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それいけ魔法少女(男)  作者: 大金母知
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1立花薫

皆様には人を幸せにすることのできる魔法の力が備わっています。お気づきですか?

それはとても簡単な事。

いいねボタンをポチリと押すだけで、あら不思議。

現実世界で打ちのめされている哀れな一人の人間をたちまち幸せにすることができるのです。

上級魔法「ブックマーク」、究極魔法「☆」の使い手は果たして存在するのでしょうか。

偉大なる魔法使いの誕生をお待ちしております。


「立花薫さん。一目見たその時からずっと、あなたのことが好きでした!」

「っ!」

放課後の人気の無い廊下での突然のことだった。情熱的な愛の告白をぶつけてきたのはクラスメイトの相川君。

相川航君。校内でも有名なサッカー部のイケメン。 うちの高校はサッカーの全国区の強豪らしいのだが、それでも相川君は一年生でありながらもレギュラーの座を勝ち取ったのだとか。 人柄も誠実で、瞳は真剣。

「……本当はこの気持ちを伝えるべきじゃないと思ってた。だけど……どうしても我慢できなかった……!どうしようもなく、オレはおまえのことを愛しているんだ!どうかオレと付き合ってくれ!」

相川君は深く頭を下げ、そして答えを求めるように右手を差し出してくる。

だけど、その求めに応じることはできない。

「……ごめんなさい」

「……っ」

相川君が固まる。そして、ひび割れてしまったガラスのように悲しげな瞳で尋ねてくる。

「どうして……やっぱり桜井のやつと……」

「あ、明久とはそんなんじゃないから!」

「くっ……下の名前で呼び合っているんだな……」

うぐっ……

「な、仲が良いのは否定しないけど……とにかく違うから」

「なら……他に好きな男がいるのか?」

「あのさ……さっきから言おうと思ってたんだけどさ……」

「……?」

「ボクが男を好きな前提で話を進めないでくれる!?」

「え……?」 え……?じゃないよ!

「ボクは男で普通に女の子が好きなの!男の人はそういう目で見られません!じゃあね!」

ボクは勢いに任せ、この場から脱兎の如く逃げ出した。



相川君から逃げ出し、やってきたのは通学路から少し外れたいつもの河原。

ボクにとって唯一の友人である明久とダラダラするためのスポットだ。

ささくれ立った古い木製ベンチに腰を下ろし、春の季節が織り成す風景をぼんやりと眺め、あくびを一つ。

「よう。相川との用は早く済んだみたいだな。待ったか?」

待ち人が来た。 明久が大きなビニール袋を両手にぶら下げ、やって来る。

「ううん。今来たとこ」

って、このやり取りカップルっぽい? ……こういうので誤解されるのだろうか……?

「……さてはまたか」

「……よく分かるね」

どうやらボクの表情で先程の相川君とのやり取りを察したらしい。さすがは親友。以心伝心。

「おまえの人生には同情するよ」

気軽に言いながら明久が隣に腰を下ろしてくる。

「美少女よりも美少女な見た目のせいでむさ苦しい男達に好かれ、逆に好かれたい女子達からは嫉妬で疎まれる。最悪な噛み合わせだな」

「……改めて言わないでよ」

自分の見た目が男っぽくないのは承知している。身長だって高校一年生になったっていうのに150センチ台だし……

「ほら。これ見て元気出せ」

「……ありがと」

明久が差し出してくれたのはエロ本だ。ボクは約束の代金を明久に渡す。ジャンルは……やはり熟女物か。

「ねぇ……たまにはジャンル変えてみない?」

「これが俺とおまえの性癖の中間地点だ。これ以上は譲れないと言ったはずだ」

明久と回し読みをするにあたり、お互いが楽しめるジャンルを選ばなくてはならない。

「俺だって欲を言えば60以上が良いんだ。それを40〜50で我慢してるんだ。40とか俺に言わせればロリだよ。ロリ」

「40ってロリなの!?」

相変わらずとんでもない性癖だ。だからこそ明久はボクを妙な目で見ないという安心感があるんだけど。

「まぁ……この本でもちゃんと興奮できるからいいけどさ……買ってきてくれてありがと」

「ああ」

ボクの外見では店員さんがエロ本を売ってくれないのだ。だからこそ、こうして明久を頼っている次第である。 ボクは明久から受け取ったエロ本を開く。

「っ」

「……そろそろ慣れろよ」

「ほっといてよ」

エロ本を最初に開く時って妙な緊張感というか高揚感があるんだよ。

明久がスナック菓子を頬張る隣で、ボクは熟女のエロスを堪能する。 もう少し若い人の方がボクの好みではあるんだけど…………やっぱりこれはこれで良いな。なんだか明久に性癖を染められてる気もするけど。

「薫。おまえ今学校楽しいか?」

「……どうしたの?いきなり……」

「さっきも言ったろ。クラスメイトの男子のほとんどはおまえを妙な目で見てる。女子は男子の性癖を歪めまくってるおまえを嫉妬で悪く言ったり、妙な変態扱いする始末だ」

……悪く言われてるのは薄々気づいていたけど変態扱いされてるのは初耳だった。 ボク変態じゃないし!ちょっとムッツリスケベなだけだし!

「……そういう明久はどうなの?」

明久だってボクと同じく教室では浮いている。ボク以外の人と話してるのってあんまり見ないし。 「俺は有象無象を気にかけるようなメンタルしてないからな。誰に何を言われようが気にしない」

「……ボクも似たようなもんだよ。嫌だけど傷ついてはいない」

「……そうか」

明久は苦笑して『ただ……』と続ける。

「俺は今の生活に特別な不満があるわけじゃない。でも時々思うんだ。マンガとかアニメみたいな突拍子の無いことでも起きないかなって」

マンガ……アニメねぇ……

「ある日、空から熟女が降ってこないかなぁ……とか、ある日、60過ぎの義理の妹かできたりしないかなぁって」

「そんなアニメ無いよ!?」

逆に気になって見るかもしんないけど!

「まぁ、話の本質はそこじゃない。大きな不満が無い日常ではあるが、時々突拍子の無い変化を望んでいる自分がいるというか……そんな感じだ」

なるほどね……ん?後ろから誰かが近づいてくる。

「やーやー。面白い話をしているね。少年達よ」

振り返って見てみれば、長い赤毛が特徴的な異国の美人さんがいた。 女性にしては背が高く、明久と同じくらい。そして発育が大変発育している美人さんだ。 名前はホムレスさん。

「よ、アキヒサ。お、カオル、エロ本?後でワタシにも見せて〜」

「わ、分かりました……」

彼女はこの辺りを拠点にしているホームレス。大変な境遇であろうはずなのに、性格はあっけらかんとしており、本人曰く『ワタシにかかれば貧乏も娯楽の内』だとか。 そう口にできるのは彼女が生きる力に溢れているからなのだろう。

「で?で?カオルは今の生活をどう思ってるわけ?」

「どうって……嫌なこともありますけど、明久とこうして馬鹿やれるのも楽しいですし……ほどほどに嫌なことがあって、ほどほどに楽しいこともあるというか……そんな感じです」

「ふぅーん……それ本心?」

「え……?」

ホムレスさんが何やら見透かすような視線をボクに向けてくる。

「いや〜、カオルほど浮世離れしてる人間が人並みの感覚に染まっているのがワタシには信じられないっていうか……」

「……浮世離れって……」 ホムレスさんとはこの河原だけの付き合いであり、互いに知っていることなんてそんなに多くはないと思うのだけど……しかしホムレスさんの言葉は何かの確信に基づいている感じがする。 彼女はボクの何かを知っている……?

「それとも、アキヒサのように心のどこかでは劇的な変化……いや、あるべき変化を望んでいるのかな?」

そう、意味深な笑みで問いかけてくるホムレスさん。

「……えっと……」

「ごめんごめん。ちょっと突っつきすぎたね。おねーさんはカオルに興味深々だからつい、ね。許して」

「……別に。嫌ではないので。そうですね……欲を言えば可愛い女の子達に囲まれて生活したいです」

「あははっ、ハーレムってやつ?少年そういうタイプじゃないっしょ?」

「あ、憧れるのは勝手じゃないですか!」

それからボク達はエロ本の回し読みを楽しんだ後、ホムレスさんのための食べれる野草探しの旅に出た。 テンション高めにぐんぐん野山を駆け巡るホムレスさん。明久も童心に返って笑顔で走り回る。 気の合う友人達とこうして何も考えずに遊ぶ時間は十分に楽しい時間であった。 それでも、どういうわけか明久とホムレスさんの口にした人生の変化という言葉が、不思議とボクの胸に残っていた。ボクは変化なんてそれほど望んでいるわけじゃないのに。

まえがきではアホみたいなことを書きましたが、数ある作品の中からこのページを見つけてくださったことだけでも嬉しいです。

願わくは少しでも続きを覗いてくれる方がいらっしゃいますように。

どうもありがとうございました。

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