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それいけ魔法少女(男)  作者: 大金母知
4/23

4初陣

突然ですがここまで見てくださった方に感謝を込めまして読者プレゼントを企画することにしました。内容は本章の後書きにて。本文も飛ばさずに読んでくださると嬉しいです。

余計なことは口にしないという約束だった。

だけど……この時ばかりは言わせてほしい。

「………………何これ?」

「魔法少女に変身したんだポロ!今日からきみは魔法少女ポロ!」

……魔法少女とな。

自分の衣服を見て、なるほど、と思う。テレビでチャンネルを回してる時に見かけた女児向けアニメにこんな格好をしたキャラクターがいた。

というか待って。少女……?ボクが……?

「っ!」

よ、良かった……ちゃんとついてる……!ナニがとは言えないけどちゃんと付いてる……!

「魔法少女じゃないとビーストは倒せないんだポロ。感覚を研ぎ澄ませると感じ取れるはずポロ。身体を巡るエネルギーを。それこそが魔法少女の力の源、魔力ポロ」

……うん。何となく分かる。これが魔力か。

それよりも重要な疑問がもう一つ。

「皆、どうしてこっちを見ないの?」

ボクがこんな奇天烈な格好をしているというのに、道行く人達は一切こちらに視線を向けてこない。

「試しに誰かに触って……って、そんな時間は無いポロ!説明は移動しながらするポロ!」

「分かった」

もしかすると普通の人がポロを認識できないように、魔法少女となったボクのことも認識できなくなったのかもしれない。 何にせよ助かる。こんな変な格好を世間に晒したくはないから。

「こっちポロ!ピピの気配を辿るポロ!」

ポロが不思議な力で飛翔し、先導してくれる。 なかなか速い。一般人ならすぐにでも見失ってしまいそうだけど……ボクはクラブハウスの時のドンパチのように隠していた力を少し解放してポロの後を追う。

ん……?なんかいつもより動きの調子が良いような……もしかすると変身の影響かもしれない。ついでに不思議なことに動きにくそうなこのフリフリな服装も不思議と邪魔にならない。

「そういえば……」

ピピが言いかけてやめた話……すれ違う人に試しに軽く触れてみる。

「……っ!?」

すり抜けた。間違いない。ボクは確かに触れたんだ。なのに、すり抜けた。

「近いポロ!」

「っ!」

ボクは謎現象に気を取られないよう思考を切り捨て、感覚を研ぎ澄ませる。

「どこポロ!?返事をするポロ!近くにいるポロ!?」

「……!」

捉えた!50メートル先の高層ビルの屋上!強い怯えの気!

「先に行ってるよ!ポロ!」

「え?」

ボクはポロを置き去りにし、目的の高層ビルに突っ込む。

加速。加速加速加速!

近づくにつれ、グングンとその姿を大きくしていく目の前の高層ビル。

モロに激突する直前に跳躍。爆発的な推進力を上昇力に変換。ボクは垂直のビルの壁を駆け上がる。そして、

「よっ」

最後に跳躍。ボクは高層ビルの屋上に着地。

その場にいたのはやはり、

「……あれが敵か」

漆黒の狼の獣だった。もちろん、ただの獣では無い。暗がりでも分かるくらいの邪悪な闇のオーラをまとっており、陽炎のように揺らめいている。目にあたる部分は血のように赤い光が灯っている。 これがビースト……そして、

「君がピピだね?」

「ピ……?」

ポロと同じ二頭身のフォルム。異なる点を挙げると、ウサギ型のポロに対し、ピピは猫型。耳の所に小さな蝶々型のリボンがついている。女の子だろう。 ピピは愛くるしいつぶらな瞳を涙で濡らし、怯え、震えていた。

「ポロが君の危険を教えてくれた。ボクが来たからにはもう大丈夫」

「ピ〜!怖かったピ〜!」

ピピは初対面であるボクの胸元に飛びつき、泣いた。 よしよし。こんなに可愛い子を泣かすなんて……ビーストとやら許すまじ。

「さて……どう殺そうか……」

「ピ!?」

おっといけない。殺すだなんて物騒だ。

「殺……コロコロしちゃうぞ♪」

「こ……こっちもこっちで恐いピ……!」

ごまかせていなかった。

「ピピ〜!助けにきたポロ〜!」

「ポロ!」

ピピは逃げるようにボクの手を離れてポロと抱擁を交わす。 モフモフ二体がじゃれているのは見ていて微笑ましい。

っと、では手っ取り早く用を済ませますか。 いい加減この魔法少女の格好はやめにしたいしね。

「グルルル……!」

ビーストはどうやら警戒しているようでボクの出方を窺っている。

「さて……」

はっきり言って敵は隙だらけだ。一瞬で終わらせる。

ボクは全身で作っておいた溜めを解放し、一足飛びでビーストに肉薄する。そして、ビーストが反応を見せる前に、手刀で首を刎ね飛ばす。

「ガ」

断末魔の声を上げる間も無く、ボールのようにポーンと飛んでいくビーストの頭部。

これにて一件落着……

「え?」

とはいかなかった。ビーストは首を落とされてなお、身体だけでボクに飛びかかってきた。

反射気味に拳でカウンターを入れ、再び身体を破壊してみるが……ビーストの様子がおかしかった。 損傷した部位が闇の霧に覆われた途端、ビデオの逆再生のように修復されていったのだ。

「そんなのアリ!?」

さすがに動揺せざるを得なかった。殺しても死なないとか……反則でしょ! さすがに不死身の怪物を相手取るのは初めてだ。

「……だったら再生できないくらいにグチャグチャにしてやる」

「やっぱりこの人恐いピぃい!」

ごめんピピ。

「ガルルゥアア!」

飛びかかってくるビースト。まずは、

「せい」

「ガッ!?」

拳骨で頭部を破砕し、ビーストを地に叩き伏せる。そして流れる動作でムーンサルト。ビースト身体を踏みつけてグチャグチャのスクラップにしてやる。

「これで……」

が、闇の霧が発生。跡形もなく砕け散ったはずのビーストが再び姿を現わす。

「やっぱダメか……」

だったら根比べか。ボクが諦めるのが先か、ビーストの再生力が尽きるのが先か。いざ勝負。 「よっ。ていっ」

はっきり言ってビーストは弱い。猛獣と比べてしまえば比べるのもおこがましいくらいに遥かに強いけど……それでもボクの敵じゃない。 たった一つ困った点を除いては。

「本当に面倒な……」

どれほど壊しても再生の力は衰えることが無い。そして、ボクが少し油断すると、

「あぶなっ」

跳ね飛ばして分離した頭部が大口を開け、赤く輝くエネルギーを充填し、照準をポロに合わせていた。なんかビーム出そうなんですけど。

ボクは宙を舞っている頭部に肉薄し、軽く裏拳で小突く。 照準がズレた先にはビーストの身体。ビーストは歯止めが効かず、自らの身体を赤い閃光で撃ち抜く。しかし、

「……これでもダメなのね」

物理でダメならビーストの謎ビームでと思ったけど、結果は同じ。簡単に再生してしまう。

これは……気が遠くなるな。

「さっきから何をやってるポロ!?」

「ポロ……?」

「ビーストは魔法でしか倒せないポロ!さっさと魔法を使うポロ!」

「魔法……?」

そういえば今のボクは魔法少女だった。ということは魔法を使えるのか……!

「ポロ!魔法ってどうやって使うの?」

「魔力をウィッチロッドに込めて、撃つポロ!」

「ウィッチロッドって何?」

「あ……」

ポロが『しまった』という顔をしている。しかしすぐに気を取り直して、

「サモン!ウィッチロッド!」

ポロの呼びかけを合図に不可思議な現象が発生。 虚空に出でし眩い光より現れたのは一振りの杖。長さは50センチほど。得体の知れない宝石が散りばめられた白い杖で……なんか幼女向けのおもちゃ売り場で見たことあるようなデザインだった。

「受け取るポロ!」

ポロの念動力により、杖がボクの手に収まる。

「これであいつを倒せるんだね?」

「もちろんポロ!魔法少女の魔法はビーストの魔力を消滅させる効果があるんだポロ!」

「つまり、ビーストの再生する身体は魔力によって構成されてるわけ?」

「よく分からないけどそういうことポロ!」

分からないんかい。

しかし、なるほど。ビーストは魔法少女しか倒せないということの本当の意味が分かった。

「なら、やってみる!」

ビーストの攻撃をボクはステップだけでかわしながら、意識を体内に集中させる。 身体を巡るエネルギー、魔力。その流れを掌握し、ジワリジワリとウィッチロッドに流し込むイメージを構成する。

すると、

「うわ、なんか光ってる」

強めの懐中電灯くらいの光量はあるのではないだろうか。

「準備完了ポロ!いつでも撃てるポロ!」

「おっけー!」

「ぎゃう!?」

ボクはサッカーのリフティングの要領でビーストの姿勢を足で崩し、そして高く蹴り上げる。

「完璧ポロ!後は狙って撃つだけポロ!」

無防備に自由落下していくビーストにウィッチロッドの照準を合わせ、

「いっけぇえ!」

ボスッ。

「………………」

「………………」

「………………」

「「「……え?」」」

ウィッチロッドより放たれたのは化学の実験で失敗した時のような、しょっぱい光の小爆発。 ビーストには全く届いていない。 かめはめ波のような光の波動が出てくるのをイメージしていたんだけど……

「……なんで?」

「分からないポロ!とにかくもっとやってみるポロ!」

「……だね!」

今度はビーストを足で地に組み伏せ、

「ゼロ距離なら!」

ボ。

「なっ……?」

今度はオナラのような……爆発というよりはガス漏れのような光が生じた。

「グルルル?」

当然というべきか、ビーストには全く効いていなかった。

……どういうこと?

「へ……下手くそポロ……!魔法のセンスが終わってるポロ!」

「こいつ……超強いくせに超使えないピ!」

「君達意外に辛辣だね!?」

可愛い見た目してるくせに、使ってる言葉はなかなかに汚い。

「ギャァオオオ!」

ボクにビーストを倒す手段が無いことがバレると、ビーストの攻撃が激しくなっていく。 まあ、捌くのは簡単なんだけど時折ポロとピピに不意打ちを仕掛けようとしてくるのが少し面倒だ。

その上、

「ちょっとポロ!これ不良品なんじゃないの!?」

さっきから魔法がロクに機能しない。というか、体内の魔力の流れとやらも感じなくなってきた。

「そんなわけないポロ!失態を他人のせいにするなんてみっともないポロ!」

「君が下手くそなだけピ!しっかりするピ!」

「くっ……!」 事実なんだろうけどちょっとムカついてきた。

「ねえ、一つ提案なんだけど倒すのが無理なら、放置して逃げてみる?」

ポロとの会話を続けるため、魔法は中断。フィジカルでビーストを捌き、壊しながら時間を確保。

「そんなのダメポロ!こいつを放っておいたら、困るのはこの世界の人達ポロ!」

どういうこと?ビーストの標的はポロのような不思議生物じゃないの?

「ビーストは人の魂を奪って集めるのが生業なんだピ。今はどういうわけかピピ達を襲うことが目的みたいだけど……」

なるほどね。魂を奪われるってことが具体的どういうことなのかはピンと来ないけど……そういうことなら放置はできないか。 ただ、一つ疑問が湧いてくる。

「ポロもピピもビーストの目的を潰そうと魔法少女を生み出してるわけでしょ?なら、標的になるのも当たり前だと思うけど」

どうして自分達が標的にならないと過信していたのか。

「ビーストにそんな知能は無いポロ!」

「ビーストの知能はせいぜい犬畜生と同じくらいだピ」

「汚い日本語上手だね!ピピ」

犬畜生って……しかし知能は無い……ね。 いろいろと疑問は残るけど、ビーストを放置して逃げるのが無しってことは分かった。結局はどうやって倒すかだけど……

「そうだ!ピピ、ポロ!魔法少女を呼んできてくれない?」

「「!」」

ボクの閃きにピピとポロは目を見開いて驚く。

「どうしてそんな簡単なことに気がつかなかったポロ!」

「待つピ!このビーストはイレギュラー……ピピ達を標的にする策を用いるのなら、襲撃を二段構えにしていたっておかしくないピ!」

ピピの不安は分かるが……恐らく違う。

「その可能性は低い。もしも二段構えだったならポロはボクに助けを求めることなんてできなかった。敵はこのビースト一匹だけだと判断して良い」

「……そこまで言うなら信じるピ!ポロ、行くピ!」

「ポロ達が戻ってくるまで耐えるポロ!」

「足止めならこの通り任せてよ」

丁度、ポロ達に向かって赤い閃光を放とうとしていた頭部をグシャリと叩き潰し、こちらは心配無いことを伝える。 ポロとピピは飛翔してこの場を後にする。当然ながら影獣は追うことなどできない。

「足止めを任せろとは言ったものの……ねぇ、この不毛な戦いまだ続けるの?」

「ギャルララァア!」

続けるのね。 それにしても、このビーストというのは不思議な生き物だ。どんな生き物も自分の身を守るための反応というものがある。だというのに、ビーストにはそれが無い。自分の身体がどれだけ壊されようともお構い無し。不死身だからなのかな。そんな風に考えごとをしていたら、

「あ……」

体術の邪魔になると一旦上空に放り投げていたウィッチロッド。 それに向かって、切り落としておいた頭部が意思を持ったように飛びかかる。

「なっ!?」

この動きは完全に想定外だった。そして、例により頭部の周りから身体が再生されていき、

「グルッ」

気のせいかもしれない。ウイッチロッドを咥えたビーストが勝ち誇ったような笑みを見せた気がした。 そして上空にとどまった状態でビーストの全身が赤い光に包まれる。

「まさか自爆!?」

今度の狙いはウィッチロッドか! ボクはビーストが自爆する刹那、上空でビーストに肉薄。ウィッチロッドを咥えている口元に狙いを絞り、手刀を放つ。

クイッ。

「え?」

スパッ。

「ああっ!?」

狙いが逸れてウィッチロッドごとぶった切ってしまった!

しかし気を取られている場合じゃない。ボクはビーストの身体に衝撃を与えないよう、ここより遥か上空にぶん投げる。その数瞬後、

ドッゴォオオオオン!

「!」

まるで尺玉花火のような大爆発。遠く離れたこの場にいるボクにも、ビリビリと肌に振動が伝わってくる。

「……ふぅ」

人も建物も犠牲は出ていない。 唯一の犠牲と言えば……

「これ……修理とか効くのかな……?」

この手で取り返したものの無惨にも真っ二つに割れたウィッチロッド。

「ん」

試しに先ほどのように集中して魔力を込めてみるが、うんともすんとも反応が無い。 これは……完全に壊れちゃってる。

ドゴォオン!

「?」

ふと、背後の鉄製の扉が蹴破られる。 そこから現れたのは、

「援軍を連れてきたポロ!」

「待たせたピ!」

ポロとピピ。そして、

「えっと……ここでいいの?それにさっきの爆発って……」

「っ!」

現れたのは今まで目にしてきた女の子の中で誰よりも綺麗な女の子だった。

夜色のドレスに、月のように淡く輝く金の髪。スラリとしなやかに伸びる手足はモデルさんを通り越して芸術品のようだった。身長はボクよりも少し高いかもしれない。 彼女は宝石のようなエメラルドブルーの瞳をパチパチとさせると、困惑したように小首を傾げる。

「君は……」

エメラルドブルーの瞳の先がボクに定まると、

「………………」

今度は惚けたように彼女は小さな口をポカンと開ける。そして、満面の笑みを浮かべるとボクに飛びかかって抱きついてきた。

「やだやだやだ!この子超可愛いんですけど!え?え?可愛い!可愛すぎるっ!ごめんね?ギューッてさせてね?」

「ぅぇえええ!?」

彼女はムツゴロウさんのようにボクによしよしとナデナデスリスリしてくる! 待って!当たってる!柔らかい!スベスベプニプニフワフワ!良い匂いする!ヤバい!無理っ!頭おかしくなっちゃうっ!

「ちょ、ちょっ……待って!」

本当にヤバい!バレちゃう!あれがあれしてバレちゃう!

「ご、ごめんね?あまりにも君が可愛くて……つい……」

彼女は申し訳なさそうに謝り、拘束を解いてくれた。

いや、可愛いのは断然あなたの方なんですけど……

「はぁ……はぁ……いえ、嫌だったわけじゃないので……」

むしろとてつもなく幸せだった。しかし、これまで女性日照りの人生を歩んできたボクには、この超絶美少女の大胆なスキンシップに耐えれるはずは無かった。

「えっと……助けに来てくれたんですか?」

「う、うん。偶然、ポロとピピに頼まれてね。それよりも、状況の確認をさせてくれる?」

「分かりました」

ボクはポロに出会ってからの経緯を説明した。

「えっと……信じられないんだけど……」

「?」

……おかしな点なんてあったかな?

「君、魔法を使えないのにビーストと戦ってたの?」

「ポロもピピも言ってましたけど、魔法の才能がゼロみたいで……」

「そうじゃなくて……いくら魔力で身体能力が底上げされるからって、それだけでビーストに対抗なんてできないよ。もしかしたら、かなり弱い個体だったのかな……?」

「……かもしれませんね」

ビーストのことはよく分からない。適当に話を合わせておく。

っと、一つ伝え忘れていた。

「それで……これなんですけど……」

おずおずと差し出したるは真っ二つに割れたウィッチロッド。

「え…………?」

それを目にした金髪美少女の表情がフリーズしてしまう。代わりに、

「「あぁぁぁぁあぁあ!?」」

およそファンシーな見た目にそぐわないけたたましい悲鳴を上げたポロとピピ。

「こ、壊しちゃった……ごめんね?」

「ごめんで済む問題じゃないポロぉお!」

「ピ、ピピは知らないピ……(ガクガクブルブル)」

そ、そんなにヤバいの……?

「と、とりあえず対魔局に行って報告しようか?イレギュラーな事故だから、情状酌量の余地はあると思うんだ…………たぶん」

「あの、対魔局って?」

「あたし達魔法少女を管轄している組織だよ。そうだ、自己紹介がまだだったね」

彼女は見惚れるような笑顔で言う。

「あたしは夜神月乃。魔法少女をやってる高校二年生。魔法少女になったのはちょうど一年前くらい。よろしくね、新入りさん」

「は、はい」

夜神さんから差し出された手をおずおずと握り返す。 そうだ。ボクも自己紹介をしなくては。 「えっと、ボクは……」

「なっ、ボクっ娘とな!?」

しまった!ボクの見た目は今完全に女子なのに!

夜神さんは一人、ブツブツとボクの一人称について呟いている。はっきりとは聞こえないけど、まさか実在するとは、みたいな感じなことを口にしている。

「ごめんね。萌え〜ってなっちゃっただけだから」

そういえば、最近萌えってめっきり聞かなくなったな……ってそんなことはいい。

「ボクは……」

言いかけて問題に気がついた。本名を名乗るべきなのか?そして、性別を告白するべきなのか? ボクが男だと白状することはつまり、変態女装男子であると白状するのと同じこと。

……だけど事情が事情なんだ。ボクだって望んでこんな格好してるわけじゃない。夜神さんはそれを分かってくれるだろうか? だけど……だけど……うぅ……

「立花……カオリです。高校一年生です」

嘘を、ついた。 いろんな感情がごちゃまぜになり、無意識の内にボクは偽名を名乗り、性別を偽った。

「カオリ……可愛い名前だね。よろしくね、カオリ」

「は、はい。夜神さんも綺麗な名前です……」

「ありがと。月乃でいいよ。でも、あたしは自分の名前あんまり好きじゃないんだよね。デスノートの主人公みたいで。一文字足しただけだし……よくからかわれるんだ」

「あぁ……」

何となく分かるかも。ノートを手にしているタイミングなんかがあれば余計にからかわれてしまいそうだ。

「ちょっと、いつまで無駄話をしてるポロ?早く対魔局の基地に向かうポロ!」

「ごめんごめん。それじゃ、カオリ。ついてきてくれる?」

「はい」

ボクは月乃さん、ポロ、ピピについていく。これから向かう先が地獄の始まりであることも知らずに。

最高の『ありがとう』をあなたに。

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