表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それいけ魔法少女(男)  作者: 大金母知
8/23

8夜神班

新しいキャラが出てきます。

印象に残っていただけるよう頑張っていきます。

高層マンションが立ち並ぶ都心の高級住宅地。

富裕者の中でもほんの一握りの者達しか住むことのできないその場所の中でも一番存在感を放つ高層マンションの最上階。 広大な面積でありながら部屋は一つだけ。

その内装は家というよりも、もはや城に近い。 シミ一つ無い鏡のように光る大理石の床。王室御用達と言わんばかりの高品質な絨毯。派手すぎず、部屋を淡く照らすシャンデリア。

黒革のソファーに腰掛け、タブレットを手に忙しなく指を動かしている男はこの部屋の主。名をギーマという。

見た目の年齢は30中頃。クセのある長く黒い髪は後ろに流している。彫りの深い顔立ち、切れ長の目に深みのある黒い瞳。 ふと、ギーマの瞳がタブレットを離れ、部屋の一点に向かう。 「………………」

その視線の先、異変が生じた。 突如として黒い霧が発生し、そして集まり、やがて一頭の獣を形作った。

「…………報告で聞いてはいたが、なかなかに酷い有様だな」

その獣は本来の姿とは程遠い有様へと変わっていた。かつては人よりも大きな体躯を誇っていた姿は、現在小型犬程の大きさとなっている。世界を侵食するかのような禍々しい瘴気は、吹けば消し飛びそうな儚い黒煙のように身体の周囲を漂うばかり。

その小さな影の獣は疲れたように息をつき、口を開く。

「……無茶をした代償だ。本調子に戻るまでにはそれなりの時間が必要だ」

ギーマは獣が言葉を発したことなど当たり前のように受け止め、言葉を返す。

「……たかだかウィッチの一人なぞ、おまえの敵ではないはずだが?」

「だとしたら我を生み出した貴様の調整ミスなのではないか?はっきり言って、戦いにすらならなかったぞ」

「……おまえは他のビーストとは一線を画す。この俺が直々に意思や知能を与えたことはもちろん、力もだ」

調整にミスなど無い。調子は何度も確かめたのだ。

「我が失敗作だったのか……それともあのウィッチが特別だったのか。創られて間も無い我に判断などできない話だ」

「……桃色のウィッチ……か」

ギーマは顎に手を当て、一考する。

「少し探ってみるか……」


✳︎


ボクは魔法少女姿ではなく、モールで施された女装姿で対魔局の基地……ファミレスの裏口を訪れた。

ボクはまだエレベーターのカードキーを持っておらず、中に入れないのでカナメさんが入り口付近で待っていてくれていた。

「お待たせしてすみません、カナメさん」

「立花さんよね?大丈夫。私も今来たところだから」

っと、そうだ。魔法少女の姿以外で要さんと顔を合わせるのはこれが初めてだった。

「じゃあ、早速だけど行こうか」

「はい」

例の如く、従業員通路の突き当たり。大きな扉の前。

「そうだ。これ、渡しておくね」

「……?これって……」

カナメさんが渡してくれたのはエレベーターのカードキーだった。

「かなり重要な物だから。絶対に無くさないようにね?」

「は、はい」

無くすつもりは無いけど、絶対に無くしちゃいけない物ってあんまりもらいたくないんだよね……

「せっかくだから挿してみて」

「分かりました」

ボクがカードキーを挿し込むとウィーンと扉の先の通路の切り替えが始まる。

「おぉ……」

自分でやると少し快感だ。自分の中の子どもの心がはしゃいでいる。

「ふふっ、行こうか」

エレベーターに乗り、フロアを進み先導してくれるカナメさん。

「これから立花さんは魔法少女の部隊に所属してもらうことになってるの」

「部隊……?」

個人で動くわけじゃないのか。ボクがビーストと戦ってた時に助けに来てくれたのは月乃さん一人だけだったから思い違いをしていた。

って!てことはつまりボクはこれから多くの女子に囲まれながら仕事をしなくちゃいけないってこと!?

多少の関わりは覚悟してたけど、覚悟の上を行く状況だ。心労でヤバそうだな……

「立花さんはこれから夜神さんの班の所属になるわ。覚えてるでしょ?夜神月乃さん」

「はい……あの超絶美少女の……」

「うん。というか、立花さんもだけど、どういうわけか魔法少女の皆って漏れなく全員美少女なんだよね」

「そ、そうなんですか……」

美少女だらけなのか……普通なら歓喜で奇声を上げているところだけど、状況が状況だから素直に喜べない。

「話が逸れたね。夜神さんの班の仕事は主に見廻り。始まりは17時半から。まだ少し時間があるから、これから顔合わせをするよ」

「!わ、分かりました……!」

うぅ……緊張するなぁ……同年代の女性で気軽に話ができるのってホムレスさんくらいだし……

「あ、いたいた。夜神さーん!」

だだっ広いフロアの隅っこ。観葉植物と並んで設置されている小さなベンチに彼女はいた。

「月乃さん……」

ただし、月乃さんの姿はボクが初めて目にするものだった。 以前見た月のように輝く金髪は深い夜の色。髪型は変わらずに元気印のポニーテール。

くっ……魔法少女の姿も可愛かったけど、こっちもこっちで超可愛い。 まともに会話できるかな……?

月乃さんはボクに気がつくと、

「もしかして、カオリ?」

「は、はい……」

「ふふっ、素の状態では初めましてだね?」

そう言って人懐っこい笑顔を見せる月乃さん。

「ぐはっ……はい……」

まずい。可愛すぎてまともに顔を見れない。

「カナメさんから聞いてると思うけど、カオリはあたしの班の所属になるの。これからよろしくね」

「よ、よろしくお願いします!」

月乃さんの視線から逃れるように深く頭を下げてお辞儀する。

「え、えっと、月乃さん。他のメンバーはどこに……?」

「実はあたしとカオリを含めて三人だけ……つまり、もう一人いるの」

「そうなんですか。意外と少ないんですね……」

「うっ……そ、そだね〜」

「……?」

この反応……どういう意味なんだろう?カナメさんに視線を移してみると、カナメさんは何でもない風を装って無反応。

「あ、来た」

「え?」

月乃さんの視線を追うと、そこには妖精と見間違えんばかりの小さな美少女がいた。

身長は130〜140。 幻想的に輝き、サラサラと揺れる白銀の髪。透き通るようなルビー色の瞳が特徴的だった。

(可愛い……ウサギさんみたい……)

ツンとすました顔も、悪印象よりも微笑ましい愛嬌が湧いてくる。

彼女はボクの存在に気がつくと、僅かに口元が強張り、眉根を寄せる。

「……誰?この人」

「は、はじめまして。今日から月乃さんの班でお世話になります。立花カオリです」

「…………聞いてないのだけど」

「あたしもさっき聞いたばっかだし。そんな不満そうな顔しないの。可愛い顔が台無しだぜ、小雪?ホレホレ」

月乃さんはツンツンと彼女……小雪さんの頬を指でつつき、ムニムニと柔らかな頬の感触を堪能している。

「ちっ」

月乃さんの指をウザそうにパシンと払う小雪さん。

「えっと……?」

「ごめんね、カオリ。この子ちょっと人見知りで素直じゃないとこがあってさ。本当は可愛くて良い子なんだけどね〜」

「そうなんですね……」

見た目はウサギさんみたいだけど、内面はネコさんみたいだ。 そう思うとこの無愛想も可愛く見えてくる。

「ほら、小雪。カオリが自己紹介してくれたんだから小雪もしないと」

小雪さんは迷惑そうな沈黙の後、ポツリと口を開く。

「……枢木小雪」

「はい。よろしくお願いします。枢木さん」

この子は馴れ馴れしくされるのが嫌そうだから呼び方は小雪さん改め、枢木さんだ。 案の定というか、枢木さんはボクの挨拶を煙たそうにしている。

「それじゃあ夜神さん。立花さんのことよろしくね。私はここでドロンします」

「はーい」

カナメさんは妙なニンニンポーズを残し、去っていった。 残ったのは夜神班の三人。

月乃さんはコホンと息をついてから、班長モードになって口を開く。

「あたし達の任務は主に巡回です。巡回は個々で別のルートを辿るんだけど……カオリは慣れるまでしばらくあたしと一緒に回ってもらうね」

「よろしくお願いします」

なるほど……月乃さんと二人っきりか……すごい役得だ。いけない……ニヤけちゃダメだ。

「とりあえず今回は初めてだから三人で回ろう。説明しなくちゃいけないことが多い……わけでもないけど、カオリへの説明に手一杯で注意が散漫になるのを防ぐためにもね」

「分かりました」

「ついでに、カオリと小雪に仲良くなってもらうためにもね」

枢木さんは不機嫌そうに舌打ちをし、

「……別に。必要無い」

「あはは……」

これは打ち解けるまでの道のりは遠そうだ……でも、仲良くなれたらすごく嬉しいな。


次もお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ