「そうですね」
「少し疲れたけどここを一周しろって言われたら走って行けるぐらいに元気だぜ」
そう、二人は元気だ。魔力を少し消耗してはいるがそれ以外には何もない。ハクハクハクとサキサキサは歩くのも困難だというのに。瑞葉は聞いても良いのかわからず黙っていたが、ここに来て我慢の限界を迎える。
「……あの、ハクとサキ先輩はどうしてあんなに?」
「それはこれからの調査で明らかにしていくつもりだ」
彼女の質問に対し九岳はそんな風に言葉を濁すだけだった。わからないから答えないのか、或いは推測はできているが確定的ではないから言わないだけか、それとも。どんな思いがあるにせよ瑞葉はこのことについて答えが得られないことだけははっきりと理解できていた。
九岳は他にも幾つか二人に質問をする。二人はその全てに対し真摯に答えたが、そこから九岳がどのような知見を得たかについて話されることはなかった。
更に五分ほどの時間が過ぎる。ロロが壁を眺めて待つのにも飽きた頃、サキサキサがようやく動けるようになったようで壁に手をつきながらも立ち上がる。
「ふぅ。私はもう大丈夫かな」
壁から手を離そうとしないのは完全には体力が戻っていない証拠だろう。九岳はそんな彼女の下へ行き一旦座らせると幾つか質問を始める。声を潜めておりロロや瑞葉のいる場所からは聞こえなかったが似た話なのは想像がついていた。その話が終わる頃にはハクハクハクも動けるようになっている。ようやく地上へ戻る時が来たようだ。
「あー! その前に私さっきの部屋もう一回見たい!」
叫んだのはサキサキサだ。さっきの部屋とは当然遺物の機械がある部屋のことだ。そして彼女はその部屋に何やら変化があったらしいことは漏れ聞こえて来る話で理解している。しかし出て来る時にそんなものを見る余裕などなくどのような変化があったのかはわからない。せめて一目見ておきたいというのは人情だろう。九岳はそんな彼女の言葉に少しばかり頭を悩ませている風に見えた。
「……安全を第一に考えれば君たちをあの部屋にもう一度連れて行くのは避けたいものだが。しかし君たちのおかげでこの発見があったのも事実だ。一度私が内部を見て来よう。それで私から見て問題が無ければ見学を許可しよう」
「んー、ん。まあしょうがないか。わかりました」
「ならば少し行って来る」
九岳が一人で遺物のある部屋へ向かう。残された者はそれぞれ何があったのかを好きに話し始める。
「カクラギさんは何があったか見たのか?」
「壁が開いて行くのは見たけどね。その後は君たちを連れ出すのに集中していたからあまり見ていないんだ。テレンスさんはどうですか?」
「いや、俺もあまり見ていなかったな。ただ壁の向こうには何かあったのは間違いない。遠くてよく見えなかったが」
「隠し部屋の中にあるのはやっぱりお宝じゃないのか?」
「物語じゃ定番だけどあんな面倒な隠し方する?」
「私は秘密兵器だと思うわ! 危機的な状況を一発でひっくり返すすごい兵器があるのよ」
「魔力で動く遺物はたくさんあるからね。それはあるかもしれない。志吹の宿だと天柳騎のディオンさんが持っている機械馬なんかがそれにあたるかな」
「そういやディオンさんそんなの持ってたな」
「どんなのなの?」
「獅子馬みたいだけどちょっと細身でさ、ディオンさんが乗るとすごく速く走ってくんだぜ」
「機械馬は遺跡で発見された時に冒険者に贈呈されることもよくあるんだ。ほとんどが構造が一緒で新しく見つかってもそれ自体の研究は必要ないらしい。数もそれなりに発見されてるから昔は工場で大量に造られていたんじゃないかなんて話もあるな」
「そこら中をあれが走り回ってたのか?」
「そんな可能性もあるってことだ」
遺物の話が盛り上がる中、奥の部屋の扉が開く。姿を見せた九岳は手招きをして皆を呼んだ。
「どうやら大丈夫らしい。行こうか」
カクラギの声に皆が立ち上がって歩き出す。そして九岳を先頭に改めて遺物の部屋へと入って行った。
「おぉー。本当に壁が開いてる!」
サキサキサが実際に動いている壁を見て思わず声を上げる。部屋の壁が動くなど自分の目で見てみなければ中々信じられないものだ。
「奥にあるのは何だ?」
壁の向こう側は明かりも無く距離がある為にどうなっているのかよく見えない。今いる場所から魔力灯で照らしてもぼんやりとした影が映るだけだ。
「君たちには幸運なことに壁の向こうに行かなければ問題は無さそうだ。近付くとしよう。私より前には出ないように」
皆が一斉に歩き出し壁の方へ。近付いてみて初めて分かったのは、奥の部屋が想像よりも広いこと、そして中にある物は一つでなく部屋を埋め尽くすように無数に存在しているということだ。そして壁際まで来ると九岳がそれ以上進むのを手で制止する。
「これ以上先へは決して入るな。何が起こっても責任は取れん」
今日の中でもかなり強い語気でそれを聞いた者は思わず生唾を飲む。九岳が部屋の奥を魔力灯で照らす。そして中にある物の影が浮かび上がっていく。
「これは……」
「すっご……」
偶然にも、先ほどの話の中に正解があった。そこにあったのは機械馬だ。浮かび上がる無数の首は強烈な存在感を放ち見る者に恐れを感じさせるほどだ。所狭しと並べられたその数は百を超え、ともすれば今にも動き出しそうな錯覚を与える。カクラギは背筋に冷や汗を感じ、瑞葉やハクハクハクは恐怖からか思わず後ずさりする。
「他二つの部屋も同様の様子だ。ここは機械馬の保管庫だったのかもしれん」
九岳は平坦な口調でそう述べる。恐怖に飲まれそうな者にとって冷静なままの彼の姿はある種の救いかもしれない。
「さて、帰るとしよう。今日はここまでだ」
この部屋の感想を述べる間もなく、この日の遺跡探索体験会は終了となった。
遺跡を出て帰り道。サキサキサとハクハクハクはまだ体力が戻り切っていないのだろう、途中他の者におぶられたりしながら砦へ向かう。
「私は全然へっちゃらだよ!」
サキサキサはそんなことを言って自らの足で歩き出すが普段ならば気にも留めぬような段差に躓いて転びかけたりするなどまだまだ本調子には程遠い。
「済まなかったな。私が軽率だった」
九岳は何度かそのように謝ったが、そう謝られるとサキサキサは眉間にしわを寄せて困ったように視線を逸らす。
「え、いや。私は別にへっちゃらだって。それに私が……」
遺物を動かせるか試そうと最初に言い出したのはロロだ。しかしサキサキサはその提案に乗って皆を煽ったのが自分であることを覚えている。そしてそのことに少し罪悪感を抱いているようだ。時折ハクハクハクの方を見て申し訳なさそうにしているのはその現れだろう。それでも謝れないのは彼女の性格を考えれば余計に気を遣わせてしまうのが目に見えているからだ。ロロと瑞葉は二人の微妙な距離感を見て、今日の目的を思い出していた。
瑞葉がサキサキサの下へ小走りで近付く。
「な、何? だから私平気だってば」
「そういう話じゃなくて」
瑞葉はハクハクハクがカクラギにおぶられて後ろの方にいるのを再確認すると小声で話し出す。
「ほら、仲を取り持って欲しいって言われたけど大したことできなかったから。せめて助言ぐらいはしておこうかなって」
「助言?」
それから少しの間、瑞葉は黙りこくっていた。どんなことを言うべきかはわかっていたがどんな言葉で伝えるのがいいか少し考えていたのだ。サキサキサがこちらの言葉にどのぐらい素直に従ってくれるかわからないのだ。そうして悩んでいると後ろからロロがやってきて一言で言い切った。
「話し合わないと何もわかんないぜ」
「んうっ……、うん」
サキサキサはその言葉に痛いところを突かれたかのように呻く。瑞葉がサキサキサの反発を招かないような上手い言葉を考えていたのにそれを無視するように単刀直入な言葉だ。諦めて彼女もその言葉に続く。
「まあ、ロロの言う通りだよ。どんなことがあったのかとかさ、元々どんな関係があったのかとか私たちは知らないし、どんな風になりたいのかもよくわからないんだけど。放置しておいて関係が良くなることなんてさ……」
瑞葉は自らの両親のことを一瞬思い浮かべたがすぐにそれを振り払う。
「……それで何かが良くなることなんてないよ」
或いはこれは自分自身に言うべきだったかもしれないと瑞葉は一人思う。サキサキサはそのことに気付かず、ただ二人の言葉を噛み締める様にしながらゆっくりと歩いている。そうして十数歩も歩いてからようやく二人の方に向き直った。
「そうだよね。二人の言う通りだったかも。直接話もせずいい格好しようだなんて逃げてるだけだったよね」
二人は内心、そうだそうだ、と大合唱をしている。変なことをせず最初から直接話をしていればすぐに仲の良い二人に戻れていただろうと。サキサキサはそんな二人にこう言った。
「私、ハクちゃんと話してみるよ。……明日、とか、明後日とか。……来週ぐらいでもいいかな」
その言葉に二人がこの日一番の溜息をつく。
カクラギに背負われているハクハクハクはロロと瑞葉そしてサキサキサのことを見ていた。仲良さげに話をしている三人の姿を見て微笑みを浮かべる。
「サキちゃん、もう二人と仲良くなってる。すごいなあ」
思わずそんな呟きが漏れる。彼女にとってサキサキサとは引っ込み思案な自身を引っ張って行ってくれた恩人だ。学校生活もサキサキサがいたから楽しく過ごせたのだと今でも感謝している。そんな彼女がロロと瑞葉と仲良くしているのはとても喜ばしいことだ。
「……仲、いいなあ」
喜ばしいことのはずなのだが。彼女は自身の中に何かもやもやした感情があるのに気付いていた。それは彼女が初めて抱いた感情でどう形容すればいいのかはわからない。ただ三人が仲良くしている姿を見ていると少しだけ、ほんの少しだけ邪魔をしたくなるような気がする。
「……ん」
もちろん、ハクハクハクにそんなことをするつもりは無い。彼女はそんな悪意を持った行動をしたくはないし、そんな風に横やりを入れるような度胸もない。せめて何を話しているのかだけでも聞いてみたいのだが、残念ながら彼女の耳は人並みにしか聞こえないのだ。
「む、うぅ」
彼女は自分でもどうしたいのかわからずただ吐息と共に声が漏れ出る。しばらく考えて考えて、考えて……。とりあえず話に入りたいと思った。
「わ、私、自分で、あ、歩きます」
「え? あー、まあ大丈夫か。無理はしないで、歩くのが辛かったらまた背負って行くから」
カクラギがそっと彼女を背中から下ろす。地面に立ったハクハクハクはそれまでの疲れも忘れたかのような勢いで前に歩き出し、三人の下へ向かう。真っ先にそのことに気付いたのはロロだ。
「あ、もう大丈夫なのか?」
その声に瑞葉とサキサキサも振り返る。瑞葉は一歩下がってハクハクハクの隣で心配そうに見つめる。
「無理しちゃだめだよ」
「だ、い、丈夫」
ピースサインを作ってハクハクハクが笑う。ただ彼女の笑みはいつもどこか自信無さげに見えるので周囲の心配を助長させるかもしれない。瑞葉などは今にも倒れたりしないだろうかという不安が表情にまで漏れ出ている。
ロロと瑞葉はハクハクハクに体調は大丈夫かなどと声をかけるのだが、一人彼女に何も言えないでいる者がいる。サキサキサだ。彼女はまだ心の準備が出来ていなかった。なにせ明日、明後日、来週とどんどん先延ばしにしようとしていたのだ、急に来られてそんなものが出来ているわけがない。しかし何も声をかけずにいては状況が何も変わらないことを彼女も理解している。
サキサキサは横目でハクハクハクの表情を見た。今、どんな気持ちでいるのだろうかと、その心情をどうにか計り知ることはできないだろうか。と。そうすればどんな風に声をかけたらいいかわからないだろうか、と。
ハクハクハクは瑞葉やロロに声をかけられる傍ら、ほとんど無意識的にその視線をサキサキサに向けた。
そして偶然だろう、二人の視線がぶつかる。
ハクハクハクは瞬間的に顔全体を横に向けてサキサキサを視界から消した。目が合ったのが恥ずかしかったのもあったが、それ以外にも理由があったようだ。ただしその理由については本人も未だわかっていない。
ただ彼女はなぜそんな風にしたのかわからなかったとして、相手がどんな理由でそうしたと受け取るかは相手の感性次第になるだろう。
「え、あ……」
そして今回、サキサキサはその行動を自分と目を合わせるのも嫌だと思っている、そう解釈した。偶然にも目が合えば凄い勢いで別方向を向いてしまう程に嫌われたのだと。故に、彼女にはもはや一刻の猶予もない。心の準備がどうだとか言っている場合ではないのだ。
「は、ハクちゃん!」
呼びかけると同時にハクちゃんだなんて馴れ馴れしかったんじゃ、サキサキサは思わずそう後悔していた。しかし幸いにもハクハクハクは呼びかけに反応して振り向いた。
「えっと、ね」
ただ彼女はその先の言葉を何も用意していない。呼びかけたはいいが何を言えばいいのかわからず、気まずい沈黙が漂う。ハクハクハクは首を傾げるだけだったが、横の二人は余計な気まずさを感じてしまう。
「す、すごいでしょ! 私!」
「ん?」
「え?」
次に首を傾げる羽目になったのはロロと瑞葉だ。今、そんな話をする時か? そんな疑問が二人の脳内に過る。しかしもう止めれない、もう止まらない。
「ほら、遺跡でさぁ、新しい発見が出来たでしょ? あれも私がみんなを誘ったおかげっていうか、絶対にあそこには何かあると思ってたんだよねぇ。そもそもイザクラの人たちでも動かせなかった遺物を簡単に動かせちゃうのが私の実力ってことかな。もちろんみんなやハクちゃんの力があってって言うのもあるんだけどね」
早口でまくし立てるサキサキサ。瑞葉は思わずロロに耳打ちする。
「まだ凄い所見せるのって諦めてなかったの?」
ロロは苦笑いで答える。しかし二人の反応はサキサキサにとってどうでもいい。なぜならばこの言葉はただ一人、ハクハクハクにこそ向けられているのだから。そしてその彼女は、サキサキサにより洪水のような言葉を聞き終えると少しだけ内容を咀嚼するように考える。それから微笑みを浮かべて口を開いた。
「さ、サキちゃんは凄いよ」
サキサキサはまだまだ自分の罪悪感を誤魔化すように口を動かし続けるつもりだったのだが、ハクハクハクの言葉にそれを止める。そして昔のことを思い出す。学校に通っている頃、放課後に冒険者になる為と走って体力を付けたりしていたのを見たハクハクハクが同じような表情で微笑んでいたことを。
「……あ」
彼女はハクハクハクは辛いことから立ち直れるほど昔より強くなったのだと思っていた。そしてそれは過去の彼女とはもはや別人のようになったからなのだと信じていた。だから自分もすごくなったのだと訴えて横に並ぶことが出来るのだと言いたかった。そうすれば元のように友達としていられるのだからと。しかし、ようやく彼女はそれが間違いだったと気付いたのだ。強くなったのは事実かもしれない、でもそれでハクハクハクの全てが変わるわけではないのだと。
そしてそれに気付いたことでサキサキサの中の何かが決壊する。
「あ、は、ハクちゃん。……ハクちゃぁん」
サキサキサの瞳から涙が溢れる。そしてそれに気付いたハクハクハクが狼狽えるよりも早く、サキサキサがハクハクハクに押し倒さんばかりの勢いで抱き着いた。
「ご、ごめん、ごめんねえぇえぇえええ。わ、私のせいであ、危ない目にぃいい。そ、それにハクちゃんが辛い時にも力になれなくってえぇええ! わ、わたしぃいい!」
突然、感極まって大声を上げて泣き喚くサキサキサに周囲はぎょっ、とするが誰も彼女が泣くのを止めはしなかった。押し倒されたハクハクハクは涙を流すサキサキサの背にそっと手を回す。
「あ、あのね。私は、その気にしてないよ。その、遺跡で危ない目に遭うのは、当たり前って、あの、言ってたし。さ、サキちゃんは、悪くないの」
「で、でも。私、私が……」
「サキちゃんと、その、一緒にこうやって、冒険者、できてね。……私、嬉しいよ」
「私がもっとハクちゃんの力になれてればぁ……。もっともっといっぱいできることあったのに」
「違うよ。わ、私がね……、私がみんなのこと避けてたの。だって、あ、合わす顔がなくて。みんなに、あ、あんなに期待して、期待、してもらったのに……、私、駄目な子で……」
気付けばハクハクハクの瞳からも涙が溢れようとしている。ここから先はもはや二人共言葉にならないような叫びを上げ続ける。お互いに何を言っているのかわかりもしないだろうに、それでもお互いに何かが通じ合っているかのように。
「……やっぱり、最初からああやって話すればよかったのにな」
ロロが少し離れたところから二人の様子を見守りながら呟く。瑞葉もそうね、と短く返した。
夏の虫が鳴く中、陽射しが大地を照らす。涙で濡れた地面が渇く頃にはきっと二人の間にあった溝も消えてなくなるのだろう。




