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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最強という称号は誰の物か?

作者: 初瀬川渚

 真っ暗な視界、機械的な音が聞こえてくる。それは私がオートマタとしてはじめて感じたもので、どこか不安を感じるものだった。

 しかし、意識はすぐに目覚めて目を開けると、私の周囲は様々な機械に囲まれていることが分かった。

 記憶と呼べるものは無いが、必要な情報だけが存在することを理解すると、これが初めての起動だということが分かった。


 私はすでに自分がオートマタ――機械であることを理解できていた。

 まだ自分が成すべきことが分かっておらず、自分自身の存在について少しの時間考えていた。

そんなことを考えているうちに、私の目の前に白衣を着た一人の人間がやってきた。その人間は私を見ると驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔になって話しかけてきた。

 彼女は私を製造した人間であり、私のオーナーであるらしかった。そして、名前はアリアというようだ。


 そして、私の名前はアーテイという名前だということも教えてくれた。

「私はどうして製造されたのか?」という疑問を彼女にぶつけると、私がなぜ製造されたのかアリアは説明してくれた。

 どうやら、アリアはオートマタによる闘技興行に参加するために私を開発したらしかった。

「闘技興行というのは?」

 と私は問う。

「簡単に言ってしまえば、オートマタ同士が戦うスポーツイベントかな。そして、その勝敗によって賞金が得られるんだよ」

「つまり、私はアリアさんのために戦えば良いのですね?」

「そういうことになるね。一応すでに君は戦闘を行えるように調整が終わっている状態だから、君が良ければ腕試しもできるけど……どうする?」

 ……急なことに少し戸惑う問いではあったが、私は今すぐににでも自分自身の性能を確認したいという気持ちもあり「戦ってみたいです」と答える。

 「いいね、その意気だよ。この時のために色々な武器やガジェットを用意しておいたんだ。好きなのを選んで良いよ。……とはいえ、たぶんアーテイには使いづらいものもあるだろうけれど」

 そう言いながら、彼女は私を武器庫へと案内してくれた。


 そこには確かに様々な武装が陳列されていた。

「すみません、数が多すぎるので少々お時間をいただけますか?」

「もちろん良いよ。自分が使ってみたいものを選んでみるのも良いよ」

「何かアドバイスなどはありませんか?」

「ふむ……。バトルフィールドは基本的に三次元的だということを考慮して、戦闘距離に偏りが出ないように武装は選ぶべきだね」

「なるほど、参考にしてみます」

 戦略的に考えてバランスの取れた武装を選ぶのが良いというのは分かったけれど……まずは、遠近武器を決めよう。

 遠距離は取り扱い安いハンドガンを……いえ、連射速度にやや難を感じるかもしれない。

 サブマシンガン系の方が……それとも、扱いが難しいですが高威力なランチャータイプも捨てがたい。

 ん? これは……。


 こうして私は一時間以上もの間、武装について悩んだものの満足の行く武装をすることができた。

「ふぅん、それがアーテイが選んだ武装なんだね」

 アリアは意味深な笑みを浮かべて、

「まあ、これが君が出した答えなら、それで試してみよう。あくまでも戦闘テストだからね。それじゃここから出て演習用のドームに向かおうか」

 そう言って、私はアリアの後ろをついて行く。

 少し歩いて建物から出ると『アリア研究所』という看板が見えた。どうやら、私がいた場所が看板の示す場所らしい。


 そして、彼女が目を向けた先のすぐ側に大きなドームが建っていた。彼女は何か言うでもなく、黙々とドームへと向かうと、なにやら証明書のようなものをドームの入り口に立っている人に見せると、すんなりと入れるようになった。

 私には彼女のオートマタだということが分かるように簡易に作られたであろう札を渡された。


「さて、今は他の人が演習をしているから少し待ちましょう。ついでに戦い方を見て学習するチャンスでもあるしね」

 アリアは適当な席に座ると、石作りの壁などで様々な段差で三次元的な要素を再現されたステージを眺める。

 私も同じようにステージに目をやると、どうやら二体のオートマタが戦い合っていた。

 一体のオートマタは高所を取り有利な戦いをしているように見えた。

 もう一体はステージの低所に位置取りをしており、上から狙い撃ちされないよう上手く遮蔽物を利用して動き回っている。

 私は彼らの動きを見ながら「緩慢な動きだ」と思った。オートマタは人間より優れた性能があるというのに、なぜ人間と同じような戦い方をしているのだろうか、と。




 ――まだ勝負がつかないのだろうか。痺れを切らした私は観客席からステージに走って乱入することにした。

「お前たち、何をもたもたしている! こんな戦いの何が面白い!」

 観客席側からアリアが何か叫んでいる声が聞こえるが、私はそれを無視して低所にいるオートマタへと右手に持っているハンドガンで攻撃をしながら、補助アームについている左のレーザーキャノンで高所に立っているオートマタへ攻撃を開始する。

「二人がかりでも良いかかって来なさい!」

 二人のオートマタはお互いに顔を少し見合わせると、すぐに私を共通の敵と認識して連携した攻撃をしかけてきた。


 高所を取っているオートマタはライフル系を持っているから遠距離攻撃に徹し、低所にいたオートマタは近中距離をカバーできるアサルトライフルで攻撃してくる。

 私は素早く遮蔽物に身を隠して、すぐさま段差を飛び上がりつつ高所に陣取っているオートマタへとレーザーキャノンを連続射撃モードへ切り替えて連射しながら強襲をしかけつつ、下から援護射撃をしてくるオートマタにはスモークグレネードを投げ込み視界を奪い対処する。


 高所のオートマタがライフルを構えて、私を狙撃しようとするが補助アームについている盾で弾丸を弾きつつ右手に持ったビームサーベルでライフルを一刀両断すると、驚いて尻もちをついたオートマタを右補助アームでつかんで高所から振り落とした。

 落下した衝撃で行動不能になったのを見届けると、次の標的をアサルトライフルを持っているオートマタに向ける。


 私は一気に飛び降りて、足と補助アームで身体を支えることで、落下衝撃を分散させる。

 彼女は銃を捨てて、小型の二振りのブレードを左右に持って私に飛びかかって来ていた。

 確かに落下した衝撃で硬直することを考えれば、悪くない判断だったかもしれない。しかし、私がそんなことも予測できないと侮られていると思うと、少し怒りを覚えた。

「そんな凡庸な戦い方で勝てると思っているの!?」

 私は瞬時に相手の間合いへと、あえて近づいてブレードを持った両手を掴み振れないように固定して、補助アームで何度も殴りつける。


「やめて!!」と叫びがドーム全体に広がった。

 どうやら、このオートマタのオーナーの声のようだった。

 すでに力なくうなだれて、両手に持っていたブレードは地面に落ちたオートマタの頭を掴んで「貴様がこのオートマタのオーナーか!? なぜオートマタとしての性能を最大限活かさせない! 人間と違う構造であることには意味がある! 人間にはできない過酷な場所での活動ができるように作られた高い耐久力と運動性能があるはずだろう!」

 そう観客席へ向けて私は叫んだ。が、

「アーテイ! 今すぐ戻ってこい! これは命令だ!」とアリアの声が耳に入った。

 ……アリアは私の製造者でありオーナーであるため、彼女の命令は絶対だ。仕方なしに掴んでいたオートマタをその場に下ろしてアリアのいる場所に向かった。


 ――その後、私はアリアにこっぴどく叱られて、私が戦った……いや、破壊したオートマタのオーナーにもアリアと一緒に謝罪しに行ったが、涙を浮かべながら「顔も見たくない」と言われた。

 反応は当然だろうが、そもそもオートマタの機能を最大限に活かせてないのはオーナーのせいだ。私がやらなくても、彼らがいつか同じようになっていたのは想像に難くない。


 そして、アリアに演習は中止だと言われて、アリアの研究所に戻っていた。

「まったく、なんてことしてくれたんだ!」

 アリアは未だに興奮している様子で、心拍の上昇が収まらないようだった。


「アリアさん、落ち着いてください。体に障りますよ」と言うが、

「これが落ち着いていられるか! お前のおかげで、なんと正式に大会出場の許可が降りたんだぞ!!」

 彼女は何か文字がびっしりと書かれた紙を、私に向けて言う。

 彼女はいったい何を言っているのだろうか。しかも、彼女は今は怒っているのではなく満面の笑みを浮かべている。


 ――興奮が少し落ち着いたアリアが私にも分かるように説明をしてくれた。

 本来はオートマタの闘技大会に出場するためには、実際に実力があることを示すためのテストを受けてはじめて、大会に出場する権利を与えられるのだそうだ。しかも、そのテストを受けるのにも、高額な料金が掛かるそうだ。


 しかし、たまたま大会の主催者が、あのドームでオートマタ同士の演習を見学していたそうで、私の戦い方に感銘を受けて特別にテストを合格したものとして、大会に出場する権利が得られたそうだ。

「全財産……いや、借金までして君を作り上げた甲斐があったよ!」

 アリアは私の肩を大げさに叩きながら、非常に喜んでいる様子であった。私はオーナーが喜んでくれている姿を見て誇らしい気持ちになった。それは、オーナーを持つオートマタならば全てそう思う気持ちであるからだ。


「ところで、アリアさん。借金というのは?」

「あ~お金を借りたってことだね」

 私の質問に彼女は少し目を泳がせながら答える。

「いえ、そうではなく、いくら借りているのですか?」

 苦笑いをしながら、彼女は「えっと、五千万クレジットかな」と目を反らして言う。

 大会の一試合のファイトマネーがおよそ三百万から五百万クレジット……十倍は稼がなければいけないということだ。

 私は少し疑問に思ったことがあった。


「アリアさん」

「な、なんだい? 借金はこれから――」

「いえ、そういう話ではなく」

「ん? じゃあ、なんだい?」

「お金儲けという面もあるでしょうけれど、アリアさんはなぜオートマタを自作しようと思ったのですか?」

 それを聞いてアリアはクスッと笑って「誰にも負けない最強のオートマタっていうのを作りたかったんだ。アーテイが今日言ってたように、オートマタにはオートマタの強みがある。なのに未だにそれを分かってないオーナーも多い。オートマタらしい戦いってのを世界に知らしめたいっていうのが、私の目的ってところかな。それに……」


 一度、アリアは言葉を切って言うかどうか迷っている様子を見せる。私は続きが気になり「それに?」と問う。

「……私自身が人ではない存在に憧れていたんだ。でも私はただの人間にすぎない。だけれど人間を越える存在を作ることはできると思った。だから私は君を作った」

「つまり、私自身がアリアさんの憧れであり夢ということですか?」

「そういうことだ」そう言って、彼女は少し唸って、「楽しみだ! アーテイが大会でどんな風に活躍するか考えただけでも自分のことのようにワクワクするよ」

 アリアが喜んでいるのを見ると、私もどこか嬉しいという気持ちを感じられたのだった――。




 ――あれから一年程の月日が経った。私が大会で常勝しチャンピオンになるとオートマタの戦闘スタイルが著しく向上した。もちろん、従来の人間らしい戦い方にこだわりを持つ者もいた。しかし、それでも確実に戦い方は進化していた。


 さらには、オートマタ同士の戦闘を興行にするというのは、世間的にあまり浸透していなかったことを後から知ったのだが、人間離れした迫力ある戦いに魅了され世間的に受け入れられるようになった。

 そして、チャンピオンとなった私に幾多ものオートマタが挑戦者として現れて消えていった。誰もが私に勝てないと怖気づいて、挑戦を避けるようになってしまった。


 絶対的な強者は孤独だという人たちもいたが、私の横には常にアリアがいた。

「ここまで強いと、なかなかチャレンジャーも見つからないねぇ」

 アリアはそう言いながら、一枚の資料を手に取った。

「お、珍しくチャレンジャーがいるみたいだよ。しかも、大会には何か特別な理由があっての飛び入りの参加者みたい。……命知らずなのかな? どうする? こんな相手でも戦う? 一応、挑戦を避ける権利もあるけど――」

「私はアリアさんに作られた最高の戦闘型オートマタとしての誇りがあります。誰が挑戦者でも受けて立ちますよ」

 私はアリアに胸を張って答える。

「そう言うと思った。じゃあ、興行の予定日も考えると、試合は一週間後だね」




 一週間が経ち、久しく現れた挑戦者に私は少しワクワクしていた。今の私は戦いに飢えていたからだ。相手が弱かろうと強かろうと、戦えれば良いと思っていた。

 ステージに入る前に、オートマタとオーナー同士が顔を合わせる時がある。

 衝撃的だった。彼女の隣には誰もいないのだ。つまりは、オーナー不在のオートマタということだ。

 まるで夏の爽やかさを感じさせる長い緑の髪を揺らし、それでいて、言いしれぬ不気味さを感じさせる赤い瞳が印象的だった。


 彼女は――今までのどんなオートマタとも違う。何か特別な存在なのではないかと感じた。

「いや、そんなことはないはず」

 私は頭を振って妙な考えを吹き飛ばした。

 アリアがそんな様子を見て、

「大丈夫?」と心配そうに聞いてくる。

「はい、大丈夫です。いつも通り万全です」

 アリアが私が初めて大会に出場する時のために特別に作ってくれたピンクと白を基調とし細部には金の装飾が施された衣装をギュッと握った。一度も汚されたことのない衣装が汚れるような……不安を感じながらステージへと向かった――。


 荒廃した街をイメージしたような立地のステージの中、彼女はまっすぐに私を見つめていた。何か……普通のオートマタとはやはり違う。瞳には何か強い意志を感じた。

 武装はマシンガンとソードオフ・ショットガン、腰についてるベルトからハンドガンとナイフが見て取れる。人間のような戦い方をするようなオートマタが私には勝てないということを知っていながら、あんな装備なのだろうか? どちらでも良い。戦ってみれば分かることだ。


 戦闘開始の合図と共に、私と対戦相手は共に走りながら拳銃で牽制し合って、すぐにビルの瓦礫へと隠れる。

 相手の動きを待っている程、私は我慢強くはない。一気に勝負を決めてしまおうと遮蔽物から身を乗り出した――その瞬間、顔面に強い衝撃を受けて思考が揺れる。

「アーテイさん、これは挨拶代わりの一発です。次は本気で行きますので」

 私はすぐに姿勢を直すと「……すまないが、資料を見ていないから、お前の名前が分からないんだけど、なんて名前だったかな?」

「リアン・グーリア」と名乗ったオートマタに私はビームサーベルで斬りかかったが、何か不自然に一瞬で距離を取られた。

「それじゃ、お互いに後悔のない戦いを」リアンは何か不敵な笑みを浮かべて、改めて瓦礫に身を隠した。


 いったいどういうことだ? テレポーテーション? しかし、そんな技術が開発されたというのは聞いたこともない。

 ……こんなのやろうと思えば、一瞬で私が負けてしまうのではないか? そう思うと急に敗北への恐怖を感じた。


 恐怖で少し動けなくなった私に「アーテイ! 頑張って!」という声援が聞こえてきた。そうだ。私にはアリア、それに観客たちがいる。

 あんな一人ぼっちのオートマタになんて負けるわけはないんだ!

 再び私は戦闘態勢を取って、最後にリアンを見た場所に向かって跳躍した。


 下を走っているリアンを目視すると、次は一撃で仕留めてやろうと補助アームに取り付けられているレーザーキャノンを打ち込んでやると、信じられない光景が目に入った。

 瓦礫同士が集まり、それがリアンを守る壁となり私の攻撃を阻んだ。

 まるで、魔法か何かを見せられているようだ。

 そして、跳躍して上から攻撃をした私が自然落下しているのを彼女は確認して、機関銃で狙い撃ってくる。


 これではただの的だ。私は補助アームで全面を覆うようにして補助アームに取り付けられているシールドで防御して着地するまで耐え忍ぶ。

 足が地面についた瞬間、走り出そうとした。その時には目の前に先程、リアンが作っていた瓦礫で作られた壁が眼前にあった。彼女は壁を私の方へと飛ばしていたのだ。


 とっさに防御姿勢に切り替えたが、あんなものが当たって吹き飛ばされたのだ。ひどい損傷を受けていた。「足が……」変に踏ん張った行動を取ってしまったのか、足がいうことを効かない。負ける時はこんなにもあっさり負けてしまうのか? 嫌だ……負けたくない。

「負けたくない!! 私は絶対に負けない!!」私は思い切り叫んだ。

 はじめてだ。こんなにも感情が激しく揺れるのは。自分でもおかしくなったんじゃないかと思うくらいに、感情と共に身体は熱くなっていた。


 足を損傷して立てるはずがない。それなのに、私は立ち上がっていた。

 何かが変だ。しかし、不思議と今まで感じたことのない力がみなぎってくる。

「――私は必ず勝つ。相手がどんなに強くてもぉ!」

 私は今までに無い程に軽快に動けた。それがどういう理由かは分からないが、これならリアンというオートマタにも勝てると思った。

 彼女を私は見つけると、レーザーキャノンを速射モードに切り替えて、兎に角距離を詰めることに専念した。


 彼女がどんな理屈で私から距離を取ろうとも、私は絶対に見失ったり離れたりなどしない。常に視界に相手を入れていれば――負けないはずだ!!

 彼女は攻撃を凌ぐために、遮蔽物に身を隠した。足が止まっているのか、それともテレポートをしてどこかに行ってしまうのか……それは分からないが、兎に角執拗に彼女を追い詰めるためには攻撃の手を緩めてはいけないと考えて、レーザーキャノンを高出力モードに切り替えると遮蔽物として使われている瓦礫ごと吹き飛ばしてしまおうと撃ち込むと、瓦礫の崩れる埃の中に影が見えた。

 すかさず、それを狙い撃った。


 その瞬間目の前に、リアンが現れた。リアンはソードオフ・ショットガンを私に向けて引き金を引いた。が、私は補助アームのシールドでとっさに防御したあと、すぐに彼女が持っているショットガンと機関銃を掴み取って地面に投げ捨て、補助アームで思い切り殴り破壊する。


「ふぅん、アーテイさんも『目覚めた』んですね」リアンはよく分からないことを言う。

「でも、あなたにはあなたを想ってくれる人間がいる。いいね」

 リアンはどこか嬉しそうでいて、だけれど悲しそうな表情を浮かべているが、私は彼女という存在が腹立たしかった。


「そうだ。私にはアリアさんがいる。私を作ってくれて、私を大切にしてくれている。私を想って作ってくれたこの衣装もはじめてお前のせいで汚れてしまったよ!」

 怒りにまかせてビームサーベルで彼女に私は斬りかかる。

 それを最小限の動きで彼女は避けてしまう。


「僕にはそういう風に想ってくれる人はいないから少し羨ましいな」

 その台詞を聞いた時、彼女が一人だったことを思い出す。オーナーのいないオートマタ。

 彼女はなんのためにどうして戦っているのだろうか。探しているのだろうか? 自分の存在理由を。


 ――だが、そんなことは私にとってどうでも良いことだ。私は私の存在理由が分かっている。勝利すること、負けないこと。それで喜んでくれる人たちがいる。

 だから、こんなやつに負けたりなんかしない!

 私は彼女に飛びかかり、胸元を掴むと補助アームで連撃を加える。

 彼女がどんなことをするか予測がつかない。だから、ここで仕留めてしまわなければならない!

 あと一発で仕留めきれると思った。その瞬間――試合終了の合図が流れた。


 私は振りかざした拳を既の所で止めて、掴んでいたリアンを離すとそのまま彼女は崩れ落ちた。

 私は勝ったのだ。あんなインチキな力を持ったオートマタに。

 私を勝者と称える観客たちの「アーテイ! アーテイ!」とコールする声が私を包む。

 また、私は勝つことができた。負けずにいられたのだ。

 私の中に安堵と喜びが満ちていく。


「イタタ……本気で潰しに来るのは分かってたけれど、流石にこれはキツイや」

 先程、崩れ落ちるようにして倒れたリアンが立ち上がっていた。

「あれだけやっても、立ち上がれるのか?」

 私は驚いて少し後ずさった。

「まあ、負けることは想定してたからね。どうやってやられるかシミュレートはしていたんだ」

 なんてヤツだ。勝てないと分かってた? だから、どう負けるか自分で決めた? 勝利したはずなのに、どうしても彼女に勝てたようには思えない。

「次、戦えたなら今度は絶対にお前を滅茶苦茶にしてやる」

 彼女はフッと笑って「怖いこと言うね。でも、次は僕も負けるつもりはないよ」そう言った彼女の目は初めて見た時と同じような不気味さを見せて、ステージから姿を消した。




 ――私はかつて無い強さを持ったオートマタに勝利したことで、常勝不敗の絶対王者の地位を盤石な物とした。だが、やはりそれまでの勝った時の喜びが無かった。どちらかというと、また彼女と戦いたいという気持ちの方が強かった。

「アーテイ、どうしたの?」

 アリアは、心配そうに聞いてくる。


 私はアリアの研究所に帰って傷ついた私の身体をアリアにメンテナンスをしてもらっていた。

「いや、ただあそこまで追い詰められるなんて予想外だったから……次に戦うとしたらどう戦おうかなと考えていました」

 アリアそれを聞いておかしそうに笑う。

「アーテイったら、戦いのことになると本当に真剣だね。もちろん、そういう風に作ったのは私だけれど」

 彼女の言葉に何か違和感を覚える。確かに私は彼女に作られた存在だ。だが、彼女は知っているのだろうか? あの謎の力の正体を。


「アリア」

「何?」

「戦っている時に何か今までに感じたことのない不思議な力を感じて……それに、あのオートマタも不思議な力を使ってたのを見ましたよね? 何が原因なのかアリアさんは分かりますか?」

 それを聞いたアリアは少し沈黙して「さあ? 私も分からない。どういう原理なんだろうね」

「アリアさんでも分からないですか……あの原因が分かれば、私も――」

 私がそう言うとアリアが突然、

「いいの! そういうこと考えない! アーテイは私の最高傑作なんだから、どんなことがあっても負けないの! それに、アーテイが感じたのは、きっと負けたくないっていう初めての感覚にプログラムが同調して、オーバークロックしただけだよ」


 確かにそうだ。私はあんな力がなくても、勝てたのだ。

 だからそれで良いはずなのだ。

「それもそうですね。私はアリアさんが作り上げた最強のオートマタですから! 何があっても絶対に負けません!」

「うんうん! そうだよ!」そう言って、アリアは私を思い切り抱きしめた――。


 私は最強のオートマタ、誰にも何にも負けない。アリアの最高傑作だ。





「世界はやっぱり広いや……」夜空を見上げる緑髪の一体のオートマタがいた。

「それにしても強かった。でも、そんな存在が人間と一緒にいるなんて……いや、だからこそ人間と一緒にいるのかな? 特別な存在か……。いつか僕も特別な存在になれるかな? ルーシー」彼女は幾多の星が輝く夜空に向かって話しかけていた――。

リハビリ作品です。

オートマタとかアンドロイドとかって良いですよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです。 オートマタの戦いがありありと浮かんできます。
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