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それいけ魔法少女(男)  作者: 大金母知
6/23

6立花カオリ

ここまで見てくださり、本当にありがとうございます。

皆様が少しでも薫達のドタバタを楽しんでいただけますように。

アーメン。

あんなことがあった翌日でも学園はあった。

ボクの陰鬱を象徴する曇り空の下、ボクは通学路を歩く。

「はぁ……」

……魔法少女か。なんで男のボクが……

「おはよう、立花さん」

「えっと……相川君?」

昨日、ボクに愛を告白してきたクラスメイト。 相川君は気まずさなど一切感じさせない親しげなイケメンスマイルでボクに挨拶をしてきた。

周囲を歩いていた同じ学園の女子達からは舌打ち、睨みがボクに向かって飛んでくる。

「……やっぱ、困らせたか?」

「え?いや、相川君のことじゃなくて……」

「まさか男か!?」

「だからなんでそうなるかなぁ!?」

ボクはノーマルだって言ってるじゃん!

「そっか……」

相川君は安心したようにホッと息をつく。

「オレは立花さんに告白したことを後悔はしてない。けど、立花さんを困らせてないかって……少しだけ心配だったんだ」

「相川君……」

「オレにできることがあれば何でも言ってくれ。君が辛い顔をしているとオレも辛い。君が困っているなら、力になりたい。君が笑ってくれるなら、オレはどんなことだってしてやりたいんだよ」

相川君はそう口にして、切なそうに笑った。

「……ありがとう」

いい人……なんだよね。目を見れば分かる。相川君の言葉に嘘なんて無いことを。

「……でも、そういうのはボクじゃなくて他の可愛い女子に言ってあげればいいのに」

なんだかおかしくて苦笑してしまう。

「馬鹿言うな。可愛い女子でも可愛い男子でもない。オレは可愛い君を好きになったんだ」

「っ!そういうのいいからっ!」

ボクはダッシュで相川君から逃げ出した。

違う……断じてドキッとしたわけじゃないから……!


✳︎

「立花カオリ……」

如月華凛は『立花カオリ』についての情報をまとめられた書類に目を通していた。

立花カオリ。15歳。幼い頃より身体が弱く、入退院と休学を繰り返している。現在通っている学校は休学。交友関係は不明。

「病弱という印象は受けませんでしたが……」

キナ臭い。情報はあるのに、肝心なところが謎に包まれている。

「あまり怪しい感じはしませんでしたが、念のためもう少し深く探らせてみましょう」

この時、華凛は気づいていなかった。華凛が覗こうとしているのは決して覗いてはいけない深淵であるということを。そして、その深淵から華凛を覗いている化物がいるということを。


✳︎


両親にはボクがカオリとして振る舞わなくてはいけないことを伝えた。

両親の仕事柄、ボク達家族はトラブルに見舞われやすい。そこで上手く立ち回るために、ボクらには複数の戸籍と経歴が存在する。 その内の一つが『立花カオリ』というわけである。

ちなみにボクの双子の妹という設定。 まさか本当に使うことになるなんて思いもしなかったけど……

「書き書き書き……」

時刻は夜の9時。ボクは自室で勉強机の上で学校の課題に取り組んでいた。 ほんの少しの義務感と惰性で問題を解いていく。

一区切りついたところで、ボクはらくらくホンに手を伸ばす。

「……はぁ」

気は進まないけど、頼らないわけにはいかない。

電話帳から桜井明久の番号を呼び出し、コールする。

『よぉ、どうした?』

「ごめん。今平気?」

『大丈夫だ』

「えっと……相談があるんだけど……」

『珍しいな……言ってみろ』

「……からかったりしないでよ?」

『めんどい女子みたいなこと言うんじゃねえよ。からかわないから』

「……女子みたい……ね」

『?』

「ボク……しばらく本気で女子になりすまなくちゃいけなくなったの」

『…………なんで?』

「詳しくは言えないんだけど……トラブルに巻き込まれて性別を偽らないといけない状況になっちゃって……その場だけの嘘だと思ってたんだけど、状況が悪い方に転がっていって、『その場だけ』が『これから先も』にランクアップしちゃって……伝わる?」

『話は見えてこないが状況は分かった。で?俺は何をすればいい?』

「うん。ボクが女子になりすますのに協力してほしいの。どんな格好をすればいいのかも分かんないし……ご意見番みたいなのを頼みたいんだけど……」

『?つまりあれか?俺はおまえの女装アドバイザーになればいいのか?』

「……そういうことです」

明久はしばしの沈黙の後、

『……分かった』

「……いいの?」

『本当なら女子の方が適任なんだろうけど……他に頼れる相手がいないんだろ?そして俺も女子の連絡先なんぞ知らん。だったら、俺がやるしかないだろ』

「……ありがとう明久。明久がボクの友達で本当に良かった」

『いいってことよ。俺ら熟女同盟じゃねぇか』

「だからボク別に熟女フェチじゃないからね!?」

かといって嫌いというわけでもないけど……

「話を戻すけど……明久は明日時間ある?服選びとかを手伝ってほしいんだけど……」

『なら、少し遠いけどロロポートが良いな。あそこなら色々揃うだろうし、地理的にも学校の連中に出くわす可能性も無さそうだ』

「分かった。じゃあ10時に最寄りの駅でどう?」

『大丈夫だ。そんじゃ明日はよろしく』

「よろしくはこっちのセリフだよ。ありがとね、明久。こんな滅茶苦茶な相談にのってくれて」

それと、こっちがロクな説明もできていないのに、追及しないでくれていることも。そして、何でもないことのように……当たり前のようにボクを助けてくれて。 明日のお昼は明久に少しお高いお店をご馳走することにしよう。


✳︎


約束の日。

薫との約束の時間よりも20分前。桜井明久は待ち合わせの駅、改札を出てすぐの噴水の踊り場でスマホをいじりながら時間を潰していた。

(ちょっと早かったか……)

本人は全く意識していないのだが、スタイル抜群のイケメンである明久はただスマホをいじるだけで絵になってしまうようで、道を行き交う女性達の視線をチラチラと集めている。

否、視線だけじゃない。

「おにーさん、めっちゃカッコいいね。これからデート?」

「ちょ、やめなよ〜。ごめんね、うちの連れが。でも、確かにカッコいいかも。もしかして一人?良かったら一緒に遊びに行かない?」

美少女ギャル二人の逆ナンを受ける始末である。

「……悪い。これから連れと合流するんだ」

「えぇ〜もしかしてホントに彼女〜?」

「そういうんじゃないんだけど……」

「ならその子も一緒でいーよ。一緒に遊ぼうよ」

尚も食いさがる美少女ギャル二人。普通の男ならば感涙で咽び泣くシチュエーションであるが、生粋の熟女フェチたる明久には一ミリも響いていなかった。

「ごめん。大事なやつとの約束だから」

「ブーブー!いーなー!うちもそんなこと言ってもらいたーい」

「……行こ」

美少女ギャルの二人は不満の色を残しつつもおとなしく去っていった。 そして、入れ替わりに現れたのは、

「………………」

「…………薫か?」

薫は女子になりすますために普段とは異なる格好でいたため、明久は一瞬認識が遅れてしまった。 「……?どうしたんだよ?」

薫は何やらフリーズしている。

どういうことか分からず明久が言葉に困っていると、やがて薫が静かに口を開く。

「…………逆ナンされてた」

「……それが何?」

「…………すごく可愛いギャルに逆ナンされてた」

「………………」

「…………ボクも逆ナンされてみたい」

「……そうか。される時が来ると良いな」

「(コクリ)」

どうやら嫉妬されていたようだった。 別に羨むことでもないだろうにと明久は思うのだが、そんなことを口にしたら非モテ男子との戦争の始まりである。

「……とりあえず行くか」

「うん」

明久と薫は目的のショッピングモールを目指し、歩いていく。 明久は隣を並んで歩く薫に目をやると、

「プッ……」

「……?」

先ほどまで我慢していた可笑しさが込み上げて吹き出してしまった。

薫は頭に『?』を浮かべて首を傾げる。

「……悪いからあんま言いたくないんだが……今のおまえ、とんでもなくダサい」

「んなっ!?」

某林家さんが愛用していそうなキツめのピンクのTシャツ。女の子というよりは虫捕り少年のような短パン。

「……今のボク……男に見えちゃってる?」

「半々ってところかな」

「どういうこと?」

「時々、おじいちゃんだかおばあちゃんだか分かんない人いるだろ?そんな感じ」

「マジで!?」

明久は改めて薫の容姿を観察してみる。 男にしてはやや長い艶やかな髪の毛。クリクリとしたつぶらな瞳は小動物のように愛らしい。男のゴツゴツさとはかけ離れた少し華奢な体躯。なめらかでシミ一つ無い白い肌。 男どもの庇護欲を掻き立てる天真爛漫にコロコロと変わる豊かな表情。

これで男にモテないわけがない。

「さっきからジッと見て……そんなにおかしい?」

「ああ。笑える」

「くっ……!明久のバカ」

つい、ごまかすように口にした言葉だが、薫の格好が酷いのは事実だ。

プリプリと怒る薫をからかって楽しみながら、やがて目的地に到着した。

自動扉をくぐった先はだだっ広いホール。老若男女、たくさんの客が行き交っている。 どこに向かって歩いていけば良いのか分からない二人は素直に案内板へ向かって目的地を探してみる。

案内板には膨大な情報が詰め込まれていたにも関わらず、意外と早く目的のフロアを見つけることができた。

エスカレーターに乗って女性向けのファッション店が集まるエリアに辿り着く。

当然、野郎の姿はほとんど見当たらず、女性だらけである。

薫はこういった雰囲気に免疫が無いようでそわそわしっぱなし。

「……参考までに聞くが、こういう店に来たことはあるか?」

「……あるわけないじゃん。この服だっておばあちゃんのおさがりだし……」

「……馬鹿にして悪かった」

「……いいよ。自分でも変だって分かってるし」

いつまでも突っ立っているわけにもいかない。二人は意を決して場違いな空気の中を進んでいく。

「ここなんか良いんじゃないか?」

立ち並ぶお店の中でも一際大きめの区画。独特なオサレ空間にオサレイージーリスニング。オサレな服をまとい、オサレなポージングを決めているマネキン達。

「うっ……そうだね。入ってみよう」

まるでアマゾンの奥地に足を踏み入れるかのような足取りで薫は入店する。

「なんか……いっぱい服があるね」

「そりゃそういう店だからな」

「うぅ……」

今にも狩られそうな野うさぎよようにビクビクと震える薫。

「じゃ、それぞれ選んでみるとするか。俺はあっちの方から見てくるから」

ガシッ。

「え?」

「……一人にしないで」

この細腕のどこにそんな力があるのか、明久は万力のような力で薫に腕を掴まれる。

「別にいいけど……」

仕方ないので薫と一緒に服を物色していく。

薫は明久の袖を握りながらついてきて おり、明久はまるで犬と散歩しているような気分だった。 さて、肝心の服の方はというと、

「……少し大人っぽい雰囲気の物が多いな。ちんちくりんのおまえには合わなそうだ」

「ちんちくりんって……まぁ否定はしないけどさ……」

目ぼしい物が見つからず、二人揃って渋面を浮かべていると、オサレな女性店員が声をかけてくる。

「すみません。もしお探しのものがございましたら、お気軽にお声かけください。私共もお手伝い……」

女性店員の視線が薫に移った拍子に言葉が途切れた。そして、

「………………逸材」

「「……?」」

女性店員がポツリと呟いたと思った途端、今度は目をクワッ!と見開き、薫に詰め寄ってくる。

「どうか!どうか私めにお客様の服を選ばせてください!」

「え?えっと……?」

困ったように視線を向けてくる薫。

「……いいんじゃないか?その方が確実だろうし」

ちょっと変わった店員さんだが、悪いようにはならないだろう。

「……じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「!お任せを!私めがお客様を世界一の美少女にして差し上げます!」

「ぅえ!?」

「くくっ、そりゃいい。じゃ、俺は適当に待ってるな」

「明久!?」

「そうと決まれば参りましょう!さぁお客様!こちらへ!さぁ!」 「

ちょっ、ちょっと!」

薫は女性店員に半ば無理矢理に連れていかれてしまった。

果たしてどんな格好になって現れてくるのか。明久は困った顔の薫を想像してクスリと笑った。


✳︎


「むむぅ〜」

店員さんは鬼気迫る顔でラックから服を取っては戻し、ボクの身体に軽く当ててみては不満そうに首を捻っている。

店員さんの尋常ならざる様子に他の店員さんが気がつくとこちらの方にやって来て頭を下げてきた。

「申し訳ございません。お客様。こうなってしまった店長を止めるのは不可能でして……」

この変わった店員さん、店長さんだったのか。

「お詫びとしてお洋服の代金は結構ですので」

「えぇっ!?そ、それはまずいんじゃ……?」

「……店長が働いている目的は、今この時のような事のためですので。お気遣いは不要です」

「は、はぁ……」

そう口にした店員さんの声には苦労が滲んでいるような気がした。

「お客様、こちらです!」

「わ、わ、はい!」

店長さんからグイと腕を引っ張られ、次のエリアへ。

しかしながら、店長さん的にピンとくる服がなかなか見つからないようで、

「ちっ……クソみたいな服しかないわね……」

「あなたのお店ですよね!?」

それにボクに似合わないだけで、この店の物が相当良いのは素人目にも分かる。

しばらく店長さんとフロアを一緒に回り、やがて店長さんは『ふぅ』と息をつき、言う。

「お客様、他所のお店に参りましょう。ここにはロクな商品がございません」

「あなた正気ですか!?」

「ふっ……私の正気をここまで狂わせたのはお客様が初めてです。こうなれば服だけでなく、アクセサリー、メイクも任せていただきます!お代はもちろん結構です!とことん付き合っていただきますよ!?」

「ひぃい!?」

異論を挟める余地など無く、ボクは店長さんに沢山のお店に連れまわされ、女として魔改造されていくのだった。


✳︎


時折遠くから聞こえる薫の悲鳴を聞き流しながら、明久は休憩スペースのベンチに腰を下ろし、スマホを片手に時間を潰していた。

「………………」

しかしながら、さすがに長い。ジッと待っているのはやめて、少し他のフロアをぶらついてこようかと考えたところで、

「フッフッフ……お待たせ致しました。お連れ様」

先程の変わり者の店長さんが不敵に笑って明久に寄ってきた。

この様子だと薫の魔改造は終わったらしい。

「どうも。それで薫は……」

薫は店長の後ろに控えていた。

「…………へ?」

「…………どう……かな……?」

そう、不安そうに上目で問いかけてくる美少女を前に、明久は言葉を失った。

「か……薫……?」

ようやく明久の口から出てきたのは陳腐な言葉だった。

薫は怪訝そうに眉を寄せるが、そんな何て事のない表情一つとっても……

(ドクン……)

「……っ?」

明久の鼓動を僅かに、そして確かに高鳴らせる。

「明久……?」

心配そうに覗き込んでくるその瞳には友を想う純粋で真っ直ぐな思いやりと優しさが溢れていて……薫の心に触れた明久は、薫への愛しさが……

バチン!

明久は己の頬を思い切りぶっ叩いた。

(俺は熟女フェチ俺は熟女フェチ俺は熟女フェチ俺は熟女フェチ俺は熟女フェチ俺は熟女フェチ俺は熟女フェチ俺は熟女フェチ)

思い出せ……!あるべき己の性癖を……!甘く熟したエロスを! こんな正統派(?)美少女に心が動じるだなんてありえない!

「悪い。あまりの変わりようにちょっと……な。何というか凄い垢抜けたよ。おまえ」

「そう?ならいいんだけど……それならそうと言ってよ。ずっとだんまりだと不安になるじゃん……」

「ふふっ、お客様?お連れ様はお客様のあまりの可愛らしさに心を奪われていたのですよ?」

「奪われてねーよ」

「ははっ……」

薫は明久の性癖を理解しているため、店長の言葉を苦笑して受け流した。 ……まさか店長の言葉が事実とは思うまい。

「お客様、この度は私の我儘を聞いていただき、ありがとうございました。お客様の美にほんの一時でも携われたこと、生涯の誇りにさせていただきます」

店長はそう言って薫に深く頭を下げた。

「いえ……大げさですよ。こちらこそたくさんお世話になりました。本当に助かりました」

「本日はお越しいただき、ありがとうございました。今度は当店の方でもお客様にお似合いのお洋服を取り寄せておきますので、今後ともよろしくお願い致します」

「は、はい」

先程までの変人ぶりはナリを潜め、惚れ惚れするような挨拶をしてくる店長。

「じゃ、行くか。薫」

「うん。店長さん、本当にありがとうございました」

「いえいえ。それではお二人とも、デートをお楽しみください」

「「んなっ!?」」

店長は最後に悪戯っぽく微笑み、この場を後にした。

「………………」

「………………」

店長な妙な言葉のせいで、妙な沈黙と妙な気まずさが二人の間に駆け巡る。 やがて、

「……行こっか?」

「……ああ」

可愛らしく小首を傾げて言う薫に、明久はドキリと心臓を鳴らす。 なぜこいつは仕草まで女子っぽいのか……明久は心の中で毒づいた。


✳︎


それから明久とフードコートで昼食を共にした。お礼の意味を込めてボクの奢りである。

食後はモール内の家電屋さん、本屋さん、地下食品売り場をぶらついてみた。

歩きながら周囲に気を配ってみるけど、ボクを男じゃないかと違和感を覚えている人は皆無だった。 ただ、この女の子らしすぎる格好のせいで好奇の視線をたくさん向けられることとなってしまった。それはそれで居心地が悪くてたまらない。 バレないのはありがたいんだけど……なんか複雑だ。

居心地が悪いのは明久も同じようで、時折ボクを別人として認識してしまっている感じがある。

新鮮なような、寂しいような。

何となく一通り見終わった空気になって一緒にモールを出ると、生暖かい外の空気が肌を撫でる。

「これからどうする?一番の目的は果たしたわけだが……」

「そうだね……」

ブブブ……ブブブ 着信だ。それも『カオリ』の携帯から。

「えっと……」

「出ていいぞ。ちょっと外してくるから」

本当……気が利くな。

「ありがとう。明久」

「っ……おう」

明久は小走りでボクから距離を取ってこちらの会話が聞こえない位置で待機してくれる。

携帯を取り出し、バックディスプレイに表示されていたのは対魔局のカナメさんだった。 携帯をパカリと開き、通話ボタンを……通話ボタン……これだ。緑の受話器が描いてあるやつ。 ポチッとな。

「もしもし」

『もしもし。立花カオリさんのお電話で間違いないでしょうか?』

「はい。カナメさんですか?」

『はい。カナメです。立花さん、今、時間は大丈夫?』

カナメさんは電話の相手に間違いが無いと分かると声のトーンが少し砕けた。

「……長くなりそうですか?」

『うーん……スムーズに進めば10分くらいかな?』

「……分かりました。大丈夫です」

ボクは明久にジェスチャーで明久に少し長くなる旨を伝える。

明久はボクが奇行に及んだかと一瞬勘違いしたみたいだけど、ちゃんと正しく理解してくれる。

カナメさんは、要件を伝えるねと前置きすると、再び畏まった口調で告げてくる。

『立花カオリさん。あなたを対魔局で受け入れる準備が整いました。あなたにはこれから魔法少女として活動することを命じます』

「っ」

とうとうか……うぅ……分かっていたことだけどやっぱり嫌だなぁ……

『詳しい活動内容の説明、及び記入していただく書類がありますので、以前夜神さんと足を運んでいただいた基地……ファミレスの地下施設に来ていただく必要があります。そちらの都合の良い日時でかまいません。いつがよろしいですか?』

「……やっぱり魔法少女ってやらなきゃダメですか……?」

『うーん……普通の人だったら強制はしないんだけどね……立花さんは事情が事情でしょう?借金、返さなくちゃなんだよね?』

「うぅ……ですよね……」

やっぱり地道に返していくしかないのかな……

『私も頑張ってサポートするから。それで、予定分かるかな?はっきりしないなら後で折り返し電話くれてもいいけど』

「今日で空いている時間ってまだありますか?」

『私、今日は夜の21時まで入ってるから。その間までだったらいつでも大丈夫だよ』

「なら17時に行きます。ちなみに必要な物ってありますか?印鑑とか」

『特に必要な物は無いよ。じゃあ、その時間で待ってるから。何かあったら電話してね。またあとで』

「はい。よろしくお願いします」

プツッとな。通話終了。

……はぁ。やっぱり気は進まないけど仕方ない。 借金を返済するためにも頑張らなくちゃ。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

次から少し(かなり?)ボリュームを落として投稿することになるかと思います。

べ、別にストックが無くなってきたわけじゃないんだからね!?

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